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プリンとキス  作者: 雲母あお


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3.林の中に

にこっと笑った顔がとてもかわいい人だった。


おそらく年上であろう女性に、『可愛い』は失礼なのかもしれないけれど、綺麗より“かわいらしい”が似合う人だった。


彼女の後について歩いていく。

駅を背にして進み、二つ先の交差点を左に曲がり、細い路地に入っていった。


え!?ここを曲がるのか…?


俺は、ちょっと足がすくんだ。

彼女は、どんどん先を歩いていく。


俺は、置いていかれないように、すくんだ足を一歩踏み出した。


そこはとても細い路地で、曲がる入り口から薄暗く、古くて高い塀には、苔が生え蔦が生い茂っていた。そのさきには、大きな木が林みたいにうっそうと生えていて、ちょっと怖いなと思っていた。

だから、駅からアパートに帰るとき、この路地の前を通るけれど、ちらっと横目で見るだけで入ったことはなかった。

曲がって歩いてみようなんて思ったこともなかった。


こんなところに絵画教室があるのか?


半信半疑ついていくと、

「着きましたよ。」

彼女は、俺の方を振り返ってそう告げた。


「ここ…ですか…!?」


なんと!

あの林みたいな薄気味悪いと思っていたところこそが目的地だったとは!?


目の前には、うっそうと茂った林。そして、その正面に門があって、よく見ると『武蔵丘森美術塾』とかかれた看板がかかっていた。


門の真正面がエントランスに続くおしゃれな小路になっていて、その先に3階建ての白い建物が建っている。


「すごい…。」

思わず口にすると、


「でしょ?ここ素敵ですよね!私、この学校見つけたとき、もう感動しちゃって!即入塾しちゃったんですよ!」

嬉しそうに話してくれた。


彼女は、門をくぐり、自動ドアを抜け、受付で話し始めた。

「斉藤さん、こんばんは。今日、見学の方をお連れしたのですが、先生に許可をとっていただけますか?」

受付でパソコン作業をしていた女性が、手を止めて返事をした。

「こんばんは。見学希望の方は、あちらの方ですか?」

斉藤さんと呼ばれた受付のお姉さんが、俺をみて、軽く会釈をすると、ニコッと笑って、

「絵に興味はありますか?」

と、質問してきた。

さっきと同じ質問だなと思いながら、

「はい。」

と、短く答える。

「今までに習ったことはありますか?」

「いえ。」

「そうですか。では、奈良先生に伝えておきますので、松本さんと一緒に教室に行っていてください。」


そういうと、少し離れたところで待っていた彼女が、俺の方をみて、

「分かりました。じゃあ、教室に案内しますね。」

と言って、俺に後についてくるよう促す。

「よろしくお願いします。」


後をついて歩き出しながら、彼女は、松本さんっていうのかと思っていた。


建物はコの字になっていて、教室は建物に入って右の廊下を行った突き当りだった。


「こんばんは。」

慣れた様子で挨拶を口にして、教室の扉を開けて中に入っていく。俺は、初めてのところで緊張していて、そのあとにおどおどしながら続いた。


こんな立派な建物、一人では来られなかったな。


教室に入ってすぐ、後ろの棚に荷物を置いていた男性が声を掛けてきた。

「こんばんは!あれ?松本さん、後ろの子見学の人?」

「はい。絵に興味があるみたいで。もう受付の斎藤さんにお話して奈良先生には伝えてもらっています。」

「そうなんだ。もしかして彼氏とか?」

からかうように言って笑った。

「竹井さん、違いますよ。そんなこと言ったらこの方に悪いですよ。さっきそこで初めて会ったんです。」

「なんだ。松本さんにもやっと春が来たかと思ったのに違ったのか。」

そうかそうか。かわいいのに何でもてないんだろう。なんて言われてる。ちょっとむくれて、

「余計なお世話ですよ!」

っていってる顔がまた可愛いな。そう思って見ていると、

「そういえば、お名前は?伺ってもいいですか?」

後ろの方の空いている席に座るように言ってくれる。

「戸ノ岡です。」

「では、戸ノ岡さん、これどうぞ。」

いつの間にか、紙コップにお茶を入れて持ってきてくれていた。

「ありがとうございます。」

それを受け取ると、

「深呼吸して、息を整えて、お茶を飲んで、ゆっくりしてくださいね!」

なんだかお年寄り扱いだな、と心の中で笑いつつ、

「はい。ありがとうございます。そうします。」

素直にお礼をいうと、満足そうな顔をしてすぐ前の席に座る。


それから、あの大きなカバンを机の上に置くと、中から画材を出し始めた。

「え?そんなに…?」

言葉を失う。どんどん画材が出てきて驚いた。


あのカバン、仕事の書類とかじゃなくて、ほとんど画材じゃん!


画材を出し終えたカバンは、はらぺこすぎて背中とお腹がくっついてしまうくらいぺったんこになっている。


やっぱこの人面白い!


笑い出すのを必死でこらえていると、背後から声を掛けられた。


「初めまして奈良と言います。君が見学の人かな?」

そこには、すらっとした初老の男性が立っていた。


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