87.アルディーネ.襲来
完全な覚醒前のまどろみの中で、同じベッドに誰かが寝ているような気配を感じる。マーシェリンじゃなさそうだ。
脳が半覚醒で夢を見ている状態、体が動かない、よく金縛りとか言われている状態だ。覚醒直前に起こることだから、すぐに目覚めるんだけどね。
そんな中、となりに寝ているであろう存在が誰なのか分からない。体を起こそうと思っても、脳からの指令が体に伝達されない。しょうがない、半分夢見心地なんだから。
でも、覚醒するとなると一瞬だ。ふっと体が動くようになる。
横を見れば・・・・・・ アルディーネだ。早くないか。お誕生会はもっと先じゃなかったか。
って、殿方の寝所に潜り込むなんて、王女様にあるまじき行為ではないですかっ!!
そもそも、お付きの者達はそれを許したのかっ。
アルディーネが目を開け、バッチリ目が合った。
「あらっ、おはようございます。ショウ様。ショウ様のお目覚めを見守るつもりが、ついつい寝こんでしまいましたわ。」
「なんで、ここで寝てるの?」
「可愛らしいショウ様の寝顔を拝見いたしておりましたら、眠くなってしまいましたの。」
「王女様が殿方のベッドに潜り込むことを、アルディーネの護衛や侍女は許したのっ。」
「殿方って、まだ赤ちゃんではないですか。」
扉がノックされ外から声がかかった。
「おはようございます。エリスです。お目覚めになりましたら、お着替えの用意をいたしますが、いかがいたしましょう。」
「エリス、入ってください。」
「失礼いたします。」
王宮で見たことあったな。アルディーネお付きの侍女だ。
エリスが着替えを持って入ってきた。テキパキとアルディーネのお着替えを始めようとする。
「殿方の目前でお着替えをする王女様って、ありえないでしょっ!!」
「あらっ、そうですわね。お母様もお父様の前では、お着替えはしませんね。となりのお部屋をお借りしてもよろしいでしょうか。」
「そっちの部屋は、マーシェリンが使ってるから、マーシェリンに断ってよ。」
マーシェリンが部屋から追い出されてきた。
「アルディーネは、いつ来たの?」
「夜遅くにやってきて、ショウ様のベッドに入られました。」
マーシェリンが不機嫌そうなのは、気のせいか?・・・・・ うん、にこやかなんだよ。口角は上がってるし・・・・・・・ でも、目が笑ってないんだよ、恐いよ
「誰なのさっ。あの娘はっ。」
アシルは、見たことの無い女の子が来て、隠れることを選択したみたいだ。
「アシル、いたんだ。あのご令嬢は、王女様だよ。王宮で見なかった?」
「えっ、そうなんだ・・・・・ って、なんで王女様がショウのベッドにもぐり込むのさっ!!」
「知らないよ。もぐり込みたい気分だったんじゃないの?」
「もぐり込みたい気分って、どんな気分よっ!!」
「紹介してあげるから、自分で聞いてみれば。」
「え? いいの?」
「もう、城内飛び回って、皆が認識してるし、いいんじゃない。」
着替えが終わったアルディーネをソファに座らせて、エリスが部屋の外に声を掛ければ
別の侍女が朝食をのせたワゴンを押して入ってきた。手早にソファテーブルの上に朝食が並べられていく。
王女様お付きの侍女達、至れり尽くせりだね。
アシルを紹介するなら、今のうちに紹介しておこう。食事中に紹介したら驚いて吹き出しかねないしね。
「前に友達を紹介するって言ってたよね。今紹介しとくよ。この小さい娘、アシルだ。」
俺の背中に隠れていたアシルが、コソッと顔を覗かせる。
「あらっ、まぁっ、まぁっ、まぁっ、」
驚いたようで、ちゃんとした言葉になっていない。でも、すぐにソファから飛び下りテーブルをまわってアシルの元に来る。
「お人形ではないのですね。妖精さんですか?」
「あたしは、本の精霊、『アッシュールバニパル』よっ。崇めなさいっ!!」
ガチャンと食器の割れる音が。侍女の驚きが大きく皿を取り落としたようだ。
「もっ、申し訳ございません。た、ただいま替えの皿をご用意いたします。」
「ついでにアシルの分の朝食もたのんでもいいかな。」
「は、はい、かしこまりました。」
落とした皿はかたづけられ、侍女達がもう一度朝食の用意に走る。
「アッシュール・・・・・??」
「『アッシュールバニパル』アドリアーヌが名付けたんだけどね、長いからアシルでいいよ。」
「あんたにもアシルと呼ぶ事を許すわ。」
「名付けたとは、どういうことですの?」
「この世界とは別空間に『原初の女神』が創った書庫があったんだ。その書庫の中に残っていた女神の魔力が集まって、意識を覚醒させたのがアシルなんだけど、誰も名前を付けなかったらしくて、名無しさんだったんだよ。」
「『原初の女神』様とは、始まりの女神ルーナレータ様なのですか。」
「ああ、そこからか。アンジェリータ様に報告書がいってるはずなんだけど、聞いていないのなら俺からは話せないな。」
「分かりました。その話はお母様に聞いてみます。それで、アシル様は『原初の女神』様の魔力から生まれたとおっしゃいましたけど、女神様なのですか。」
「う~ん、それほど尊いものではないな。見たとおりのちびっ子妖精扱いでいいんじゃない?」
「あたしは精霊だよっ!!」
「友達を紹介するとおっしゃいましたけど、アシル様をお友達として接してもよろしいのでしょうか。」
「あたしは全然構わないよ。」
「お待たせいたしました。」
侍女達が朝食の用意をしてくれる。今度は最初からアシルがソファテーブルの上にちょこんと座ってるから、驚いて皿を落としたりはしなかった。
ソファに座っていると、テーブルが低すぎて俺の体じゃ食事に手が届かない。マーシェリンが隣に座って食べさせてくれるんだけど、アルディーネの羨望のまなざしがマーシェリンに突き刺さる。
「あのっ、ショウ様のお世話をさせて頂くことは、」
「いえ、ショウ様のお世話は私が責任を持っていたします。アルディーネ様はお食事をお続けください。」
「王女様が誰かのお世話をしてたら、おかしいでしょ。それよりもなんでダイニングテーブルじゃないの。あっちの椅子なら一人で食べれるんだけど。」
「申し訳ありません。ショウ様の椅子はあっても、私の椅子がないのでこちらにしました。」
「じゃ、食後のお茶はダイニングテーブルにしようよ。」
「でも、私の椅子が、」
「いいよ、俺が創るから。」
エリスが食後のお茶を用意している間に、魔力で椅子を形成、アルディーネを座らせて高さを調整、【魔力固定】の魔法円を展開、そして発動。
「これでいいでしょ。」
「凄いですわ。私はお母様が見ているところ以外では、魔法は禁止されているんですのよ。それも初歩の魔法しか使わせてもらえないのです。こんな魔法は見たこともありませんわ。どのような魔法なのでしょう。」
「王族や領主一族にのみ伝えられる魔法らしいから、貴族学院に入ればアルディーネも教えてもらえるよ。」
「ショウ様は貴族学院に修学されておりませんけど、なぜ知っていらっしゃいますか。」 「『原初の女神』と接触したからかな。」
アルディーネとお茶を飲みながら、会話をしてる。俺に出してくれたものは、エリスが気を利かしてくれたようでホットミルクだったけど。
普通に会話してるけど、アルディーネはなんでここにいるんだ? まだ、俺の誕生日には早いよね。
「なんで、アルディーネはこんな早く来たの?」
「あらっ、ショウ様が全然会いに来てくださらないからじゃないですか。せっかく王宮とテルヴェリカ領主城を結ぶ転移円を、自由に使う権利を持っていらっしゃるのに。」
「赤ん坊は忙しいんですよっ。」
「赤ちゃんが忙しいわけないでしょう。まだ、お勉強も始まっていないのでしょう?」
「いや、読書はしてるよ。あとは魔獣討伐したり、土木工事したり、築城したり。」
「それ全て、赤ちゃんがやる事ではありませんよ。何かの冗談とかでしょうか。」
「じゃあ、お茶の後は俺の城を見に行く? なかなか凄いのができたよ。」
「ぜひ、見てみたいですね。」
「あたしも行くよっ。」
デザートを口いっぱいに頬張っていたアシルが、デザートの欠片を飛ばしながら叫ぶ。アシル、ちょっと下品ですよ。
さすがに王女様を勝手に連れ回したりしたら、アドリアーヌからどんなお怒りを買うか分からない。一言断ってから行こうか。
アドリアーヌは午前中なら多分執務室だよね。執務室に向かうんだけど、アルディーネがいるおかげで護衛が3人、侍女が2人の大所帯で動く事になる。煩わしい。王族貴族のこういうところがいやなんだよね。
執務室の奥の部屋へ、アルディーネと護衛達を待たせて、アドリアーヌと内緒話。
「アルディーネを『明日之城』へ連れてくことになったんだけど、まず一つ、転移円を使っていいかな?」
「う~~ん。使わないことを勧めるわね。で、その話の流れから二つ目は異空間収納の件ね。王家にそこまでの能力は知られない方がいいと思うのだけれど・・・・・・ あなたの好きになさい。ショウが特異な存在であることと、ショウをどうにかしようと思っても、思い通りにならないことは、アンジェリータ様も充分承知してるはずでしょう。」
「そういってくれると助かる。それとアルディーネは、なんで俺の部屋で寝てるんだよ。」
「なんですってっ。ちゃんと来賓用の部屋を用意してありますよ。これは、お付きの者達に厳しく言っておきましょう。」
「うん、お願い。」
アドリアーヌ、王女様に対しても情け容赦ないね。お付きの侍女も平身低頭平謝りの図。
「深夜に殿方の部屋へ忍び込むなど、淑女にあるまじき行為ですっ!! そんなことをアルディーネ様のお父様お母様が知ったら、どのように申し開きをするのですかっ!!
あなた達っ、付き従う侍女として、今回のアルディーネ様の行動は間違っているとは思わなかったのですかっ!! 腫れ物に触るように何でもはいはいと、言うことを聞いているようでは侍女失格ですっ。アルディーネ様はまだ子供なのですよっ。そばに付いている大人が間違いを正してあげなければどうするんですかっ。他の誰も正してくれることはありませんよっ。」
アルディーネは泣きながら「ごめんなさい、ごめんなさい。」侍女達は「申し訳ありません、申し訳ありません。」を繰り返していた。
「私がいけなかったのです。私が我が儘でした。エリス達を責めないであげてください。」
「アルディーネ様は悪くありません。お止めできなかった私の責任です。
アドリアーヌ様、全ての責任は私にあります。他の者達はご容赦ください。私が全ての罰を受けます。」
「エリス、だめっ。
アドリアーヌ様、エリスに罰を与えないで。」
さっきまでのきつい口調でまくし立てていたアドリアーヌが、一転優しげな諭す口調に変わった。
「誰にも罰を与えたりはしませんよ。間違えたら正さなければいけません。
子供とは我が儘を言うものです。その我が儘を通していいのか、止めなければいけないのか、その判断は大人がしてあげなければいけません。
アルディーネ様も、言葉や行動の前に正しいか誤っているかの判断をしましょう。自ら判断ができない時にはエリスに相談することもいいですね。エリスなら信用できると思いますよ。」
「では、エリスに罰はないのですね。」
「そのつもりはありませんし、私にそのような権限もありませんよ。」
さすがアドリアーヌ、王女様も侍女達も反省してる。うまいこと収まったか? アドリアーヌのお怒りモードが沈静化しているうちに、さっさと移動しよう。怒っている時のアドリアーヌは、恐いからな。俺に火の粉が降りかからなくてよかった。
「みんな反省しているようだし、もういいよね。アルディーネもさっさと立って。さあ行くよ。」
「ショウっ!!」
「な、なに、」
「王女様をお連れするのよ。しっかりとエスコートをお願いね。」
「りょ、了解しました。」
ふー、怒られるかと思ってドキドキしちゃったよ。ここからさっさと離脱しよう。アルディーネの手を取り引っ張る。
「ショウ様、お待ちください。
アドリアーヌ様、寛大なお心遣いありがとうございます。」
「アルディーネ様、テルヴェリカ領を楽しんでくださいね。」




