69.『熊のぺーさん』
丸太を積み上げた場所の近くに転移してきた。
「ねえっ、ショウ、今日もラフターを出すの?」
「いや、今日はバックホウで根抜しようと思う。」
「なんなのさっ。バックホウって。」
「土を掘る従魔だな。」
魔力で12トンクラスのバックホウ形成する。80トンラフターに比べると小さめだけど、重機の中では大型の部類に入る。
「ラフターと全然違うじゃないっ。またあたしも乗っていい?」
「一人しか乗れないけど、アシルぐらいなら、また小さい座席を作ってやるよ。今日はマーシェリンは見学してて。」
乗り込もうと思って気付く。赤ん坊の体じゃレバーに手が届かないぞ。
「プロテクトアーマー タイプ コナンッ!!」
筋肉モリモリのコナンが現れてアシルが、頭の上を飛び回って大はしゃぎだ。
「かっこいいよっ!! もうずっとコナンでいればいいよっ。」
「・・・・・コナン様・・・・・」
マーシェリンはうっとりとしたまなざしで、胸の筋肉を触りに来るし。
「マーシェリンは離れたところで見学だって言ったでしょ。」
俺がバックホウに乗り込めば、置いてかれちゃいけないとアシルが飛び込んで来た。スピードが出る乗り物じゃないから、そんなに慌てなくてもいいんだけどね。
それじゃあ、まずは前進。短い2本のレバーを前に倒してキャタピラが動き始める。切り倒した木の切り株の前で止まり、アームを伸ばしブームを倒す。バケットの爪をガッと土に突き当て、重量を掛けつつ手前に掻いてこれば、ごっそりと土が掘れてくる。
切り株のまわりでそれを何度か繰り返し、切り株がぐらぐらに動くようになるまで土を掘れば、後はバケットを下に差し込みちからわざですくい上げる。下へ伸びている根がバツンバツンと切れる音が響きながら、切り株が根っこごと持ち上がる。
ふー、ようやく一個掘れた。結構手間がかかるな。もっとでかい重機にした方が良かったか。でもアシルは大喜びだ。
「凄い凄い、あたしもやりたい。これ動かしていい?」
小さな体でレバーにしがみついて動かしているけど、一本しか操作できないから二つの動作しかできない。ブームとバケットが前後に動くだけだ。
「この従魔、おもしろーいっ。でも、土魔法を使えばもっと簡単そうなのに、なんで魔法を使わないのさ。」
「えっ?」
土を掘るのはユンボだという先入観から、魔法の事が頭の中から消えていた。考えてみれば塀や外堀を土魔法で作ってたんだよな。森にさしかかって、さあ木を切りましょうと考えた時に、切り株はユンボで掘りましょうという流れになっていた。
そうか、最初からラフタークレーンで木を吊って土魔法で根っこを浮き上がらせれば、木を切る必要はなかったか?
しかし、それをそのままアシルに言うのもなー。
「大きな乗り物を自由自在に動かすのは、男の子の昔からの夢なんだよ。」
「そうだよねー。こんなに楽しい事なんて、なかなか無いよねっ。」
アシルも納得したようだし、次の切り株を掘り返そう。
二つ目の切り株を掘り返した時に・・・・・・・ う――ん・・・・・ 飽きた。 そりゃそうだ。もっと効率よく作業ができるのを承知の上で、手間のかかることをやってるんだから。
もうバックホウはやめやめ、ラフターにしよう。
バックホウがラフターに形を変えていく。
「えっ? えっ? 何、何、形が変わったよ。」
「ちょっとやり方を変えようと思って。」
ラフターから飛び下りて、またマーシェリンを操縦席に座らせる。俺は切り株の所まで行き切り株を吊り上げれるように、ラフターのフックに魔力の触手を引っかけ、逆の端を切り株にくくりつける。
よし、これで少し引っ張り上げながら土魔法を掛けよう。根っこが簡単に浮き上がりそうな土魔法はどんな魔法がいいだろう。
思いつくのが地面の液状化かな? 地震の振動で土が液状化して、建築物が沈んでいくという怖い現象だ。
ただ土を震動させたからといって全てが液状化するわけじゃない。砂状の地盤でないと液状化しにくい。そこで魔法の出番だ。超高速振動を掛けて土を砂状にしてしまう。そのまま振動をかけ続ければ液状化するというしくみだ。地震での液状化には地下水が必要になるけど、砂の超高速振動には水が無くても簡単に液状化する。
これを木の根のまわりに強制的に起こせば、木の根が沈んで行くんだけど、ラフターで吊り上げていれば楽々と浮き上がってくるよね。
土魔法の魔法円を展開して、土石の操作を土石の震動に書き換える。なんだか新しい魔法を作ったっぽい。
名付けて【土石震動魔法】
うん、いいんじゃないか。今回は根の掘り起こしのために思いついたけど、攻撃魔法としても使えそうだ。魔獣の足元を震動させて液状化させれば、土の中に沈めてしまえるよね。帰ったらアドリアーヌに教えてあげよう。
切り株のまわりの地面、根の張っている地中までを震動させる。土が震動と共に砂状になっていく。
ラフターに吊られている切り株が、砂状になった土の中からズルッと動き徐々に持ち上がってくる。それほどの時間を掛けずに切り株が宙に吊り上げられた。そのまま木を積み上げたところまで吊っていき、木の横に降ろす。
これって、ユンボで掘るより遙かに早いよ。やっぱり魔法だよ。魔法のある世界でよかった。
昼前には切り株は全て引き抜いた。抜いた後の液状化させた場所は、しっかりと土魔法で締め固めておいた。放置しておくと足首まで、ズボッと埋まりこんで危険だったからね。
食事休憩をはさんで、午後の作業を始める。立木のまま、ラフターで吊り上げながら根のまわりを【土石震動魔法】で液状化させる。立木ごと根がズルッと浮き上がってくる。
なんで最初からこれに思い至らなかったんだろう。今回はアシルに感謝だ。
木を切る手間も無くなったおかげで、どんどん木が引き抜かれて積み上げられる丸太の山が大きくなっていく。
こんなに早く作業が進むなんて考えてなかったな。木の伐採だけで10日以上かかるんじゃないかと予想していたんだけど、この調子だと・・・・・ あと2日もあれば邪魔な木は撤去できそうだな。
森の奥から何かが近づいてくる気配がする。
木を倒す地響きとかの音がしているような所へ近づくなんて、けものでは無さそうだ。けものなら危険そうな場所からは遠ざかろうとするだろう。強い魔力に惹かれてくる魔獣だろうね。
森の奥から何かがが近づいてくるのが見え始めた。なんだありゃ、派手なピンク色がチラチラと見えてきた。魔獣がショッキングピンクってありえねー。
目をこらしてよく見てみれば、熊だ。でかい熊だな。ピンクの熊って・・・・・ 黄色じゃないんですかっ!!
もう、これは俺が命名してもいいよね。
命名『熊のぺーさん』
この『熊のぺーさん』は首からカメラをぶら下げていたり、つがいで行動したりはしないようだ。しかも蜂蜜好きでも無いようで、俺を食う気満々で、こっちに向かって走ってきてる。
マーシェリンも魔獣に気付いたようで、ラフターから跳び降りて俺の前に立つ。剣を構えて迎撃準備万端だけど・・・・・ ちょっと待て――いっ!!
「マーシェリン、ここは俺がやる。手を出すなっ。」
俺を守るために前に立っていたマーシェリンが横に下がる。後ろには下がらないんだね。危険そうならいつでも前に出ますよ、みたいな? そんなつもりかな。
立木を取り払った更地はもうすでに【土石震動魔法】を発動させ液状化させている。
森から走り出てきた『熊のぺーさん』は、普通の熊の倍ぐらいありそうな大熊だ。『熊のぺーさん』はそのまま液状化した土に突っ込んだ。土というよりも砂状になって、振動までさせているのだから、足が砂の中にズボズボと沈む。足が沈みながらも数歩進んだ『熊のぺーさん』は、足をとられ動きが鈍りその場でジタバタとし始める。その状態で暴れれば暴れる程、沈んでいく。
いやもう、なんていうか、自分で仕掛けたトラップなんだけど・・・・・ 液状化ってコエー。
『熊のぺーさん』は体が半分以上沈みながら目は怒りに燃え、吠える吠える。
「グゥオオォ―――ッ!! グァウォォ―――ッ!!」
あ、ヤバい。吠え声と一緒に何かが飛んでくる。圧縮された空気が刃になって飛んでくる。その刃の軌跡が、風景を歪ませ飛来する。
即座に魔法防御結界を発動させ迎え撃つ。結界に風の刃が激突し砕け散っていく。
立ち上がれば5mほどもあったのではないかと思われた『熊のぺーさん』が、体のほとんどが土の中に沈みながらも風の刃を放ってくる。
頭までが砂の中に沈んだ状態で『土石震動魔法』を止める。砂から突き出た二本の前足が何かを掴もうと空をかきむしっている。
まだ弱っていないみたいだ。まだ風の刃が飛んでいる。でも、もう俺達を狙って刃を放つ事もできないようで、四方八方見境なく飛ばしている。
「これは、恐ろしい魔法ですね。こんな魔法は初めて見ました。」
「さっき木の根を掘り出す時に作った魔法だしね。」
「ええっ? あの熊は土の中に沈んで行きましたよ。」
「土を液状にする魔法だからね。その魔法を使いながら引っ張り上げれば簡単に持ち上がるし、ささえる物がなければ沈んで行くんだ。あの熊は後で吊り上げてハンターギルドへ持っていこう。」
「ショウ――!! すっごい魔法だねっ!! ねえっ、熊死んだの?」
アシルが地面から突き出たショッキングピンクの前足のまわりを飛んでる。
「死んだのか分からないから、近づくなよ。風の刃が飛んでくるかもしれないぞ。」
ヒェッとアシルのかすれた悲鳴が聞こえた。俺の所まで飛んできて、コナンの首に抱きつき後ろから恐る恐る『熊のぺーさん』の前足を覗く。
怖がっているけど、風の刃が当たってもアシルにはダメージ無いんじゃないかな。俺の勝手な思い込みなんだけどね。
「アシルは魔法が怖いの?」
「怖いに決まってるじゃないっ!! あたしの体が削られちゃったらどうすんのさっ!!」
「ああ、そうか。ごめん。魔法が当たってもダメージは無いのかと思ってたよ。」
「そんなわけ無いでしょっ!!」
そうか、ダメージがあるんなら極力守ってやらないといけないな。
さて、あの『熊のぺーさん』はさっさと引き上げて血抜きしておこうか。突き出た前足を触手で吊り上げ土を震動させれば、液状化した土の中からズルッと浮き上がってくる。
仮死状態かもしれないけど呼吸は止まっているみたいだ。このまま木の枝に逆さ吊りでバンザイさせておく。首の頸動脈を切ったついでに手首も切っておけば完璧に血抜きできるだろう。後は胸を切り開いて魔石を摘出したら、しばらく放置だ。
新たな木を吊り上げ、根の部分の土を震動させる。たいした抵抗もなく根が浮き上がる。抜けた木を、木材を積み上げた所に横にする。木を抜いた後の地面を締め固める。何度かその作業を繰り返しているうちに日も傾いできた。夕方というにはまだ早い時刻だな。
「マーシェリン、ハンターギルドへ寄りたいからもう終わって帰ろう。」
ラフターからマーシェリンが降りて来る。
「はい、熊は私が収納致しましょうか。」
「俺が収納するよ。」
ラフターの魔力供給を止め、塵になって消え去る。
後は熊を収納だ。枝から吊された熊は、もう血は抜けきっているようだ。触手で持ち上げて収納。
ハンターギルドへ行くのにコナンのままじゃまずいからデブリコンに変形。よし、これで帰る準備はできた。
「ハンターギルドの裏口あたりに転移するから、アシルは姿を消しといてね。」
「うん、分かった。」
転移円発動、ハンターギルドの裏口に人がいないのを確認。よし、転移。




