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プリンとキス  作者: 雲母あお


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12/43

12.飲んだら飲みっぱなしかよ

次の日


午前中の講義を終えて、学食に来た。

お昼を食べ終え、お茶を飲みながら、自分が描いたレンガの絵を携帯で見ていると、突然声をかけられた。

「よう戸ノ岡、ここいいか?」

小教室のクラスメートが向かいに座った。

「…。」

初めてのことで、驚きすぎて無表情で固まった。

「何にやにやとさっきから携帯見つめてるんだよ。彼女でもできたか?」

そんな話をする仲でもないだろう。

「そんなんじゃないよ。」

「そうか。」

学食のやかんで入れてきたお茶を、近くにあったコップに入れて渡した。

「サンキュ!」

ごくごく飲んでる。

「なに?」

なんで俺に声かけてきたんだ。何か用があるんだろう。あるならさっさと言ってくれ。と無言で訴えた。伝わっているか分からんが。

「ああ。別に。用事ない。ただ目に入ったから。」

「そうか。」

どうやら伝わったらしい。

それきり会話もない。何を話していいかも分からない。内心恐ろしいほど緊張していた。たぶん表には出ていないけど。

向かいに座った男は、会話がないのを気にした様子もなく、さっきからお茶をごくごく飲んでいる。

「お前、そんなに一気飲みして大丈夫か?そんなに喉乾いていたのか?」

「ああ。部活の途中だ。」

言われてみれば、運動用の恰好をしていた。

「昼休みも部活あるのか?」

「来月大会だから自主練。」

「部活は?」

「野球。で、走り込みしてた。で、喉乾いて学食きたらお前がいた。」

「そうか。」

また、黙り込む。

「お前ゼミ、神林ゼミだろ?」

「そうだけど。」

「俺も一緒。よろしくな。」

びっくりした。誰が一緒だって同じだから、自分以外の名簿なんか見もしなかったので、こいつが同じゼミだったことも知らなかった。しゃべったこともないのに、よろしくって言っている。この2年間ずっと一人だった俺に。

「よろしく。」

そして、また会話が消えた。なんだか俺を伺うようにみてくる。その視線にだんだん耐えられなくなって声を上げた。

「さっきからなんだよ。」

ちょっと切れ気味な声になってしまった。別にそこまで怒っているとかではないが、どうとっただろうか。内心おろおろしていた。そいつは、ちょっと驚いた顔をしてから、

「ごめん。なんか最近お前、少し雰囲気変わったなと思っていて。」

「は?」

訳が分からない。

「やっぱり、今話していても雰囲気変わったと思う。最近何かあったか?俺、お前のこと一年のときから小クラス一緒でみてたけど、こんなに柔らかい雰囲気を出すことなかったから、てっきり彼女でもできたのかと。」


最近雰囲気が違う?

いつも通り話しているのに雰囲気が柔らかい?

思い当たることは一つしかない。

かのこさんに出会ってからだ。


心の中で、そう思いながら、大学に入学して初めての『友達っぽい会話』に、ドギマギしてそっけない態度になってしまう。


「そうか?残念ながら彼女はいないよ。」

「お前でも残念なんだな。彼女がいないの。」

そんなところつっこまれて笑われている。

「何がおかしいんだよ。」

「いや、お前人に興味ないのかと。違うんだな。」

「俺だって、普通の健康な男子だ!」

俺がそういうと、目を丸くして、それから腹を抱えて笑い出した。

「あははは!今日お前に話しかけてよかったよ。ゼミの連中、お前意外名前も顔も分からなくてちょっと不安だったんだ。お前みたいなやつでもいないよりましだ。じゃあな!」

「それはこっちも同じだよ。部活頑張れよ。」

最後の言葉に、きょとんとした顔をして、それから、にかッと笑って、

「頑張るよ!またな!」

と言って、お茶のコップも片付けず部活へと戻っていった。



「まったく飲んだら飲みっぱなしかよ…。」



言葉とは裏腹に顔の筋肉が少し緩んでいた。


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