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86.ダブダブか、パッツンパッツンか

 あれ? ここは・・・・・  ベッドの上か。

 山頂で城を創ったよな。

 あ、そうだ。『レインボークイーン』や『レインボーラルバ』の魔石を回収して・・・・・


 「ショウ様、おなかが空かれたようでしたら、パンとスープがあります。召し上がりますか。」


 マーシェリンだ。窓の外は暗く、今がなんどきであるのか分からない。腹は、減っているな。軽く何か食べたい気分だ。


 「少し食べるよ。」

 「スープを温め直します。少しお待ちください。」


 マーシェリンがスープが入っているのであろう鍋の下で、火魔法を発動させている。

 城内は寝静まったように静かだ。厨房にも人はいないのであろう。そんな時間までマーシェリンはずっと俺のベッドの横にいたのかな。


 「スープが温まりました。」


 パンとスープをテーブルにのせ、俺を椅子に座らせてくれる。


 「今って深夜だよね。そんな時間までずっと起きてたの。」

 「はい、ショウ様がいつ起きられても、お食事を召し上がれるように、ずっと起きておりました。」

 「だめだよ、マーシェリン、眠そうな顔してるよ。俺はおなか減っても寝られるから、気にしないで寝ていていいよ。」

 「でも、今日はショウ様がお疲れになって、夕食も摂らずに寝てしまわれたのは、私のふがいなさが原因です。」

 「いや、夕食も食べずに寝てしまうのはよくあることだから、そんなに気にしなくてもいいよ。」

 「そっ、それだけではなくてっ、今日はショウ様のお顔を拝見していたかったのです。」

 「やだよ、ずうっと見られて寝るのは。」

 「ええっ、そ、そんな。」

 「マーシェリンだって誰かにずっと見られてたら、落ち着いて寝れないでしょ。ベッドは大きいんだから一緒に横で寝てればいいんだよ。」

 「ええええっ!! そんなっ、恐れ多いことをっ、ででっ、できるっ、わけが・・・・・」


 視線をそらしうつむいて、聞き取れないほどの小さな声でつぶやいた言葉、ちゃんと俺は聞こえてるぞ。


 「よ、よろしいのでしょうか。」


 おなかもふくれたし、もうひと寝入りしよう。マーシェリンに両手をさしだせば、椅子から抱き上げてくれる。

 やっぱり安心できる。マーシェリンの腕の中で目を閉じ、もう一度眠りにつく・・・・・・・ 




 今度は朝までぐっすりだ。昨日はよほど疲れていたのだろう。おなかがすいて目覚めた後も、軽く食事をした後はすぐに寝ついてしまった。

 隣にはマーシェリンが寝ていた。俺が夜中に起きるまでずっと起きてたみたいだし、まだそっと寝かしておこう。


 魔力の触手を器用に使って椅子に座れば、アシルが飛んできてテーブルの上に座る。


 「まだ、マーシェリンが寝てるんだから騒ぐなよ。」

 「ねえ、昨日は聞けなかったけど、あのデカいのは魔獣だったの?」

 「ああ、『レインボークイーン』の胴体だ。生命力が強くて胴体だけ切り離しても、まだ生命活動を続けて卵を産み続けていたから、異次元収納空間に保管しておいたんだよ。俺の収納は時間停止してるから、収納から出した途端に、また卵を産み始めたんだよ。」


 【(ゲート)】を開き、一個だけ別に収納した虹色魔石を取り出す。虹色とは言っても虹の7色にとどまらない。よく見れば白や黒や茶があったりする。たくさん色があったから、その場のイメージで虹色魔石と名付けたけど、誰かが意義を唱えたりするんだろうか。


 「うっわぁ~、何これ、いっぱい色があるよ。きれいだね~。」

 「『レインボークイーン』が産み落とした卵の魔石だよ。虹色魔石って名付けてみたけど、どう?」

 「え? 虹色魔石? いいんじゃない。それで決定だよ。」 


 卵の中、幼虫の体表で蠢いていた色は、魔石の表面では色は固定され蠢く様子はなさそうだ。もしこの色が蠢くような事があれば、気味悪がって欲しがる人もいなくなるか。いや、動いていた方が希少価値が出たかも?

 まあ、どちらにしても珍しい物だと思う。アドリアーヌにこの一個を渡して、どんな反応をするか見てみよう。


 「ショウ様っ。お、おはようございます。申し訳ありません。寝過ごしてしまいました。」 「おはよう、まだ寝ててもよかったのに。」

 「いえ、そんなっ。たっ、ただいま着替えてまいります。」


 マーシェリンが着替えに行ってる間に、洗浄魔法で身綺麗にしておこう。着替えはマーシェリンが戻ったらお願いすればいいな。



 食堂へ朝食を食べに来たのはいいけど、夜中にメシ食ったおかげで食欲がわかない。マーシェリンとアシルが食べてる横で、ホットミルクだけで朝食を済ませた。


 「ショウ様、今日は『明日之城』へ行かれますか?」

 「この後はアドリアーヌに会いに行きたい。今日は執務室かな。」

 「はい、午前中は執務室にいらっしゃると、聞いています。」


 朝食も終わり、アドリアーヌの執務室に向かって歩く、歩く、歩く。ヨチヨチと歩く後ろを、ゆっくりとマーシェリンが付いてくる。

 アシルなんか、のんびり動く俺の後ろを付いてくるのに飽きたようで、どこかへ飛んでった。

 城内にいる時は、極力自分の足で歩くように心がけないと、体力が上向かないからね。


 ようやく執務室だ。奥の部屋に通されてソファに腰を下ろす・・・・・? いや、ソファによじ登る。


 「ショウが昨日提案してくれた、『明日之城』の一部を騎士団に解放するという話を、アステリオス様に話したんだけど、『明日之城』を創造したという話が信じられなかったみたいで、今朝、日も昇らないうちに飛んでいってしまわれたわ。」

 「もう、すぐにでも使いたいのかな。」

 「あのあたりの森を巡回するのに、あの場所を拠点にできるのは、騎士団にも利点があるみたいよ。」

 「いつでも使ってくれていいよ。それよりも今日はこれを見て欲しいんだ。」


 虹色魔石をテーブルの上に出す。


 「これは、魔石? こんな色合いの魔石なんて、初めて見るわ。」

 「虹色魔石と名付けてみた。虹の7色より多いけど、細かいことは気にしないで。昨日城の下で『レインボークイーン』が産み出した卵から採集した魔石だよ。それは、アドリアーヌにあげるよ。」

 「あら、頂けるの? ありがとう。」


 虹色魔石を手に取り、日にかざしたり、手のひらで転がしたり・・・・・  さすがになめたりはしなかった。

 だけど手のひらの上に乗せたまま、軽く魔力を通したらしい。淡い光りを放ちながら、表面の色の模様が・・・・・  蠢いた。


 「きゃっ」


 アドリアーヌが小さな悲鳴を上げ、魔石を放り出す。すかさずキャッチしたのはマーシェリンだ。


 「なんで、放るんだよ。割れたりしたらどうするの。」

 「だって、表面の色が動くのよ。気持ち悪いじゃないっ。」 

 「色が動いただけだよ。食いついたりしないよ。それじゃこれはいらないの?」

 「そ、それは、もちろんいただくわ。」

 「ほしいのかいっ!!」


 そうか、外部からの魔力に反応して色が蠢くのか。それなら、何か面白い利用方法も考えつきそうだな。


 「これは、かなり珍しい魔石よ。価値は高いと思うわ。もし、売りたいようなら、王家や他領の領主達に売り込んであげるわよ。」

 「たくさんあったら、価値が下がっちゃうよ。これはどこにも出さないよ。」

 「あら、そう。気が変わったらいつでも言って。」


 世間に流通させずに価値を上げる・・・・・ それって、そういう品物があるって事を周知させないと誰も欲しがらないよな。誰かの目に留まらなきゃ価値も上がらない。

 ペンダントにしてアドリアーヌの首にかけておけば目立つかな。それを見た貴族達の、あれはどこで手に入れたんだ、という噂が広まれば・・・・・  ウハウハっすね。


 「ショウのお誕生日まで、あと一ヶ月ね。アルディーネ様もいらっしゃるから、ショウの礼装用の服を作るわ。仕立て業者に採寸させようと思うんだけど、いつ呼べばいいかしら。」

 「そんなのいらないよ。ウルカヌスのお下がりでいいよ。」

 「え、それでいいの?・・・・・  寸法が合うかしら。午後に服を用意して部屋まで持っていくわ。出掛けないようにね。」


 服なんかどうでもいいんだけどね。いまだにアルテミスのベビー服だし。平民の子供達が着るような服を前に買っておいたけど、俺が着れるようになるにはまだまだ先の話だな。



 午後は部屋でくつろいでいるところへ、アドリアーヌがぞろぞろと人を引き連れてやってきた。いつもの護衛達の他に、侍女が数人、護衛も侍女もそれぞれ衣装箱を運んでいる。


 「なんなの、そんなにたくさん箱を持ってきて。服なんか一着あればいいよ。」

 「何言ってるの。これから先成長するに従って、服や靴も大きな物が欲しくなっていくのよ。いつまでもベビー服でいられないでしょう。」

 「だからといって、突然大量の服を持ってこられても、邪魔なだけじゃない。」

 「どこが大量なのよ。まだ少なめよ。ウルカヌスの衣装部屋にはもっとあるから、だんだんとショウの衣装部屋に運び込むわよ。」


 いや、俺は服には興味がないし、そんな堅苦しそうな服嫌いなんですけどっ!! ラフな、汚れても全く気にならないような服がいいんだよね。


 「ウルカヌスが歩き始めたときの一番最初に作った礼装よ。」


 俺を立たせて、上着をあてがい、ズボンをあてがい・・・・・  眉が寄る。


 「大きいわね。仕立て直そうかしら。」

 「俺はまだ成長するし、そのままでいいよ。」

 「じゃあ、ちょっと着てみて。」


 侍女に着替えを手伝ってもらい、鏡の前に立ってみた。ダブダブと言い表すのがしっくりくる。

 いや大丈夫、一ヶ月もあればこのくらい成長するはずだ。


 「やっぱり直してもらった方がいいわね。」

 「直して、一ヶ月後にパッツンパッツンになったら着れなくなるよ。ダブダブを着るかパッツンパッツンを着るかの選択なら、俺は迷わずダブダブを選ぶよ。」

 「じゃあ、服は様子見ということで、靴を履いてみて。これがいちばん小さい靴ね。」


 ブカブカだ。そりゃそうだ。ようやくアルテミスの最初の靴がいい感じになってきたぐらいなんだし。さすがにこの格好にアルテミスの赤やピンクの靴はまずいだろう。


 「靴は作らないと無理そうね。」

 「そんなことはないよ。つま先部分に綿を詰めておけばなんとかなるさ。」

 「それじゃあ、日が近くなったらもう一度寸法あわせをするわよ。その時には散髪もしましょうか。」

 「嫌だよ。せっかく伸びてきたのに。切らないからね。」

 「女の子みたいに、伸ばすつもりじゃないでしょうね。」

 「男の子だって、ロン毛の子はいるよっ。」

 「あなたは、小さくて幼くて、凄く優しい顔をしてるの。普通にしてると女の子に見えるのに、髪を伸ばしたら皆が女の子と勘違いするわよ。」

 「女の子とまちがうって・・・・・ アルテミスのベビー服を俺に着せているのと大して違いはないよねっ。」

 「それはしょうがないじゃない。ウルカヌスの服だと大きすぎるでしょう。」

 「・・・・・・・もしかして、俺って・・・・・・・  小さい?」

 「それは気にしないで。これから大きく育てばいいのよ。」


 気にするなと言われても・・・・・・・  どうやって  大きく 育つ?

 たくさんメシ食って、横に育つのも嫌だしな~。まあ、なるようにしかならないか。

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