30.かのこさんに報告!
絵画教室につくと、かのこさんはまだ来ていなかった。
だいたいいつも先にきているのに、珍しい。
いつもの席に座ると、持ってきたスケッチブックと筆箱、そして、棚から前回から始めた課題のガラス瓶を持ってくると、机に置いた。
携帯を取り出し、写真をみる。
前回と同じようにセッティングを試みる。
この辺りにビンを置いて…
携帯の写真を見ながら、ビンを置く。
「向きはこんな感じだな。」
ゆっくり写真を見ながら、だいたい前回と同じ位置に置くことができたと思う。
何度も、前回とった写真と見比べて、よし!と思えたら、筆箱から鉛筆を取り出して、前回の続きを描き始めた。
そこへ、
「こんばんは。」
かのこさんが教室に入ってきた。
そして、かのこさんは、いつも座っている席にカバンを置いた。
俺の前の席だ。
「こんばんは。」
挨拶をすると、
「こんばんは。」
と挨拶を返してくれた。
かのこさんは、今日も大きなカバンから、たくさんの画材を取り出して、準備をしてる。
今日も大きなカバンは、画材でいっぱいだったんだな。
と思いながら見ていると、かのこさんがくるっと振り返って俺を見たので、少し驚いてしまった。
まあ、表情が乏しい俺の顔には、驚いた表情は現れなかったかもしれないが、それは置いておこう。
「ビン描くの難しくないですか?私は苦戦した覚えがあります。」
かのこさんは、眉間に皺を寄せている。
その表情を見るに、本当に苦戦したんだろうことが伝わってくる。
かのこさんは、表情豊かだ。
俺は、いま先生からモチーフとしてガラスのビンを描くように言われて、頑張っているのだが、本当に難しいのだ。
光の場所とか、いろいろ。
「難しいです。」
正直にそうこたえると、
「今日何回目でしたっけ?」
と聞かれて、
「2回目です。」
とこたえると、
「えー2回目でここまで描けたの?すごいよ一馬くん!」
かのこさんは、俺のスケッチブックを見て、感心している。
「そんなことない・・・です・・・」
そう言いながら、一発芸での、あの、かのこさんが描いた俺の顔の絵を思い出し、思わず吹き出しそうになる。
「あっ。いま何か失礼なこと考えませんでしたか?」
ちょっと、頬を膨らまして話すかのこさんの表情がなんだか可愛い。
思わず、見ていると、
「もし、あの一発芸の私が描いた一馬くんを思い出して笑っているのだとしたら・・・」
まで、言って、次の言葉が出てこない。
「だとしたら?」
続きを促すと、
「むむむ・・・」
と、何かをこらえるように黙り込み、それから、
「あ、あれは、笑われても仕方がないかもしれない、、です。。。」
と、いって、なんともいえない顔をするかのこさんの顔を見て思わず笑ってしまった。
かのこさんは、何か言いたそうだけど、言えずにいるようだ。
「ご、ごめん。かのこさん。今日もベンチ行きますか?」
そう聞かれて、少し驚いたような、なんて返事をしていいのか戸惑うような顔になる。
確かに、今まで改まって聞いたことなかったな。
でも、
「時間があったら、ベンチ行きましょう。話したいことがあるので。」
そういうと、ああ、なるほど!という顔になり、
「聞きますよ!悩み多き青年!」
と、笑顔で返事をしてくれた。
いや、今日は悩みとかではないのだが・・・
まあ、いいか。ベンチに行ってくれるって言ってるし。
「では、教室終わったら、よろしくお願いします。」
「はい。私でよければなんでも聞きますよ!」
そういって、前を向くと、かのこさんも今日の課題を描き始めた。
俺も、ガラスビンと向き合って、ここが歪んでる気がする。。修正したら今度はこっち側が変に・・・・
本当に難しい。
教室が終わる時間に、先生から、「また次回も同じモチーフで続きを描きましょう。」と言われた。
完成まではまだまだ時間がかかりそうだ。
その辺にある、よくみるガラスビンを一つ描くのに、もう六時間近く費やしたが、まだ終わりが見えない。
「はあ。」
と、ため息をつくと、片付けが終わったかのこさんが、俺の方に振り返り、
「お疲れ様!デッサン時間かかりますよね。でもよく見て頑張ると、その成果が見えてきて楽しいですよね。」
そう言って笑った。
俺の片付けを手伝ってくれて、教室を後にする。
そして、塾の校舎を出ると、いつものように左に曲がり、小道を歩いて、いつものベンチに、かのこさんから少し離れて座った。
「それで、今日はどうしたの?何かありましたか?」
心配そうに聞いてくれるかのこさんに、ありがたいなと思いつつ、トートバッグから一つの包みを出すと、かのこさんの前に差し出した。
それは、可愛くラッピングした小さな包み。
「これは?」
かのこさんが不思議そうに見つめている。
「かのこさんに作ってきたんで、受け取ってください。」
そういって、かのこさんの手のひらにそっと乗せた。
「作って?一馬くんが作ってくれたの?」
「はい。一発芸のお礼です。」
「一発芸のお礼?わたし何もできなかったのに。一発芸はうまくいったんですか?」
「はい!かのこさんのおかげで大成功です!」
それを聞いたかのこさんの顔な、お花が開くみたいにぱぁっと笑顔になった。
「本当!やったー!よかったね!一馬くん!なんだか私も嬉しいよ!」
とっても嬉しそうにはしゃぐかのこさんに、
「そのお礼です。受け取ってください。」
「ありがとう。では、遠慮なくいただきますね!ありがとう!」
何かな?と言いながら、俺が渡した小さなプレゼントを嬉しそうに眺めている。
「それ、俺が作ったクッキーです。」
「ええっ!?一馬くんが私のために作ってくれたの?すごい!嬉しい!」
こんなに喜んでもらえて、俺のほうが嬉しい。
「一発芸は、特別じゃなくて、特技でいいんだよって、得意なこととか、好きなことでいいんだよって、かのこさんが言ってくれて、気がついたんです。俺、妹と弟によくお菓子を作ってて、お菓子作りなら得意かもしれないって。それで、かのこさんと話した後、材料買って、ゼミ生みんなにお菓子を作って、一発芸でよろしくって言いながら一人一人に配りました。そしたら、みんな喜んでくれて、俺、嬉しかったんです。早くかのこさんに伝えたいって、一発芸終わったらすぐに話に行きたいくらいでした。今日、やっと伝えることができて、かのこさんにも喜んでもらえて嬉しいです。そのクッキー、一発芸でゼミのみんなに配ったクッキーなんです。俺の絵のお礼でもあります。」
そう言ってイタズラっぽく笑うと、
かのこさんは、俺の話を一生懸命聞いてくれていたかのこさんのほっぺたがぷうっと少し膨らんだ。
俺は、いつもと違って、饒舌な自分に驚きつつ、かのこさんが嬉しそうにしてくれるのを、みている俺の方が嬉しくて、なんだか笑い出しそうになるのを堪えていた。
「それを言いますか!?」
もう!!とか言っていたけど、嬉しそうな顔をして、
「よかったね。よく頑張ったね。あんなに嫌そうに辛そうにしていたのに、今笑って話してくれて、私とっても嬉しいです。そして、クッキーありがとうございます。私は甘いものが大好きで、クッキー大好きだからとっても嬉しいです。よかったらいま食べてもいいですか?」
そう言ってくれるのだった。
「はい。どうぞ。食べてもらえて嬉しいです。」
俺も嬉しくて、笑顔になる。
表情が乏しくても、嬉しそうに笑えているといいな、かのこさんに伝わるといいなと心から思った。
「それではいただきます。」
そういって、丁寧にラッピングをほどいていく。
かのこさんから、俺が贈ったものをとても大切に思ってくれているのが伝わってきて、幸せな気持ちになった。
「うわあ、美味しそう!!いただきます!」
ひとつ口に運ぶ。サクッとかのこさんの口から小さく響く。
「美味しい!!とっても美味しいです!お店レベルですよ!プロの味!ずっと食べてたいです!」
かのこさんは、とっても美味しそうに食べてくれた。
それを見て、俺はとても嬉しくて、温かい気持ちになった。
「よかったら、また作ってきますよ。」
自然に口から言葉がでた。
「本当ですか!?嬉しいです!ずっと食べたいたいですが、残り1つは家に帰って味わって食べます。ありがとう、一馬くん。また、楽しみにしていますね!」
と言って、とっても嬉しそうに笑うかのこさんの顔を、俺は、なんだかずっと見ていたいという気持ちになるのだった。
ありがとう。
かのこさん。




