11.楽しかったな
初めての絵画教室は、思った以上に充実していた(出だしデッサン一式を購入するときのへなちょこぶりはなかったことにしよう)。鉛筆を削るのに夢中になったし、絵を描いているときは、色々忘れてレンガのことばかり考えていた。鉛筆のシャッシャッという音が心地よかった。
教室が終わったあとのベンチでの出来事。
そのあと、かのこさんを駅まで送って、「また教室で」と見送ったときのこと。
かのこさんが何度カードをかざしても改札が開かなくて、
「あっ違った!って…あ…えっと…なっなんでもないの。大丈夫。大丈夫。」
といいながら、もそもそ違うカードを出しなおして改札を抜けていった背中に、あの人何事もなく家までたどり着くのかなと、心配になった瞬間とか思い出すと、なんだか笑ってしまう。
楽しかったな……
改札でかのこさんの姿が見えなくなるまで見送って、絵画教室でのことをおもいだしていたら、あっという間に家に着いていた。
帰り道アパートまでの道のりがいつもと違って見えた。
風呂に入って夕飯も食べた。
それから……
それから、早速、もらった資料を見ながら復習して、できればあと1本鉛筆を今日より上手に削っていけたらと思い、持って帰ってきた”デッサン一式“を、カバンから取り出していた。
鉛筆を出したときに、またベンチでのことを思い出して思わず笑ってしまったことは、かのこさんには内緒にしておこう。
「かのこさん不器用すぎ。」
かのこさんは文房具大好きだって分かるくらい綺麗に丁寧に使っているのは伝わってきたけれど……
「あの削り方はちょっと酷いよな。ふふっ…」
筆箱の中に鉛筆削りで削った鉛筆も数本入っていたのが、チラッと見えた。
「確かに先端を尖らせるの難しいよな。でもあれは鉛筆削りで削ってあったよな。どうしてもうまく削れなくて、諦めたのかな。」
ぷっくくく
笑いが込み上げてくる。
「本当にあの人面白い!!」
大学では、いつもの如く一人で、なんら変わりない日だったけれど、絵画教室にいって、終わってからかのこさんと話して……
ああ、今日は、本当に楽しかったなあ。
スケッチブックを窓枠に立てかけてしばらく眺めていた。




