63.80㌧ラフター
石壁を最後に創った場所へ転移してきた。ここから先は樹木の伐採工事をやらなきゃ、壁を創って進んでいく事が出来ない。チェーンソーで地道に切り倒していくか。切り倒すにしても俺は樵じゃないんだから、このように伐れば寸分違わずこの方角に倒れる。との神業は持っていない。下手に伐ればあさっての方角に倒れ他の木に寄りかかってしまったり、人のいる方へ倒れたり、自分が下敷きになったりと、とっても危険な仕事だ。
それじゃあ、どうやって安全に切り倒すか。魔力でクレーンを創り、そのクレーンで吊りながら伐るという方法を考えた。吊っていれば、木を伐った後はそのまま吊り上げて保管場所へ運ぶことが出来る。
ただ、伐ったばかりの木材って水分が抜けていなくて思った以上の重量がある。木が伐れた途端にその重量に引っ張られクレーンがひっくり返ったりしないだろうか。という不安は全く持っていない。魔力で創るクレーンだから、地面の中まで魔力で根を張らせて転倒防止策をとる。
しかも、イメージしてるのが80㌧クラスラフタークレーンだ。これだけでかいラフターなら木の一本でひっくり返ることはないでしょう。
壁の内側に確保された平地は、昨日思ってたよりも、割と広くとれていたようだ。その平地の森のすぐ際に、魔力のラフタークレーンを出現させる。
でけーっ!! 驚きのデカさだ。やっぱり俺も男の子だ。デカいマシーンを自在に動かす事に憧れるね。でも俺自身が運転席に座って操縦する訳じゃない。俺からラフターまで魔力ラインをつないでリモコン操縦をする。俺はパワーファイター型のコナンに変身して魔力のチェーンソーを出して木を伐っていく。
「ショウ様、こ、この大きな物は一体何なのでしょう。」
「これは、俺が創った新しい従魔で『ラフター』という名前だ。こいつはよく働くぞ。近くにいると危ないから離れたところで見てた方がいいよ。」
マーシェリンが素直に離れていく。あまりにもデカい従魔の突然の出現に怖かったのかもしれないな。先に注意してあげればよかったな。
ラフターの準備をしよう。アウトリガーを最大まで伸ばして油圧ジャッキで本体の水平を取る。ブームを木のてっぺんの少し上まで伸ばす。フックを降ろしてフックの先から魔力のロープを伸ばし外れないように木の上部にくくりつける。少し吊り上げてクレーンに負荷をかけた状態にする。
次はコナンになった手元にチェーンソーを出現させる。それじゃあ、伐りましょう。普通なら山に響き渡るはずのエンジンの音が全くしない。魔力でチェーンを回転させているからチェーンが木を切っていく音だけが響いている。
ラフターで吊りながら少し横に力をかける感じ、その引っ張られる側に切り込みを入れ次は逆から切り始める。少し傾き始めラフターの負荷を少し強くする。
伐れた。ラフターで少し横に力をかけていたため、吊られたまま宙に浮いた木は引っ張られていた方向へ振られていく。ラフターから見て右の方角だ。そっちに振られないようにラフターのブームを左へ振るのは愚の骨頂だ。振られていく方向、右に向けてブームを僅かに振れば振れていった木がピタリと止まる。慣性の法則で振れている振り子をピタリと止める職人技だ。
伐った木はラフターの後ろの平地に置こう。あ、桟木を用意してなかったぞ。せっかくの木材を地べたに直置きは嫌だよね。
慌てて桟木の代わりに、土魔法で石状の物を地面に浮かび上がらせる。そこへ切った木を置き、まずは一本伐採終了だ。いろいろな準備で時間取られていたけど、木を一本切ってここへ置くまでそれほど時間かかってないんじゃないか。一刻の間に四本ぐらい伐れそうだな。
「ショウ―――――っ!! またあたしを置いてったねーっ!!」
あ、アシルだ。
「置いていったからと言っても、勝手に飛んでこれるんだからいいじゃないか。」
「あんた、だれっ!!」
「ああ、いつもデブリコンしか見てなかったか。これはパワーファイター型のコナンだ。どっちも俺の変身だと思ってくれ。」
「ショウなんだよね。デブリコンよりもかっこいいよ。」
「ありがと。で、何しに来たんだ。邪魔しに来たんなら帰れよ。」
「なんて酷いこと言ってんのさ、こんなとこまで飛んできたのに。それより、これっ!! これ、何なのさ。」
「俺の従魔だ。『ラフター』と呼んでくれ。せっかく来たんだし操縦席に乗せてやるよ。
マーシェリン、アシルと一緒に乗ってみる?」
「乗るっ!! 乗るよっ!!」
アシルが目をキラキラさせながらはしゃいでるところに、マーシェリンが食いついてきた。
「乗るとはどういうことなのでしょう。」
「ここに登ってごらん。ここの扉、横に滑るようになってるからこれを開けると、ほら中に椅子があるんだよ。ここに座っていればまわりがよくみえるでしょ。」
「あたしの椅子は―っ!!」
「アシルがここに座ったら前見えないだろ。前側の窓の所に座ってれば景色がいいぞ。アシルの椅子をそこに作ってやろう。」
魔力でチョイチョイとアシルサイズの椅子をフロントガラスの内側に作ってやった。これは特等席だね。
「ありがとーっ!! ショウっ。これっ、最高だよっ!!」
「じゃ、中で暴れるなよ。マーシェリンは降りたくなったら声を掛けて。」
アシルが何かいたずらしようとしても、操縦席とは名ばかりで何の操作もできないようになってる。全ては俺のリモコン操作だ。
またさっきと同じようにラフターで吊り、木を切る。慣れたせいかあっという間に伐れる。木が伐れるたびにラフターを回転させ後ろに木を置く。
回転するたびに、キャーキャーとアシルの歓声が上がってる。マーシェリンは最初は驚いていたみたいだけど、もう慣れたっぽいな。アシルと同じように笑顔で乗っている。
アシルにまわりをうろちょろされずにすんでよかったよ。一人で仕事に集中していられるから、仕事のはかどり方が全然違うよね。
「ショウ様っ!! ショウ様っ!!」
マーシェリンが叫んでる。そんなに大きな声出さなくても聞こえるよ。エンジンが掛かっている訳じゃない。なんと言っても魔力稼働のラフタークレーンにチェーンソーだ。静かなもんだよね。
「何、マーシェリン。」
「今日はお弁当を用意してきておりませんが、いかが致しましょう。」
「もう、お昼か。もう少し伐ったら城へ帰ろう。」
「かしこまりました。」
今凄く調子に乗ってるんだよね。そうだな後3本だ。3本伐ったら帰ろう。
伐り始めたら、城の方角から何か飛んでる。鳥? まあ何でもいいや。仕事仕事。
木が一本伐れた。ラフターを回した先に大きな物が舞い降りてきた。いや、違う、舞い降りてない。飛び下りた? 着地した? ものは・・・・・ いやいや、それって飛ぶものじゃないでしょ。強いて言えば、跳ぶ? ものかな。
飛び下りてきたアドリア―ヌが叫びながら走り寄る。
「ショウっ!! 何なのよそれは――――っ!!」
「変なものに乗ってきた人に言われたかないですよっ!!」
「へ、変なのじゃありませーんっ。『トラネコバス』ですっ!!」
その『トラネコバス』から護衛達が降りてきている。みな一様に目がまんまるになって口が開いている。
その『トラネコバス』とこの『ラフター』とどっちが変かみんなに聞いてやる。
その前にアドリア―ヌが作業範囲に入ってきている。
「アドリア―ヌ、そんなに近づくと危険だっ。離れろっ。吊り下げた木がすぐ近くに来てるだろっ。」
「え、あ、ごめんなさい。」
アドリア―ヌが慌てて離れる。建設作業中は注意してもらわないといけないよね。立ち入り禁止の立て札たてとかなきゃいけないかな。
吊り下げてあった木を横に倒しラフターを停止させて、アドリア―ヌに話しかける。
「もう近づいてもいいよ。木が積んであるところは危険だからそこは近づかないようにね。それで、何か用だった?」
「その機械は何なのよっ!!」
「俺の従魔だ。『ラフター』と呼んでくれ。」
ラフターからアシルが飛び下りてきた。それに続いてマーシェリンも降りてくる。
「ちょっと、マーシェリンが動かしていたの?」
「いえ、私は座っていただけです。何もしていなくても動いていました。」
「おもしろかったよーっ!! アドリア―ヌも乗せてもらいなよっ。」
「い、いえ、アシル様、私はちょっと、」
「で、何の用だったの。」
「城内にいなかったからここだろうと思ってお弁当を持って出掛けて来たのよ。」
「あ、そうなんだ。食事をしに帰ろうと思ってたんだけどね。助かるよ。」
「それよりも、何なのこれ。」
「だからラフターだって。」
「ショウの従魔の名前じゃなくて、これで何をしてたの。」
「え? 今見てたんじゃないの。荷物を吊り上げて別の場所に移動させるラフタークレーンという機械だよ。切った木をここへ積み上げてるんだ。」
リベルドータを筆頭に護衛達もアドリア―ヌのまわりに控えているんだけど、興味がラフターにいってるもんだから、ブームの先からラフター本体まで上を見たり下を見たり、顔が上下してる。
護衛達のそばから少し離れアドリア―ヌとコソコソ話をし始める。
「俺のラフターにケチを付ける前に、アドリア―ヌのあれも普通じゃないよね。」
「ど、どこが普通じゃないのよ。とても可愛らしいトラネコですよ。」
「某アニメ映画のキャラだよね。」
「ト○ロが大好きだったのよっ!! 従魔を形作る時に『トラネコバス』がぴったりイメージにはまってしまって、それ以外考えられなかったのよっ!!」
「へー、あのアニメが好きだったんだ。」
「いいでしょう。私が好きなんだから。」
「俺も何度か見たよ。蒔いた種を姉妹とト○ロが夜に願掛けみたいなことやってたシーンは覚えてる?」
「覚えてるわっ。あのシーンが大好きなのよ。種から芽が出てあっという間に巨木になるのよね。その後ト○ロにつかまって空を飛ぶ所なんか、幼心に夢にまで見たわ。」
「あ、そうなんだ。でも木ってあんな成長のしかたしないんだよね。」
「何、あなた子供の見た夢にケチ付ける気?」
「いや、ごめん。でも、あそこに生えている木に、地面から1mぐらいの高さに枝が生えてるよね。」
森の手前に小さな若木が生えていた。小さいとはいっても2m以上の高さに育っている。木が生えていればあちらこちらに枝が伸びていくもんだ。で、下から1m程度の高さの枝を指し示す。
「あの木がこの先成長するにしたがってどんどんと上に伸びていくんだけど、あの枝はこの先どうなると思う?」
「木が上へ上へと伸びていくのよ。枝だって同じように上へ上へといくに決まってるじゃない。」
「そう、あの映画のあのシーンではそうやって木が生長するシーンを映し出したけど、現実世界では1mの高さにあるあの枝は、あの木が朽ち果てるまであの高さにあるんだ。上にある枝は新しくできる枝なんだよ。」
「うそ、なんでそんなこと知ってるのよ。」
「世間一般の常識じゃないの?」
「知らないわよっ。どこが常識なのよっ。」
「まあ、常識かどうかは置いといて、せっかくお昼ご飯を持ってきてくれたんだから、ご飯にしようよ。」
「え、そうね。リベルドータ、お願いするわ。」
アドリア―ヌがお買い物袋をリベルドータに渡してる。ちゃんと異空間収納を使ってるじゃないか。
使い方をしっかり教えてあるようで、リベルドータは何の迷いもなく『門』を開き中身を出している。椅子やテーブルまで出てきた。他の3人はそれを受け取り、テーブルと椅子を置き、食べ物が入った容器やポット、食器類を置いていく。俺専用椅子まで出てきたのにはびっくりした。アドリア―ヌ、なかなか気が利くじゃないか。
コナンを解除して専用の椅子に座る。隣にアドリア―ヌが来た。イブリーナが食事を俺の前においてくれる。スープと柔らかく煮込んだ食事だ。
「今日のお昼はきっとショウも懐かしがるわよ。やっぱり外でのお弁当はこれよね。でもショウにはまだこれは早いから、そのご飯ね。」
そんなことを言いながら前に置かれたバスケットを開けるアドリア―ヌ。その瞬間、体がビクッと硬直し指先が震え始める。
落ち着けっ。あれはもう恐怖の対象じゃない。もう過去の事なんだ。
どんなに自分自身に言い聞かせても、恐怖が甦る。
「どうしたのよ。涙なんか流して。そんなに食べたかったの? このおにぎり。」
知らぬ間に涙まで流れ落ちていたようだ。口から漏れ出る嗚咽、止まらず流れ落ちる涙。
「ショウ様、どうされました。どこか痛いところでも、」
心配そうに覗き込んできたマーシェリンに飛びつき、胸に顔を埋め声を殺して泣き続ける。顔が痛いでしょうと、革の胸当てを外してくれたマーシェリンがありがたい。
「ショウ様、大丈夫です。もう何も怖いことはありません。ずっと私がおそばについています。
アドリア―ヌ様、申し訳ありません。ショウ様が落ち着くまで二人で離れます。」
「ええ、その方がいいわね。マーシェリン、お願いするわ。」




