85.ぎぃゃぁ―――――っ!!
ショウとマーシェリンが下の広場へ飛んでいったわね。何をするつもりなのか知らないけど、私達はここでのんびりさせてもらいましょう。
「リベルドータ、この素晴らしい景色を眺めながらのお茶はどうかしら。」
「それはいいですね。すぐに準備いたします。」
リベルドータ達が昼食の時に使ったテーブル、椅子をもう一度出してお茶の準備をし始める。
カップに注がれたお茶を頂きながら、ほぅ、と一息。こんなにのんびりできたのは久しぶりね。
事務仕事をショウに助けてもらってなければ、いまだに執務室で書類とにらめっこだったわ。
「アドリアーヌ様、午後のひとときをこんなにのんびりできるのも、ショウ様のおかげですね。」
「そうね、ショウにはいろいろ感謝したいけど、こんな城を断りもなく創ったりして、なかなか素直に感謝しきれないところもあるわよね。」
「でも、騎士団に貸し出されるのであれば、騎士団長も喜ばれますよ。」
「ぎぃゃぁ―――――っ!!」
悲鳴を上げて飛び込んで来たアシル様に反応して、リベルドータが即座に私の前に立ち他の護衛に指示を出す。
「イブリーナ、アドリアーヌ様の元へっ!! グレーメリーザ、マスカレータ、外を確認してっ!!」
「アシル様、どうされました。ショウとマーシェリンは大丈夫ですか。」
私の胸に飛び込んで震えているアシル様に聞いても要領を得ないので、窓に向かおうとしたらリベルドータに止められる。
「お待ちください。グレーメリーザが確認しています。」
「・・・・・・・魔獣のようではありますが・・・・・・ なんでしょう、あれは。様々な色が付いています。巨大なイモムシのような・・・・・・・」
「イモムシならここまで飛んでくることもないでしょう。アドリアーヌ様も覗いてみますか。」
頷いて、恐る恐る窓に近づく。アシル様はテーブルの上に置いてきたのに、私の背中にしっかりと捉まっている。恐い物見たさなの?
大きな気味の悪い物が蠢いてる。グレーメリーザが言うように、イモムシに見えないこともないけど、ショウが言ってた『レインボークイーン』の胴体じゃないかしら。
でもっ、あんなものが突然目の前に出現したら、アシル様でなくとも悲鳴を上げて逃げ惑うわ。
「ショウが『レインボークイーン』の胴体を収納してきた、って言ってたわ。それを出したんじゃないかしら。」
「それでは、あれは危険はないのでしょうか。」
「『レインボークイーン』は卵を産み続けていた、と言ってたから、まだ蠢きながら卵を産んでいるんじゃないかしら。生命力が凄いわね。今マーシェリンが切っている物は卵じゃない?」
突然、剣を頭上にかかげたコナン・・・・・ ええ―――っ!! 剣が大きくなってる? そんな大きな剣を持っていられるの、って、ショウの魔力の剣だし重量はないのかな?
『レインボークイーン』の胴体が真っ二つ・・・・・ 凄い・・・・・
マーシェリンがが倒れ込んだわ。何が起こったの? 倒れ込んだマーシェリンを抱えてコナンが飛んでくる。
「アドリアーヌっ!! マーシェリンをたのむっ!!」
「ちょっと、マーシェリンはどうしたのよっ。」
「においが酷いんだ。魔法で下に向かって風を送って!!」
たしかに二人が飛び込んで来たのと一緒に異臭が、それも強烈な腐臭のようなものがあたりに立ちこめた。その場にいた誰もが鼻と口を押さえ吐き気を我慢する。
コナンはそのまま飛び下りていったけど、この腐臭にショウは大丈夫なのっ!!
いえ、それよりもこの場の腐臭をなんとかしないと、吐瀉物の中でのたうち回ることになるわ。
風の魔法円を展開、窓の外から中へ向けて風を送り込む。
「誰か、マーシェリンに洗浄魔法をっ。」
近くにいたイブリーナが駆け寄り、嘔吐を続けるマーシェリンに洗浄魔法を発動する。
この場の臭いはこれで大丈夫かしら。後は外ね。下からあがってくる腐臭を止めないと。
上空から地表に向けての風、そよ風程度で充分ね。それを城の上から広場に向けて、吹き下ろす。これで下から臭気があがってくることはないでしょう。
コナンが剣を振るっているのが見えるけど、普通に動いているようだし、何か対策をしているんでしょうね。ショウは放っておいてもいいわ。
マーシェリンはもう嘔吐は治まっているようだけど、他の皆に押さえつけられてるのは何故?
「あなたたちは何をしているのですか。」
「アドリアーヌ様、マーシェリンを止めないとまた外へ飛び出してしまいます。」
「私はショウ様の護衛ですっ!! ショウ様の元へ行かせてくださいっ!!」
「ショウはあの臭気に対策ができたみたいだけど、マーシェリンがショウの元へ行っても、また同じ事になってショウの手を煩わせることになるわよ。」
マーシェリンの体から力が抜け、抵抗が止む。
「マーシェリンを離してあげて。」
4人がかりで押さえつけられていたマーシェリンが起き上がり、膝を抱えてうずくまり肩がプルプルと震えている。
「私は・・・・・・・っ!! またもやっ、ショウ様の足手まといになってしまいましたっ。」
「マーシェリンの剣術は凄いと思うわ。アステリオス様も、いずれ私も敵わなくなるだろう、とおっしゃっていたし。でもね、ショウは全くの別物、別世界の存在と受け止めた方がいいわ。」
「それでもっ・・・・・ それでも私は・・・・・ ショウ様の横に並び、共に戦いたいと・・・・・ 護りたいと、思っていますっ!!」
「共に剣を振るって戦うだけが、ショウと共に生きることではないのよ。マーシェリンにはマーシェリンの役割があるはずよ。それはマーシェリンがこれから先、自分で考えて答えを出す事ね。」
「うぅっ・・・・・ うっ・・・・・・・ 」
マーシェリンはもうなにも答えず、嗚咽を漏らすだけなんだけど、これはもう何言っても無理だわ。これはもう放置よ。後はショウにお任せね。
窓からコナンが飛び込んできた。すぐにコナンは塵のように消えて、ショウが立っている。
「あれ? マーシェリンは?」
マーシェリンは隅っこで膝を抱えてむせび泣いている。もう私じゃなにもできないし、もうショウだけが頼りなのよね。
マーシェリンに視線を送ってショウに視線を戻す。あら、アイコンタクトが通じたみたい。マーシェリンの元へ歩み寄り声を掛ける。
「マーシェリン、俺は泣いているマーシェリンよりも笑ってるマーシェリンが好きだ。」
「うっ・・・ うっ、わっ、私は、ショウ様をお護りしなければいけなかったのに、ショウ様に助けられ、嘔吐物にまみれ・・・・・ ショウ様をお護りすることもできなかったのですっ!!」
「私は・・・ ショウ様には必要がないのでしょうか。」
ショウが眠そうな表情になってるわ。まだ、マーシェリンが復活できていないのにっ。だめよ、ここで寝てしまわないで。
「そんなことは・・・ ないさ。」
マーシェリンの腕を解かせて、ショウがその腕に倒れ込む。
「ここがいちばん・・・・・ 安心でき る よ・・・・・」
「・・・・・・・うっ・・・・・・ うぅっ・・・・・・」
倒れ込んできたショウを、その腕にしっかりと抱き込んだマーシェリン、声をこらえて大粒の涙をボロボロとこぼしてる。
こっ、これはっ、ショウ、グッジョブ!!
ショウがマーシェリンの腕の中が安心できると・・・・・
私の腕の中ではないことが、嫉妬しちゃうわね。
「マーシェリン、ショウはあなたをこんなにも必要としているわ。マーシェリンはそれに応えなければいけないわ。しっかり抱きしめて護ってあげてね。」
「うぅっ・・・・・ かっ、かしこまりました~・・・・・」




