60.【魔力固定】
ん? 朝だ。あれ? アドリア―ヌの執務室で夕食食べた記憶がある。そのあとは?・・・・・ 寝落ちしたか・・・ ちょっと待て。その前の話は何か重要な話をしていたはずだ。なんの話だった?
そうだっ!! 西の山の自由使用許可。他には、建築物創造魔法。
建築物創造の魔法円に関しては、隠し書庫の書物の中にあるのかな。それなら脳内図書館で探せばいいんだけど・・・・・
マーシェリンが起こしに来るまで探してみるか。
自らの意識を、深く深く記憶の中に沈めていく。地下の円形の部屋・・・・・ そして、原初の女神の魔法円の部屋。
よしっ、うまくいった。さて、どこから探そうか。原初の女神はこの空間を創った後に天地創造を行ったんだろうと思う。そこへ人も創造したのか、あるいはルーナレータに管理をまかせた世界から移住させたのか。移住させたのなら、その人々に住まう場所を提供するか住む家を作る技術を与えるのではないかと思われる。
そのように考えれば【世界の運営】の書物からそれほど遠くない書棚に保管されているんじゃないかな。【世界の運営】だけが別格の、他の本とは違う棚が作られている。その本だけがでかいんだ。そのでかい本のまわりの普通サイズの本、普通サイズと言っても羊皮紙を閉じた本だから割と大きめなんだけど。それらの背表紙のタイトルからそれっぽい物を探すんだけど・・・・・ 腹減った。先に朝メシにしよう。
脳内図書館から現実に向かって、意識を覚醒させる。
「お目覚めですか。食堂へ行かれますか。それともこちらへお運び致しましょうか。」
なんだ、マーシェリン起きてたのか。だったら先に朝メシにすればよかったな。
「今日はここで食べるよ。」
「かしこまりました。こちらへお運び致します。」
「あたしもっ!!」
「おおぅ、アシル、いつからいたんだ。」
「それでは、アシル様の分もお運びしますね。」
マーシェリンが部屋を出て行く。以前には、護衛だからおそばを離れません、なんて事を言って一人にするようなことはなかったのに、俺が目覚めていれば一人でも大丈夫と、思うようになってきたみたいだ。
「アシルは最近一人で何処か出歩いてるみたいだけど、騒ぎとか起こしてないよね。」
「騒ぎなんか起こさないよ。あたしはショウとは違うよ。」
「ぐ・・・・・ 」
確かに俺のまわりではいろいろと騒ぎが起きているけど、騒ぎを起こしたいと思って行動してる訳じゃないからね。まわりが騒ぎすぎなんだよ。そう、俺のせいではないことにしておこう。
「騒ぎが起きてるかどうかは、まあいいや。どこ行ってたんだよ。」
「東の海を見に行ったり、ずっと続く街道を西へ西へ向かったり、あちこちの村を覗いたり、すっごく楽しいよ。」
「驚いたね。この領主城の中を飛び回ってるだけかと思ってたのに、そんなに行動範囲が広くなってたんだ。」
「迷って帰れなくなったら困るから、最初はあまり遠くには行かなかったんだけどね、街道沿いに行って帰りもその街道で帰ってこれば、迷わないんだ。」
「俺なんかよりも、よっぽど出歩いてるじゃないか。俺が連れていかなくても、もうよさそうだな。」
「嫌だよ、ショウの行くとこに行きたいよ。」
「朝メシの後に捜し物をして、その後に出掛けようかと思ってる。」
俺の襟首に飛びついてきた。
「どこっ、どこへ行くの?!」
「そんな慌てても、すぐには行かないぞ。それと面白くはないと思うからね。山を見に行くだけだから。」
「山って、ハンティング?」
「魔獣や猛獣がいたら狩るかも知れないけど、やりたいことは土木工事の下見だな。」
「土木工事って、今度は何を始めるつもりなのさ。」
「この街を出て街道沿いに西に向かえば、街道から北へ外れた所に小高い山があるだろ。アドリア―ヌにあそこの自由使用の許可をもらったから、山のてっぺんに建築物を建造する。」
「家、家を作るんだね。そこにあたしも住んでいいかな。」
「アシルはどこに住むのも自由だよ。」
「ありがとうー、ショウーッ。」
マーシェリンが食事を届けてくれた。三人でテーブルに着き食事をする。この部屋にも俺専用の椅子は用意されていて、食事には全く困らない。
三者三様の食事が並んでいる。マーシェリンはごく普通の朝食。俺は離乳食。アシルはマーシェリンの食事を4分の1ぐらいに少なくした物を特性スプーンを使って食べている。俺が木から削り出し作ってあげた小さなスプーンだ。
「ねえ、マーシェリンもショウと一緒に行くの。」
「え、どちらへですか。」
「まだマーシェリンには言ってないよ。
昨日アドリア―ヌが西の山を使っていいって言ってたろ。それを見に行くんだ。」
「もちろん、私もお供致しますよ。」
「それじゃ、ハンティングの時の武器と防具で行くからね。ついでにお弁当の用意もしといて。」
「かしこまりました。」
マーシェリンが食事の後片付けをしてる間、またベッドに仰向けにになる。
「ショウ、捜し物じゃなかったの。あたしも手伝うから、何を探すの?」
「建築物創造の魔法円を探しているんだ。頭の中に入ってると思うんだけどね。そうだ、アシルに手伝いをお願いしようかな。」
「え、なになに。何でもやるよ。」
異空間収納から普通紙の束を取り出し、横へ置く。
「目をつぶっている時に、俺の手に魔法円が浮かび上がったことがあったろ。」
「王宮で寝てた時だよね。」
「今回も魔法円が浮かぶから、俺の手に紙をあてがって欲しいんだ。」
「うんわかった、まかせて。」
「一枚では終わらないと思うから、魔法円が浮かぶたびに、新しい紙をあてがってね。」
もう一度深く記憶の中に沈み込み、原初の女神の魔法円の部屋へたどり着く。さっきまで探していた【世界の運営】のあたりからもう一度背表紙のタイトルを確認していく。
【地形創造】なんていうタイトルがあった。しかし建築物創造らしいタイトル、それに近いかもしれないような物はヒットしない。
しょうがない、【地形創造】を開いてみよう。【地形創造】なんて大仰なタイトル付けてるけど所詮は土魔法の上位版なんじゃないかな。あまり期待は持たないようにしよう。
土魔法の上位版どころではないっ!! 【世界の運営】程ではないが、とんでもなく複雑な魔法円だ。複雑すぎる上に細かすぎて分からない。他の頁にこれを分解した物がありそうだ。
頁をめくれば【魔力精製】【魔力放出】、なんでいきなり魔力関連の魔法円なんだ? 俺は魔法円がなくても自在に扱えてるし、関係はないか。
次の頁を開く。絵だ。上から見た地形図なのか? 横から見た起伏が分かる図面らしい絵。もう一つ斜め上方から眺めたらしい絵。
多分適当に、ここに山が欲しい、こっちには山脈ね、湖や川を作るために土をへこませましょう、川が流れ込む先の海は深く作りましょう、なんて事を考えながら書き殴ったような、お粗末な手書きの絵っぽい。
ま、まあ、しょうがない。パソコンや3Dキャドがあった訳じゃないんだから。でも、なんで絵?
平面図、側面図、鳥瞰図、それらの図面がここに載っているということは、この魔法にはこの図面が重要な役割を担っているんだろう。図面の次の頁には【読込】・・・・・
次の頁へ移れば【土石創造】・・・ え? 魔力で土や石を創るって? 土や石を操作するんじゃなくて魔力で創り出す? それって魔力供給を止めたら塵になって消えてしまうんじゃないの? 何か消えない方法でもあるのか? 魔力が消えない方法、それを探して最後の頁。
出た―――――っ!! 【魔力固定】
魔力の、精製、放出、創造、そして固定。
この世界の全ては、原初の女神の魔力で創造し、固定化された物だったのか。
この手順を踏めば【建築物創造】も出来るよな。
だけどこの魔法円、このままだとそう簡単に人が扱えないな。それにこの書庫に入れた人間は限られているはずだ。
原初の女神の眷属達が、眷属になる前の生きているうちに、この書庫の魔法円を研究して、人々が使えるような魔法円に簡略化したのかも。
そうすると、今この世界で使われている魔法は全てここの書庫の魔法円が元になっているのか。でも、魔法の研究者が作った魔法もあるらしいし、全てがそうとばかりも言えないのかな。
【地形創造】の流れは分かった。【魔力精製】【魔力放出】、作っておいた図面の【読込】、読み込んだデータを元に魔力で【土石創造】魔力で創られた物を【魔力固定】で物体として留める。こんなところか。
【土石創造】を少しいじれば【建築物創造】もこの流れでそのまま出来そうだな。
【地形創造】に魔力を込めて、また事故が起きたりするのも嫌だから、これはやめておこう。【魔力精製】【魔力放出】【読込】【土石創造】【魔力固定】この五つの魔法円を複写していこう。
一つ一つゆっくりと複写の魔法で写し取れば、アシルが俺の手に浮かぶ魔法円に紙をあてがってくれているはずだ。
深い記憶の中から自らの意識を覚醒させる。もしスキューバダイビングの経験があったなら、海面に向かって浮かび上がる感覚に似ているのかもしれない。自分の意識が記憶の圧力から抜け出ていく感じがする。
ふっと、目を開ければ、心配そうなマーシェリンとアシルの顔が。
「長いよ、ショウ。半刻ぐらい目を覚まさなかったんだよ。」
「ああ、そんなに経ってたんだ。でも、捜し物は見つかったよ。見守っていてくれてありがとう。」
「ちゃんと紙に写しといたよ。」
「ありがとう、それはまた後で見直そう。」
魔法円を複写した紙と残った紙を収納する。
マーシェリンはすでにお出掛けの準備が整っている。ハンティング用の武器防具を身につけ、腰には異空間収納のウエストバッグも付けている。
「その中にお弁当を入れてあるの?」
「はい。いろいろ入れて参りました。これは凄く便利です。でも、アドリア―ヌ様が他の護衛騎士には持たせないとおっしゃっていました。私もお返しした方がよろしいでしょうか。」
「マーシェリンはアドリア―ヌの許可が出たんだから、持ってていいよ。でも人に見られないようにね。」
「は、はい、かしこまりました。」
「で、いろいろと何を入れてきたの。」
「ショウ様の離乳食とミルクのポット、アシル様と私のお弁当、水袋、食事の時に下に敷く敷物、・・・ あ、そうです、ちゃんとおやつも用意致しました。」
「遠足ですかっ!!」
「そ、その、えんそくとは何でしょうか。」
「ショウ、何言ってんのさ。おやつは必要だよ。」
「あ、いや、気にするな。ほっといてくれ。」
「放っとけないよ。あたしはおやつは欲しいよっ!!」
「欲しいかいらないかで言ったら、いらないよっ!! どうせ俺は食えないしっ!!」
「待って下さい。ショウ様も召し上がれる物を作って頂きました。」
ほんとに俺でも食えるのか。逆に俺が飲んでるヤギのお乳を、アシルはおいしくないって言ったよね。そういう味覚の違いをおまえ達はわかってんのかいっ!!
「あ、そう。もうそんな些細なことはいいから、さっさと出掛けようよ。」
「うん、早く行こうよ。」
「あの、やはりおやつはおいていきましょうか。」
「だめだよっ!! マーシェリンッ。あたしは許さないよっ!!」
「どーでもいいよっ!!」




