94.タコシャブ
平民達が、鍋どころかまな板に包丁まで用意していた。タレとか醤油とかはあるのかな。さすがに醤油は無理か。無ければ最もシンプルな調味料、塩があれば、って、塩持ってるじゃねーかっ。そのガラス瓶の中身は塩だよな。砂糖だったりしたらあたけちゃうよ。
こいつ見た事あるな・・・・・ アステリオスと話していた、なんちゃらギルドの職員か。
「なんちゃらギルド職員っ。その手に持っているガラス瓶は塩?」
「はっ、はいっ、さようでございます。鍋や食器をご所望だとのことでしたので、味付け用の塩も欲しいのかと思いまして。」
「なんちゃらギルド職員、気が利くじゃないか。」
「いえ、フィッシャーマンギルドです。ギルドマスターのカイトと申します。」
「まさかのタコ繋がりですかっ!!」
「え? タコ繋がり? とはなんでしょう。」
「何でもない。気にするな。」
「マーシェリン、このあたりをこのくらいの大きさで切って。」
「かしこまりました。」
3.5~4kgぐらいの大きさを指示してブロックに切り分けてもらう。おおよそ一貫、3.75kgがちょうどいいぐらいかな。
そのブロックをまな板にのせ、その場にいたカイトや侍女達に指示をする。
「このブロックを何本かの⦅さく⦆に切り分けて、そこから薄くスライスして欲しいんだけど。」
マグロの⦅さく⦆とはいうけれど,タコの⦅さく⦆って・・・・・ ありか?
余分なことを考えている暇はない。鍋に水を張って沸騰させねば。
俺のまわりは最初こそアルディーネやウルカヌス、アルテミスとそのお付きの者達がいただけだった。が、遠巻きに見ていた平民の子供達が好奇心に負け、まわりに子供達の人垣ができていた。
これは、呼び寄せなくても人手が確保できたぞ。こいつらに働いてもらおう。
「おいっ、子供達。働いたらうまいものを食わせてやる。働く気はあるか。」
うまいものと聞いただけで、涎が垂れそうになっている子供達、あ、垂れている子もいた。皆がぶんぶんと首を縦に振っている。
「ここで鍋にお湯を沸かしたい。薪を集めてこれるか。」
「はいっ。」
元気な返事と共に蜘蛛の子を散らすように子供達が散ってく。出遅れた姉妹が小さな妹に『早く、早く。』と急かしている。
「ちょっと待て。おまえ達はこの鍋を運んでくれ。」
「え、どこへですか。」
「今、かまどを作るから、そこで待ってて。」
【土石操作】の魔法円を発動、鍋がのる程度のかまど状に土を盛り上げて、よし完成。
姉妹が、目が点、声も出ない。あれ? 魔法って見たこと無いのかな?
そういえば、ハンターギルドでも魔法は驚かれたしな。平民の目線で見たら、魔法使用者イコール貴族、と思っているかもしれないな。
あ、姉妹が我に返って鍋をかまどにセットして・・・・・ 次の指示を待つ犬のようにキラキラした目を俺に向けて来る。
かっ、かわいい姉妹めっ!! 誰がなんといおうが、存分にタコを食わしてやるぞっ!!
セットされた鍋に水魔法で水を張り、かまどには炎の魔法円を展開し魔力を供給し続ければ、炎は燃え続ける。後は子供達が帰ってくるのを待とう。
「あっ、あの、お貴族様。どうお呼びしたらいいでしょう。」
「俺はショウ、おまえ達の名は?」
「ショウ様、私はノーラです。妹はラナです。
ラナ、ショウ様にご挨拶をして。」
「らなです。ふたちゅです。」
「そうか、二つか。」
俺より大きなラナの頭をよしよししてやったら、にっこり笑顔を返してくれた。ラナスマイルですねっ!!
戻ってきた子供達が、持ってきた枯れ枝をかまどに放り込んでいく。
俺の炎の魔法だけでもよかったんだけど、子供達が働いた対価として食べられるのだという状況を作ってあげたかった。そうでないと、さあ食べろと言っても遠慮しそうだしな。遠慮せずに腹一杯食べて笑顔になってくれれば、それがいちばんだ。
そろそろ沸騰するな。タコはどうなった? 皿に山になってるタコを見ると、うん、良さそうだ。タコシャブができるぞ。収納から菜箸を10組取り出して皿にのせる。
こういうこともあろうかと、普通の箸や菜箸を作って収納しといたのが役に立ったね。
「アドリアーヌ、しゃぶしゃぶをやるから、このタコを菜箸でお湯にくぐらせてよ。」
「ええ、わかったわ。任せて。どのくらい湯に浸せばいいの。」
「しゃぶしゃぶなんだから『しゃぶしゃぶ』、これが肝心。鍋に入れて『しゃぶしゃぶ』すればすぐに色が白く変わるから、それでOKだよ。そうしたら皿にのせて。
おい、子供達、今からやってみせるからそれを真似してみろ。」
子供達に菜箸と皿を持たせ、しゃぶしゃぶしたタコを皿にのせるように指示をするが、いかんせん、箸など使った事の無いやつらばかりだ。タコを掴むこともできない。
しょうがない、トングを作ってやろう。
魔力放出、トング形成、これを10本、【魔力固定】。手に持ってみた感じは、使い勝手は良さそうだ。
「菜箸回収、こっちのトングが使い勝手がいいよ~。」
あっという間に10本のトングが消え、ありつけなかった子供達が物欲しそうに見てる。しょうがない。もう20本も作れば子供達に行き渡るか。
アドリアーヌが先にしゃぶしゃぶしたタコをリベルドータが味見してる。そりゃそうだ、得体の知れない物がアドリアーヌの口に入る前に毒味をするよね。でも毒味というよりも、その表情の変化からタコのおいしさに衝撃を受けているようだ。
「アドリアーヌ様、これはっ!! デビルフィッシュとはこのような食感だったのですかっ。この噛み応え、噛んだ時のほのかな海の味が・・・・・ なんの味付けもしていなくとも、かような味が含まれているとはっ!!」
それを聞いていた子供達、王女様までがゴクッと喉の鳴る音が・・・・・
トングでしゃぶしゃぶしてるしてる子供達を見て、アルディーネまでが欲しがった。
「ショウ様、私もあの道具が欲しいですわ。」
「そこに余ってるのを勝手に使ってよ。」
アルディーネもウルカヌスもトングでしゃぶしゃぶし始めたけど、アルテミスはちょっと無理だぞ。アドリアーヌにやってもらいなさい。
子供達は、美味しい美味しいを連発してる。ん~? どうした? ノーラが涙を流してる。
「ノーラ、泣くほど旨かった?」
「いえっ、あ、そうじゃなくて、美味しいです。でも、昨日からご飯食べてなくて、ラナに辛い思いさせてしまって。」
「ノーラの父ちゃん、帰ってこなかったんだっけ。」
他の子供の一言で、泣き崩れるノーラ。それぞれの家庭事情はあるんだろうけど、その理由が気になって尋ねてみた。
「なんで帰らないんだ?」
「ノーラの父親はフィッシャーマンギルドの漁師なのです。漁に出て戻ってこなかったのです。おそらく魔獣の餌食になったと思われます。」
カイトが割り込んできた。
「『ユニコーンフィッシュ』か『デビルフィッシュ』どちらかに襲われたのか。」
「おそらくそうであろうと思います。他にも何名かの漁師達が帰っていません。」
漁師が海で死んでも、フィッシャーマンギルドが家族の面倒を見てやる義理はないだろうけど、母親はどうしたんだろう。
「母親がいるのでなんとかなると思ってましたが、
ノーラ、お母さんはどうしたんだ。」
「え? ノーラの母ちゃん、病気で死んじゃったよ。」
ノーラの泣き声が大きくなった。この子供の一言一言がノーラに大ダメージを与えてる。ノーラの横でラナも泣き始めるし。どうやって収拾するんだ? 重すぎるよ。
「泣いていてもしょうがない。今は腹一杯食え。腹がふくれたらこれからのことを考えろ。働く気があるなら、俺が連れて行ってやる。死ぬほどこき使ってやるが、ちゃんとした食事を与える。どうだ?」
「ラナは働けませんっ。私がラナの分まで働きます。何でもします。連れてってください。」
こき使うつもりはないが、そのくらい言っとかないと、他の子供達まで我も我もと言い出しそうだしな。
アドリアーヌに相談も無しで勝手に決めちゃってるけど、怒られるかな。アドリアーヌの顔色を伺ってみれば、しょうがないわね、みたいな感じで肩をすくめてる。これは連れ帰っても良さそうだ。
「よし、決定。ノーラの姉妹を連れ帰る。仕事をさせるにしても、教育からだな。」
マーシェリンは教育係は向かないよね。剣術を教えたいわけじゃないし。う~ん・・・・・ ん? アルテミスの横についてかいがいしく、しゃぶしゃぶしてるエリー。そうだ、エリーに面倒を見てもらおう。そのままアルテミスの侍女として付いていてもいいしね。アドリアーヌに確認しとかなきゃね。
「ノーラの教育係を、エリーに頼んでいいかな。」
「エリーなら侍女教育はしっかりできるでしょうけど、ショウのお世話にまわれないでしょう。あなたの侍女として欲しいんじゃないの。」
「俺のお世話係を今すぐ欲しいとは思ってないし、侍女教育がしっかりできてからでも問題は無いよ。」
「それでよければ、そうしましょう。それよりも、さっきから騎士団の視線が痛いわよ。タコしゃぶを食べたいみたいだけど、どうするのよ。」
アステリオスが近づいてきた。食わせろって言うんだろうね。
「ショウ、騎士達が食してみたいと申しておるのだが、頼めるか。いや、私が食べたいと思っているわけではないぞ。あくまでも騎士達が、だ。」
「食べたいならみんなで食べてくれていいよ。まだ余るほどタコ足はあるし。でも、子供達の後だよ。この子供達は働いた報酬として食べているんだ。ここでタコ足を切ってるマーシェリン達だってまだ食べていないんだよ。騎士達にこの仕事を変わってもらおうかな。」
「ショウ様、私は後で構いません。騎士の皆様を優先させてあげてください。」
「いや、マーシェリン、騎士達にやらせよう。私もやってみたいとは思っていたのだ。」
「そんな、アステリオス様にそのような事をさせるわけには、」
「やりたいって言ってるんだから、やらせとけばいいんだよ。マーシェリン、さっさと変わる。」
マーシェリン達がやっていた作業を、騎士達が変わってやり始めた。驚いたことにアステリオスまで。やっぱり食いたかったんだな。
で、俺も噛めないんだけど味わう事はできる。しゃぶしゃぶしたタコを一枚もらって、皿の上で冷めるのを待ち口に含む。歯のない歯茎でくちゃくちゃ噛みながら口の中に広がる味を楽しむ。あ~、タコだ。薄いけど海の塩味も感じられる。海の幸、やっぱ、うめ~。それにつけても、早く奥歯が欲しいっ!! タコをかみ切れない。ガムのように噛んで味わう事しかできない。もうずっと噛んでいよう。
タコの内臓はどうなったんだろう。船着き場の縁まで歩き水面を覗き込めば・・・・・ いるいる、タコの内臓にいっぱいたかってる。カニにとってはタコは天敵だけど、内臓になってしまえば単なる餌になってしまうんだね。
これは? ワタリガニかな。魔力で桶を作って、海中のカニを触手で拾い上げ桶に放り込む。漁師が使うデカい桶だ。大量に入るぞ。程なく桶が一杯になる。これ以上入れたらこぼれ落ちそうだ。そのまま【門】を展開、収納する。まだまだいっぱいいるぞ。もう一度魔力の桶を作って、どんどんカニを放り込む。
大漁だ。こんなにカニが寄ってくるなんて、ありえねー。もしかしてここの漁師達はカニは捕らないんだろうか。
おおっ、タコまでいる。カニを餌にしているタコがカニを追っかけてきたのか。普通サイズのタコも取り放題だ。
カニを桶5杯、タコを桶1杯捕った・・・・・ 飽きた。もう帰ろう。日もそろそろ沈む頃だ。もう眠いし。
みんなが鍋を囲んでいる所へ戻り始めたら、ノーラが駆け寄ってきた。
「ショウ様、ごめんなさい。おなかが減っていてもショウ様のおそばにいなきゃいけないのに、ショウ様を一人にしてしまいました。」
「いや、基本俺は一人でなんでもできるつもりだから、いいんだ。腹はふくれたか。」
「はいっ。おなかいっぱいです。ありがとうございます。」
アドリアーヌの所まで戻り、アドリアーヌに告げる。
「おやすみ。・・・・・」
意識が途切れた。




