70.【土石震動魔法】
まだ混み合う時間には早かったおかげで、ギルド内は人もまばらで受付はあいていた。シーラがすぐに対応してくれた。
「デブリコンさん。久しぶりですね。今日は何か獲物を狩ってきて頂けたのですか?」
「ああ、でかい熊を一頭。魔獣化した奴だから、解体場に置いてそのまま帰るよ。」
「ありがとうございます。そうして頂けると助かります。また後日精算した金額をお渡し致しますね。前回の分は用意してあります。持っていってください。」
金貨銀貨をジャラリと目の前に出された。
「こちらに受け取りのサインをお願いします。」
書類にサインをし金を受け取り礼を言って解体場に向かう。
解体場では何人かが解体作業をしていたが、責任者のカインが気がついて、獲物の受け渡しの机まで来てくれた。
「ああ、こんにちは、デブリコンさん。今日はまた大物ですか。」
「こんちわ、カイン。この机じゃ無理だから、そっちの大きい解体台を空けてくれ。」
「そんなにでかいんですか。血抜きはできてます?」
「ああ、やってある。」
奥の解体台へ向かいながらカインが指示を出す。
「でかい獲物らしいから、でかい台を空けてくれ。」
解体職人達が文句も言わずに片付けてくれる。綺麗に片付けた後は水洗いまでしてくれた。
「じゃあ、ここにお願いします。俺達は席を外してますんで。」
アドリアーヌに異空間収納は人目につかないようにと釘を刺されているから、ここで獲物を出す時は全員部屋の外に出てもらってる。もうすでに俺から言わなくてもカインは気を利かして自ら出てくれるようになった。ありがたいことだ。
マーシェリンと二人きりになった解体場で【門】を開き、『熊のぺーさん』を腹を上にして解体台の上にドンと乗せる。マーシェリンがカイン達を呼びに行き、解体場に入ってくる。
「おおっ、こりゃまたでかい熊ですねー。魔獣化してますね。魔石は?」
「魔石はもう確保してある。内臓は残ってるから、早めに出した方がいいだろうね。」
「そうですね。これだけの大物、今日中には解体できそうもないし、腹だけ出しておきましょう。
そっちの小物は放っといて誰か二人ぐらい、こいつの腹出しといてくれ。これだけ綺麗な毛並みとこの色合い、高く売れそうだから汚すんじゃないぞ。」
「じゃあ、後は頼む。」
解体場の裏口から出て、人の来ない裏へ回り、転移円を展開、自室に転移。
「アドリアーヌに会いに行くけど、マーシェリンは着替えた方がいいかな?」
「すぐに着替えて参ります。」
ハンターの防具と剣を装備してるんだけど、城の中なんだから護衛騎士の格好の方がいいよね。
マーシェリンの着替えの間に、今日の魔法円を紙に写しておこう。
転写した紙だけじゃ、なんの魔法か分からなくなるな。空いたところへタイトルを書こう。【土石震動魔法】これでアドリアーヌに渡せば、この名前だけでも理解出来るんじゃないかな。
「アシルはどうする?」
「行っても面白そうじゃないから、あたしは行かなーい。」
マーシェリンと二人でアドリアーヌの執務室に来た。もう今日の仕事は終わったらしく片付けをしていた。
「昨日はいろんな話を聞かせてもらって、なんだか落ち込んだりもしてたけど、元気は出たのかしら。」
「人に話を聞いてもらっただけでも自分の気持ちが大分軽くなったような気がするよ。それより、アドリアーヌこそウルカヌスの件は大丈夫なの?」
「まだ5歳だし先は長いから、この先の育て方を間違えないように注意するわ。それで、今日はなんなの?」
「今日は新しい魔法を考えたんだけど、もうすでに誰かが使ってるのか、確認したかったんだ。」
「何? 安全な魔法でしょうね。」
「うーん・・・・・ ある作業においてはとても便利、使い方を間違えれば危険かな? 魔法円はここに転写しておいたよ。」
アドリアーヌは紙を受け取り、魔法円を見ながらマーシェリンに尋ねる。
「・・・・・【土石震動魔法】・・・? マーシェリン、あなたは見てたんでしょう。その魔法を見てどう感じたの。」
「ショウ様のおっしゃるとおりです。とても便利で、とても恐ろしい魔法でした。」
「何が恐ろしいのよっ!!」
「魔獣に襲われたのですが、その魔獣が土の中に沈んでしまったのです。」
「・・・・・沈むって・・・・・ 土に?・・・・・ ??? ネコ型ロボットの、土の中で泳ぐアイテムしか思いつかないわ。」
「そんな空想世界の物を考えなくても、科学で実証できるよ。液状化って聞いたことはある?」
「聞いたことあるわね。地震が起きた時に起こる現象だったかしら。」
「そうそう、諸々の条件が絡み合って起きる現象なんだけどね、これを魔法で強制的に起こしてみた。」
「だから、震動魔法なの?」
「土を超高速振動で砂状にして、そのまま震動をかけ続ければ、その砂は液状化するんだ。」
「その魔法を発動することによって、どんな利点があるのかしら。」
「今、山のまわりの木を伐採してるんだけどね、その魔法を使うと根っこがスポーンと抜けるんだよ。工事がはかどるはかどる。」
「・・・・・マーシェリンが言ってた、恐ろしい使い方の説明は?」
「そんなに怖い物じゃないよ。マーシェリンはあのトラップに魔獣が埋まっていくのを見て、自分がはまった場合を想像したんだろうね。でもマーシェリンなら従魔のペガサスに引っ張り上げてもらえば埋まらないんだよ。」
マーシェリンが、ああ、そうかという顔で、ポンと手を打つ。そこまでは思い至らなかったようだ。
アドリアーヌがジロリとにらみつけてくる。
「他にも危険な事がありそうね。液状化って言ったら、家が傾いだり、ひどい時にはコンクリート造の建物がひっくり返ったりするんでしょ。規模を大きく震動させたら、街が沈んでしまうんじゃないの。」
「さすが、アドリアーヌ。理解が早い。」
「そんな危険な魔法を思いつくなんて、一体これで何をしようと言うのよ。」
「そんな危険な事はやらないし、他の魔法だって同じだよ。炎の魔法を大規模で発生させれば街を焼き尽くすし、風の魔法でカテゴリー5のハリケーンを発生させればこの領都は壊滅するし、水の魔法で高さ30mの津波を発生させれば全てを洗い流すよね。」
「そんな規模の魔法は誰もできませんよっ!!」
「そういうこと。この領都を沈める規模の土魔法は、誰もできないんだよ。」
俺以外はね。小さい声で聞こえないようにこそっとつぶやいた・・・・・ 聞こえたらしい。
「やっぱり、ショウにはできるんじゃないっ!! 危険すぎるわ。」
「地獄耳ですかっ!! できるけどやらないよっ!! 今までだってそんな危険な事したこと無かったでしょっ!! せっかく新しい魔法を思いついたのに、次からは秘密にするよ。」
「ちょっ、ちょっと待って。ごめんなさい。その効果を考えたら少し怖くなったのよ。」 「どんな魔法でも、便利にも不便にも、安全にも危険にもなるんだ。使い方次第じゃないかな。」
「そうね、使う人次第ね。」
「もし、その魔法を使ってみたいようだったら、魔石に魔法円を転写するけど。」
「本当に? ぜひお願いするわ。」
【門】を開いて魔石を入れた革袋を取り出す。魔石はマーシェリンの分と2個でいいか。【土石震動魔法】の魔法円を展開して魔石の中に収まるように縮小させて、魔石に魔法円を重ねて・・・・・ 『焼き付けるっ!!』
魔法円が輝き、一瞬のうちに消える。その後には煙のような物がフワッとあがり・・・・・ 完成だ。
「はい、アドリアーヌの分、マーシェリンにも一個。」
「えっ? 私にも頂けるのですか?」
「マーシェリンは剣士だから必要ないかもね。
あ、アドリアーヌ。ここで発動させないようにね。テストは領都の外でやってね。アドリアーヌも魔力量が多いから、魔力は控えめにね。」
「ええ、そうするわ。ありがとう。ありがたく使わせて頂くわ。その上で公表するかどうか決めさせて頂くわ。」
公表でも隠蔽でも俺には関係ないから、後の決定はアドリアーヌにまかせよう。
もう晩ご飯の時間だ。マーシェリンと一緒に食堂へ行き食事をし始めた途端に、睡魔が・・・・・ そうだ・・・ 今日は、お昼寝し て な かった・・・・・




