97.『沖之浮島』 取扱説明
目の端でアドリアーヌがメモの準備をしてるのが見えてたから、騎士達がメモできるかどうか、知ったこっちゃない。さっさと話し始める。
「まずこれが海底から魔力の澱みと共に海水が汲み上げられている側のパイプになりま~す。
今、魔力を供給して汲み上げられている状態になっておりま~す。
初期状態で水が止まっていた場合、ここの魔石に魔力を供給しま~す。
この魔石、海底まで125個の魔石と連動していま~す。
なめてかかると魔力枯渇で死にま~す。
無事に魔力を供給出来たら海底から魔力の澱みと共に海洋深層水が汲み上げられま~す。
このタンク内に水が貯まりま~す。
貯まったら、バルブを閉めて水の供給を止めま~す。
水を止めても水に魔力が含まれるのでプロペラはその廻りの魔力がなくなるまでまわり続けま~す。
タンクの上の蓋を開けてタンク内に空魔石を沈めま~す。
水中の魔力を吸わせまま~す。
魔力の澱みがを吸われ清浄化した海水を排出しま~す。
排出にはこちらの魔石に魔力を流しま~す。
清浄化された海水の排出が始まりま~す。
排出の魔石は25個が連動してま~す。
魔力弱めの人は気をつけて頂けるよう、お願いしま~す。
排出が終わったら魔力供給をとめま~す。
また最初の海洋深層水を汲み上げるところから始めま~す。
バルブを開けて海洋深層水がでてきま~す。
出てこなかった場合は魔石のまわりの水の魔力を使い果たしていると考えられま~す。
その時は、ここの魔石に魔力を供給しま~す。
この魔石、海底まで125個の魔石と連動していま~す。
なめてかかると魔力枯渇で死にま~す。
この後は同じ事を繰り返しま~す。
魔力の澱みが全て吸い上げられたら、魔力が無くなってプロペラの回転が勝手に止まりま~す。
そしたら、作業を終わりま~す。
後は定期的にここに来て海洋深層水を汲み上げま~す。
魔力の澱みがあれば同じ作業を繰り返しま~す。
澱みがあってもなくても、海洋深層水を汲み上げれば他の使い道がありま~す。
この海洋深層水から塩を精製するととても美味しい塩になりま~す。
塩を抜いて淡水となった海洋深層水は、他にも使い道がありま~す。
以上、沖之浮島取扱説明をおわりま~す。
ご静聴、ありがとうございま~す。」
「最初のほうの説明をもう一度、お願いできますか。」
必死になってメモしてたらしい騎士達が、懇願してくる。
そんな騎士達のメモより、アドリアーヌのメモ見せてもらおう。メモを見せるように言えば、何かモゴモゴと言いたそうにしていたけど、今いろいろしゃべられるのも気が散るし『後で聞くよ。』と制しておいた。
やっぱりアドリアーヌのメモはしっかりしていた。しゃべっているスピードで書き殴っているのだから、かなり字が汚かったが、概ね俺が伝えたかったことが記されていた。
あくまでも⦅概ね⦆だ。ペンを受け取り、アドリアーヌのメモを補足していく。
うん、こんなもんでよろしかろう。
「これって、清書出来る?」
「ええ、そのつもりよ。清書した説明書を【複写】して何部か騎士団に回しておきますよ。」
「そうかっ。助かる。この者達の覚え書きは要領を得んのだ。アドリアーヌ、頼んだぞ。」
なんだよ、騎士団、優秀なんじゃ無かったのか。
「そんなことよりもショウに確認したいことがあるの。」
「え、ちょっと待ってて。バルブを閉めてくる。」
そろそろタンク内の水がいっぱいになりそうだ。バルブの所まで歩いて行き、近くにいた騎士に指示する。
「この丸いハンドルを右に止まるまで回して。水の流れが止まるから。」
騎士は『なんだ、このガキ』といった態度を取るようなことも無く、赤ん坊の言うことでもちゃんと指示に従ってくれた。
後は排水だな。排水口のすぐ横に虹色魔石を設置してあるから、そのあたりの水に含まれた澱みは吸い尽くされているであろう。
排水用の魔石が設置されているところまで行き、魔石に魔力を注ぐんだけど、俺が注ぎ始めたら俺がここから動けなくなってしまう。騎士にやらせて魔力の使いすぎでダウンされても困る。
ここは昨日のタコ魔石を大サービスして置いていくか。
もう【異空間収納】を隠すのも面倒だし、みんなの前で【門】から物を出し入れしてもいいか。
【門】展開、発動。タコ魔石が俺の前にドンッと現れる。サイズは・・・ 打ち上げ花火の3尺玉ですねっ!! 直径90cmぐらいの球体だ。3尺玉は実際には3尺より小さいらしいけどね。
騎士達のどよめき、囁き。
「あれは一体何の魔法だ。」
「いや、赤ん坊が魔法って、」
「昨日も散々魔法を使ってたらしいぞ。」
「領主様のお子様だ。そういうこともありうる。」
「いや、ないない。」
いろいろ言われてるが無視する。
タコ魔石に【魔力充填】と【充填停止】の魔法円を組み込むんだけど、【充填停止】レベルを現在この魔石が持っている魔力量を基準にしよう。
【魔力充填】【充填停止】の魔法円を展開、【充填停止】のレベル設定、そして『焼き付けるっ!!』
よしっ、排水パイプのバルブの近くに設置して、プロペラの魔石に魔力供給。
後は近くの騎士を手招きして、ここについていてもらおう。
「排水パイプの排出の力を、今この魔石の魔力で賄っているんだけど、ここに出てくる水が強い魔力を持っているようだったら、勝手にプロペラが回ってしまうから、このバルブを閉めて水を止めてもらいたいんだ。頼めるかな。」
「かしこまりました。」
俺が何をやるのか興味津々で後ろにぞろぞろと付いてくる集団。アドリアーヌとお付きの者、アステリオス。
俺を先頭にして、後ろを付いてくる集団がうっとうしい事この上ない。
そうだ、アドリアーヌがさっき何か言いかけてたけどなんだったんだ?
「俺に確認したい事ってなんだったの?」
「海洋深層水の事よ。塩以外にいろいろな使い道があるって言ってたでしょう。どんな使い道があるのよ。」
「海洋深層水はミネラルが豊富だから、飲料水や化粧水にいいらしいんだけど、海洋深層水から塩分だけを除去する技術は無いでしょ。だから水を蒸発させて塩を取りましょう、ぐらいしか使い道は無いよね。」
「け、化粧水―っ!! それはなんとかならないのっ!! ショウなら魔法でなんとかできるんじゃないのっ!!」
「赤ん坊に、なに無理言ってんですかっ!!」
そこへ食いついたか。やっぱどこの世界も、女性は綺麗でありたいと思ってるんだね。
排水にはまだ時間かかりそうだし、その間何か考えてみようか。
魔力放出、魔力形成、形状蓋付きポリバケツ×5、【魔力固定】、まばゆく光った後に5個のポリバケツが出来ていた。
排水されている水は外に向かって放出されてるから、中側に水をくむための蛇口が欲しいな。じゃ、それも蛇口を創って【魔力固定】だな。
大きな止水バルブの手前に創った捻ると水が出る蛇口、極々普通の蛇口だけどこの世界にこんな蛇口などという物があるわけがない。
騎士隊に使い方を説明して、バケツに水を張ってもらった。その後も物珍しく騎士達がかわるがわる捻っては水を出したり止めたりとしている。
「こんな魔法は見た事も無いぞ。これを回すと水が出るなんて。」
「これは水魔法で水を出すよりも、すごいんじゃないか。」
いや、蛇口は魔法じゃ無いし、何も無いところから水を出せる水魔法のほうがもっとすごいし。
さて、このバケツに汲んだ海洋深層水、水を眺めてみた。指先に水を付け舐めてみる。ぅおえぇ~、塩辛い。塩分量がハンパね―っ!!
これだけの塩分量を水から分離とか、無理っしょ。そもそも分離させるような魔法なんてあるのかよ。
無難に考えてみよう。海洋深層水を加熱して、そこから出た蒸気を水として取り出す装置を創れば、誰でも出来そうだな。どんな形がいいかな。
ドラム缶みたいな形の加熱タンクを創る。その上に蒸気抜きのパイプを付けて、上から出たパイプは斜め下方向に向けて曲げる。そこから長めのパイプを付けて冷却させれば、パイプ内部が結露する。パイプの先に桶を置いておけば、水が貯まるね。
物は試しだ。創ってみるか。
魔力放出、魔力形成、ドラム缶状の加熱タンク、横に水の出し入れ用蓋、上部蒸気抜きパイプ、斜め下方に向けて冷却パイプ、及びパイプ支持脚。。こんなもんでいいだろう。【魔力固定】魔法円展開、発動。
「一体何を創ったのよ。これでお水が出るの?」
「塩水を加熱して出た蒸気を結露させるから、少し時間はかかるけど分離はできると思うよ。」
「すごく普通ね。魔法で分離するんじゃ無かったの?」
「好き勝手言ってるね。分離なんて魔法があるの?」
何かそれに近い魔法は無いか考えたけど、思いつかなかったんだよね。アドリアーヌが知っていたなら教えて欲しいぐらいだよ。アドリアーヌも黙り込んでしまったから思いつきもしないんだろう。
さて、パイプの冷却は【パーシャル冷凍】だと凍り付いてしまいそうだから、温度を少し上げた魔法円を創って魔石に焼き付けよう。
まずは魔石を取り出す。【パーシャル冷凍】の魔法円展開。その中にある270.15Kの数字を274Kに書き換える。水の凍結直前の温度だ。その魔法円を魔石に『焼き付けるっ!!』
その魔石を冷却用パイプに取り付ける。
次はタンクの加熱だ。炎の魔法で火を焚くか。それとも、冷却が温度設定で出来るんだから、加熱も温度設定をしてみようか。
もう一度【パーシャル冷凍】を展開。温度設定、水の沸騰温度、373.15K。これを魔石に『焼き付けるっ!!』
この魔石を加熱タンクの底部に取り付けて、後はバケツに汲んだ海洋深層水を加熱タンクに流し込むんだけど、これは騎士にお願いしよう。
タンクに塩水が入ったら加熱だ。加熱の魔石に魔力を流す。温度の上がり方が早い。あっというまに沸騰した。なんで? 【パーシャル冷凍】は範囲内の温度を全て、内部まで下げるように設定したな。加熱も同じ事が起きたということか。火を焚いて水を熱した場合、徐々に熱が上がっていくが、この魔法は内部まで同じように温度が上がるから沸騰スピードが異様に早いようだ。蒸気抜きのパイプからはすでに蒸気が立ち上っている。
早く冷却しないと。冷却魔石に魔力を流せばもうもうと吹き上げていた蒸気が消え、パイプ内で冷却された蒸気が結露して水となってパイプからボタボタと落ち始める。
あ、あ、あ、バケツ、バケツ。結露も早すぎ。どういうことだ。ほとんど蒸気で逃げてしまうと思っていたのに、逆にほとんど結露して水滴化してないか?
この冷却魔法も加熱と同じ事か。パイプだけが冷えていれば、熱された蒸気の水分が冷えたパイプの内側に結露し、冷え切っていない蒸気は外部へ出てしまう。しかしこの冷却魔法で冷やしているのはパイプの中の空気まで冷却されているみたいで、そこを通る蒸気が全て冷やされ水に戻っているようだ。
この魔法の効果は、思ってた以上の効果が得られているみたいだぞ。
塩水が蒸発する時は、塩分は蒸発しないから、必然的に塩と水が分離されるんだけど、ミネラル分はどうなるんだ。水にいくのか、塩にいくのか、それとも両方に? この世界じゃ検査方法も無いし、分からないね。ひと舐めしてみて美味しかったら、海洋深層水ブランドとして売り出すのだろうか。
「この水には塩分は無いから飲めるはずだけど、飲んでみる?」
「私が最初なの。」
「じゃあ、俺が最初に飲むよ。」
パイプからしたたる水をティーカップに受け、まず香りを嗅いで・・・・・ 少し海の香りがする。でも嫌なにおいじゃ無い。味は? さすがにガブッと口に含んで痛い目を見たくは無い。指先を水の中に突っ込んで、その指先を舐めてみた。大丈夫そうだ。口に含み舌の上で転がす。飲み込んだ後、鼻に息を抜く。
テイスティングですかっ!!
いいんじゃないか。美味しいよ。こんなに簡単に海水の塩抜きが出来るのなら、外洋に出る船には1台この装置が欲しいくらいだ。いや、この世界には外洋に出る船は無いか。
みんなが味見をしたが好評のようだ。
後は塩の精製を教えておいた方がいいかな。
「この加熱タンクの中で海洋深層水が沸騰して減っていくんだけど、減ったら注ぎ足して、減ったら注ぎ足してを繰り返す。すると塩がその水の中に溶けきらないほど塩分濃度が高くなってくる。その塩が溶けない分が増えてきたら、柄杓ですくって天日干しさせるなり、沸騰させて水分を飛ばすなりすれば塩がとれるよ。」
「ショウ、ありがとう。この塩は領の特産として売り出せるわね。水は他領へ持って行けるほど日持ちはしないでしょうね。領都で使うだけになりそうね。それでこの装置をもっとたくさん創って欲しいのだけど頼めるかしら。」
やっぱ、そうきたか。俺、アドリアーヌの良いようにこき使われてる感、ハンパないんですけどっ!!
それをやっちゃう俺がいるんだけどねっ!!
創っちゃいました。15セットも。ついでにここで作業をするならトイレも。
『コウシン丸』のブリッジは残っていたけど、船体と共に居住区が全て『沖之浮島』に変形したからトイレも無くなっていたんだよね。
創ったトイレは海水汲み上げ式海洋放出型水洗トイレでした。
これで塩生産プラントの完成だ。
タンク内の水は全て排出されたようだ。魔力の澱みは虹色魔石が全て吸い取ってくれた。騎士団はバルブを開けて、タンク内に海洋深層水をため始めた。
でも俺は虹色魔石を回収して、もう帰り支度をする。タコ魔石を置いていってあげるからそれでなんとかしてもらおう。昨日の『ユニコーンフィッシュ』の魔石はアステリオスが持っていたから、3個とも魔法円を組み込んで置いた。大サービスだ。
じゃあ、帰りましょう。
『沖之浮島』からの帰りはアドリア―ヌのトラネコバスに乗って移動している。
俺の部屋まで転移したかったんだけど、騎士団が見ているからちょっと遠慮した。と、いえば聞こえは良いが、出来なかった。
『沖之浮島』って、海の上に浮いてるから常に動いているんだよね。
転移円は2点間のお互いの座標、x軸y軸z軸をリンクさせなきゃいけないんだ。それが片方の位置が海の上でゆらゆら揺れていたら座標が確定させられずに、リンクなんかできるもんじゃない。そういう場所にいてもリンクさせられるような手段を考えないといけないな。
他にも塩の除去方法か。あのプラントで塩が出来るんだから、もう魔法を考えなくてもいいのかもしれないけど、あれば便利だよね。あくまでも、あ、れ、ば、だけどね。
どんな魔法円をベースにすればいいのか見当も付かないから、水を出す魔法円を展開してみた。H2Oを導くという意味合いの魔法円か。
あ、また始まった。魔法円の勝手な書き換わり。『原初の女神』がまた干渉してきてるのか。文字、記号がどんどん書き換えられていく。
書き換えが終わったようだ。その魔法円の中になんだか強調されたような文字? H2OとNaCl・・・・・その間に読めない単語が。
H2Oは水だよね。NaClはなんだ? もしかして塩か? じゃその間の単語は除去? ではないだろうな。どちらかが消えるという訳ではなかろう。分けるとか分別、分離の意味なんじゃないか。
試しにやってみるか。蓋付きバケツで海洋深層水を汲んできたんだよね。異空間収納からバケツを1個取り出して蓋を開ける。指先に水を付けて舐めてみる。すごく塩辛い。深海の水って塩気が多いんじゃないか?
バケツの上に魔法円をかざし魔力を注ぐ。魔法円が光り、消えた。舐めてみる。ぐぇ~、しょっぺーっ。
これは、この魔法円の上から塩水をぶちまけるか? いや、そうすると水浸しになる。バケツの下で魔法円を展開してそのまま上に動かす? やってみよう。
バケツの下に魔法円を展開、魔力を込めたまま上に向かって動かす。バケツの上まで動かせば魔法円の上に白い粉が、塩か? 指を付けて舐めてみれば、塩だ。バケツの中は? 舐めてみたら淡水だ。やった、成功だ。
この魔法円は、【塩水分離】と名付けよう。後で魔石に焼き付けてアドリアーヌに渡せばいいか。
バケツは収納して、塩は窓の外へうっちゃって、さあ、後はマーシェリンの胸で眠ろう。
マーシェリンに向かって腕を差し出せば、自然な流れで抱き上げられマーシェリンの鼓動を聞きながら、目をつむる。 おや・・・ す み・・・・・




