96.『沖之浮島』
スクリューの回転を止め船が減速して惰性で進むままにして、ノーラとラナをデッキに誘う。
「ノーラ、ラナ、こっちへおいで。お父さんの死んだ場所はわからないけど、海はつながってる。花を供えてあげよう。」
「・・・・・・・ ショウ様・・・・・ ありがとうございます。
お父さーんっ!! ラナは私が守るから心配しないでーっ!!
ラナ、きっとお父さんは聞いててくれるよ。ラナもお父さんに何か言ってあげて。」
「うぅ、・・・・・ おとうさーん、おとうさーん、おとう・・・・・ うぁーー」
二人が抱き合い泣き続ける。こんなとき、ギュッと抱きしめてやればいいんだろうけど、俺が抱きしめたってなんの安心感もないぞ。
横に立つアドリアーヌに目配せを送る。アドリアーヌもそのつもりだったようで、頷き二人の背に手を回し抱き寄せる。
一頻りアドリア―ヌの腕で泣いた後、ノーラが離れた。
「ご、ごめんなさい。我慢ができなくて、ひぐっ、なっ、泣いてしまいました。うぐっ」
「我慢しなくて泣いていいのよ。誰にでも泣きたい時は訪れるわ。そんなときは思いっきり泣きなさい。涙が涸れるまで泣いたら、次の一歩を踏み出せばいいのよ。」
花束を海に流しブリッジに戻った姉妹は、肩を寄せ合いめそめそと泣いているが、こればっかりはしょうがない。後は自分たちで立ち上がって前を見据えて歩き出すしかないのだから。
でも、大丈夫だ。ノーラはちゃんとしたお姉ちゃんだ。ラナを守って生きていけるだろう。二人で生きていけるようになるために、その手助けはしてやろう。
そろそろ浮標が見えてくるはずなんだけどな。
「ショウ様、見えましたっ!! 進路より少し左方向です。転針しますか。」
「ああ、頼む。」
マーシェリンにそのまま舵取りを任せ浮標に寄せていく。浮標のかなり手前でスクリューの回転を止め、惰性で浮標に近づいていく。水の抵抗がブレーキとなり、船速が落ちていくが、なんだか通り過ぎそうだ。タイミングを見計らい、ここだっ。スクリューの逆回転。
船の制動って、車みたいな制動をかけられないから、スクリューの回転を逆にすることでブレーキをかけるんだよね。
で、うまいこと浮標の横にピタリと船を止める。魔力のロープを浮標に絡め舫い結びで固定、船側はロープフックに固定。これで浮標と船は離れない。
さてと、巨大プールを作らなければいけないんだけど、どんなのを作るか。プールよりも巨大海水タンクにした方がいいかな。そのタンクを創るにあたって、この『コウシン丸』をベースにして変形させればいいか。
まずは流れていかないようにアンカーを打たないといけないな。舳先と艫、右舷左舷、4本の錨の鎖がガラガラと降ろされ水中に沈んで行く。
この錨が同じ場所に降りては意味がないので、船を動かしながら広い範囲に錨を降ろさなければいけない。
しかしこれは魔力で創った船だ。錨も魔力として操作ができる。潮の流れなど関係なく四方へ向けて錨を沈めていく。
ようやく海底に到達したか。水深800mぐらいの所を1,200mほど鎖を出したかな。鎖は余裕を持ってたるませておこう。錨は普通なら鎖を引っ張って海底の土に刺さった状態でおしまいなんだけど、しっかり効かせるために錨の先端に【土石操作】の魔法円を展開、海底の土を除けて錨を沈める。地中に5mほど沈ませた錨の上から土をかぶせて固く締め固めれば、もう動かない。しっかりと固定できた。
で、今度は船の変形だ。トランスフォームですねっ!! 巨大ロボットに変形するわけじゃないから、あまりかっこよくないんだけどね。
「この船体を変形させるから、俺のまわりに集まって。」
「変形って、沈んだりしないわよね。」
「大丈夫だよ。俺から離れなければ。テーブルを出してあげるからお茶でもしてる?」
「そうね、ショウは一人で黙って何かやってるみたいだし、私達はお茶を頂きながらのんびり終わるのを待つわ。」
「ああ、そうして。」
船内に仕込んだ虹色魔石から魔力を放出させる。まずブリッジはそのまま残し、ブリッジから下、船体の形状を変形。直径50m深さ30mのタンク状、このくらいの大きさでいいかな。上に蓋を創っておこう。直径3mぐらいでいいか。今タンク内には直径1.5mの虹色魔石が入っているから、それを取り出さないといけないしね。
次にフロートだ。タンク内に水を張ったら沈んじゃいました、では、あまりにもお粗末だ。このタンクを浮かせておくためにもフロートは重要だ。フロートとしてタンクのまわりに密閉型空気槽を創る。これでタンクは浮いていられるぞ。
さて、最も重要な汲み上げだ。海底800mの水を汲み上げるんだ。ハンパなポンプじゃ絶対汲み上げられるはずもないだろう。で、考えてみた。海底まで伸ばしたパイプの中にプロペラを仕込み、回転させれば、水は上へ上へと送られてくる。そのためには【回転】の魔法円だ。パイプ内のプロペラに【回転】の魔法円を焼き付けた魔石を取り付けるんだけど、プロペラはどのくらい欲しいかな? 10mに1個ぐらいでいいかな。そうすると汲み上げ用に120個、排水用にも欲しいよね。150個作っておけばいいか。余ったらアドリア―ヌにあげよう。
【門】展開、発動。異空間収納から魔石を取り出す。150個を数えてそれ以外を収納。
魔石の内部に【正回転】の魔法円を展開、一個ずつやるのも面倒だ。150個全部に展開。そして『焼き付けるっ!!』。今回は逆回転は必要はない。
一瞬の光りの後、煙がもやっと立ち上る。いくつかの魔石を確認してみたけど、成功したようだ。ほんの僅かの魔力を注いでみれば、空気が回転した。小さなつむじ風が魔石のまわりに渦を巻く。【正回転】の動作確認も成功だ。
浮標から海底に向かって伸びる鎖を伝って魔力でパイプとパイプ内部にプロペラを形成、そのプロペラに【正回転】の魔石を組み込み鎖なりに沈め、これを10mずつ、延々125回繰り返し、ようやく海底に到達。思ったより鎖がたるんでいたみたいだな。後は上の端をタンク内に突っ込んで開閉バルブを取り付けて、汲み上げのパイプは終わりだ。
最期にタンク内に汲み上げた水の排水も、タンク内の水を汲み上げて外に出すという方法をとらないと排水ができない。タンクに水が貯まれば、タンクが沈んで行くから自然排水ができないんだよね。
タンク底面、中央部に排水パイプを取付、側面を這わせてタンク上部までパイプを立ち上げる。パイプ内部には先ほどと同じようにプロペラを取り付け【正回転】の魔石を組み込む。
これで形状は整った。後は【魔力固定】の実行だ。海底の錨とパイプの計5カ所、その先端に【魔力固定】の魔法円を展開、その魔法円に鎖伝い、パイプ伝いで魔力を送り魔法円を上に向かって移動させて、タンクまで到達したところで5つの魔法円を一つに合体。タンクを包み込むほどの魔法円を展開。魔力を一気に追加すれば。あたりが光り輝き、消える。【魔力固定】完了だ。
あ、ブリッジがそのままの形で固定された。舵輪や計器類あっても意味はないんだけどね。まあいいや。
「今の光は【魔力固定】よね。この大きな物をたった一人で実行できるなんて、あいた口が塞がらないとはこのことね。」
「『明日之城』も一人でやったよ。」
「そうね、あの城はここよりもっと大きかったわね。それで、終わったのかしら。」
「まだだよ。後は水の汲み上げだね。」
「もうお昼をまわったわよ。」
「ああそうか、昨日のお弁当が残ってるけど、どうぞ。」
お弁当を余分に作ってもらったのを、取っておいてよかった。ここにいる人数分以上残っていたはずだ。
みんなが食事を始めてるけど、俺はもう一仕事。海底まで伸びるパイプの内部に仕込んだ魔石に魔力を流し込む。プロペラが回転を始めパイプ内の水が上に向かって動き始める。タンク内に放出される海水の音。パイプ内の約1,000m分に元からあった水は普通の海水だから、排水パイプのプロペラも回して排出する。
じゃあ、魔力の澱みをたっぷり含んだ海水が上に上がってくるまで、俺もお昼ご飯を頂きましょうか。
「あら、ようやく終わったのね。」
「まだだよ。今、海水を汲み上げてるんだ。」
「魔力を吸わせる魔石を持ってきていないのに汲み上げてどうするのよ。」
「タンクの中に俺の虹色魔石が入ってるんだ。【魔力充填】と【充填停止】の魔法円は組み込んである。」
「それは、空魔石なの?」
「いや、空にはなってないけど、昨日と今日船を創るのと、この巨大海水タンクの創造も虹色魔石の魔力を使っているからね、80%以上魔力量が減っていると思う。だからそいつに魔力を吸わせるよ。」
「何から何まで、ショウに頼ってしまったわね。今回の報酬はどの程度、用意すればいいかしら。」
「これといって欲しい物はないな。あ、ごめん。澱みが上まで来てる。」
強い魔力を含んだ水が上がってくることにより、その水から魔力が供給されプロペラが勝手に回ることになる。そうなれば供給していた魔力をカットしてもプロペラが回り続ける事になる。徐々に下から魔力供給をカットしているから、どこまで上がってきているのか把握できていたんだ。
で、いちばん上のプロペラの魔力供給をカットした時に、排水側の魔力供給もカットし排水を止める。すると虹色魔石の設置されているタンク内に魔力の澱みから汲み上げられた水が貯まっていく。
その水の魔力を虹色魔石に吸わせる。魔力のなくなった水を海洋に放出。
こんな流れだね。
「それで、報酬の件だったね。欲しい物はないって言ったけど、ノーラとラナの侍女教育とお給金をお願いしたいね。」
「そんな事は、ショウの報酬にはならないでしょう。」
「いや、俺が勝手に連れてきたんだから、俺がお給金を出さなきゃいけないんだけど、それをアドリアーヌにお願いしたいって事。」
「わかったわ。ノーラとラナの件は引き受けるわ。他には私が勝手に色を付けてショウの貯金を増やしておくわよ。」
「そんなに気にしなくてもいいよ。それと、このタンク使用方法はアドリアーヌに説明すれば、アステリオスに伝えてくれるの?」
「そんなこと私には無理よ。リベルドータにお願いするわ。
リベルドータ、説明を聞いておいてね。」
「そんなっ、アドリアーヌ様、私もこんな訳のわからない物は無理でございます。」
「ええー、また俺がここまで来なきゃいけないのかよ。」
そんな中マーシェリンが声を上げる。
「ショウ様、あそこに騎士隊が飛んでいます。」
マーシェリンの指し示す方角に目をやれば・・・・・ えー、遠くてわかんないよ。リベルドータも何かを確認したようだ。
「何か飛んでいますね。騎士隊でしょうか。」
「こっちに向かってるの?」
「横を向いていますね。岸に向かっているのじゃないでしょうか。」
「マーシェリンは追いかけて追いつけれるかな。無理なようならファントムで追いかけるけど。」
「いえっ!! 私のペガサスですぐに追いつきますっ。行ってまいりますっ。」
俺の返事を待たずに飛び立ち、逃げるように飛び去っていった。ファントムに乗ったのがよほど恐かったのだろうか。
しばらく待っていたら、騎士隊がこちらに向かって飛んでくるのが確認出来るようになった。
さすが体育会系マーシェリン、目もいいようだ。
マーシェリンが先頭でアステリオス以下騎士隊が後ろについて、俺達がいるタンクの上に舞い降りる。
「こ、これは一体何が出来ているのだ。アドリアーヌ、ショウ、説明を聞きたいっ。」
「アステリオス様、海底の魔力の澱みを解消するために、ショウが【建築物創造】で創ってくれたのです。その使い方の説明はショウがしてくれます。聞いてあげてください。」
「使い方とは、まさかこの先も魔力の澱みはずっとここにあるということなのか。」
「その可能性が高いからここまでの設備を創ったんだけどね。海の中を低いところへ集まってくるんじゃないかと推測してみたんだ。」
「そうなのか。ではその集まってきた魔力の澱みを解消させるこの・・・・・ この・・・・・ これは何と呼べばいいのだ。」
「え? 名前なんて考えてないよ。好きなように呼んでよ。」
「そんなことを言われても私にはこれがどんな働きをするのか見当も付かんのだ。単なる浮島としか見えん。」
「あ、それでいいよ。沖之浮島でどう?」
「そんな名前でよいのかっ。」
「よいのですっ!! 『沖之浮島』に決定ですっ!! で、『沖之浮島』の取扱説明です。」
「ちょっと待てーっ。突然説明をされても困るぞ。書面にはならぬのか。」
「後ろにいっぱい部下がいるのに、そいつら無能なの?」
「いや、優秀な騎士団員だ。」
「じゃ、俺がしゃべる事を記録してくれればいいんだよっ。」




