36.待ち合わせ場所へ
食器を片付けて学食の外へ出ると、用事があるとか、家に帰るとか、もう少し勉強していくとかいろいろで、学食の前で解散になった。
倉島は、
「またな!おかん!」
と言って、そのままサークルへ行ってしまった。
俺は、学食の前で、みんなを見送った。
そして、少し経ってから、櫻庭さんが待つ図書館へ向かった。
図書館へ向かう途中に声をかけられた。
櫻庭さんだった。
「櫻庭さん、ごめん待たせたかな。」
「ううん。気を遣ってくれてありがとう。」
櫻庭さんは、俺の隣に並んで歩き始めた。
「実はね、戸ノ岡君にしか用意してなかったから、みんなの前で渡しづらかったの。」
「?」
「暑いから、図書館に入らない?」
「あぁ。」
そのまま図書館へと2人並んで向かった。
そして、入口に1番近い席に並んで座った。
「実はね、戸ノ岡君にレシピを教えてもらったお礼に、いただいたレシピを見てクッキーを作ったの。上手ではないんだけれど、頑張って作ったから受け取ってもらえるとうれしいです。」
カバンからそっと、綺麗にラッピングされた小さな包みを取り出し、俺の方に差し出した。
「え?俺に?」
まさか、教えたレシピで実際に作ってくれただけでも嬉しいのに、お礼にって俺のために作ってくれたなんて。ちょっと信じられなくて、一瞬止まってしまった。
「あっ、ごめん。私なんかが作ったクッキー嫌だったかな。戸ノ岡君が作った方が何百倍も美味しいし。ごめんなさい。」
だんだん声が小さくなっていく。
いやいやそうじゃなくて・・・
心の声が口から出てこない。
でも、いつも明るくて元気いっぱいの桜庭さんが、『私なんか』って、ネガティブ俺がいうようなことを、俺の目の前で言っていることに驚いた。
つい、正直に、
「彼氏さんに喜んでもらえてよかったね。桜庭さんが頑張って作ったからだよ。それにしても、桜庭さんでも『私なんか』って、そんな風に思うことあるんだね。」
俺だけじゃないのか?
「当たり前でしょ!特に、昔からお菓子作りは得意ではなくて、散々友達から、『もう諦めたら』なんて言われてきて自信がないんだから。」
「そうなの?」
「そうなの!」
そうなのか。
それでも、作ってくれたんだな。
なんだか、嬉しい。
「ごめん。俺なんかのために作ってくれたって恐縮してしまったんだ。」
俺がそう言って、作ってくれたクッキーを受け取ろうとすると、
「待って!俺なんかって、前も言ったけど、戸ノ岡君はすごいよ!もっと自信を持って!」
桜庭さんの勢いに、ちょっと驚いていると、
「こんな私が、彼氏に渡しても大丈夫!喜んでもらえるはずって思えるお菓子が作れたのは戸ノ岡君のおかげなんだよ!感謝しかない。そして、このクッキーが作れたことがとっても嬉しいの!本当に、こんな素晴らしいレシピを無料でもらってしまってごめんなさい。これ、よかったら受け取ってください。」
桜庭さんがあんまり一生懸命に言ってくれるから、なんだか気恥ずかしい気持ちになったけど、素直に嬉しかった。
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくいただきます。」
俺がそういうと、桜庭さんは顔を上げて嬉しそうな顔をした。
俺が受け取ったことをこんなに喜んでくれた。
そして、そんなに喜んでくれたなら、あのレシピを教えた甲斐があるというものだ。
よかったなと心から思った。
「ラッピングも素敵だね。」
受け取った包みを見て、ぼそっというと、
「本当!嬉しい!そのラッピングも、戸ノ岡君からゼミの一発芸の時にもらったラッピングを参考に頑張ってみたの!」
俺のラッピングを参考に?
「俺より全然かっこいいよ。この配色は思いつかなかったな。よかったら参考にさせてもらってもいいかな?」
真剣にそういうと、桜庭さんは、さっきだってとても嬉しそうな顔だったのに、さらに顔を輝かせて、
「もちろん!!師匠にそう言ってもらえてとっても嬉しいです!是非是非参考にしてください。真似してもらっても大丈夫です。というか、真似してください!師匠!」
「え!?師匠???」
急に師匠と呼ばれて、ドギマギしていると、
「はい!師匠!またよかったら、私でもできる『不器用な人向けお菓子レシピ』を教えてください!」
と、手を合わせて懇願されたのであった。
かわいいな。
こんなに熱心に。
また彼氏さんに喜んでもらいたいのかな。
桜庭さんは、彼氏さんのこと本当に大好きなんだな。
そんな桜庭さんの様子を、微笑ましくみていた。




