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56.その設定、もういいんじゃない

 今日こそは、快適な朝を迎えたみたいだ。朝日が気持ちいい。腹も減った。しかし、朝食にはまだ早いようだ。


 「おはよう。夕べはまた何処かへお出掛けだったわね。なんであたしも連れていってくれなかったのさ。」


 いつの間にかアシルが横にいた。置いて行かれてご立腹のようだ。でも一人で勝手に何処かに行ってたよな。


 「夕べは、いなかったじゃないか。どこへ行ってたんだよ。」

 「マーシェリンに、ショウと一緒にどこへ行ったのか問いただされるんだもん。避難してたんだよ。」

 「ああ、そうか、ごめん。俺が口止めしたんだったね。言わないでくれてありがとう。」

 「そっ、そんな、お礼なんか言われても・・・・・  一緒に行きたかっただけだし。」

 「またあの書庫へ行ってきただけだよ。それほど面白いことをしてきた訳じゃ無いしね。でも次は一緒に連れてくよ。」


 次に出掛ける時の約束をしたら、アシルのご機嫌もよくなった。今日は平民街に出掛けようかと思ってるんだよね。腰袋や背負い袋があれば欲しいなと思ってるんだけど、イメージ通りの物があるかな。ポットを入れていた革袋が爆散してしまったからね。あの手作り感満載の革袋も気に入ってたんだけど、もっと格好のいい物を探してこよう。

 そういえば、昨日のポットはどうなったんだろう。違う場所に来ても取り出せるんだろうか。収納した場所でなければ取り出せないなんて事は無いだろうね。もしそんな不便な魔法だったら廃棄処分だよね。

 【(ゲート)】を開いてみる。何の問題も無く開く。魔力の触手を突っ込んでみれば・・・・・  おおーっ、内部の触手につながり、ポットをつかんでる感覚がある。取りだそうとすればポーンとポットが飛び出てきた。こ、これは、大成功と言っていいんじゃないか。収納する時には、触手でつかんで放り込みそのまま【門】を閉じれば内部の触手が時間停止のまま残っている。

 【門】を開いて触手を突っ込めば、その触手につながって取り出す時に何が入ってるのかが分かる。

 これって複数の収納物があっても、それぞれに何が入っているのか分かるのだろうか。

 試しに部屋の中にある物をいくつか放り込んでみた。閉じられた【門】をもう一度開き触手を突っ込んでみる。おおっ、触手が掴んでいる感覚が全て分かる。最初から入っていたポット、この部屋にあった椅子、ソファー、テーブル、それら全ての物を触手の先に何を掴んでいるのか把握できる。

 取り出すときには全てがまとまって出てくるのではなく、一つ一つ分類して必要な物だけを取り出す事ができた。


 こ、これはっ!! 凄く便利なとんでも空間を手に入れてしまったぞ。大変満足ができる結果になった。

 ポットは机の上にでも置いとこう。マーシェリンが気がついて洗っておいてくれるでしょう。


 でも、この収納空間はアドリア―ヌには内緒にした方がいいかな。もっと容量の小さい収納バッグみたいのを作ってあげよう。その程度なら簡単に作れそうだし、魔道具として魔石での使用ができるんじゃないかな。

 あの巨大空間を創り上げるのには膨大な魔力量を必要とするから、アドリア―ヌが創ろうとしても無理だろう。


 それにしても腹が減った。マーシェリンが起きてくるのを待たなくても、勝手に食堂へ行って何か作ってもらおう。

 ベッドからおりて歩き出したらアシルが付いてくる。付いてきてもいいんだけど、人に見られると騒ぎが起きるから姿は消しといてもらわないと。


 「俺は食事に行くんだから、付いてくるんなら姿消しといてね。」


 体力も向上して自分なりにはスタスタと歩いているつもりなんだけど、まわりの景色の流れ具合を見ていると・・・・・   (はた)()にはヨチヨチにしか見えないんだろうな。


 食堂が遠い。魔力を纏ってコナンやデブリコンになればいいんだけど、今は体の成長の一番最初の段階にあるからね、極力自分の体を動かして体力向上に務めないと。ただでさえ乳幼児はポッコリおなかになってるからね。内臓脂肪を大事にため込んでるおっさんのおなかみたいで嫌だよね。

 ようやく、食堂の入口が見えてきた。朝も早いうちからチラホラと子供達が朝食を摂りにやってきている。アドリア―ヌがテルヴェリカ領内から領主城へ集めて学習をさせてる子供達だね。貴族学院就学前の子供達で全ての子が集まってる訳ではないと言ってたな。

 この子供達は、やけに朝早いけどいつもこんなに早くから行動しているのか? ん? いつも俺が遅いだけで、普通の人はこのくらいの時間には活動を始めているものなのかな


 「おはようございます。ショウ様。マーシェリン様はいらっしゃらないのでしょうか。私がお抱き致しましょうか。」


 ウルカヌスよりも年上の体付きもがっちりした男の子だ。いつもマーシェリンに抱かれているから、気を利かしてくれたみたいだ。


 「ありがとう。テーブルまでは一人で歩くよ。でも椅子に座る時はお願いしようかな。」 「はい。何でもお申し付けください。あの、同じテーブルで食事をさせて頂いてもよろしいでしょうか。」

 「どうぞ、君は誰だっけ。」

 「申し遅れました。イブリーナ・ギリストスの弟、バーミリオンと申します。いつも姉がお世話になっております。」


 テーブルまで歩いてきたらバーミリオンがひょいと俺を抱え上げ、俺専用の椅子に座らせてくれた。

 最初にここで食事をした時には、大人用の椅子を子供が使えるようにと用意されていた子供用座布団を3枚も重ねて座ってたもんだから、かなり不安定に見えたらしく、(きゆう)(きよ)専用椅子を作ったらしい。実際には座布団3枚は俺の魔力でしっかり固定してたから、俺自身は何も不安は無かったんだけどね。

 ウルカヌスやアルテミスは、領主家族専用区画に食堂があって、そっちには子供用の椅子が用意されている。そっちに行って食事すればいいじゃん、と言われるかもしれないが、食事時間が不定期で好きな時間に食べに来るには、厨房が横にある食堂がとても具合がいい。料理人さえいればすぐに飯を作ってくれるからね。

 マーシェリンも同じような理由で俺の食事はここに連れてくるんだよね。


 「ショウ様のお食事を作って頂けるよう、料理人に申し付けてまいります。しばしお待ちください。」

 「うん、頼むよ。」


 それほど待たされることも無く、バーミリオンの朝食と俺専用の離乳食が運ばれてきた。 こうやって子供椅子に座って手の届く所に器があれば、魔力の触手など出さなくても、ちゃんと自分の手でスプーンを使って食べれるんだ。では、頂きまーす。の前にフーフーしないとね。熱くてやけどしちゃうよ。


 「姉が、『ショウ様はとても賢いお方です。機会があれば話しかけてみるといいですよ。』と言っていました。こんなに早くその機会が来るとは思ってもみませんでしたが、本当に普通の会話ができるのですね。」

 「そりゃあもう、言葉を覚えるために本を読みまくったからね。ここまで頑張りましたよ、俺は。」

 「それは凄いですね。普通の赤ちゃんは自ら本を読みませんよ。ショウ様が貴族学院へ進んだ時には、創立以来の天才ともてはやされますね。」

 「そこはお勉強をしに行くとこだよね。もう俺が必要とする知識は、おおかた頭に入ってるから行かなくても問題は無いね。」

 「いえ、ショウ様がこの先貴族として、このテルヴェリカ領を支えて行くにあたって、貴族学院での他領の方々との対人関係を築くのは、非常に重要な事です。」

 「いえいえ、俺は領を支えたくもないし、ドロドロの対人関係を築きたくもないね。」

 「ドロドロとは・・・」

 「相手の立場が上ならおべっかを言って取り入ったり、下と見れば強権発動で頭を押さえつけるような態度になったり、同程度の力関係でもおべっか言って腹の探り合いとかするんだろう。」

 「そ、そこまで酷い人は・・・・・  いないと思います。」

 「言い淀むって事は、もうすでに心当たりがあるんじゃないの? そんな中で生きてくのは窮屈で俺には耐えられないよ。」


 マーシェリンが来た。ようやく目が覚めたか。


 「ショウ様、申し訳ありません。お食事をしたかったのなら私にお申し付けくだされば、お連れいたしましたのですが。」

 「昨日は夜遅かったし、気持ちよく寝てるのを起こすのも悪いかなと思って。」

 「私はショウ様の護衛騎士です。どこへでもお供致します。」

 「城内は危険はないよ。外へ行く時は声を掛けるよ。」

 「城内でも、小さなお子様の一人歩きは危険です。今もこちらの方に助けて頂いたのでしょう。

 ショウ様を助けて頂きありがとうございます。」

 「マーシェリン様、私はショウ様とお話をしたかったのです。助けたつもりはありませんし、ショウ様はもう何でもご自分でできるようです。少し離れて見守ったほうがよろしいかと思います。」

 「お、バーミリオン、いいこと言うね。まだ10歳にもなってないのに姉さんよりもしっかりしてるんじゃないか。

 マーシェリンは世話を焼きすぎるんだよ。俺のことは少し放っときなさい。」

 「アドリア―ヌ様に、ショウ様から目を離すなときつく申し付けられております。」

 「ここでアドリア―ヌが出てくるか? しょうがない、あまり無茶も言えないか。」


 食事も済んだし部屋へ戻ってお出掛けの準備をしよう。


 「じゃ、バーミリオン、勉強頑張ってね。」


 部屋へ戻る(みち)(すがら)、マーシェリンに注意される。


 「あまり他のお子様達とはお話にならないほうが、よろしいのではないですか。知能が高いのは秘密だったはずでは。」

 「その設定、もういいんじゃない? 一人で城内歩き回ってれば、誰かしら話しかけてくるし。」

 「先程のお子様はお知り合いだったのですか。なんだか親しげにお話をされていたようですが。」

 「イブリーナの弟のバーミリオンだって言ってたよ。イブリーナに俺のことを聞いてるんじゃないかな。」

 「イブリーナも人には話さないように言われているはずなのですが。アドリア―ヌ様がなんとおっしゃるでしょう。後で口止めしておきましょう。」


 アドリア―ヌは反対するのかな? でもそのことを知ってる人はだんだん増えてきてるし、人の口に戸は立てられない、って言うからね。いつの間にか広まってるんじゃないかな。


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