91.『デビルフィッシュ』ってなに?
岸壁で待機中の騎士隊が唖然としてる。
海を出港していった船が、空を飛んで帰ってきたんだしね。しかも魔獣をぶら下げて。 空中の船から3体の魔獣を降ろし、とどめを刺してもらう。『コウシン丸』はもう一度海に浮かべて、変形させていた銛を錨に戻し、海に錨を降ろす。
「お昼ご飯にしようと思うんだけど、船上と地上とどっちがいいかな。」
「あたしは船の上がいいっ。」
「わたくしも、おふねのうえで、ごはんをいただきたいです。」
「私はショウ様が船上でとおっしゃれば従いますわ。」
ウルカヌスは頭を縦にぶんぶん振っている。子供達は船上でいいらしい。それじゃあ、青空の下、デッキの上でお昼にしましょう。デッキにはベンチが据え付けられている。テーブルや椅子が足らなくてもベンチに座ってもらえばいいな。
テーブルと椅子とお弁当に食器、鍋を収納から取りだして、テーブルの上に食器とお弁当をのせれば、侍女達が手早にお昼の準備を進める。
俺専用椅子は2脚持ってきていたから、俺とアルテミスが使って、アルディーネ用の椅子は1脚しかないから、もちろんアルディーネに、ウルカヌスの椅子は無い。誰かの膝にでも・・・・・ ウルカヌスの寂しげな顔が・・・・・
ああ、分かりましたよ。創りますよ。アルディーネの椅子と同じぐらいでいいな。魔力で形成『魔力固定』、これでウルカヌスの椅子も用意できた。アルディーネの椅子と並べてとなりのテーブルに置けば・・・・・ なんでアルディーネは俺のとなりに椅子を持ってくるんだよっ。それを見たアルテミス、自分で運べなくて侍女に椅子を運ばせてる。俺の両隣にそしらぬふりしてちょこんと座った二人。テーブルの上、目の前にはアシルが我が物顔で座ってるし。
「なんで、ご飯時に子供にはさまれなきゃいけないんだよっ。俺はこぼしたりするから大人に面倒見てもらわなきゃいけないんだよっ。」
「大丈夫ですわ。私がお世話いたします。」
「わたくしは、しょうのおねえさまです。しょうのおせわは、おねえさまがしてあげます。」
なんだか俺の頭の上でバチバチと火花が飛んでるんじゃないか。
「アルディーネは俺なんかより年の近いウルカヌスの方が、話が合うよねっ。アルテミスは俺の世話をするより、アルテミスが世話をされる方だよねっ。」
アルテミスの侍女がすぐ横に座る。
「私がアルテミス様のお世話をしますので、アルテミス様をこちらに座らせて頂いてもよろしいでしょうか。」
アルテミスと一緒になってうるうるした目で見つめてくる。
「もうっ、好きにすればっ。」
「それじゃあ、私も好きにさせて頂きますわ。はい、あ~ん。」
突き出されたスプーン、条件反射のように開けてしまった口にそのスプーンが突っ込まれて・・・・・ もぐもぐ。
「・・・・・ って、いいよっ、世話焼いてもらなわくても一人で食べるよっ!!」
再び突き出されたスプーンを取り上げて、自分で食べ始める。
「わたくしもあ~んしたいです。」
「しませんよっ。君たちは目の前に置かれたサンドイッチをさっさと食べなさい。」
「ショウ、ご飯食べるだけでもなんだか大変だね~。」
アシルに心配されてしまった。いや、アシルの言うとおり大変だ。アドリアーヌ、なんとかしろよ。って、アドリアーヌはとなりのテーブルで知らん顔でサンドイッチ食ってるし。
もう、さっさと食ってこの場を脱出しよう。
俺と違って育ちのよい娘達は食事にも時間がかかる。俺はメシを流し込むように食い、さっさと席を移り、お茶を飲んでいる。子供が周りにいないと落ち着くね。
桟橋を渡ってアステリオスがやってきた。
「ショウ、食事は終わったのか。少し話をしていいだろうか。」
「うん、なんの話?」
「『ユニコーンフィッシュ』討伐の件ではご苦労であった。それでこの後も船を出して欲しいのだが頼めるか。この船にもかなり魔力を使っているだろうし、無理にとは言わない。」
「魔力には問題は無いよ。まだ魔獣がいるの?」
「うむ、フィッシャーマンギルドの者に聞いてきたのだが、まだ巨大な『デビルフィッシュ』が海底にいるらしいのだ。海底に潜まれては騎士団では手出しができん。」
悪魔の魚だなんて仰々しいネーミングだけど、一体どんな魚だ? いや、『ユニコーンフィッシュ』が魚ではなかったし『デビルフィッシュ』も魚では無いんじゃないか。
「その『デビルフィッシュ』はどんな魔獣なの。」
「それは私が教えるわ。」
アドリアーヌが話に入ってきた。
「簡単に言えば、蛸よ。」
「え? タコ?・・・・・ 人を罵倒するときの『このタコ野郎っ!!』とか言ったりする、」
「違いますよっ!! 冗談を言ってる場合ではありませんっ。」
「ちょっとしたおちゃめだと、聞き流せばいいのに・・・ ちゃんとわかってるよ。八本足のウニョウニョしたやつだろ。魚じゃないのにフィッシュとは、これ如何に」
「イカじゃないわよっ、蛸よっ。ここでは蛸のことをそう呼んでるわ。」
「巨大タコ・・・・・ 海賊船が海中に引き込まれる映画を見たような・・・・・」
「その『デビルフィッシュ』を討伐せねばならんのだが、海上までおびき寄せるのを頼みたい。」
「それって、また俺に囮になれって事だけど、今は無理だよ。」
「無理か、しょうがない。騎士団だけでなんとかするしかないか。」
「そうじゃなくて『デビルフィッシュ』がタコだって事なら、昼間は海底の暗いところに潜んで海面には出てこないよ。奴らは夜行性だからね。」
「なんとっ、そのような生態を持っているのかっ。」
「ショウ、本当なの?」
「うん、タコは夜になると餌を探して動き回るんだよ。だからタコ釣りは夜釣りが基本だよ・・・・・ ん? 釣り?」
たこてんやを創って深海まで降ろせば釣り上げれるかな。いやそれよりも、そんな巨大タコを釣り上げられたら、どれだけのたこ焼きが・・・・・ どれだけの海鮮お好み焼きが・・・・・ タコ酢が、タコシャブが・・・・・ おおっと、よだれが。
「まさか、食べようと思ってるならお勧めしないわよ。あの見た目と食べた時の苦みで、誰も食べようとする人はいないわ。私も食べたくて茹でてもらったんだけど、おいしくなかったのよ。」
「え? ぬる取った? 表面のぬめりを綺麗に取らないと、おいしくないよ。」
「ええーっ。それだけでおいしくなるの? って料理人にやってもらったから取ったかどうかは知らないわ。」
「料理したことないなら、ぬるの取り方も知らないかも。」
「そ、そんな。私はどれだけ損をしてきたのでしょう。」
「たかがタコのことで、大げさだよ。で、その巨大タコを釣り上げたら、俺がもらっていい?」
「あ、ああ、騎士団で手が出せないのなら、ショウにまかせるしかない。その『デビルフィッシュ』を釣り上げられたらショウの物だ。」
「それと、釣り上がった時に魔法攻撃はしないで欲しいんだ。火で燃やされたくないんだよね。」
「それも承知した。では頼むぞ。」
アステリオスは下船していった。
「よし、午後は『デビルフィッシュ』討伐だ。アドリアーヌはみんなを連れて船を降りてね。俺とマーシェリンだけで行くから。」
「ショウ様、私は付いて行きますよっ。」
「アルディーネは自分の身を守れないでしょ。今度は連れて行かないよ。」
「で、では危険が迫ったら、アドリアーヌ様の従魔で避難するというのはどうでしょうか。」
「さっきもトラネコバスで避難、て言われても船内に居座ったよね。今度それをやられたら俺がみんなを護れるか分からないよ。だからアルディーネは連れて行かない。」
「・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・ 我が儘でした。」
あ、涙がぽろぽろこぼれ始めた。ちょっとー、そういう泣き方されると、女の子をいじめて泣かせてる悪人以外の何者にも見えないんですけどっ!!
「・・・・・わ、私は、ショウ様に嫌われてしまったのでしょうか。」
「いやいや、ちょっと待って、嫌いになったとかではないし、」
泣いてた顔がパッと明るくなり、
「ではっ、」
「婚約はしないよっ。」
「うっ・・・ う・・・ うぁ~ん」
うわぁー、めんどくせー。ばっと侍女のエリスを振り向き、アルディーネを指差す。察してくれたようだ。アルディーネをなだめて下船するように促している。
さあ、アドリアーヌはどうするんだ?
「ちょっと、アルディーネ様に厳しいんじゃないの。」
「甘い顔してまた居座られたら、護れないかもしれないよ。」
「マーシェリンは大丈夫なの。」
「マーシェリンは最強だよ。ただ、無理に船を降ろさせると、後で飛び込んでくるだろうから、目の届くとこにおいておきたいというか、」
「マーシェリンもずいぶんな言われようね。でも否定できないわね。」
「でしょうー。」
「じゃあ、私達は船を降りるわ。くれぐれも気をつけるのよ。」
「あ、俺も降りる。」
「なんでよっ。」
「え、だってタコを釣り上げるんだよ。疑似餌を創ってもいいけど生の餌があるならそっちを使った方が食いつきがいいんだよ。」
俺も下船して船着き場まで行き、3体の『ユニコーンフィッシュ』の中からいちばん小さな1体を選ぶ。小さいとは言っても、角のように伸びた牙の長さをいれれば8mぐらいある
「マーシェリン、こいつの牙を根元で綺麗に切れるかな。」
「おまかせください。」
何事かと、まわりに騎士達が集まってきている中、マーシェリンが剣を一閃、ゴトリと牙が地に落ちる。おおー、っと騎士達のどよめき。
あ、マーシェリンが頬が赤い。照れながら、フンと剣を収める。
まあ、マーシェリンは置いといて、魔石をどうしよう。そのまま残しておけば、『デビルフィッシュ』が魔石を狙ってくる可能性もあるな。よし、魔石はそのまま残しておこう。
俺のまわりに魔力のもやを発生させて、【門】を発動、切り落とした牙と本体を収納、では、船に向かおう。
もやのまわりを囲んでいた騎士達が、中から出てきた俺とマーシェリンのために道を空ける。その輪を抜けて船に向かえば、アドリアーヌとアステリオスが近づいてきた。
「あの白い霧状のものはどうするのだ。」
「俺が離れると勝手に消えるよ。」
「いいこと、ショウの身の安全を第一に考えて。危険を感じたらすぐに撤退してきなさい。」
「アドリア―ヌは心配しすぎだよ。釣りに行くんだから、釣れるかどうかもまだわからないのに。釣れたら運がいいと思ってくれればいいんだよ。」
「あら、そうだったの。釣りってそういうものなの?」
「釣りと考えればそうかもしれんが、あくまで魔獣討伐なのだぞ。警戒は必要であろう。」
「そ、そうよね。ショウ、気をつけなさい。」
「はいはい、じゃ、行ってきます。」
桟橋を渡り『コウシン丸』に乗船。では、出港ー。




