26. 早くこい!倉島!
なんとか、一発芸を乗り切り、あと数日で夏休みだ。
アルバイト、なかなか見つからないな。
学食で倉島を待ちながら、アルバイト情報誌のページをめくっていた。
「あれ?戸ノ岡君?」
背後で、突然名前を呼ばれて、しかも女の人の声で、びっくりしてしまたった。
が、表情に乏しい。
俺の顔は、そんなに驚いたようには見えなかっただろう。
振り返ると、そこにはゼミの飲み会で、美希と呼ばれてた女の子が立っていた。
「ああ、どうも。」
座ったまま軽く会釈をする。
美希さんは、俺の席の前まで来ると、
「誰か待ち?」
と、聞いてきた。
「倉島。」
と、答えると、
「ああ。」
と、とても納得したような顔をした。
なぜだ?
「私も友達待ちなの。まだあと少し時間があるから、ちょっと一緒してもいい?」
丁寧な断りのコメントをいただく。
俺と!?
と、内心めちゃくちゃ驚く。
が、きっと表情にはでていないだろう。
いや、しかし、ここは誰でもどこでも座って良い学食であって、俺に許可を得る事は特に必要ないとは思うのだが、気を遣ってもらっている俺がなんて答えたらいいんだろうと、さらにネガティヴ俺が心の中で早口の独り言を呟き始めている。。。
ドギマギしたけれど、頑張って絞り出した答えは、
「あぁ。」
の一言だった。
感じ悪かったか??
俺のコミュニケーション能力って…
ああーと心の中で頭をかかえる。
「改めて、戸ノ岡君のクッキーとってもおいしかった。ありがと。ちょっと驚いたよ。お菓子作りが特技なんて。」
そう言われて、息を呑む。
やはりキモかっただろうか……
「あぁ、ごめん。やっぱりそうだよな。なんかごめん。男がこんな図体してお菓子作りが好きなんて、ちょっとおかしかったよな。」
うつむき加減にそう言うと、
「何言ってるの?最高の特技じゃん!みんな喜んでたよ。」
本当ならうれしい。
少し口角が上がったような気がする。
俺を見ていた美希さんが、ちょっと驚いたような顔した。
えっと、、、
俺、変な顔しただろうか?
美希さんが、ちょっと困ったような少し恥ずかしそうな顔をしている。
「あの、なんか変なこと言ってたらごめん。」
なんだかわからないけど、とりあえず謝った。
「戸ノ岡君って謝ってばっかだね。全然謝ること、何もないのに。」
そう言って、くすっと笑った。
「本当においしかったよ。私も作ってみたいな。私でも作れるかなぁ?」
そういえば、ゼミの飲み会の時に、彼氏に作りたいからレシピ教えてって言ってたな。
それを思い出して、
「あぁそっか、レシピ知りたいって言ってたね。忘れててごめん。大丈夫作れるよ。」
そう言いながら、カバンから、レポート用紙とペンを取り出す。
「まだ時間大丈夫?大丈夫なら、今すぐレシピ書くよ。」
「いいの!?っていうか、覚えてるのレシピ?」
「ああ、まぁこのレシピは覚えてるよ。よく作るから。」
実家にいた頃、よく作っていたのを思い出す。
「へー、よく作るんだ。」
感心したように、彼女が言う。
え?なにその反応?やばいっ!
そんなすごいことじゃなくて、そんな得意というか…そんな得意に言ってしまっただろうか。
そんな上手じゃないし、こっちに来てからはあんまり作ってないし、どうしよう。
またネガティブが顔を出す……
「いや、よくっていうか、最近は作ってなかったんだけどえっと。。。」
レシピを書きながら、言い訳じみたことを話してしまった。
「あはは。」
美希さんが、突然笑い出して驚いた。
そんな俺をみて、
「ごめんごめん。」
と謝りながらも、まだ笑っている。
俺は、なんだか恥ずかしくて顔が上げられない。
「戸ノ岡君って真面目だね。それでいい人。ゼミ初日の挨拶の時、ちょっと怖い感じかなぁ、背が高くて笑ったのを見たことないから、どんな人なのかなぁってずっと思ってたんだ。こないだゼミの飲み会に来てくれて、1発芸を一人ひとりによろしくって声をかけて挨拶できる人ってなかなかいないと思うんだよね。」
そう言って、一度言葉をきると、
「戸ノ岡くん、すごいよ!」
嘘偽りのない言葉だと、伝わってくる。
こんな言葉をもらうことに慣れてないから、なんて答えていいのかわからない。
「そんな事はない…と、おもう…これしか俺、特技ないし。」
「こんな特技があったら充分だよ!」
ふと美希さんの目が、俺の手元で止まった
「アルバイト探してるの?」
「あ、うん。今までもバイトはしてたんだけど、単発で行ってて。」
「どんな仕事してたの?」
「ただ、稼げればいいと思ってたから、引っ越しの日雇いバイトとか。」
「そうなんだ。それで今はどんな仕事探してるの?」
「実は、初めてアルバイト雑誌を買って、こんなにたくさんあって、読んでて、よくわからないんだ。こないだ1発芸を考えたときに、お菓子作りが好きだって自分で初めて気がついて、そんな仕事があればいいなと思ったんだけど、こんな図体でかい男がケーキ屋とか立ってたら入りづらいよな?」
はあ。
思わずため息をついた。
「考えすぎだよ。もし採用されて、働き出して、何か言われたら、採用したお店の人のせいにして問題なし!採用決めたのお店の人だし。挑戦してみるのありだと思うよ。」
はげまされてしまった。
なんか嬉しい。
「ありがとう。」
すっとお礼の言葉が、口からでていた。
すると、美希さんは、ニコッと嬉しそうにわらって、
「どういたしまして!」
と、笑うのだった。
美希さんが、学食から去った後、俺は思った。
そういえば、名前が分からない。
飲み会で、美希さんと呼ばれていたのは、覚えている。
いきなり下の名前で呼ぶとか、なしだからな。
苗字は……うん、分からん!!
よし!後で、倉島に聞こう!
そういや、あいつ、まだ来ないな。
なにやってんだ。
そう言いながらも、何杯目か分からないお茶を注ぎつつ、倉島を待つのであった。
早くこい!倉島!!




