29.絵画教室の日
ゼミの飲み会が終わって、
そう!あの一発芸をやった飲み会のことだ。
が、終わってから、始めての絵画教室。
今日は、俺も教室の日だ。
なぜ、わざわざそんな断りを入れるのか?
と、お思いかもしれないが、何を隠そう、隔週で受講しているのに、毎週絵画教室に足を運んでいるからだ。
それは、もちろん、かのこさんが待っている『あのベンチ』へ行くためである。
まあ、本当に俺を待っているかは別として。
うん、別だな。
俺が勝手に、待っていると言ってるだけで・・・勝手に行っていて・・・
ネガティヴ俺がまたまたつぶやく。
自然に足が向いてしまうのだから仕方がない。
そして、かのこさんは、最初の方はびっくりして、「心配してくれるのは嬉しいけど、私は大丈夫なので・・・えっと・・・」などと言っていたけれど、だんだん俺がベンチに行くのも「当たり前」のことと、思ってくれていると感じるようになった。
かのこさんの優しさにつけこんでいるように感じて、罪悪感が時々顔を出すけど、「迷惑です。」と言われない限り、俺はあのベンチでかのこさんと話していたいと思っている。
あの時間があるから、1週間また、ここで頑張れていると思っている。
だから、この、絵画教室が終わった後の「ベンチタイム」を失いたくない、俺にとってとても大切な時間になった。
そして、今日は「ベンチタイム」で、かのこさんに一発芸の報告をしようと、絵画教室に行く前から気合いが入っている。
大学を出ようとしたら、倉島が、
「お前、今日おかしいぞ。何かあるのか?と言っても、まあ、いつもおかしいといえばおかしいんだけどな。」
一言も二言も余計だ。
「あれ?じゃあ、いつもと変わらないのか?」
とか、倉島は、自分で自分に突っ込んで、アホなことを言ってる。
「何もないが。」
「そうか?何緊張してるんだよ。体に力はいってるぞ。」
「そうか?」
「そうだよ。今日お前、朝からずっとなんか変だぞ。上の空だったり、ブツブツ何か呟いたり、そわそわしたり、カバンを何度も見たりしてさ。」
「えっ!?」
「えって、自覚なしかよ。」
そういって、俺を見て可笑しそうに笑っている。
正直驚いた。
俺、今日1日そんな感じだったのか。
右手で顔を覆い、今日1日を思い出す。
そんなだった?俺?
思ったよりもずっと考えていたことを知って自分でも驚いていた。
かのこさんに、一発芸が成功した報告をしたい気持ちでいっぱいだったのは、自覚があるが、何度もカバンを見てた?
ちょっと恥ずかしい。
「すまん。変だったか?」
「いや、おかんはいつも変だから気にしてはないが、なぜそうなっているのか、原因は気になった。」
「そうか。」
「ぷっ、やっぱり話す気ないな。予想通りだ!」
倉島は、笑いながら、難しい事件を推理したような、ちょっと得意げの顔をした。
「なら、話さない。」
俺がそういうと、
「えっ?話そうとしてくれたのか?いや、聞きたい!話せよ。」
「お前の予想を外してはいけないからな。」
「いやいや、それは嬉しいはずれで・・・」
と、慌てて手をふり、違う違うと言っている。
俺は、『嬉しいはずれ』という言葉が気になっていた。
「俺の話聞くの嬉しいのか?」
そういうことなのか?思わず口に出すと、
「もちろん!嬉しいぞ!」
と、威張るように胸をはり、どうだ!と言わんばかりの顔をしている。
なにゆえ、俺のこと聞いて嬉しいと胸を張って言っているのか。。。
本当に倉島はよくわからん。
でも、なんだか嬉しい気がしてきた。
「ありがとう。でも言わないけどな。」
ペロっと舌を出して、いたずらっぽくそういうと、
「えーなんだよ。いえよー!おかん!」
と、学食から、構内をでて、道中絡まれながら、駅へと向かう。
倉島とは、倉島の家の前で別れた。
なんせ大学から駅に向かう途中の家だったのだ。
入学した日から大学に行くときは必ず通る道端沿いに家があった。
いや、多分他の学生はあまり通らないかもしれない。
これは誰にも会うのが嫌で、メイン通りの1番近道を通らず、裏手の住宅を学生に合わないように縫うように歩いていたから。
そんなことを考えていたら、倉島から、
「今日、家に寄って行けよ!」と誘われたけど、
「今日は用があるから寄れないけど、また誘ってくれ。」
絵画教室があるから、理由を言わず、丁寧に断った。
すると!倉島はいつものようににかっと笑って、
「お前にも用事があるんだな。」
と、とても失礼なことを言われたけど、
「いつでも来い!また明日な!」
と、嬉しそうに笑って、家に入って行った倉島の背中を見て、やっぱり憎めないやつだなと、好ましく思っている自分がいた。
さて、かのこさんに報告するぞ!
それから、俺は、大学の最寄り駅から電車で数駅、俺のアパートと、絵画教室がある駅に降り立ったのである。




