84.『あすのしろ』?『あしたのじょう』です
ショウのそろばんのおかげで、本当に助かったわ。こんなに計算仕事が早く終われるなんて、これからはもっとお休みがとれそうね。
それにしても、マーシェリンのそろばんの計算速度が速かったのは驚きね。これからはマーシェリンも計算要員として執務室に来てもらおうかしら。ショウが一緒でないとマーシェリンは来てくれそうもないし、何かうまいことショウを釣れればいいのだけれど。
そんなことよりも、そろばんね。そろばんに関しては、子供部屋での学習に組み込めば、子供達の計算能力も上がるわ。領内の商人達に普及させるのもいいわね。次の領主会議で他領に売り込むこともできるわね。
今のうちに職人に大量生産させるようにしておきましょう。
今日はもう、騎士団が野営地から撤収したはずだわ。山頂の整地ができていたから、今日あたりあそこでショウが家を創造してるんじゃないかしら。あの子の事だから、大きなお屋敷でも創りそうだけど・・・・・・ まさか領主城をまねて創ったりしないでしょうね。
まずいわ。領主城のすぐそばに領主城に匹敵するような城なんて創られたら、領主に対しての叛意ありと受け取る貴族達も出てくるかも。そんなことになったら、少数派とはいえ対立派閥がショウを担ぎ上げて活気付くことも・・・・・・・
ショウの性格上、それは無いかな? あの子が神輿に乗って、黙って担がれるわけは無いわよね。
でも、そんな火種を起こさないためにも、ショウにはきっちり指導しておかないといけないわね。
扉をノックする音と、イブリーナの声がかかる。
「おはようございます。イブリーナです。扉の前にいますので、ご用がありましたらお呼びください。」
今日の護衛はイブリーナだけにしたんだったわ。リベルドータとマスカレータは子供部屋へ行ってもらうようにしたんだったわね。
「入ってちょうだい。」
「失礼いたします。何かご用がありましたか。」
「ショウはどうしてるかしら。今日はグレーメリーザが付いているはずよね。」
「ショウ様とマーシェリンがお二人でお出掛けになるとのことで、グレーメリーザ様は子供部屋へ向かわれましたよ。」
「まだ、ショウはいるのかしら。」
「どうでしょうか、確認してきましょうか。」
「ええ、お願い。いたら私のところへ顔を出すように伝えて。もし出掛けてしまっていたら、私もショウのところへ飛びます。護衛を集めてちょうだい。その時は昼食を持って行けるように手配をお願いね。」
「かしこまりました。」
ショウは【建築物創造】をやるつもりよね。図面を描いていたそぶりは無かったけど、図面も無しにできるのかしら。野営地でのトイレは図面無しで創っていたけど・・・・・
あの山頂を整地した場所の広さは、この領主城がまるごと入りそうな広さだったわよね。かなり大きい規模の建築物を考えていそうだわ。
やっぱり城? なのかしら。この領主城をまねて創るだけなら、ショウは図面も無しに創りそうね。
もっと早くに気が付くべきだったわ。あの子はいつも想像を超えたことをやる子だったのよ。しっかり釘を刺しておかなきゃいけなかったんだわ。
扉がノックされる。イブリーナが帰ってきたみたい。
「アドリアーヌ様、よろしいでしょうか。」
「入って。」
グレーメリーザとイブリーナが入ってきた。
「失礼します。ショウ様はもう出掛けられたようです。いつもマーシェリンと二人で行ってる所だから大丈夫だと言われたのですが、私も付いて行くべきだったでしょうか。」
「いえ、グレーメリーザが付いて行かなくても、危険な事はないでしょう。ただ気になった事があったからショウに確認したかったのよ。
リベルドータとマスカレータはまだかしら。」
「今、厨房で昼食の用意をしています。収納の袋をお貸し頂ければ、準備が整います。」
「そうだったわね。持っていって。準備ができたら執務室に集まって。」
収納お買い物袋を手渡せば、受け取った二人が準備に向かう。出掛ける準備が整うまでもう少し時間がかかりそうね。
執務室のバルコニーに護衛達が集まり、全員がトラネコバスに乗り込む。この時刻に出れば、昼食時に余裕で間に合うわね。
「アドリアーヌ様、今日は出掛ける予定はなかったはずですが、どういったご用件なのでしょう。」
そうよね。朝に突然出掛けることを決めて、大慌てで準備させたし、リベルドータも疑問を持つわよね。
「ショウが整地した場所があまりにも広すぎるのよ。まさかあそこに領主城に匹敵する物を建てるつもりだったら、止めないといけないでしょう。」
「え? そうでしょうか。それだけの城があの山の上に建てば、領内ににらみを利かせられそうですが。」
「それは私が住む場合ですよ。ショウが自分の家として建てた城を見て、ショウを次期領主にと担ぎ上げようとする貴族達が出てくるでしょうね。」
「でも、ショウ様はそのようなことは好まれないでしょう。いっそ、ショウ様にそのような者どもをあぶり出して頂ければよろしいのではないでしょうか。」
「ショウがそんなことを率先してやると思いますか。」
「そ、そうですね。申し訳ありません。無理だと思います。」
「そのような貴族間の覇権争いに、ショウを巻き込みたくはないですからね。」
かなり山が近くなってきたけど・・・・・・・
なにあれ? 白・・・・・ 建物・・・・・? 白い城?
まさか・・・・・ 領主城どころか、戦国時代のお城なのっ!!
「また、一風変わった建物ですね。領主城よりは小さいようですが、それでもここまで大きければ城と呼んでも差し支えないでしょうね。」
この世界では誰も見たことが無い建築様式のはずだけど、リベルドータはお城認定しましたっ!!
ショウ達がすでに昼食を摂っている。
「なんですかっ、これは―っ!!」
「なにと言われても困るんだけど、俺の家だ。」
「家って、これはお城でしょうっ!!」
「自分の家のことを比喩で、俺の城って言ったりするから、その呼び方はあながち間違いじゃないな。」
この物言いにイラッと来て、掴み上げ、
「比喩でもなんでもなく、間違いなく、城、し・ろ・で・す・ねっ!!」
「はい~、そうですっ、城です。真っ白城すけ(まつしろしろすけ)が出てきたんです~。」
まっしろしろすけだなんて、まっくろくろすけじゃないのっ!!
「それを言うなら、黒じゃないのっ!!」
「その前に、これは幼児虐待じゃないですかっ!!」
そっ、そうね、0歳児の襟元掴んで吊るし上げるなんて、やり過ぎだわ。
「アドリア―ヌ、まずは落ち着いてご飯を食べよう。いや、その前にお茶を一杯どうだ。
マーシェリン、アドリアーヌにお茶を入れてあげて。」
まず、落ち着きましょう。椅子に座ればマーシェリンがお茶を入れてくれた。お茶を頂いて、うん、落ち着いたわ。でも、ショウには言いたいことは言っておかなきゃいけないわよね。
「家を作るとは聞いていたけど、城を作るとは聞いてないわよ。」
「いえ、これは家です。」
廻りを見れば城の前に大きな看板が並んでる。真ん中の大きな看板には『明日之城』?
「あそこに、『あすのしろ』って書いてあるじゃない。」
「城といえば城かな。でも様式が全く違うし、他の人達が城と認識しないんじゃないかな。あ、ちなみに『あしたのじょう』です。」
「リベルドータ、この建物を見てなんだと思いますか。」
「領主城とはまた趣が違いますが、城でしょうね。中を見せてもらわないと詳しくは分かりませんが、この造りは攻められた時の防御を意識しているようですね。あの塀に空いている穴は魔法攻撃用の穴では無いでしょうか。」
「ショウ、そうなの?」
「鉄砲を撃つための穴だよ。リベルドータ凄いね。」
「リベルドータは城と認識したわよ。」
「はいはい、城ですよ。あの有名な『白鷺城』ですよ。城だと駄目だったの?」
「領主城と目と鼻の先に、それに匹敵するような城が建っていたらおかしいでしょう。城同士でにらみ合って、戦が始まるだなんて噂が立ったらどうするつもり。」
「いや、そんな、戦だなんて。城として機能させなきゃいいんだよね。領主様管理の下で観光名所にしようか。」
「ショウが住みたくて建てたんじゃないの。観光客がぞろぞろ来てたら、住んでいられないわよ。」
「そうか。じゃあ、部分的に騎士団の駐屯地として使ってもいいよ。」
「騎士団がいるのも、騒がしくて落ち着かないわ。」
「使用範囲を限定するんだよ。使っていいのは曲輪と小天守まで、大天守は俺専用で進入禁止、でどう?」
「ショウがそれでいいんなら、騎士団も助かると思うわ。ここを立ち入り禁止にした時に、アステリオス様から、ここを中継地点に使わせてもらえないか、ショウに聞いてくれ、って言われてるのよ。よほど、ここが便利だったのね。」
アステリオス様は騎士団が撤収するにあたって、ここがどれほど使い勝手のいい野営地であるかを熱弁してたのよね。まあ、使い勝手をよくしたのはショウだからアステリオス様も、ゴリ押しはしたくは無さそうだったけど・・・・・
でも、ショウが騎士団に場所を提供してくれるんならアステリオス様も喜ぶし、いちばんの懸念、ショウを担ぎ上げようと目論む輩がいたとしても、アステリオス様がここでにらみをきかしていればここへは近づけないわね。
城の中を歩いてみれば、中まで全て白一色の世界。天井、床、壁、全てが白。木材まで白色っておかしいでしょ。清潔感は半端ないけど、病院にでも入ったみたいよ。
階段が急で上るのが大変だわ。ショウなんか自分で上れなくてマーシェリン頼みなんだから、もう少しバリアフリーに気を遣いなさいよ。
それにしても随分と上ってきたと思うんだけど、最上階はまだなの。
ようやく最上階、息が切れるわ。執務室で座ってばかりだから、運動不足ね。少し運動しないと駄目ね。
でも、ここまで苦労してあがってきた事へのご褒美ね。素晴らしい眺望だわ。山の上に建つ天守閣の最上階って、こんなに眺めがいいのね。
殿様もこんなところに立てば、天下を取りたくなるのも無理はないわね。




