71.カラードベアー
木を扱いで、石壁と堀を作り続け、ようやく外周を囲い終えた。外周、三里ぐらいあったんじゃないか? 囲った中の面積は1000町ぐらいだと思う。990ヘクタールぐらいかな? 小さな町を形成するぐらいの面積はあるな。
石壁を作っている最中、いいもの発見。竹藪に遭遇した。これはっ、春になればタケノコ掘りができるのでは。おいしいタケノコご飯が期待できそうだ。
でも竹が密生しすぎている。これではいいタケノコが出てこないぞ。枯れて倒れた竹や、茶色くなった竹をどんどん切り倒し、竹林から運び出す。鬱蒼と茂った竹林がだいぶ綺麗に整理された。これで日の光も差し込んで、良いタケノコが生えるだろう。今から春が待ち遠しい。
いや、タケノコにかまけている場合じゃない。まわりを石壁で囲ったのなら、次は山頂に建物を建てるための平らな土地を造成しなければ。
山頂に登ってみた。木が生い茂り造成どころではない。木を扱ぐにしてもラフターの設置場所がない。先に何本かその場で倒して設置できる場所を作ろう。
他の立木に干渉せずに倒せる木を探して、その木の根の部分の土を【土石震動魔法】で液状化させる。ぐらりと傾き始める大木。魔力の触手を繰り出して、木の倒れる方向を調整しながら倒していくんだけど、うん、そうだよね。他の立木に引っ掛かるよね。なんの手入れもされずに育った木だから枝がいっぱい出ているんだよね。先に枝払いをしなきゃいけなかったな。
低いところの枝は風の刃を飛ばしてズバズバと枝を払っていく。高いところの枝は下から風の刃を飛ばすと他の立木まで切ってしまいそうだ。コナンの状態で空中を飛び、絶対に外さない場所から風の刃を飛ばす。全部の枝を払わなくても、重量に耐えきれなくなった枝が折れ始め、引っ掛かっていた大木は倒れていく。
さて、次の木を倒す前に、先に枝払いをした方が良さそうだな。
木の根元に立ち、真上に向かって風の刃を放つ、放つ、放つ、放つ、ヤバッ!! 切れた枝が俺に向かって落ちてくる。
物理防御結界、展開、発動。ドカッ、ドスッ、バサッ、結界の上に枝が降り積もる。
こっ、これは、天に唾を吐く行為と同じか? なんかちょっと意味合いが違う感じがするけど・・・・・
もう最初から物理防御結界を発動させた状態で、風の刃を放ちまくればいいや。
枝が落ちてくるのをお構いなしに、風の刃を放ち、枝が綺麗に無くなった。
後は液状化させて木を倒す。いや、倒れない。ああ、そうか。他の立木の枝も払わないと、引っ掛かるのか。
あれ? ここまで倒れてくれれば、【門】を開いて収納してしまえばいいんじゃね?
触手で絡めて【門】の中に放り込む。できた。しかもその場所が開ける。これは便利だ。倒しながらどんどん収納していけばよかったんだ。これでまた効率が上がるぞ。
もう枝払いもせずにそのまま液状化で倒す、倒して収納の繰り返しだ。
領都の方角からなんか飛んできた。またあれだ。トラネコバスだ。今日はアドリアーヌは、お休みなのかな?
山麓の壁で囲った上空を、ぐるりと廻って飛びながら、山頂部の切り開いたところへ降りて来る。なんだか乗っている人数が多いような・・・・・?
ぞろぞろと降りて来る中にウルカヌスやアルテミスまでいる。そうするとあの二人の護衛もついてきているのか。
「ショウ、この短期間にどれだけ工事を進めているのよ。もうまわりが全部、塀で囲われているじゃない。」
「お母様、ショウはどこにいるのですか? 見当たりませんが。」
ウルカヌスがあたりを見回している横で、アルテミスの頭の上が、???になっている。
そうだ、コナンの姿は見せたことがないから、俺がどこにいるのか分からないんだ。
「ああ、そうでしたね。ショウのこの姿は会ったことがありませんでしたね。こちらの筋肉質の方がショウです。」
「え――っ!!」
「この姿では初めましてになりますね。ウルカヌス兄上、アルテミス姉上。」
「・・・・・・どっ、どうすればそんな姿になるのですかっ。」
アルテミスはコナンが怖かったのか、後ずさって離れようとしてるし。
そろそろお昼時だし、コナンは解除しよう。コナンの体への魔力供給を止め、塵となって消えた後に俺が立っているのは、アドリアーヌ達には見慣れた事だけど、この兄と姉、そのお付きの者達は初めて見ることだ。皆一様に、目が飛び出すのではと思われる程に見開かれている。
「どっ、どっ、どちらが本物のショウなんですかっ。」
「そんなに慌てふためいて、貴族らしからぬ振る舞いですよ。ウルカヌス兄上。もちろんこのよちよち歩きの赤ん坊の姿が、本来の私です。」
「じゃあ、さっきの裸の大人の人はなんなのです。」
「あれは私の従魔の姿です。先ほど兄上は、母上の従魔であるトラネコバスに乗ってきましたが、それと同じように私は従魔のコナンに乗れる、と考えて頂ければ理解しやすいと思われます。」
「お母様、私にもできるのでしょうか。」
「ウルカヌスの魔力量ではまだ早いでしょう。無理をさせると魔力欠乏で倒れますよ。」
「でもっ、ショウは・・・・・」
「ショウは私と会う前から、これ以上の魔力を扱っていたのです。私でも止められないのですよ。でもウルカヌスは、魔力訓練が始まっているのじゃなくて? 訓練をしながら徐々に魔力量を増やしていきましょう。」
そんな会話を他所に、アドリアーヌの護衛達がテーブルを出し椅子を出し、食事を並べていく。
「ショウも上品な言葉使いが板についてきたようね。これならアルディーネ様をお迎えしても大丈夫かしら。」
「母上、お任せ下さい。王女様の求婚など、さらりとはねのけて見せますよ。」
「それが怖いのよね。簡単に諦めてくれるのかしら。」
「お食事の用意ができました。」
「ありがとう。さあ、皆さん食事を頂きましょう。」
「あたしも――っ!!」
森の中へ一人でお散歩というか、飛んでいったアシルが、食いそびれちゃいけないとすっ飛んで帰ってきてテーブルに着地した。
最初はびくっとしたアルテミスが、アシルの姿を見て笑顔になる。
「かわいいです。おかあさま、このこはだれなんですか?」
「こちらの方は、女神様の魔力からお生まれになった、本の精霊『アッシュールバニパル』様です。」
即座に答えたのはウルカヌスだ。兄として妹にいいところを見せたかったんだろう。今のでアルテミスのお兄様ポイントがあがってくれたんだろうか。
食事をしながらアシルで盛り上がってる。
「おにいさま、このこに、おあいしたことがあるのですか?」
アルテミスの羨望のまなざし。やったじゃないか、ウルカヌス。お兄様ポイント爆上がりだ。
「あたしの事はアシルって呼んでよ。アルテミス。」
「え? わたくしのことを、しっているのですか?」
「アルテミス、その前にアシル様にご挨拶が先でしょう。」
「そうでした、おかあさま。
こんにちは、はじめまして。アルテミスです。」
「こんちは、ショウの友達のアシルだよ。」
「え、ショウの? わたくしも、おともだちになりたいです。おともだちになってもいいですか? あしるさま。」
「え? もうこうして話してるからお友達だよー。でもあたしの自由を奪おうとする奴は、友達になってあげないからね。」
「えっ、えっ? わ、私も、友達に・・・」
おいおい、ウルカヌスまで友達申請してるぞ。アシルはこの友達申請は受けるのか。
「ウルカヌスは前にお話したから、もうお友達だよっ。」
おお――っ!! アシル神対応。お兄様ポイント下がらずにすんだよ。
で、この兄妹はアシルにまかせて、アドリアーヌだ。何しに来たのか分かってるんだけどね。
「魔法を試しに来たんだよね。」
「あら、理解が早いわね。ショウに作ってもらった【土石震動魔法】の魔石を試さないとね。」
俺があげた魔石はもう腕輪にセットされているようだ。後は魔力を込めるだけだね。
「試すのはいいけど倒す方角に注意してね。大木が人のいるところに倒れると危険だからね。」
そうするわ、と言いながらふとアドリアーヌが話題を変えてきた。
「魔法の前にね、先日騎士団にあがってきた報告で気になることがあったんだけど、『カラードベアー』が討伐されたらしいのよ。一般のハンターが討伐したらしいんだけどね。そのハンターの居場所が分からなくて、その討伐地点が分からないらしいわ。」
「へ~、俺は『熊のぺーさん』と名付けたけど、そんな名前だったんだ。」
「なんでショウが知ってるのよ。」
「俺が土の中に沈めたからね。」
「ショウが討伐したなら、ちゃんと報告しなさいよっ!!」
「え? 魔獣を土に沈めたって言ったよね。」
「カラードベアーだって聞いてないわよっ。めったにいないけどカラードは危険なのよ。ブリザードを纏ったりするのと違って、自らの意思で魔法を放つ事ができる魔獣よ。けものが魔獣化する魔力の澱みがその近くにあるかもしれないのよ。」
「そうすると黄色い熊もいたりするの?」
「黄色の魔獣だって出てくるでしょうね。」
「プーさんですかっ!! 蜂蜜大好きなんですかっ!!」
「何言ってるのよっ。赤や青や緑だって出てくるのよっ!!」
「戦隊ものですかっ!!」
「何、分かんないこと言ってるのよっ!! とっても危険なのよ。
リベルドータ、すぐに騎士団本部に飛んで頂戴。アステリオス様に『カラードベアー』の討伐地点が判明したことを伝えて。それだけでアステリオス様が騎士団を率いて来て下さるわ。」
「承知致しました。」
魔力で従魔を形成し、その背にまたがりリベルドータが飛び去る。
「なんだ、あれ?」
「リベルドータの従魔はグリフォンね。この国には生息していないけど、国境門を超えた他の国にいるらしいわ。
それじゃ、アステリオス様が来るまで【土石震動魔法】ね。」
「カラードが出現して危ないんじゃなかったのっ!!」
「あら、これだけ護衛を引き連れて、ショウまでいるのに危険なんて全くないわよ。一般のハンターや平民達に危害が及ばないように騎士団が動くのよ。」
魔獣の件はどうでもいいらしい。食事のティータイムもそこそこに、【土石震動魔法】を試すことになった。アドリアーヌがそわそわしてるんだよね。
「じゃあ、この木の根のまわりの土に【土石震動魔法】を掛けてみて。地下深くまで震動させると木が沈んでいくからね、木が地表で倒れるように、地表からじわじわと下に震動させていくといいよ。」
「今日はラフターはないのかしら。」
え? 震動で倒して収納のパターンだから、もうラフターは使ってないんだけど・・・ そうか、今日は収納を見たことのないメンバーが来てるし、ラフターで吊って木を扱ぐか。その方が安全だな。
「みんな、後ろに下がって。大きな従魔を出すからね。」
魔力でラフターを形成する。後ろに下がらせた人達から、おおー、とどよめきがあがる。
「お母様っ!! 何なのですか、これは。」
「ショウの従魔でラフターという名前だそうですよ。」
兄妹が驚いてる。そうだ、今日はウルカヌスとアルテミスの兄妹を操縦席に乗せてやろう。操縦席を広めにとり座席をベンチシートにしてと、これなら子供二人が座っても広さは十分だ。
「ウルカヌス、アルテミス、乗れるようになってるけど、乗ってみる?」
「あたしが乗る――っ!!」
アシルが一番乗りで飛んでった。
「ショウ、わたくしものりたいです。」
「私も乗れるのですか。」
「大丈夫、二人が乗れるようにしておいたから。
マーシェリン、二人を操縦席に乗せてあげて。」
マーシェリンが一人ずつ抱いて操縦席に乗せてあげてる。
アウトリガーを最大まで伸ばし、ジャッキを降ろしラフターを水平にする。フックを下げながらブームを立木の先端よりも高いところまで伸ばす。これで魔力の触手でフックと立木をむすび、クレーンに少し負荷を掛けてやれば、後は【土石震動魔法】を発動してやればいい。
「アドリアーヌ、あの吊り上げている木の根元に【土石震動魔法】を使ってみて。」
「分かったわ。」
発動させ液状化した砂の中からズルッと根が浮き上がってくる。後は空き地へ木を吊っていき横に寝かせる。
「凄いわね。あの大きな根が簡単に抜けるのね。」
「でしょー、凄く便利な魔法だと思わない?」
「そうね、でもこの魔法をあちこちで使われたら、砂漠化するんじゃないかしら。」
「そうならないように、土魔法で締め固めておくよ。」
こんな風にね、と言いながら【土石操作】の魔法を発動する。
「アルテミスが大喜びしてるし、まだやるんでしょ。」
ラフターの中でアルテミスとアシルが大騒ぎだ。
「そ、そうね。まだアステリオス様が来ていませんし。」
アドリアーヌも木を扱ぐのが面白かったらしい。
5本ほど立木を引き抜いた頃、領都の方角から何かが飛んできて山頂の空き地に舞い降りてきた。




