59.りゅうべい、ってなんなのよっ
「この異空間収納はどうやって使うの?」
「その袋を開いて中に魔法円が二つある。【空間】と【門】だ。【空間】を直接開くかとが出来ないから【門】の魔法円で開閉をして物の出し入れを行う。その袋は容量がでかいから、【空間】を維持する魔石を5個付けてある。魔力の消耗具合をみて魔力充填をしてね。【門】の魔法円は魔力消費は少ないだろうと思って魔石は1個。【空間】の魔石の魔力量が【空間】を維持できない所まで減ると、それを感知して【門】が開くようにしてるから注意してね。中身が一気に出るからね。」
「そんな危険な物なの? 中身が出ないようには出来ないの?」
「え、大事な物を入れていて、魔力切れで次元の狭間に消え失せました、って事になったら、悲しいことになっちゃうよ。いいの?」
「それは困るわ。」
「中身を全部ぶちまけないように、常に魔力残量を確認することだね。」
アドリア―ヌが【門】を開いて、目の前のティーカップの受け皿を入れたり、書棚の本を入れたりした後、袋の中に触手を突っ込んで顔をしかめる。
「これ、どうやって出すのよ。」
「魔力の触手で中を探って、入っている物を確認して取り出してみて。」
「へー。」
魔力の触手で中を探っているようだ。でも、やけに時間掛かってるよね。そんなにたくさんの物を入れてるわけでも無いのに。
「どれだけの大きさなのよ。もの凄く中が広いわよ。」
そうか、中の広さを探ってたのか。
マーシェリンはずっと黙って聞いてるけど、ここから先は日本語でしゃべっておいた方がいいかな。
「マーシェリンの持ってるバッグが百石、アドリア―ヌのその袋が八百石。」
突然日本語に変わった俺をちらっと見たアドリア―ヌは動ずることもなく会話を続ける。
「こく?」
「うん。」
「聞いたことないわ。どこの言葉よ。」
「日本語ですよっ!! 失礼なっ!!」
「江戸時代の加賀百万石とかの石の事を言ってるのかしら。」
「ああ、それは米の量を数える時の単位だな。俺が言ってるのは材木の体積の単位だ。」
「分かんないわよ。どのくらいの大きさなのよ。」
「百石が10尺×10尺×10尺、八百石が20尺×20尺×20尺の立方体だ。」
「余計に分かんないわよっ!! メートル換算してよっ!!」
「大体でいい? 10尺は正確には3.03mなんだけど、3mぐらいの立方体と考えて計算すれば、27立米ぐらいだな。八百石は216立米ぐらいだ。」
「3mの立方体が27㎥だというのは分かったけど、『りゅうべい』ってなんなのよっ!! 聞いたことないわよっ!!」
「そうか、そこから説明か。昔っから日本人って、言葉を省きたがるんだよ。㎥を漢字で書くと、立・方・米って書くんだけど、方を省いちゃったんだよね。立米と書いてりゅうべいと読むようになったんじゃないかな。ちなみに平米は面積の単位、平方メートルだ。」
「そんなのいつの言葉だったのよ。」
「普通にみんな使ってたぞ。逆に、なんで知らないのか不思議だよ。」
「業界用語じゃないの。」
「あ、そうかも。」
そういやそうだ。建設業界で多用されてたかな?
「ショウがさっき使った異次元収納はどのくらいの量が入るのよ。」
「あ、それは~・・・・・ あれはその収納袋とは別物と考えてくれ。」
「何ごまかそうとしてるのよ。正直に言いなさい。」
アドリア―ヌの圧が強まった。こえー・・・・・
国がすっぽり入りますよ、なんて正直に言って信じるんだろうか。
「凄くたくさん。」
「そのたくさんはどのくらいなのか言ってみなさい。」
「そうだ、紙に書いてあげるよ。」
『四億七千百万立方粁』
「また何かごまかそうと、分からない文字を書いて。何この米千て、見たことないわ。素直に説明しなさい。」
「米はメートル、米が千あるとどうなる?」
「え? 1mが千あれば1kmよ。え、まさか、471,000,000㎦? 数字が大きすぎて見当も付かないわ。私が昔聞いた東京ドーム何個分とかには・・・」
「いや、おかしいだろ。東京ドームの体積がどんだけあったのか知らないけど、それを換算できたとして大きさが理解出来るの。」
「いえ、凄くたくさんあると感じるわ。」
「だから、俺が言った凄くたくさん、で納得すればよかったんだよ。」
「そんないい加減な話で納得できないわよ。どのくらいと考えればいいのよ。」
「東京ドームで数えることが自体がとんでもなくいい加減だよっ!! 簡単に言えば、原初の女神が創り出したこの空間、今俺達が暮らしてるこの世界と同じサイズだ。」
実際には人々が暮らす世界の上に、巨大な『原初の女神』の領域が載っているんだけどね。そんな説明をしても余計に混乱を招きそうだし、話すのはやめておこう。
「そんなっ・・・・・ そんな物を維持する魔力を、あなたはずっと供給し続ける事が出来るの?」
東京ドーム何個分のいい加減さをスルーしたぞ。確か面積は47反ぐらいだったかな?
「維持できそうのない物だったら廃棄処分にするつもりだったんだけどね、大丈夫そうだったからまだ今も使ってる。」
さすがに魔力ゼロですとは言えないな。
「どれだけの魔力消費をしているのよっ。そもそも、なんでそんな大きな物を創ったのよ。」
「サイズ確認をしなかったんだよ。うっかりしてたんだ。」
「そんな物を創るのにどれだけの魔力を動かしたの。最近ではそんな大きな魔力の動きは感じられなかったわ。」
「ああ、隠し書庫で創ったからね。あそこはこの空間とはまた違う別次元の空間みたいだから、何かする時にはあそこでやれば騒ぎにはならないかなと思って。」
「呆れたわね。そんな理由であの書庫を利用するなんて。原初の女神様のお怒りに触れたりしないのかしら。」
「この世界に引きこもって、【門】でつないだ他の世界の管理は眷属任せの放任主義なんだよ。地べたを這いずっている人間ごときが何かやらかしても、気にもとめないんじゃないの。」
前にも考えたけど、原初の女神はこんな世界を創造して何がしたかったのか。もし俺が眷属になったらそれが理解出来るんだろうか。でも女神の眷属だなんて絶対なりたくないよね。自らの存在が消えるまで、ずーっとこき使われるんじゃないか。今はまだ赤ん坊だから、死ぬまでにはまだ猶予はある。その間に眷属認定から逃れられる手段を探してみよう。生きてるうちにいろいろな経験をして、眷属になってもいいか、とか考えが変わる事もあるだろうし。
「この異空間収納はどれだけの数を創ったの。」
考え事をしていたら突然しゃべりかけられ、現実に引き戻される。
「え? あー、マーシェリンが腰に付けてるバッグ型が後4個、買い物袋型の小さいのが1個だね。」
多分取り上げるつもりで聞いてるんだろう。背負い袋は内緒にしておこう。
「その残りは全部私が買い上げるわ。大金貨5枚でどうかしら。」
「取り上げるつもりじゃなかったの?」
「取り上げたりはしないわ。ただ、これ以外には創らないと約束して。そのための大金貨5枚よ。」
創らせないための条件か。全部あげるつもりで創ってたからお金にするつもりはなかった。
お金をくれると言っても『あなたの将来のために貯金よ。』とか言って俺の手元に渡されることはない。それだったら別の条件を付けてみようか。駄目と言われたら諦めるし、その我が儘が通ったら、それはそれで楽しめるかも。
「分かった。約束するよ。でも、金貨はいらない。その代わりにこの街の西門から出てしばらく行った先に小高い丘というか、ちょっとした山というか、そこを自由に使わせて欲しいんだけど。」
「お金の代わりの交換条件がおかしくない? 一体何に使おうというのよ。使途不明だと許可出来ないわよ。」
「あそこのてっぺんに家を建てたら見晴らしがいいだろうな、と思ったんだよ。」
「家って、ショウが建てるの? まだ建築物創造の魔法は知らないでしょう。」
「なんですと―――っ!! 建築物創造ってそんな魔法があるんですか―――っ!!」
「ほら、知らないんじゃない。王族、領主一族にしか教えられない魔法なのよ。教えられたとしても使える者は限られるわ。魔力消費が大きいのよ。でもショウなら何の問題も無いわね。」
「教えてくれるの?」
「貴族学院の王族、領主一族の教育プログラムに組み込まれているんだけど、ショウなら見るだけで理解しそうね。私の次のお休みの時に教えてあげるわ。」
「じゃあ、あの山の使用は認めてくれるんだね。」
「家を作るぐらいならいいわよ。でも建築物創造の魔法も知らなくてどうやって家を建てようと思ったのよ。大工さんじゃあるまいし。」
「大工さんでしたよっ!! 家建ててましたよっ!!」
「ええーっ!!・・・・・ い、いえ、そんなこともあるのね。気をつけてね。木がうっそうと生い茂って魔獣や猛獣が出るわよ。騎士団にあのあたりの討伐をさせましょうか。」
「いや、何もしなくてもいいよ。ハンターの獲物が減っちゃうからね。それと、あの山の木を伐採していい? 桧や杉、あすなろ系の樹木が多いみたいだから、構造材に使えるんだよね。手入れしてないから節だらけの木肌になるけどね。」
そんなこんなで、山の使用許可をアドリア―ヌから取り付けた。異空間収納からウエストバッグ4個と買い物袋を取り出しアドリア―ヌに渡して、食事に行こうとしたら扉がノックされる。
「リベルドータです。まだお時間が掛かりそうでしたので、こちらへお食事をお持ちしました。」
「あら、ありがとう。入って。」
俺とマーシェリンの分までワゴンに乗ってる。帰ろうと思ってたのにまだ帰れないのかよ。
運ばれてきた食事を見比べれば、スープに肉にパン、サラダ・・・ 美味しそうな香りを放っている。俺の前に置かれたカップには、柔らかく煮込んだ穀物なんだろうね。ドロンとした・・・・・ 宇宙食ですかっ!! 他の奴らがおいしそうな物を食べてる横で宇宙食みたいな物をすすってるのは悲しくなってくるね。赤ん坊は皆、こんな悲しい食事に耐えていたのか。歯も生えてないんだからしょうがないっちゃーしょうがないんだけどね。でも、上顎の歯茎に舌でさわると引っかかりがある。前歯が生え始めてるんじゃないか。これで歯が生え揃ってくれれば、もっと堅い物を食べれるね。頑張れ、俺。もう少しの辛抱だ。
「ショウ、離乳食を始めたけど、どうかしら。おいしい?」
「そんなおいしそうな物を食べてる人に言われてもね~。アドリア―ヌがこれを見ておいしそうに見えるかどうか。」
「普通の赤ちゃんは言葉を理解して話すようなことがないでしょう。だからウルカヌスやアルテミスには聞いたことはなかったけど、ショウは理解してるから聞いてみたのよ。でもその返事じゃあまりおいしくは無さそうね。」
「味が薄いんだよ。まあ、味を濃くされたら赤ん坊のうちから成人病の心配しなきゃいけないけどね。」
「それは、一流の料理人に作らせているんですもの。ちゃんと健康のことも考えて作ってくれているのよ。」
うん、これだけ栄養のことを考え健康に気を遣って作ってくれる食事に文句言ったら、バチがあたるよね。ありがたく頂きましょう。




