20. ありがとうございます!
「なんでもって・・・それが1番難しいでしょう!?」
かのこさんに見捨てられたと思った。
なんでもいいってさ、どうしていいか全然わからないやつには酷なんだよ!
とやさぐれていると、
「そうだよね。なんでもいいって難しいよね。でもさ、一発芸っていう言葉のイメージに囚われてすぎているからいけないと思うのよ。」
ふと顔をあげ、かのこさんをみる。
かのこさんは、一生懸命何かを伝えようとしているように見えた。
「言葉のイメージ、ですか?」
何を言っているいるのかわからない俺は、どういうことだろうと聞き返した。
「そう!一発芸って言ったらさ、テレビに出てくる人のモノマネをしたり、体張ったりして、面白いことをして笑わせなきゃいけないとか、そういうイメージなんだと思うんだけど・・・。」
確かに、一発芸って聞くと、何か特別なことをしなくちゃと考えている自分がいる。
俺に、何か特別できるものがあるのか?たとえあっても、人前で披露すること自体苦手だ。まして、俺が何かして、みんなが笑ってくれたりするのだろうか。
どんどんネガティブ思考の深みにハマっていく・・・
いつものパターンだ。なんとかしたい。
でも・・・
なんだか落ち込んできて、うつむき始めたとき、かのこさんの元気な声で目が覚めた。
「例えばね!!」
「は、はい!」
かのこさんは、おもむろにカバンに手を突っ込み、クロッキーブックと2Bの鉛筆を取り出すと、ささっと何かを描き始めた。
「よしできた!ちょうど1分ね。」
時計を見て満足そうな顔をして、俺の顔をみる。
「?」
なんだろう?
何を描いたのかな?
疑問に思っていると、
「じゃーん!!!」
どう?と、自慢するかのように楽しそうな笑顔で、クロッキーブックを俺の目の前に出すと、
「私の一発芸は、『1分であなたの似顔絵を描きます!』です!」
「・・・え?」
目の前に出されたクロッキーブックで、かのこさんの顔が見えない。
「一発芸『1分であなたの似顔絵を描きます!』だよ!これも立派な一発芸だよね!」
俺の反応がないので、もう一回言ってる。
「ええっと・・・え?似顔絵?うぇ・・・に、似てない。誰ですか?それ?」
いや、いうまでもなく、俺を描いてくれたのだろうが。どう見てもひどい・・・あんまりだ・・・
「いや、もう、ええっと、かのこさん。それ、立派な一発芸ですよ・・・普通に・・・。」
「うぅ・・・ひどい・・・」
かのこさんのクロッキーブックを握る手に力が入る。
ちょっとぷるぷる震えている。
それから、クロッキーブックと鉛筆を、静かにカバンに押し込めると、そっぽを向きながら、
「ご、ごほん。」
と、ひとつ咳払いをしてから続けた。
「えっと、その。そう、こう言うのもありだと思うの。自分の得意なものを披露して知ってもらうとか。・・・思いついてやってみたけど・・・どうせ私は好きだけど得意ではないですよー・・・せっかくアドバイスしようと頑張ってみたのに・・・ひどい・・・」
顔を赤くして、ブツブツ言っている。
そんなかのこさんを見ながら、
好きなこと・・・
得意なこと・・・か・・・?
俺は俺でブツブツ言いながら考えていた。
絵を習い始めて、絵を描くことが楽しいと感じるようになってきたけれど、まだ得意というレベルではない。俺より2年も先に始めたかのこさんがこれじゃあ、俺には到底無理な話だ。でも・・・そうか!
「ありがとう!かのこさん!俺、やってみるよ!」
突然、元気よく前向き発言をした俺に、びっくりしながらも、
「えっと、何か思いついたのですか?大丈夫そう?私、お役に立てましたか?」
と、聞いてくれた。
「はい!めちゃくちゃ助かりました!ありがとうございます!俺、やってみます!」
心の中で、『さっき見捨てられたとか思ってごめんなさい。』とつぶやく。
あと、ひどい絵だって言ってごめんなさい。八つ当たりしてしまってごめんなさい。と手を合わせる。
ごめん、心の中で。うまく口に出せなくてごめん、かのこさん!
それでも、態度を変えずに、最後まで話を聞いてくれてありがとう。
一生懸命考えてくれてありがとう!
心の中で懺悔しながら、お礼を言うと、
「そっか。それならよかった。うんうん、頑張って!」
かのこさんは、ひどいこと言った俺に、嬉しそうにそう言ってくれた。
ありがとう!かのこさん!
本当にありがとう!!
「はい!ありがとうございます!」
元気よく返事をして、お役に立てて何よりと嬉しそうにしているかのこさんに、何度もお礼を言いながら駅まで送った。
よし、アパートへ帰る途中にスーパーに寄って、一発芸の準備をしよう!
なんか、急にやる気が出てきたぞー!!




