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93.【パーシャル冷凍】

 船着き場の空き地に巨大タコをおろし、『コウシン丸』を消し去る。ここに来るまでにすでに虹色魔石は回収しておいた。俺の魔力で維持されていた船体は塵となって消え去り、マーシェリンのペガサスで地上に降り立つ。

 グロい。船着き場で待ってたみんなも、遠巻きに眺めているだけだ。騎士団も上空を旋回しているが降りてこない。

 さて、このタコのヌルを取らなきゃ、収納したくないな。どうやって取ろう。ヌル取りは塩もみしなきゃいけないんだけど、こんなデカいタコの塩もみって・・・・・

 タコが大漁だったときは、2槽式洗濯機の洗濯槽にタコと粗塩放り込んで洗濯機を回してやれば、綺麗にヌルがとれたんだけどね。この世界では洗濯機もなければ、 塩・・・・・   塩、高いんだろうね~。

 洗浄魔法でヌルがとれるかな。強力な洗浄魔法を考えてみようか。

 強力な洗浄といって思いつくのは、洗濯機のグルングルン回るあの回転を強力にしたやつを考えればいいんだけど、どんなイメージがいいかな。


 台風前の土用波に巻き込まれたときの回転は凄かったな。砂浜に打ち付ける寄せ波とその下を沖に向かって勢いよく引いていく引き波にもみくちゃにされて、砂の上をゴロゴロ転がり回った。どちらが上なのかも分からない状態であっという間に沖へ流されてた。いや~、あんときは死ぬかと思ったよ。

 その転がり回ったイメージを洗浄魔法にのせてみるか。でもな~、砂だらけで転がり回ったし、海水の塩でベタベタだったし、死ぬかもしんないなんて思ったし、イメージ悪すぎなんだよな。

 やっぱ【洗浄】するんなら真水だよね。滝はどうだ? 高いところから大量の水が落下して滝壺に水が打ち付けられるイメージ。大量の水が落ち続けるその下は激流となって回転している事だろう。

 よしっ、滝のイメージでいこう。


 日本三大瀑布(ばくふ)、鎌倉瀑布っ・・・・・  って幕府(ばくふ)が違――――うっ!! 華厳とか那智とかでしょうがっ!!

 も、もっと大きなイメージをしよう。もっと大きな滝のイメージなら世界3大瀑布だっ!!


 3大瀑布、ヴィクトリアフォール洗浄っ!!

 うん、いいイメージだ。大量の水の中で、洗濯機で翻弄される衣服のようにぐるぐると回るタコ。

 水が消え去り確認してみれば、まだ洗浄が足りないようだ。


 3大瀑布、イグアスフォール洗浄っ!!


 ついでにもう一丁っ。

 ナイアガラフォール洗浄っ!!


 洗濯機のCMですかっ!!


 大瀑布のごとき水流でもみくちゃにされ、表面のヌメリどころか、ひっくり返した頭に付いていたグロい内臓類までがちぎれ飛んで散乱していた。その中には綺麗に洗浄された魔石も落ちている。

 この内臓は汚れとして認識されないかったのか。処分は騎士団かギルド・・・・・  何ギルドだったっけ、漁師ギルド? そいつらに押し付けて、魔石とタコはもらっておこう。でも足一本はサービスで置いていこうか。


 「マーシェリン、この足を一本切って。」

 「どうされるのですか。」

 「タコは美味しいんだと、みんなに思い知らせてやる。」

 「まさかっ!! これを食べるつもりですか。」

 「美味しいんだよ。俺はまだ食べられないんだけどね。」


 不審な物を見るような目をしながらも、マーシェリンはタコ足を一本切り落としてくれた。後は魔石と蠢くタコ本体を収納してしまおう。この状態でもタコって動いてるんだよね。

 魔力のもやを発生させて、収納。もやが消え去った後には、蠢く巨大タコ足一本と散乱した内臓。


 ケルベロスが舞い降りてきた。アドリア―ヌ達も歩いてくる。野次馬のごとく群れている平民達は遠巻きに眺めているだけだった。


 「『デビルフィッシュ』はどこへ行った。足が一本と、何かわからない物が散乱しているが。」

 「アステリオス様、『デビルフィッシュ』の件はショウに任せたのですよ。もうよいでしょう。足が一本残っています。ショウが言うにはとても美味しくいただけるとのことです。」

 「なんとっ!! これを食すというのかっ。私は遠慮するぞ。」

 「私もこの蠢いてるのは遠慮したいわね。ショウ、これはなんとかなるのかしら。」

 「パーシャル冷凍にしてみる?」

 「パーシャル冷凍って、氷温の事よね。」

 「いや、氷温は食材が凍る寸前の温度。それがチルド。パーシャル冷凍はその僅かに下の温度で微凍結させてるから、凍っていながら包丁がサクサク入るんだよ。」


 って、冷蔵庫のCMですかっ!!


 「そんな、微凍結させる魔法なんてありませんよっ。」

 「冷却の魔法はあるんだよ。その冷却魔法の魔法円に温度を指定するんだ。冷却だからすごく冷やさないといけないみたいに考えてしまうから、固く凍らせてしまうんだけど、サクサク切れる氷がいいんだよ。」

 「そんな便利な魔法なら、後で私にも教えてくれるんでしょうね。」

 「魔石に焼き付けといてあげるけど、それを必要なのはアドリア―ヌじゃなくて料理人でしょ。」

 「そ、そうね。でもそういうのがあるならやってみたいでしょ。」

 「じゃあ、微凍結をやってる間に、あそこにいる野次馬達にでかい鍋をたくさん用意するように言ってよ。」


 お昼ご飯に持ってきたスープの鍋があるけど一個だけだしな。これだけの人数に食わせるとなれば、もっとたくさん鍋欲しいよね。平民達にもこのおいしさを味あわせてやろう


 「散乱してる内臓を処分するように騎士団に伝えてよ。海へ放り込んでおけばカニの餌になるでしょ。カニが寄ってきたらそれを捕まえて、茹でて食べれば、それもごちそうだよ。って貴族はそんな下品な食べ方しないか。」

 「いえ、私は食べたいわ。それより、カニってそうやって捕るの。」

 「カニは屍肉喰らいだからね。土左衛門にたくさんのカニが群がってるのを見て、カニを食えなくなった人がいるとか、いないとか。」

 「なに恐いこと言ってるのよっ!!」


 恐い事って、実際にある話だよね。カニは食物連鎖の中で底辺にいるから、生きた餌を捕食することができない。死んだ魚介類を餌として探しているカニの目の前に土左衛門があれば、餌と認識するよね。そういうのを知っていながら、カニ大好きなんだけどね。


 騎士達がタコの内臓を海に放り込んでいるのを横目に【冷却】の魔法円を展開。

 まず重要な温度設定。-3℃。範囲設定はその都度の指定範囲、その全てを-3℃になるように水分子の運動を抑えてしまう。つまり電子レンジの逆をやろうというわけだ。電子レンジは電磁波を利用して水分子の運動を活性化することによって、中も外も同じように熱する。その逆で水分子の運動をおさえてしまえば、レンチンするような感覚であっという間に内部まで『パーシャル冷凍』ができるということだ。


 できるのかな? あの科学の発展した文明でも、水の分子や原子に直接働きかけて運動をおさえる事はできなかったはずだ。できていたなら電子レンジみたいな冷却機があってもよかったよね。冷却用の機器といえば冷蔵庫やクーラー、これらは循環させたガスを利用して庫内や室内を冷やしてたからな~。

 目の前に展開している【冷却】の魔法円を眺めて考え込む。

 突然、文字が書き換わっていく。なんだ、どういうことだ? 今までも魔法円を書き換える時に、イメージしたものに書き換わることはあったが、今のは違う。どんな形に組み替えねばいけないのかを悩んでいたら、突然に書き換えが始まった。俺のイメージの先を行ってる。

 ・・・・・・・ これって・・・・・  まさか、今までも魔法円が書き換わったのも『原初の女神』の手助けか? 自らの眷属に迎えるための大サービスか、はたまた、膨大な魔力で暴走したりしないように監視しているのか。

 まあ、どっちでもいいや。好意としてありがたく受け取っておこう。


 魔法円の書き換えが終わったらしい。これはなんだろう。270.15K・・・・・? ケルビンか。

 (ゼロ)(ケルビン)が-273.15℃だったかな? そうすると、微凍結の-3℃になっているって事でいいのかな?

 この魔法円があれば、-30℃冷凍をしたければ240Kに書き換えればいいということだな。さすがに(ゼロ)(ケルビン)を実行するのは、何か恐いことが起きそうな気がするから挑戦は控えよう。


 では、タコ足に範囲指定、巨大タコ足一本を包み込むサイズ。【パーシャル冷凍】実行。

 見る間に凍っていく。冷蔵庫は庫内を冷却して冷却する対象を外から徐々に冷やしていくから、中まで冷却されるのに時間がかかるんだけど、この範囲指定の【パーシャル冷凍】は全く違う冷却方法、指定範囲の空間が一気に冷えるから、一瞬とも言えるほどの早さで凍り付く。

 蠢いていたタコ足が動かなくなった。芯までパーシャル冷凍が完了したようだ。

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