61.土木工事
俺のお出掛けの準備は、デブリコンになるだけだ。あっという間に準備は出来る。
転移円を展開する。転移先は西の街道から北へ外れた所がいいだろうな。山の麓あたりでいいか。
「じゃあ、転移円を展開するから近くに寄って。」
マーシェリンが俺に寄り添い、アシルはデブリコンの肩の上に座る。
意識を山の麓に飛ばしてあたりをうかがえば、小動物の気配ぐらいで人の気配は無さそうだ。魔獣の気配も感じられない。よし、ここに転移しよう。
その場に転移円を展開し魔力を込めれば俺の本体とマーシェリン、アシルが転移してくる。
目の前の山、それほど大きな山ではない。ここであの勘定のしかたが生きるね。これは東京ドーム五個分の高さでしょうか。
それが正確に五個分なのか分からない。四個分だろうが六個分だろうがどーでもいいんだ。大体このくらいか、と想像できればいいだけなんだよ。それを何百個分とか言われたら想像出来なかったな。
で、この山も【地形創造】で作られた山なんだろう。街道側は平原になっていて、丘のように地面のうねりは見えるが、何故ここにだけ山が・・・・・ どこかから土を運んできて積み上げたんじゃないのかと思われるような山だ。
【地形創造】が図面通りに創造されるとしたら、図面の中に間違って線が入ったのに気付きませんでした。そんな感じの山だね。
この山を自由に使わせてもらえるんだから、どーでもいいんだけどね。
まずは、魔獣の侵入を防げるような壁を作ろう。山には木々が鬱蒼と生い茂っている。麓から街道までは森が広がらないように伐採されているようだ。それじゃあ、この伐採されてるあたりを境に壁を作ろう。
壁は【土石創造】で創るという手もあるんだけど、今回はあえて土魔法にしようと思う。【土石創造】は魔力で創った壁を【魔力固定】で固定する。ただそこに壁が出来るだけだ。しかし、土魔法で壁を作ろうとした場合その壁に使用される分の土をどこからか調達しないといけなくなる。壁を作る外側から調達することによって、外敵の侵入を防ぐための堀ができ、そこに近くを流れる川を引っ張ってこれば・・・・・ 堀に水を張って、お魚釣りが出来るのでは?
うん、素晴らしい計画だ。みんなにもお魚釣りを勧めてみよう。
「ここからこの山の麓に沿って、山を囲う壁を作ろうと思うんだけど、マーシェリンはどうする?」
「ご一緒します。」
「あたしも行くよっ!!」
土魔法の魔法円を展開する。土石操作魔法と呼んだ方がしっくりするな。この魔法円は土壁を作って防御をするための魔法だった。それをいじって石壁と言ってもいい程の強度を持たせる事に成功した。
今度はその石壁のサイズ変更だ。高さは10m、厚みは2mぐらいでいいかな。そうすると外堀は幅5mの深さ4mって所なんだけど、土を石状に圧縮かけるから必要な土の体積は計算よりもっと必要になってくる。足らない分は山側の土で賄うことにしよう。少なくなった分の土は後で【土石創造】で土を増やせばいいや。堀の対岸が崩れないようにそっちも圧縮かけないといけないな。いや、待てよそこまでの高い壁だからL型の壁にしないと強度が足らないぞ。石壁側と対岸を両方L型構造か。
いっそのこと石壁、堀の底も対岸も一体構造にすれば強度はとれるんじゃないか。よし、決まりだ。あと重要なことは、壁に水抜きの穴を付けておかないといけないな。この水抜き穴が無かったことで、崩壊する土留め壁もあるくらいだ。
魔法円のデータ変更がすんで、後はこの魔法円に魔力を注ぎながら歩いて行けば勝手に石壁と堀が出来ていく・・・・・ はずだ。
物は試しだ。魔力を込めてみた。おおーっ、凄いぞ。堀の土がどんどん削られ石壁が出来上がっていく。
石壁と堀が出来ていくのを見ながら、魔法円と共に歩き続ける。デブリコンでゆっくりめの歩調で歩くぐらいだ。
どのくらい歩いたんだろう。300mぐらいか? 山の南側から西側に廻ってきたけど、森に阻まれてこれ以上進めなくなった。ここから先は木々の伐採をしないといけないな。伐採は後回しで最初の所に戻ろう。そこから逆回りで石壁を作ろう。
「ショウ、もうお昼だよー。」
「昼か。それじゃあ、休憩にするか。」
「デブリコンさん、それでは、敷物を用意します。ここでよろしいでしょうか。」
「最初の所へ戻ろう。ここは森から魔獣や猛獣が出てくるかもしれないしね。」
マーシェリンが嬉しそうに敷物を敷き、用意してきたお弁当を広げている。
外でのお食事は開放感もあって気分もウキウキするよね。これからもっとアウトドアライフを計画してあげようか。バーベキューコンロを作ってみようかな。みんなでバーベキューパーティーもいいかもしれないね。 ・・・・・俺が食べる物が無いか・・・
デブリコンを解除して、本来の姿に戻る。デブリコンだと食事しにくいんだよね。
「ショウ、あんたはあんだけの魔力使って大丈夫なの? 突然倒れたりしない?」
「これくらいなら、何の問題も無いな。ため込んでる魔力を放出してるだけだし。」
現実にそこにある物を変形させているだけだしね、思った程の魔力放出量では無かったな。後で山側の減った分の土を『土石創造』で作ろうと思うんだけど、その魔力消費量のほうが大きいんだと思う。
でも、その前にやることがいっぱいある。まず石壁で囲う事なんだけど、森の中を抜けて石壁を作っていく事になる。石壁の前に樹木の伐採抜根をしないといけないな。
現地査察に来て突然着工したけど、これだけの大工事はもっと綿密なプランを立てたりしなきゃいけなかったか? 図面を作ったり、工程表を作ったり・・・・・
まあいいか、魔力量には自信があるから俺の魔力量でゴリ押ししてしまおう。
食事も済んでお弁当の後片付けをマーシェリンがやってくれている。
その間にこの石壁の前に立て札を立てておこう。
⦅ここでの工事はテルヴェリカ領領主アドリア―ヌ・テルヴェリカの許可を受け行われています。この工事に関してのお問い合わせはテルヴェリカ領領主までお願いします。⦆
これで大丈夫、領主様に苦情を言ってくる奴もいないだろう。
右回りで作り始めた石壁の最初の所を、堀はつなげるんだけど石壁は出入り用の門を作るために開けておかなきゃいけない。どのくらい開けておこうか。4間ぐらいでいいか。7mぐらいかな? そこに木製の門を作ろう。
あと、壁で囲う中に平地も欲しい。材木の製材施設や乾燥施設を作りたい。山の麓沿いに囲ってしまうと、中側は山の斜面しかなくなるからね。領都側に平地部分を確保して、そちら側にも出入りの門を作ろう。
先に4間の間の堀だけを作り、その4間離れたところからまた石壁と堀が一体化したものを作り始める。
しまった―――――っ!! すぐに気がついた。右回りで堀が外側だったのが左回りでは堀が内側に出来てしまった。大失敗だ。やり出す前に気づけよっ!!
普通に土魔法を発動させる時には魔法円の文字を組み替えるようなことはないんだけど、今回のように延々と同じ物を連続で作り続ける場合には、魔法円を組み替える方が手間と魔力消費量が大幅に節約できるんだよね。
しょうがない、逆向きの魔法円に組み直そう。
今度は間違いなく外側の堀になって石壁と一緒に築造されていく。このまま山から離れて平地部分を石壁の中に確保しよう。
東に向かって作っていた石壁を徐々に北向きになるように歩いて行く。真北を向く頃に、このあたりにもう一つ門を作ろうと4間程度の壁の切れ目を作り、その先から石壁を作り始める。
東回りで森の木々の所まで進んできたあたりで、日の傾き具合がそろそろアノブロスの初刻を廻った頃合いではないかとうかがえる。
「ショウー、おやつにしようよー。」
ちょうど作業もキリになったし、休憩にするか。ここからは樹木の伐採根抜だな。
森から離れてマーシェリンがお茶の用意を始める。その横にショウの姿に戻って敷物の上に座る。
おやつって何を出してるんだ? 白いプルンプルンした感じの、ババロアっぽい物を出してきた。
ちょっと待て。そろそろ冬も間近に迫ってきているのに、そんな物を食べたら体冷えるんじゃないの? 暖かい部屋の中で食べるんならともかく、季節を考えろよ。
「これは料理長が進めてくれたお菓子なのですが、ババロアという物だそうです。」
「アドリア―ヌ発案だよね、それっ。そんなの食べたら体冷えちゃうよっ。俺はいらないよ。」
「じゃあ、あたしが食べるっ。ショウの分ももらっていい?」
「どうぞ、好きなだけ食べてくれ。アシルなら寒いとかの感覚はないよね。」
「うん、大丈夫だよ。」
「申し訳ございません。そのようなお菓子だとは知らずに持ってきてしまいました。」
「料理長も、まさか外で食べるとは思ってなかったんだろうね。」
「ところで、随分と気温が下がってきているけど、季節は冬に向かっているんだよね。」
「はい、もう二月もすれば初冬ですね。」
「俺がマーシェリンと初めて会った時、あのイクスブルク領はすごい豪雪だったけど、テルヴェリカ領も雪は降るんだよね。」
「イクスブルク領ほど酷い雪は降らないはずですよ。だから冬の間も平民達は外仕事は出来ると聞いています。イクスブルク領では平民達は豪雪の時期になると家の中に閉じこもります。地方の村ではそれぞれの家庭が単体で冬を越せないので、大きな家に食料を持ち寄り皆で寄り添いながら生活をしています。」
そうだったのか。雪が降り始めていた頃、生まれたばかりの俺が馬に引かせた荷車に乗せられ移動してたのは、冬の間の集団生活の場へ行く途中だったのか。俺を生んでくれた母親は元気にしてるんだろうか。あの時猛獣の中へ飛び込んで子供を助けられなかった事をずっと悔やんでるかもしれない。俺がもう少し大きくなったら会いに行ってみよう。あの時の子供は元気だよって、伝えてあげたい。
あ、でも他の人達には知られないようにしないといけないかな。へたにイクスブルク領領主にそんな話が上がったら、うちの領民を帰せとか、テルヴェリカ領に文句言ってくるかもしれないしね。
「ショウ様、どうされました?」
「あ、物思いにふけってたんだ。あの豪雪のイクスブルク領を、よく生き抜いたなと思って。」
「本当でございます。何の装備も無く備蓄食料さえも無く、生き延びられるのです。やはりショウ様は神になられるおかたではないでしょうか。」
「へー、ショウって神様になるんだ。そんときはあたしも連れてってよ。」
「なりませんよっ!! そんなものっ!!」
なんでこいつらまで神の眷属を推してくるんだ。原初の女神の意識操作にでもかかってるんじゃないか?
「もう、休憩おしまい。」
さっさと立ち上がって作業を開始しようとして・・・・・ そのままマーシェリンに向かって倒れ込む。
ヤバい、意識がトぶ、転移しなきゃ・・・・・・・




