33.俺ん家で飯食ってけよ
大学の図書館が、夏休みも開館していて助かる。
エアコン完備だし、レポートで必要な資料も大体あるし。
今日も朝から、レポートの宿題に取り組んでいると、一人の男が目に入った。
それは、図書館に全く似合わず存在が浮きまくっている倉島だった。
目立ってどうしても視界に入ってしまう。
倉島!ここは図書館だから、鼻歌歌いながら歩いてくるな!!
小さい声でも、静かだから響いてるって!!
俺が、身振り手振りで訴えるものの、まったく伝わらず、鼻歌まじりにこちらに向かって歩いてくる。
「よぉ!戸ノ岡!お前もレポートやりに来たのか?」
そう言って倉島は、俺の隣に座った。
「なんかお前、図書館に似合わないな。というか、歌いながら歩いてくるな。ここは図書館だぞ。」
俺が正直な感想を述べると、倉島は、ニカッと笑って、
「悪いおかん。お前見つけて嬉しくなって、無意識に鼻歌歌っていたか。気をつけるぜ!」
と、素直に認めるのだった。
俺に会えて嬉しいって、なんかちょっと喜んでいる自分が、少し恥ずかしい・・・
なんだかんだ倉島が、結構真面目にレポートに取り組んでいて驚いたけど、友達(友達って言っていいよな?)と一緒に勉強とか、なんか入学したての時に憧れたシチュエーションだなとか、心の中で、ネガティブ俺が顔を出す中、ちょっと嬉しく感じていたりした。
なんだかんだ俺も集中できて、レポートを一つ終わらせることができた。
本を書棚に戻して、席に戻ってくると、倉島も書き終えたようで、伸びをしながら満足げな顔をこちらに向けた。
「ひと段落ついたか?」
倉島に聞かれて、
「ああ。一本レポート終わらせたよ。」
「すごいな!俺も頑張ったぜ!」
ピースしながら、いつものようにニカっと笑うと、レポート用紙などをカバンに片付け始めた。
「確かに頑張ってたな。」
俺がそういうと、嬉しそうな顔をした。
俺も、机の上に出していた筆記具をカバンにしまうと、倉島と図書館を後にした。
校門へ向かって歩いていると、
「戸ノ岡、今日これから時間あるか?」
「ん?なんで?」
「お前、この後暇か?暇だろ?バイトも決まってないんだろう?」
「暇暇言われるとなんかなと思うが、暇だよ。」
そう答えると、
「なら、うちに来いよ!俺んちで飯食ってけよ!」
「え!?突然いいのか?家の方は大丈夫なのか?」
「本当にお前は、遠慮と気遣いのおかんだよな。大丈夫だって!いつもこんな感じだし。」
「・・・いつもってお前・・・。俺、初めてお邪魔するのに何にも手土産とか持ってないし。」
「!?なにそれ!?お見合いかなんかかよ!友達のうち行くのに手土産って、そんなものいらねーよ!!もっと気軽に来いよ!ちなにみ、お前んち行く時も俺はこんな感じだ!」
威張るように胸を張って、笑顔を向けた。
「でも、お前の母親、夕飯作るの急に一人増えて大変じゃないのか?」
急にお邪魔するのは、ご迷惑じゃないか、俺なんかが・・・ああ、またネガティブ俺が顔を出す・・・
「まったく、お前は可愛いやつだな!仕方ない!家に電話するから安心しろ!」
そう言いながら、もう携帯電話をポケットから取り出し、『もしもしおかん?』と通話を始めた。
「うん。そう!わかった。」
そう言って、電話を切ると、
「大丈夫だって!今日は、近所の人から野菜たくさんもらったから野菜炒めよ!って言ってた。お前食えないものなんかある?」
「いや、ない。」
「よかった。俺もない。そんな話をしていたら、着いたな!俺んち!ただいまーおかん!」
俺を促すように玄関を開けてそういうと、奥から、
「おかんはやめてって言ってるでしょう!」
と言いながら、エプロンをつけた女性が出てきた。
倉島に似ている。
倉島は、母親似なんだなと、心の中で思った。
「突然お邪魔してすみません。戸ノ岡と言います。倉島くんにはいつもお世話になっています。」
そう言ってお辞儀をした。
顔を上げると、目を丸くして驚いた顔をしていた。
倉島にそっくりだな。
心の中で思わず笑ってしまいつつ、何に驚いているのだろうと思っていると、
「達也、お前の友達にしては、なんて礼儀正しい子なの!本当にお前の友達なの?」
と、言った。やっぱり親子だ。本当によく似ている。
「友達だよ!あだ名は『おかん』本当におかんみたいなことばかり言うんだよ!」
「だから、おかんはやめろ。」
思わずいつもの癖でそういうと、そういえば、さっき、倉島のお母さんも『おかんはやめて』って言ってたな。なんだか面白い。声を出して笑ってしまった。小さな声だったけど、倉島には聞こえたようで、
「おかんが初めて声を出して笑ったのを見た。」
と、珍しいものを見るような眼差しで俺をみた。
思わず、顔に手をやると、
「え!?おかしかったか?」
変だっただろうか?笑ったの失礼だったか?
内心、ネガティブ俺が焦りまくっている。
倉島を見ると、驚いた顔から破顔して、
「ああ!めちゃおかしかった!お前、笑うんだな!楽しいな!」
なにを言っているのか分からなかったけど、なんだか嬉しそうに笑う倉島を見て、ああ笑って大丈夫だったんだとホッとして、なんだか楽しくて仕方がない気持ちになったのであった。




