48.三竦みですかっ!!
でかい本が並んでいる中に、ひときわ分厚い本が目を引く。羊皮紙の本だから厚さの割にページ数は少ないんだろうけど。これって、人が持ち上げるとか考えて作ってないよね。
魔力の触手を伸ばし、その本を取り出して床に降ろす。
「ちょっとーっ、ショウッ、なんなのそれっ。超便利じゃないっ!!」
「アシル、図書館では静かに。」
「誰もいないんだから、いいじゃない。それより、それ何、それ何。モガッモガッ、」
「魔力で作った触手だ。こうやって、うるさいやつの口を塞ぐことも出来る。」
モガモガしてたアシルが、口を塞いでいた触手を外してまくし立てる。
「ひどいじゃないっ!! あたしはあんた達を案内してあげてるのよっ!! もっと大事に扱いなさいよっ!!」
「あんまりうるさいと、縛り付けて天井からつるしといてもいいんだぞ。」
「ひっ・・・ ご、ごめんなさい。」
ギロッとにらみつけたら、本気度が伝わったようで、おとなしくなった。うん、図書館では静かにっ!! だよね。
本を開いて最初のページを見ると、魔法円だ。魔法円の文字が見えない。下に書いてあるのは、この魔法円のタイトルか? 頭の中で文字が変換される。【世界の運営】・・・・・ おおーっ、 こっ、この部屋の書物も読めるようにしてくれたのかっ!! 原初の女神様、ありがとうございますっ!!
世界の運営とは・・・? 天空の魔法円じゃないのか、これ。あの巨大な魔法円を縮小したから、文字なんか判別できなくなっているだろうね。
次のページは・・・ 【空間】 まさか、次元の狭間に空間を創る魔法円か? これは覚えたい。でも、頭の中に入っていそうな気もするんだよね。後で落ち着いたときにでも、ゆっくり検証してみよう。
さて、次のページは、日の運行。次は月の運行。星の運行、海の干満、天候・・・・・ 自然が織りなす現象が、次々に出てくる。これらが全て、あの天空の魔法円に組み込まれているのだろう。
次元の狭間に創られたこの空間は、自然現象も全て、原初の女神の魔法で成り立っているのか。
「ショウ、その本に集中してるみたいだけど、内容は理解出来てるの。」
「ああ、分かるよ。」
「ショウ、ここの本も翻訳をたのめるかしら。」
「それは、断る。ここの本に載っている魔法円は、人が扱える物じゃない。中には、世界を崩壊させるような魔法円があるかもだしね。」
「あたしが読めないのに、なんでショウが読めるのよっ!!」
「原初の女神にその知識をもらったからな。」
「あ、あたしだって読みたいのに。」
「さて、アドリア―ヌ、そろそろ帰らないと図書館閉められるんじゃないか?」
「そうね、行きましょうか。」
「まっ、待ってよ。また来てくれるの?」
「いや、ここでの用はもう無いと思うから、もう来ないと思う。」
アシルの目から大粒の涙がこぼれ始めた。
「あたっ、あたしはっ、寂しくなんて無いんだからねっ。今までだってずっと一人だったんだから、これからもずっと一人でいるんだっ。」
「なんだ、寂しかったのか。一緒に行くか?」
パァっと明るい笑顔になったのもつかの間、すぐに泣き顔に戻った。
「あたしはっ、ここから出られないんだっ。今まで何度出ようと思ったか、ショウには分かんないでしょっ。」
「え? なんで出られないのさ。」
「あたし一人じゃ転移出来ないし、今までにも連れていってくれるって言った人がいたけど、あたしだけ弾き飛ばされて、転移出来ないんだよ。」
「あ、そうなんだ。アシルだけが転移出来ない・・・ なんでなんだろう。この空間にある、女神の魔力の持ち出し禁止みたいなものか? そんなこと言ったら、俺の中には女神の魔力があるんだから、俺も転移出来なくなる。でも出来ると仮定した場合、俺の体内の魔力はノーカウントになるのかな?」
「何言ってるのかわかんないわよっ。」
「アシルを俺に取り込んで、転移すればいけるかなと思って。アシルが行きたいのならやってみるか。」
「ええーっ、やるやる、出れるなら何でもやるよ。ショウ、大好きっ!!」
また抱きついてきたのを剥がして、説明をする。
「いいか、アシルは精神生命体のようだから、俺の魔力に包み込んで俺の体内に取り込む。その時に俺の魔力に同化するようなことがあると、アシルが消える恐れがある。自分でも殻を作り、その殻に閉じこもって自我をしっかり保て。理解出来たか?」
「た、多分、大丈夫だと思う。」
「よし、始めるぞ。」
「ちょっと待って。ショウがここへ戻ってこないなら、この空間を維持する魔石に魔力を注いで欲しいんだけど。ここへ来た人にはみんなにお願いしてるんだよ。前に来たじじいがしょぼくて、ろくに充填出来なかったんだよね。」
「しょぼいじじいって『アーブロシアー』の事かな?」
「覚えてないけど、そんな名前じゃなかったよ。」
「では、先程アシル様がおっしゃった兄妹とはペルセポーノ様ペルセポーナ様でしたか?」
「え~、あの兄妹もそんな名前を名乗ってなかったよ。」
アドリアーヌ、がっくりと脱力してつぶやく。
「い・・・・・ 今までの神話が・・・・ 根底から崩れるわ・・・・・」
「いやいや、神話なんて所詮そんなもんだよ。名前だって勝手に人が考えて命名しちゃってるし、何か人知を超える物事が起きれば、さも神の所業であると語り伝えられていくんだ。人から人へ語り伝えられていく間に美化されたり、宗教家が間に入ってねじ曲げられたりとか普通にあるからね。」
「ねー、魔力充填やってくれるのっ。。」
「あ~、やるやる。でも魔力量だいぶ持ってかれそうだな。」
部屋の中央に設置された巨大な魔石に手をあて、魔力を注ぎ始める。かなりの勢いで吸い取られていってるけど・・・・・ あれ? なんか凄く余裕がある? 原初の女神が言ってた、力を育てろって、そんな簡単に育つもんなのか?
「凄いじゃない、ショウ。あっという間にいっぱいになりそうよ。こんな魔力量の人、今まで来たことないわよっ。あんた、ホントに赤ちゃんなの」
「ホントの赤ん坊だから、さすがにあっという間で終わるわけないだろ。」
あっという間では終わらなかったが、程なく満タンになったようだ。吸い出されていた魔力が止まった。天空の魔法円に強制的に吸い出された事を思えば、この程度ヨユーヨユー。鼻歌交じりだぜ。
それじゃあ、次は転移だ。
「アシル、始めるぞ。俺の魔力とアシルの魔力、混じり合わないように魔力の殻を作ってしっかり閉じこもれ。」
「うん、ショウ、お願い。」
繭状の殻に自ら閉じこもったアシルを俺の魔力で包み込み、体内に取り込む。
体内の違和感がハンパない。これが他人の魔力が体内に入ってくる感じなのか。さっさと終わらせよう。
「アドリア―ヌ、転移の魔法円に魔力を込めるから、俺につかまって。」
床の魔法円が光り出す。中心から外に向かって光が広がり、全てに光が満たされ、景色が変わる。12の扉がある円形の部屋だ。無事元の部屋に戻ってきた。
アシルは大丈夫だろうか。腹の中のアシルを包んだはずの魔力の塊を取り出し、回りの魔力を消し去る。
「ここは? あたしは外に出れたの? 部屋が違う。違う場所に来れたんだーっ。」
今度はうれし涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、喜びのあまり舞いまわってる。
「あの階段を上ろう。もっと違う景色が見れるぞ。」
「ありがとうーっ、ショウ。あたしはあんたが死ぬまであんたのそばに付いてくよー。」
「それは勘弁して。って言うか、アシルは『図書館を守る本の精霊』じゃなかったのか。ここは王立図書館だから、ここを守ってろよ。」
「嫌よ、あたしはずっとあの場所に縛り付けられていたのよ。もうあたしを縛る物は何も無いの。あたしは自由なのよっ!!」
こいつ、解放しない方がよかったか? でも、それもかわいそうな気もするし・・・・・
アドリア―ヌに抱かれて階段を上ってる間も、回りをぐるぐる飛んでて・・・・・ 絶対妖精だよね。背中に羽がないけど。
皆が待つ、扉の外まで戻ってきた。
「リベルドータ、時間は大丈夫でしたか。」
「え、ええ、閉館時間まで、まだ余裕はありますが・・・ そ、その、浮いている小さい物は何なのでしょうか。」
そこで待っていた全員が、アシルを凝視している。まあ、皆初めて見るんだろうね、こんな物。
「小さい物って何なのよっ。ショウ、あたしの名前を教えてあげなさい。」
「自分の名前を忘れたんだろう。ちびっ娘妖精アシルと名乗っとけ。」
「ショウ、そんな酷いことを言ってはいけませんよ。皆さん、こちらは『本の精霊アッシュールバニパル』様です。外へ出ることを望まれましたので、ショウがお連れしました。」
「アッシュールバニパルよ。崇めなさい。」
「アシル、そういう態度をとってると、あの部屋に連れ帰るぞ。」
「ごっ、ごめんなさい。ショウ。」
「アシルは、この世界で人と関わるなら、自分が一番偉いみたいな態度を改めないといけないよね。」
「ショウ、それはあなたにも当てはまるわよ。あなたはアンジェリータ様に対しても態度が大きいのよ。あなたの性格を叩き直したいわ。」
ひー、アドリア―ヌのにらみつける顔、怖すぎ・・・・・ ん? アドリア―ヌに頭の上がらない俺、俺に助けられたおかげで文句の言えないアシル、アシルを女神の分体として崇めているアドリア―ヌ・・・ 三竦みですかっ!! 誰が蛇で誰が蛙で誰がナメクジだっ!!
「そのお方が『アッシュールバニパル』様と言うのは理解致しました。でも、せ、・・・ 精霊?・・・ とは、存在するのですか。いえ、私の目の前にいらっしゃるのですから存在を疑ってはいけないのでしょうね。」
「本人は精霊と主張してるけど、女神の魔力の残滓がたまたま意識を覚醒したらしい。アシルと呼んでやって。」
マーシェリンが近づいてきて、アドリア―ヌから俺を受け取る。
「ちょっとーっ、あなたは何。ショウをどうするつもりっ。」
「え? 私はショウ様の護衛騎士、マーシェリン・バートランドと申します。ショウ様にずっと寄り添っておりますが。」
「ショウに寄り添うだなんて、あたしが寄り添うわっ。あたしはショウが死ぬまでずっと一緒にいるって約束したんだからっ。」
「約束なんかしてないだろう。アシルが勝手に主張してるだけじゃないか。」
「アシル様では、このようにショウ様を、お抱きしてさしあげることが出来ませんし。」
マーシェリン、今度はちびっ娘に、対抗心燃やしてるよ。
「抱いてあげられなくっても、ずーっとそばにいてあげられるよっ。」
「こんなうるさい奴に、そばにいて欲しくないんだけど。」
「ひ、酷いじゃない、ショウ。静かにするよ。そんなこと言わないでよ~。」
あ、また泣き始めた。泣き虫ちびっ娘妖精だね。まあ、あの部屋でずーっと一人で寂しかったんだろう。ようやく話せる相手が出来て、テンション上がりまくりで歯止めが利かないんだろうね。散々喋った後には、落ち着いておとなしくなるかな。
それよりも、アシルを人前に出したら、また大騒ぎになるかな。存在は隠しておいたほうがいいだろうね。隠し部屋の書庫で最初に見たときに、俺の目の前に突然現れたよね。アシルは姿を消せるんじゃないかな? 部屋まで戻る間、人目に付かないようにしてもらおう。
「アシルは、姿を消せるんだよね。人目に付くと騒ぎが起きるから、部屋へ戻るまでの間、姿を消しておいて欲しいんだ。お願い出来るかな。」
「お、お願いだなんて、ショウのお願いなら何でも聞いてあげるよ。」
そうか、アシルは、こうしろ、ああしろ、と命令するよりも優しくお願いすればよかったのか。
ふわっと姿が消え、肩の上に何かが乗ったような感じがして、耳元で声がする。
「赤ちゃんの肩の上は座りにくいわ。」
「アドリア―ヌの肩に座ればいいんじゃない。」
僅かに掛かっていた重量が消え、アドリア―ヌの肩に移ったようだ。
「アシル様、このまま私とテルヴェリカ領へおいでになりますか。」
「ショウは一緒に行くの?」
俺を振り向いたアドリア―ヌが話しかけてくるけど、もうそろそろ眠くなってきた。
「ショウ、もう王宮では用は無いのでしょう? テルヴェリカ領へ戻りますか? あら、今にも寝入りそうね。一晩寝てから考えなさい。」
「じゃあ、あたしはショウと一緒にいるよ。」
図書館から出たときには、もう瞼を上げていられなくなり、意識を手放した。




