90.『ユニコーンフィッシュ』
アステリオスが話してる相手は平民のようだ。地元の漁師かな。
「ギルド所有の船が2艘沈められて、あと1艘しか残っていないのですよ。これを失うわけにはいかんのですよ。漁師達も自分の船を出したがらないですし。」
「もう、何日も騎士達が空中から魔獣探索をしているが、全く見つかる気配がない。もう海上を船で探索するしかないのだ。船を出してはもらえぬか。」
「そうおっしゃいましても・・・・・」
そうか、海底に潜む魔獣だから、従魔で飛び回っていても出てこないのか。
「そういうことなら、俺が船で出る。」
「ショウっ!! アステリオス様が出ては駄目って言ってたでしょうっ。」
後ろにアドリアーヌが立っていた。もう来たのか。騎士達がアドリアーヌ一行のために場所を空けていた。
「そもそも、どうやって海へ出るって言うのよっ。」
「俺の従魔はどんな形状にもなるのは承知してるだろ。」
「そうだっ、ショウの従魔ならっ。ショウ、頼めるか。」
「そんな、アステリオス様。危険なのではないですか。」
「まわりを騎士で護らせて、安全は確保する。それしかやりようがないのだ。」
「いや、護ってもらわなくてもいいよ。俺にはマーシェリンが付いてるし。」
船着き場を覗いてみたら、浅い。これじゃあ、俺のイメージした船は無理だな。向こうの深そうなところに行こう。
うん、岸壁になっていて深さも十分だ。よし、ここで船を形成しよう。
ここで、船体を創り上げる魔力を、自分の魔力を使わずに『レインボークイーン』から取った魔石の魔力を使ってみよう。それでないと魔石の魔力の使い道がないんだよね。
自分のまわりに魔力を放出、魔力のもやみたいなのを作って、騎士団からの目隠しにする。【門】発動、巨大虹色魔石を取り出す。魔石に手を当て、魔力を自分の体を介して外に放出させる。その魔力で船体を形成する。スクリューはちゃんと回転するように創りたいな。舵も動くようにして舵輪とつないで、と。魔石を船体内部に収納して、船体形状維持の魔力もこの魔石を利用しよう。
総トン数104トン、全長100フィートの大型クルーザーだっ!!
船名を考えないといけないな。
『コウシン丸』ってのはどうだ・・・・・? 大炎上で沈没した船の名前だっけ?
ま、いいか、似たような船名はいっぱいあっただろうし、そんなの気にしてたら船に命名なんてできないよ。
舳先と艫に黒文字で船名を浮かび上がらせる。後は魔力で桟橋を創り岸壁とデッキをつなげば、さあ乗り込もう。
「あたしも乗るよっ!!」
「魔獣が出てくるんだぞ。俺達は魔獣の囮だからね。」
「ギクッ・・・・・ で、でも、ショウやマーシェリンがいるから大丈夫だよねっ。」
「ショウ、待ちなさい。私達も乗っていくわよ。」
「トラネコバスじゃないんですかっ!!」
「危険を感じたらすぐにトラネコバスで脱出するわよ。」
「ショウ様、私も乗せて頂きたいです。」
「アルディーネは侍女に止められるでしょうっ!!」
その侍女は目をキラキラさせて、乗りたそうにこちらを見ている。
「アルディーネ様と私の家族が乗るのなら、護るためにも私が乗らねばいかんな。」
アステリオスはファントムに乗りたくて乗れなかったしな、このクルーザーを見たら乗りたくなったんだろう。
王女様ご一行にアドリアーヌ家族、そのご一行、ぞろぞろ乗り込んでくる。
「団長、我々も王女様をお護り」
「乗れるか―――っ!! 魔獣退治をしろ―――っ!!」
「そ、そうか、乗れぬか。では、
第3騎士隊は岸壁にて待機っ!! 第1、第2騎士隊はこの船の上空にて魔獣を警戒っ、発見次第殲滅っ!! 以上。」
騎士達までが乗りたくてざわついていたが、アステリオスの号令に即座に反応する。2隊の騎士達が次々と従魔を出現させ、1隊ごとに舞い上がり『コウシン丸』の上空を旋回し始める。
「出航―――っ!! 面舵いっぱーいっ!!・・・・・ 宜候―っ!!」
誰も言ってくれなかったので自分で言ってみました。
スクリューの軸に回転の魔法円を二つ仕込んでおいた。正転と逆転だ。正転の魔法円に魔力を供給してペラを回転させれば、前進を始める。岸壁に左舷側を見せていたから、右に向かって舵を切る。
赤ん坊の体では、舵輪に手が届かないだろうって? 大丈夫。舵輪にも手が届いて窓から前方を見れるだけの高さの台を創っておいたんだ。
「ショウ、こんな大きな船を、従魔として創っているのよね。魔力は大丈夫なの。」
「『コウシン丸』を創るのと維持は魔石の魔力を使ってるから、俺の魔力は推進力と操縦にしか使ってないよ。」
「そんなことより船の操縦なんてよくできるわね。」
「こんなデカい船は動かしたことはないけど、30フィートぐらいのプレジャーボートや、15フィートぐらいの釣り船は乗ってたよ。」
「ええーっ、凄いじゃない。免許とか持ってたの?」
「二級船舶免許を持った船長さんでしたよっ!!」
二級船舶免許って総トン数20トン未満、5海里までしか出れない免許だったけどね。だからこんなデカい船は乗れないんだけど、この世界ではそんな免許制度とかないし、まあいいか。
海といえば、あの有名な『赤大将シリーズ』だっ。
「海の上にいる間は俺のことは『赤大将』と呼ぶが良い。」
「なにそれ、蛇?」
「ん? そんな名前の蛇もいたっけ。他にも青大将とか・・・・・ 」
まっ、まさかっ!! あのっ、国民的映画は赤大将と青大将、二匹の蛇のバトル映画だったのかっ!! って、そんなわけがなかろう。
陸地から結構離れたな。海深もかなり深くなってきた。海の色が鮮やかな青から濃い藍色になっている。
このメンバーを見れば、船に乗ったことがない連中ばかりだろう、と思われる。子供達3人は物珍しくて、船内を散策しているようだし。
風がないのが助かるね。風が出て海がうねり始めたら、半分以上がゲロを吐きまくって身動きできない状態になるだろう。
「アドリアーヌ、子供達に甲板には出ないように伝えてくれないかな。できればブリッジに来いって言っといて。」
「分かったわ。ここにいれば安全なのね。」
「それもあるし、船の操縦をしたくないか聞いてきて。」
アドリアーヌの護衛達が子供達を探しに走り、程なくして子供達を連れて戻ってきた。
「ショウ様、私に操縦をさせて頂けるとお聞きしました。私にもできるのでしょうか。」
「俺がどくから、この台の上に立って。」
舵輪の前の台からマーシェリンに抱き上げてもらい、その台には護衛騎士に抱えあげられてアルディーネが立つ。俺の高さに合わせた台だから、ちょっと高いな。下げておこう。
「これはどうすればよいのでしょう。」
「目の前の舵輪を右に回せば右に転針、左に回せば左に転針するよ。速度は俺の魔力加減だから俺に指示して。」
今の速度は15ノットぐらいだろうか。時速に変換すれば28km/hぐらいかな? このくらいの大型クルーザーだと、どれくらいのスピ-ドが出るのか知らないけど、全ては俺の魔力供給のさじ加減。魔力供給を多くすればペラの回転が上がる。50ノットぐらい楽勝に出るんじゃないか。
アルディーネに続き、ウルカヌスも操舵を堪能したようだ。最期はアルテミスに舵輪を持たせる。
「しょう、すごいです。わたくしがこれをまわすと、おふねがまがります。」
アルテミスも小さい体ながらも舵輪を回して、船首が回頭するのを楽しんでいる。
「―――っ!! 総員警戒態勢っ!! 水中深くからの高速浮上物体っ!! 複数っ!!」
ソナーなどというものがあるわけではない。船底から、極細にした魔力の触手を海中に展開していた。半径にして100mぐらいの半球状の疑似ソナーみたいな感じかな。
小さな魚状の生物は、船に驚き蜘蛛の子を散らすように逃げるんだけど、これは明らかに敵意が籠もっている。この船を目標に一気に距離を詰めてきているんだ。
「全速前進っ!!」
スクリューの回転が跳ね上がる。ブリッジにいる全員がよろけ、アルディーネとウルカヌスが転びそうになり、アルテミスが舵輪の前の台から転げ落ちそうになる。
子供達は俺の触手でしっかりおさえた、けど、大人達は知らんっ。
「ショウ、魔獣なのかっ。逃げ切れるのかっ。」
アステリオスがよろけながらも確認してくる。
う~ん? こっちのスピードは多分50ノットを遙かに超えてるように思えるけど、距離を詰めてきている。
「追いつかれるかも。」
「アドリアーヌっ、避難の用意をっ!!」
俺の返事を聞いて、アステリオスが叫びブリッジを飛び出ていった。騎士隊に合流して、討伐に向かうつもりだろう。
「ショウ、トラネコバスで避難するわよっ。準備しなさいっ!!」
「攻撃してみるから、まだ避難はいいや。なんなら子供達を連れて先に避難してくれていいよ。」
「私は避難などいたしません。ショウ様に付き従います。」
「いや、アルディーネは付き従わなくていいから、避難しなさい。」
「ここは危険です。アルディーネ様、避難しますよ。」
「いや、それほど危険はないと思うよ。」
「追いつかれるって、言ってたでしょうっ。凄く危険よっ。」
「大丈夫、心配するな。」
この船は魔力でできているから、自在に形を変えられる。舳先と艫、左舷側、右舷側にウインチで巻き上げる錨が4カ所装備されている。この錨を銛の形に形状変化、つながっている鎖を細いワイヤーロープに変化。
魔獣は3体か。
「アドリアーヌっ、アルテミスを舵輪の前から降ろしてっ!!
マーシェリンっ、後ろのデッキへっ!!」
ずっとマーシェリンの腕に抱かれてるから、そのままマーシェリンに走ってもらう。
魔獣がもう海面まで上がってきて追いかけてくるのを、デッキから目視できる。
3本の銛を、向かってきている魔獣に向けて撃ち出す。
なんだっ? 上空から魔法が撃ち込まれ、一本の銛がはじかれた。
ありゃ、騎士団の魔法攻撃とかち合ったぞ。でも2体は銛が刺さった。もう1体はどこへ行った? 海中に潜ったか。
ガクンとスピードが落ちる。そりゃそうだ。銛の刺さった2体の魔獣が、逃げようと海中に向かって泳いでいくんだから。こいつらをなんとかしないと、もう1体に海中からの攻撃を受けるぞ。
深く沈んだ1体が、船底めがけて一気に浮上してくるのを感じた。ヤバい。船底に穴開いて沈没?
いやいや、この『コウシン丸』は船の形状をしているが、俺の魔力で創った従魔だ。空中に浮き上がらせよう。
銛に刺さった2体ごと空中に浮き上がる。それを追って急速浮上してきた魔獣が空中に跳び上がり、無防備な姿をさらけ出す。船上からは見えないが位置は把握している。
水中では恐ろしいほどの早さを誇る魔獣も、空中を上に向かって飛び出してしまえば、頂点に向かって徐々に速度は落ち、空中でジタバタすることになる。そこを狙って2本の銛で攻撃、狙いは違わず突き刺さり、空中に釣り上げられたお魚宜しくバタバタと暴れている。
さて、どんな魔獣なんだろう。ワイヤーロープと銛を操作してデッキの上に1体を釣り上げる。一本の長い牙が特徴的な・・・・・
イッカクですかっ!! しかもデカくてデッキの上で収まりきらない。牙の長さまで入れたら10mぐらいありそうだ。牙を振り回して危険極まりない。
「マーシェリン、とどめを頼む。」
マーシェリンが振り回される牙を軽やかによけながら、眼球に剣を突き刺す。イッカクは痙攣の後に息絶える。
ケルベロスが舞い降りてきて、アステリオスがデッキに飛び下りる。
「『ユニコーンフィッシュ』であったか。この角で突進してくるから危険なのだ。」
アドリアーヌもデッキに出てきて、それを確認した。
「あら、『ユニコーンフィッシュ』ね。初めて実物を見るわね。」
「いやいや、これ角じゃないし、お魚でもないからね。」
「あら、そうなの。私は今まで見た事も無かったから、知らないわよ。」
「この角だと思ってるのは牙だと思うよ。それと、鯨の仲間じゃないかな。」
「そうなのか? まあ、一般には『ユニコーンフィッシュ』で通っているのだから、そのままでよかろう。」
「じゃ、この『ユニコーンフィッシュ』をこのままぶら下げて船着き場まで運ぶから、地面に降ろしたら、とどめは騎士団に頼むよ。」
「うむ、承知した。」




