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95.マッコウクジラガ マッコウカラ

 朝日が窓から差している。ベッドの上で目が覚めた。起き上がったら・・・・・ この娘達は? ノーラとラナの姉妹か。

 昨日は薄ら汚れたほこりっぽい格好をしてたけど、侍女達にジャブジャブと洗われたようで、顔も髪も綺麗に整えられ、服もこざっぱりした物に替わっていた。子供用の侍女服は無かったようだ。



 「おはようございます。ショウ様。何でもやります。何でも言ってください。」

 「いや、何でもやるって、その前に侍女教育だろ。」

 「おはようございます。」


 マーシェリンが入ってきた。


 「エリーに侍女教育、頼んだんじゃなかったっけ。」

 「昨日、ショウ様が倒れ込むように寝てしまわれたので、この二人が心配してショウ様の元を離れなかったのですよ。」

 「まあ教育とは言っても、みんながお休みのこの時期だし、エリーも面倒な仕事を増やしたくはないか。」


 「おはよう。ショウ、起きてるわね。」

 「アドリアーヌ様、おはようございます。」

 「おはよう、アドリアーヌは今日は何?」

 「今日は城にいるんでしょうね。」

 「いや、もう一回海に出る。」

 「なんですってっ。明日の昼にはアンジェリータ様が来るのよ。今日からいろいろ準備にかかろうと思ってるのに。」

 「まだ誕生日は先だろ。そんなに早く来てどうするんだよ。」

 「何言ってるのっ。あなたの誕生日はルーナレータの1の日よ。国王は年始の挨拶で玉座に座ってなきゃいけないのよ。私も同じように訪問客の対応があるのよ。そんなときに誕生日パーティなんてできるわけないでしょ。」

 「あ、そうか・・・・・  そんな悪習があるんだ。領主権限で中止にすればいいのに。ついでに誕生日パーティも中止でいいよ。」

 「アルディーネ様が楽しみにしていらっしゃってるのに、そんなことできませんよっ。そもそも何しに海へ行こうと思ってるのよっ。」

 「魔力の澱みが海底にあったんだ。まだ解消できてなくて、早く解消しないとまた魔獣が発生する危険があるんだ。」

 「そんな、まだあんな魔獣が発生するというの? ショウがやる事じゃないでしょう。騎士団にやらせるわ。」

 「800mの海底だよ。騎士団じゃ手を出せないよ。」

 「あなたなら手が出るとでも?」

 「昨日それを見つけた時にプランは立ててきた。海底の魔力の澱みを海水ごとポンプアップするっていうのはどう?」

 「どうって、その汲み上げた海水をどうしようっていうの。そのまま海に戻したら元の魔力の澱みに戻るんじゃないの。」

 「そうなんだよね~。どうしようか。」


 俺とアドリアーヌの会話は、ノーラ達にはわけがわからないよね。ポカーンとして俺を眺めている。ん? アシルはどうしたんだ? 見てないな。いつからいないんだろう。ノーラ達がいるから出てこないのかな?


 「アシル、いるのか?」

 「あたしはここにいるよ。」


 耳元で返事が聞こえた。


 「ノーラ達と向こうの部屋で遊んで来いよ。」

 「え、いいの?

 おはよう、ノーラ、ラナ、あたしはアシル。よろしくね。」


 突然目の前に現れたアシルに驚き、ノーラがラナを背にかばう。妹思いのいいお姉ちゃんだ。


 「驚かなくていいよ。アシルは俺の友達だ。ここにいても話がわからないだろ。向こうでアシルと遊んでおいで。」

 「は、はい。ショウ様。アシル様とあっちの部屋に行ってきます。」


 マーシェリンがノーラ達を連れていってくれた。

 後は魔力の澱みの問題だ。どうやって解消するか。


 「海上に巨大プールでも作ってそこにためようか。そうすればその海水に(から)魔石を投入して、魔力の澱みを除去できる。」

 「そんなもの作れるの?」

 「海底油田の石油プラットフォームみたいな巨大なものを作るつもりはないから、わりと簡単にできると思うよ。」

 「そんな軽々しく・・・・・  わかった、私も立ち会うわ。」

 「アドリアーヌは忙しいんじゃないのっ。」

 「あなたが何をするのか、見届ける義務はあるわ。」


 アドリアーヌとそのご一行が付いてくることになった。他の子供達には内緒で出掛けよう。王女様やウルカヌス、アルテミスが来ることになると、そのお付きの者の人数がハンパない。今回は余分な連中を連れて行きたくなかったんだけどね。


 「マーシェリン、出掛けるよ。」

 「あ、はい、ノーラとラナも一緒ですか。」


 あ、そうか。どうしよう。連れて行く理由はこれといってないけど、父親が死んだ海だ。花でも手向ける機会は作ってやろう。


 「ああ、一緒に連れて行こう。」


 船着き場の地形や近くの林の位置関係を把握できてるから、今回は転移で出掛けよう。


 「よし、俺のまわりに集まって。」

 「転移するつもり? まだ騎士団が港に詰めてるわよ。」

 「林の中に転移するから見られないでしょ。」


 ノーラとラナが訳もわからず俺の近くに立たされる。その廻りをアドリア―ヌと護衛達、アシルはマーシェリンの肩の上だ。

 転移円展開、魔力を込めれば半球状の転移結界が発生。その状態で精神体を船着き場の近くの林に飛ばす。

 見回しても転移円を展開できるような空き地はない。まあいいや立木ごと空間を入れ替えてしまおう。その場合俺の部屋の中にここの立木が散乱することになるんだけどね。

 転移円展開、半球状に張られた転移結界の範囲を見れば、結界からその上に伸びている枝が数多く見られる。これって転移してきた途端に、頭上に枝が降り注ぐ事になるよね。転移した瞬間に、頭上に魔力の屋根を作ってガードすればいいか・・・・・ うん、そうしよう。

 転移円同士のリンクもOK。よしっ、発動。

 転移してきた瞬間、頭上に魔力を放出。全員の頭上をガードする。その上にバサバサと降り注ぐ木の枝。


 「ちょっと、何っ、何の音?」

 「ああ、上から木の枝が落ちてきたんだ。たいしたことじゃないよ。」

 「なんでそんなところに転移するのよ。場所を考えなさいよっ。」

 「人目に付かない場所がなかなか無くてね。」


 答えながら、林の中を船着き場に向かって歩き出す。方角は? 多分こっちであってるよね。

 あ、ラナにこんな所を歩かせるのは、危ないかな?


 「マーシェリン、ラナを抱いてやって。」

 「ショウ様はどうされますか。」

 「俺は大丈夫だよ。」

 「では、私がお抱きしますっ。」


 イブリーナが跳んできて俺を抱え上げた。まあ、俺の足じゃ歩行スピードが遅いからこの方がいいか。

 イブリーナの腕の中で運ばれながら、林の中で目に付く花を魔力の触手を伸ばしてひょいひょいと摘んでいく。林を出る頃には、小さな花束が二つできていた。


 「ショウが花束って、意外ね。どうするつもり?」

 「これはノーラとラナにあげるんだ。

 ノーラ、この花束を持っていって。」

 「ありがとうございます。でも、なんで私達に?」


 ノーラがぱっと笑顔になり、すぐに疑問を・・・・・ 自分たちだけもらったら不審な思いを抱くのもしょうがないか。


 「お父さんが帰ってこなかった海に行くんだ。お父さんの手向けに花を流してやってもいいんじゃないか?」


 笑顔が一転、ボロボロこぼれ落ちる涙。これは、辛い思いを思い出させてしまったか。


 「・・・・・  きっ、気にかけてっ、も、もら、もらって、・・・ あっ・・・ ありがどうございばずー・・・・・」


 泣き崩れるノーラをリベルドータが抱き上げ、その胸でむせび泣く。


 「ショウ、あんたいい奴だよ~。」


 何故アシルが泣く。アドリアーヌも目が潤んでる? なんだなんだ、なにでみんなで涙腺緩ませてるんだよっ。


 「もうさっさと行くよっ。」


 船着き場には、昨日のタコ足はもう綺麗さっぱり無くなっていた。


 「タコ足は食べ尽くしたの。」

 「騎士達やこの漁村の人達も、おなかいっぱい食べたけど残ったらしいわよ。残った分は漁村の人達が持って帰ったって言ってたわ。」


 アステリオス情報か。まあ、みんなが腹がふくれたんならよしとしよう。


 昨日の岸壁まで歩いて来た。昨日と同じように、巨大虹色魔石を【門】から出して手を当てる。魔力残量は? 充分そうだ。この感覚なら船を創っても問題は無いだろう。

 よし、魔力放出。俺の手を通し虹色魔石の魔力が放出されていく。海の上に昨日と同じ形の船が形成されていく。大炎上した『コウシン丸』だ。

 魔石を船内に収納、桟橋を形成、桟橋を渡って乗船。『あ、あの、こ、これは』ノーラが何か言ってるみたいだけど、無視っ。リベルドータの腕に抱かれて運ばれてくる。


 出港の時は俺が舵を取ったけど、後はマーシェリンに舵を預けよう。


 「ショウ、マーシェリンの前の窓に付いてる丸いのはなんなの。」

 「嵐になった時にワイパーじゃ水を掃ききれないんだ。そんなときにこの丸窓のガラスを高速回転させて、視界を確保するんだ。」

 「ふ~ん。」


 大して興味もないけど聞いてみました、的な、説明を聞いても記憶に残っていない、的な、気のない返事が返ってきた。興味がなかったら聞くんじゃねーよ。


 「あれはっ、なんでしょうっ!!」


 マーシェリンが何かを見つけたようだ。浮標(ブイ)が見えたのか。指差す方角を見た。


 「クジラだっ。クジラが泳いでいるんだ。」

 「えっ、どこどこ。」


 アドリアーヌも食いついてきた。まさか鯨肉食いたいとか言わないよね。あんまりうまいもんじゃないんだよね。

 それよりクジラに関しての歌があったような?


 「マッコウクジラガ マッコウカラ・・・・・ とか歌ってた歌手がいたような・・・いなかったような・・・・・」

 「なんですか、そんな歌があるわけないでしょう。」

 「そんな、無いと断言しなくてもいいじゃないか。そういった楽しそうな歌を創作してくれる人がいてもいいと思うんだよっ。」

 「私はそんな歌、聞いたこともないわよっ。」


 聞いたことないだなんて、失礼なっ。確かに聞いたことがあるんだけど・・・・・

 大進撃のマッコウクジラだっけ?・・・・・

 ・・・・・大進撃するのは巨人じゃないんですかっ!!

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