57.お買い物・・・ 散財だ
「今日は買い物に行きたいんだ。平民の服で出掛けよう。」
「どちらへお出掛けですか。」
「革袋が無くなったから、代わりになるような袋が欲しいんだよね。」
「それでは、今すぐに着替えて参ります。」
マーシェリンの機嫌が良くなった。平民街へ行ったりハンティングに行ったりするのはマーシェリンも楽しいらしい。自分から行きましょう、とは言ってこないけどね。誘えば上機嫌になるんだ。
「お待たせしました。」
「今日は街中を歩くんだから、剣はいらないでしょう。それと、女の子なんだからスカートにすれば。普通の町娘はスカートですよっ。」
マーシェリンはいつも剣を腰に吊してるから、スカートを履く機会が無いんだよね。少しは女の子らしくおしゃれをしたいとか思わないのかね。
俺の準備はデブリコンになるだけだから簡単だよね。
「ショウ、いつも思うんだけど、そのデブリコンはカッコ悪いよ。もっとカッコいい男の人になれば。」
「いやいや、カッコ悪いのに最強っていうのが男のロマンなんだよ。アシルにはまだまだ理解出来ないんだろうな。」
「そんな理屈、わかんないよっ。」
「で、当然アシルもついてくるんだよな。」
「当たり前じゃない。何か美味しい者を食べに行くんでしょ。」
「違うだろ。お買い物だよ。アシルはおとなしく消えててくれれば、何処かの食べ物屋さんへ連れてってあげないこともない。」
「おとなしくしてるよっ。いつも街中ではおとなしくしてるじゃない。」
「うん、わかった。何処かで食事をしよう。」
「お待たせ致しました。」
「マーシェリンのスカート姿はいつ見ても新鮮だよね。」
「でも、足元がスースーして心許ないです。」
「女の子らしくて可愛いよ。」
「そ、そんな・・・ 女の子らしいだなんて・・・ 」
頬を染めてうつむくマーシェリン。でも、いつも思ってるんだけど、マーシェリンは綺麗な顔立ちに大人の女性になる前の幼さを少し残した感じで、まだ可愛い女の子としてのおしゃれが合うと思うんだ。だけど本人はしゃれっ気が無いのと常に動きやすさを優先させるから、ズボン姿しか見ないんだよね。こんなスカートはマーシェリンは自分では買わないから、二人で出掛ける時に俺が買ってくるんだよね。今日も服屋さんに行ってみようかな。
「お金は持ったよね。では、出掛けよう。」
ハンターとしての収入があるから、ある程度は蓄えがある。アドリア―ヌに見つかると『赤ちゃんにお金はいらないでしょう。』と言って取り上げられるから、しっかり隠しておかないといけないんだけど。
取り上げられるといっても、貯金しといてくれるらしい。この先お金は入り用になると言ってたし。
まわりに人がいないのを確認して、ハンターギルドの裏口、人目の無さそうな所へ転移する。
どんな店で買い物をすればいいのか、受付嬢に聞いてみよう。表口に回って扉をくぐれば、中は閑散としてる。こんな時間は皆ハンティングに出てるから、ギルド職員がいるだけだよね。受付嬢に向かって歩いて行ったら、すぐに気がついて挨拶してきた。
「こんにちは、デブリコンさん。今日はハンティングの格好ではないですね。」
「ああ、買い物に行きたいんだ。どんな店に行けばいいか教えてくれないかな。」
「何をお買いになりたいのですか。」
「いろいろと小道具を持ち運べるような、背負い袋や腰袋が欲しいんだよね。」
「ハンターの方々が持ち運ぶような物なら、武器防具を扱ってる店に置いてありますよ。おしゃれな袋が欲しかったら、商店街の雑貨屋か服飾店ですね。そちらはハンティングにはお勧めできませんね。」
「丈夫な物が欲しかったら武器防具店か。ありがとう、行ってみるよ。」
武器防具店なら、ハンターギルドの建物からすぐ近くだ。マーシェリンの武器防具を買いに行ったな。あの店にそんな物が置いてあったのか。
歩いて程なく店に着いた。扉をくぐれば、うん、武器防具屋だ。最初に目につくのは革製の手甲、胸当て、脛当て。さすがにハンター達は重い金属鎧を好まないから、革製防具しか置いてない。他には一般的な武器類、割と弓矢が好まれてるみたいだ。そりゃそうだよね。狩猟なんだから、飛び道具で遠くから攻撃して弱ったところを近づいて、とどめを刺すよね。俺たちみたいに猛獣や魔獣に突撃してガチバトルするハンターはいないんだよね。それでも、ばったり鉢合わせした時には近接戦は避けられないけど。
「いらっしゃい、デブリコンさん。今日はマーサさんの防具ですか。」
「俺のこと、覚えてくれてたんだ。」
「女の子がハンターをやるって、防具を特注した人を忘れる訳がないでしょう。」
そうだった。女性用胸当てを、特別に作らせたんだった。ハンターって男ばかりで女性用防具って無かったんだった。このおかみさんには無理言ったんだよね。作ってくれたのは職人さんだけど。
「今日は背負い袋とか腰袋が欲しくて、見に来たんだ。」
「それならこちらに置いてありますよ。」
しっかりしたリュックサックみたいな物があるけど、これはでかすぎだ。もっと小さい物を探せば、いいサイズのがあった。これなら背負ったままでも剣を振るのに邪魔にならないだろう。
腰袋を手に取ってみた。デザイン的にはウエストバッグと言っていい。ベルトにバッグが固定されて、そのベルトには短剣の鞘や水筒を下げれるようになってる。
「これは新製品です。ハンターの皆さんの意見を取り入れて、作ってみました。」
「いいね、これ。水筒入れはいらないけど短剣の鞘を付けたのを一個と何もついてない腰袋を欲しいんだけど、いくつある?」
「まだ作り始めたばかりの商品で、10個ぐらいでしょうか。」
「じゃ、全部欲しい。」
「ちょっ、ちょっとお待ちください。」
あわてて奥の部屋へ入った。全部売ってもいいか店主に相談するのかな? 奥から店主が出てきた。
「他にも欲しがってるハンターが何人かいるんですよ。全部は勘弁してもらえませんか。」
「じゃ、半分でいいや。5個出せる?」
「ええ、大丈夫です。他にもご入り用でしたら、すぐに職人に作らせておきます。次回寄って頂いた時には欲しい数を用意しておきますよ。」
「それはいいや。今日はその腰袋を5個と、この背負い袋を一つ、買ってくよ。それと短剣を一本だね。」
お金を払って店を出る。俺とマーシェリンで腰袋を一個ずつ、マーシェリンには短剣を装備させる。残りの腰袋を詰め込んで膨れた背負い袋を背負って、食事のできそうな店を探す。食事と言っても、マーシェリンとアシルだけなんだよね。離乳食を作ってくれとはたのみにくいから、俺はホットミルクだ。
まだ昼時には少し早い時間帯で食堂はすいていた。奥まった壁際のテーブルを選び、テーブルの上に背負い袋をドンと置く。そうすればその陰でアシルが姿を現しても人目につくこともないだろう。
この店はメニューみたいな物は無いのか? 壁にもお品書きが貼られてはいないし。店のおばちゃんがやってくる。
「初めてのお客さんだね。うちは昼のセット一種類しかやってないけどいいかい?」
「そうなんだ。じゃあ、二人分頼むよ。一つは子供が食べるような小盛りでいいからね。それと人肌ぐらいのミルクを頼めるかな。」
「なんだい、赤ちゃんでもいるみたいじゃないか。」
「俺は猫舌なんだよ。」
「シチューが出るけど、熱いから気をつけとくれよ。」
「ああ、気をつけるよ。」
面倒見のいい女将さん、って感じのおばちゃんだな。これでメシがうまかったらまた来てもいいかな。俺は食えないけどね。
湯気の上がるシチューとパン、サラダが運ばれてきた。カップのミルクも受け取り、これは陰でコソッと哺乳瓶に移し替え、デブリコンの腹の中へ。
背負い袋の陰でアシルがシチューに飛びつこうとしてるけど。
「アシル、ちょっと待て。熱いんだから気をつけろよ。」
「分かってるよ。冷ましながら食べるから大丈夫だよ。」
「デブリコンさん、領主城の料理人の食事も美味しいのですが、この店の味付けはひと味違ってなかなかに美味しいです。」
「それは良かった。俺も早く大きくなって、食べに来よう。」
「申し訳ありません。私だけが食事を楽しんでしまいました。」
「いや、構わないさ。アシルも食事を楽しんでるし、俺ももうちょっと大きくなれば一緒に食べれるよ。」
離乳食を始めてるし、もう一ヶ月ぐらいで普通の食事ができるようになるかな。早くみんなと一緒に食卓を囲みたいね。いつも一人だけ別メニューは寂しいしね。
マーシェリンもアシルも食事は満足できたようだ。俺もミルクでおなかがふくれたし、後は服屋さんによって帰るだけだな。そろそろ混み合う時間になってきたようだ。席が埋まっていく。お金を払ってさっさと出よう。
食堂を出てぶらぶらと散策しながら商店街に向かう。
お、ここは前に来た事がある紙専門店だ。あの時の厚紙はまだ売れ残っているのかな。まだあるようなら買っていこう。店に寄ってみれば以前と同じ人が店番をしてる。多分この人が店主なんだろうね。
「こんちは。前に厚紙を買ったんだけど覚えてる?」
「いらっしゃい。ああ、あの時のお客さんですか。」
「あの時の厚紙はまだ残ってる?」
「ええ、全く売れなくてまだありますよ。全部買ってくれるんならお安くしときますよ。」
「前には100枚で金貨2枚って言ってたよね。いくらにしてくれるの。」
「後98枚残ってるんですが、金貨1枚と小金貨2枚、これが限界です。」
「それでいいよ、買おう。他には普通に使えるような紙も欲しいな。」
「それはどちらかへお届け致しましょうか。」
「いや、持って帰るからこのテーブルの上にのせてくれ。」
「一人で持ち運べるような重量じゃないですよ。」
「大丈夫、今日は持ち帰る算段はついている。」
テーブルの上にドサッドサッと積み上げられていく厚紙と普通紙。店主もマーシェリンも心配そうな目を向けてくる。店主に金貨を渡しておつりをとりに奥の部屋へ入った隙を狙って、【門】展開、紙を魔力の触手で包み【門】に放り込む。テーブルの上に積まれた紙は綺麗に消え失せた。マーシェリンがびっくりしてるけど、ポットを入れたり出したりを見てたでしょう。
店主がおつりを持って戻ってきたけど、無くなっていることに気付かず、
「どうもありがとうございます。でもどうやってお持ち帰りするんですか。」
「もう、持っていったからいいよ。」
「えっ? ええ―――っ!!」
テーブル上が綺麗さっぱり何も無くなっている事に気付いて驚いているのを尻目に、さっさと店を出る。
「じゃ、また紙が欲しくなったら来るよ。」
さて、次はマーシェリンの服を見に行こう。
服屋さんによって女性服をみると、男性用よりも数多く置かれていることがうかがえる。どんな世界でも女の子はおしゃれに気を遣うんだね。
マーシェリンを引っ張って女性服コーナーを歩く。
マーシェリンのサイズに合いそうな服を探して肩にあてて・・・・・ うん、いいんじゃない。長袖で踝までのワンピースだ。後は上着をみよう。そろそろ寒くなってくる時期らしいから、暖かい物が欲しいよね。綿が入ったブルゾンがあった。よし、これに決定。
そのまま店内を歩いていたら、子供服があった。平民が着る子供服も買っていこう。今俺が着てるのって、アルテミスのお下がりのベビー服なんだよね。もっと大きくなれば、ウルカヌスのお下がりも着れるようになると思うけど、このまま行くとアルテミスのスカートを履かせられる可能性もあるぞ。それだけは勘弁して欲しい。
子供服を見繕って、半袖長袖一着づつ、短パン長ズボン一本づつ、よし、これで精算しよう。
店番の女の子の所まで行って、品物を机にのせる。
「商品のお持ち帰りに、こちらのお買い物袋も一緒にいかがですか?」
一緒にポテトもいかがですか、みたいなノリで袋を勧められた。机の横の商品棚には布製の袋が大中小とサイズ違いで置かれている。肩から下げれる大きい袋を手に取ってみると厚手の布を使ってあって思ったよりも丈夫そうだ。
「これいいね。この袋も一緒に頼むよ。」
「ありがとうございまーすっ。たくさん買って頂けるので、こちらの小さい袋をおまけしときまーすっ。」
「ああ、ありがと。」
元気のいい娘だ。元気がいいと気持ちいいね。また来ようって気になる。
買った物を全部袋に詰め込んで手渡され、
「お子様もいるんですね。今度来る時はお子様も一緒に来て下さいね。」
いや、俺が着るんだよ、などと言ったら変質者認定されそうだ。余分なことは言わずにお金を払って店を出る。
色々と余分な物まで買ってしまったな。またお金を稼がないといけない。もうこれ以上散財しないようにさっさと帰ろう。
ハンターギルドの裏口で、転移円を発動させ自室に戻る。




