62.人身御供ですかっ!!
自室のベッドで目が覚める。朝か。マーシェリンが横にいた。
「おはようございます。」
「おはよう。あれ? 何やってたっけ。」
「昨日は西の山で、」
「あーっ、そうか。壁を作ってたっけ。俺、意識トんだけど、どうやって帰ってきたの?」 「私が抱いてペガサスで帰ってきました。」
そうだ、マーシェリンだって従魔で飛んでいけるんだった。
「ありがとう。助かったよ。」
「ショウ様のためなら何でも致します。でも、ペガサスで帰ってきたのをアドリア―ヌ様がお知りになりまして、いろいろと聞かれました。ショウ様がお目覚めになりましたらお話があるとおっしゃっておりました。」
「ええー、またなんか文句言われるのかな。アドリア―ヌの許可は取ったのに。」
しょうがない、またお小言もらいに行きましょう。
「じゃあ、執務室へ出頭しようか。」
「いえ、アドリア―ヌ様は今日はお休みらしいので、こちらへいらして下さるそうです。お呼びしてよろしいでしょうか。」
「怒られるなら、さっさと怒られよう。」
程なくアドリア―ヌとマーシェリンが連れ立ってやってきた。マーシェリンは朝食をのせたワゴンを押している。
「朝食にしようとしてた所だったのよ。丁度よかったわ。一緒に朝食を頂きましょう。」
「ええー、俺怒られるんじゃないの。怒るんなら食事前に済ましてよ。」
「怒ることは一つだけよ。それじゃあ、先に言っておくわね。西の山を見てきたわ。あれだけの物を一日で作ってしまうなんて凄いわね。だけどね、ショウは何考えてるのっ!! 倒れるまで魔力を使い続けるなんてっ!! ショウの周りにいる人達がどれだけ心配するか分かってやってるのっ!!」
「あ、ああー、ごめんなさい。でもそんなに魔力を使ってたとは思ってなかったんだよ。多分魔力使用が原因じゃなくて、俺の体がまだ小さいから疲労が出たと思うんだ。疲れて寝ただけだよ。」
「疲れて寝たって、ショウはまだ赤ちゃんなのよ。一歳にも満たない赤ちゃんが疲れて倒れるまで働くっておかしくない? 私は今ショウがやってる事を止めなきゃいけないんだけど、止めてもやめないんでしょうね。」
「ええー、やめろって言われたら断固抗議するっ。」
「やっぱりやめるつもりはないようね。しょうがないから許可はするわ。でも、約束して。一日ずっと働き続けないこと。半日だけなら許可するわ。」
「は、半日ですか・・・・・ しょうがない、それで手を打とう。」
「約束よ。マーシェリンにもそれを守らせるわ。分かったかしら、マーシェリン。」
「かしこまりました。」
「はい、怒るのはここまでね。後は食事を頂きましょう。ショウのご飯は少し固めの物にしてみたわ。これからだんだんと普通の食事に近づけていきましょう。」
怒るのは終わったみたいだ。だけどまだ何かありそうな含みを持たせたしゃべり方だな。なんかやな感じーっ。
お? 今までの離乳食に比べて歯ごたえがある。これは微妙に生え始めた歯をしっかり使わないといけないな。
食事をしながら最初の話題に上がったことは、
「ショウは王宮から帰ってくる時に、アルディーネ様に遊びに伺いますと約束してきたらしいわね。」
その話が出てきたかーっ。
「遊びに来てくれないって、アルディーネ様が嘆いていらっしゃっるらしいわよ。」
社交辞令っすよ、そんなものは。
「何か言いなさいよ。」
なにもコメントできねー。
「アルディーネ様が婚約者にして欲しいって、おっしゃっているらしいわよ。」
「丁重にお断り致しましたよっ!!」
「あら、そうなの。じゃあ、アルディーネ様がいらっしゃった時にもう一度自分で断ってね。」
「何しに来るんだよ。」
「ショウに会いに来るに決まってるじゃない。」
「何の用事があるんだよ。そもそも王女様がそう簡単に出歩いていいの?」
「護衛も侍女も連れてくるし、当日にはアンジェリータ様もいらっしゃるって連絡があったわ。」
「当日って、何の当日なのさっ!!」
「ショウのお誕生日に決まってるじゃない。いつなのか問い合わせがあったわ。」
「え?・・・・・・・・ 逃げていい?」
「そんなことしたら、王家との関係がこじれたりするから、許さないわよ。今、王家とはいい関係なのよ。」
「俺は、王家との良好な関係を保つための人身御供ですかっ!!」
「そんなことはしないわ。アルディーネ様の婚約者に、って言われても二つ返事で承諾はしてないし、私だってショウを手放したくはないしね。でも、ショウはいつかは出て行くとは思うんだけど、それまでは私の子供として育てたいわ。」
「放っといても子供は勝手に育ちますよっ!! 俺はもう一人でも生きていけるよっ!!」
「一人で生きていくのもいいけど、その前にショウには教育が必要よ。」
「勉強なんかいらないよ。」
「教本を元にした座学だけが勉強じゃないの。ショウには貴族としての所作、言葉使いをきっちり覚えてもらわないといけないわ。」
「貴族になんかならないよっ。」
「ここから出ていくことを止めようとはしないわ。でも、ショウ・アレクサンドル・テルヴェリカとして生きていきなさい。領主の一族としての名前があれば、ショウの能力が欲しくて、力押しであなたを利用しようとする者はいないと思うわ。」
俺がここにとどまらない事を前提で、色々考えてくれてるんだ。ここまで考えてくれてるんだから、言うこと聞いておくか。でもなー、所作や言葉使いって、今更だけどアドリア―ヌを、お母様と呼べって? なんかきもちわりーよ。母上ぐらいならいいかな。
「分かったよ。俺の事を考えてくれて、ありがとう。」
「あら、素直になったじゃない。いつもそれだけ素直なら助かるのにね。それじゃ、あなたの教育係にヴァネッサを付けるわ。知らない人じゃないから安心でしょ。」
明日から午前中は貴族としてのお勉強になったらしい。午後もやるみたいな話になりそうだったけど、断固として拒否した。だって半日は山での作業の許可をもらってるんだからね。
食後のお茶を飲みながらアドリア―ヌとの会話が続くんだけど、早く山へ行きたいな。
「先日の約束を覚えてる?」
「お休みの日に【建築物創造】の魔法を教えてくれるって話だったよね。」
「ええ、ちゃんと覚えてたわね。今日はその魔法を教えてあげるわ。」
「その魔法に関して確認したいんだけど【魔力精製】【魔力放出】【読込】【建築物創造】【魔力固定】この流れで魔法は完成する?」
「え? そ、そうね、五つよ。五つの魔石にそれぞれ魔法円が記録されてるわ。」
異空間収納から複写した紙を取り出してテーブルの上に置く。その中の【土石創造】をよけた4枚をアドリア―ヌに指し示す。
「この4枚が【魔力精製】【魔力放出】【読込】【魔力固定】の魔法円、そしてこっちの1枚が【土石創造】、おそらくこの世界の地形を創造した魔法円なんだと思う。」
「こんなもの・・・・・・・ どこから・・・」
「原初の女神の書庫にあった。【建築物創造】の基になっているんじゃないかな。この五つの魔法円を組み合わせて一つの魔法円に纏めた物が【地形創造】として本に載ってたんだけど、【地形創造】はあまり必要性を感じなかったから複写していないんだ。」
試しに【魔力固定】をやってみよう。
テーブルの上に魔力を放出してアシルを作ってみた。この程度なら図面なんかいらない。そこへ【魔力固定】の魔法円を展開、魔力を込め固定。アシル1/1スケールフィギュアのできあがりだ。
「こんな感じじゃない?」
「・・・・・そ、そうね・・・・・」
「なんだか、反応が薄いね。もっと大きなフィギュアがよかった?」
「違うわよっ!! 何も教えていないのに何で出来るのよっ!! 宝物庫に厳重に保管されている魔石、それにに記された魔法円を使わないと出来ない事なのよ。」
「その魔石に魔法円を記したのは、原初の女神の眷属候補だと思うよ。誰の仕事かは分からないけど、あの書庫に入って魔法円を研究したんだろうね。あの書庫の魔法円は人が普通に扱える代物じゃないから、人が扱えるように規模を縮小させたり効果を減衰させたりした魔法円が、今この世界で当たり前のように使われてる魔法円だと思うよ。」
「眷属・・・・・候補? 神々がこの世界の魔法を?・・・・・ それなら、ショウも書庫の魔法円を研究して、何か新しい魔法を生み出せるの?」
「異空間収納を創ってあげたでしょ。あれを公表するか隠しておくかはアドリア―ヌ次第だよ。」
「それは・・・・・ それ以外には何か出来ないの?」
「赤ん坊に何をやらせようとしてんの。俺は忙しいんだよ。あまり仕事を押しつけられても困るよ。」
「それは、そうだけど・・・・・ 気が向いたらでいいの。書庫の魔法円の研究をして欲しいわ。」
「分かった。気が向いたらね。その紙に複写した魔法円はどうする?」
「頂けるのかしら。」
「いいよ。でも【土石創造】は規模を大きくして発動すると危険だからね。」
「使わないわよ。原初の女神様の魔法円として宝物庫の奥底に保管しておくわ。」
「そうだね、人目に触れない方がいいかも。」
原初の女神が組んだであろう魔法円、その複写を手に入れたことでアドリア―ヌはにこやかに帰って行った。機嫌が良くなっても明日からのお勉強の免除はされなかった。
アドリア―ヌとの約束で、半日と言われていた工事を昼過ぎから行こうと思ってたんだけど、もうそろそろお昼時だ。ちょっと早いけど行ってもいいよね。
「マーシェリン、山へ行くよ。早く着替えないと置いてくよ。」
「アドリア―ヌ様に控えるように言われてるのではないですか。」
「控えて半日ぐらいということになったんだよ。」
「そうでしたか。すぐに着替えて参ります。」
アシルはどこかへお出掛けのようだし、今日はマーシェリンと二人だけでいいか。
マーシェリンが着替えを終えて部屋へ入ってくる。転移円を展開し山の麓へ転移。




