49.脳内図書館、便利すぎ
ふと目が覚める。外は真っ暗だ。部屋の中には小さな明かりが灯されてる。腹減った。枕元の革袋からポットを取り出し、哺乳瓶に移して飲み始めたら、声を掛けられた。
「ショウ、魔力を器用に使うんだね。この世界の人達は、みんなそんなことが出来るの?」
「アシルか。いや、俺だけらしいよ。アシルは寝ないの?」
「寝る必要は無いんだけど、何も考えずに活動休止っていうのはよくやってたよ。あの部屋にいると、何もやることが無かったしね。」
「じゃあ、これからは俺が寝てるときは、アシルも一緒に活動休止していればいいんじゃない?」
「うん、それもいいけど、ショウの寝顔を眺めてるだけでも、楽しいんだ。」
「見られてると思うと、落ち着いて寝れないだろ。」
「ぐーっすり、寝てたじゃない。」
あちこち飛び回られて、騒ぎを起こされるよりは、俺のそばにいた方がいいか。
さて、おなかも膨れて・・・・・ 眠くなるまでは時間はたっぷりありそうだ。脳内図書館を閲覧してみよう。俺の脳内にあるから脳内図書館と名付けた。他の誰にも見ることが出来ないし、俺の独断で名付けても何の問題もないだろう。
「アシル、俺は今から精神集中して、記憶の深いところを探るから、絶対に話しかけないでね。お願いだよ。」
「う、うん。何するのか知らないけど、絶対話しかけないよ。」
やっぱりアシルはお願いをすると、ちゃんと聞いてくれる。素直ないい子だ。
では、 じっくり、 ゆっくり、 落ち着いて、 記憶の中の深いところへ沈んでいく。
円形の部屋に12の扉、俺のイメージは前回と変わっていない。ここからだ。床の魔法円は昼間に起動させた転移の魔法円を、イメージで浮かび上がらせる。そこへ、やはりイメージで魔力を注ぎ込む。
廻りの風景が切り替わる。よしっ、うまくいったようだ。脳内イメージが、魔法円で転移した先の書庫へ切り替えが出来たようだ。これで、書物を開いて内容が記されていれば、問題は無い。閲覧するのは昼間に開いた、天空の魔法円のでかい本だ。
ちょこちょこと歩いているが乳幼児には本棚が遠すぎるぜ。コナンで歩くか。一瞬でコナンの体になった。イメージ様々だ。
本を取り出してページをめくれば、昼間に見たそのままの魔法円や、そのタイトルが載っている。この部屋の書物も全て脳内に所蔵されたようだ。マーシェリンにも俺と同じだけの書物が脳内に収まっているのだろうか。マーシェリンはこの部屋には来ていないから、ここの書物は閲覧出来ないだろうけど、神々の名を刻んだ扉は開けられるんだろうね。いつか、教えてあげよう。
さて、天空の魔法円の書物を開いて・・・・・ 【世界の運営】は今俺達が生活をしている世界の、全ての自然現象が組み込まれている魔法円だと思う。そんな世界を創造して神になりたいわけじゃないんだからこれは必要は無い。
この魔法円を組み上げる前の一つ一つの効果しかない魔法円が、この項の後ろに載っている。その中の【空間】これを覚えたい。他には 【門】。次元の狭間に【空間】を創り、【門】でつなげる。ん? 逆かな? 【門】を創ってその中に【空間】を開く。こっちが正解か。
おそらくルーナレータの門の向こう側が『原初の女神』の存在した世界なんだろう。そこへ最初の門を創ってから空間を開いたんだと思われ。
その他の門は、眷属が増えるたびに空間の中から別次元に門でつないでいったんじゃないかな。何をしたかったのかは理解はできそうもないが。
で、俺は別次元に門をつなぎたいわけじゃないし、【門】は一つとその中に空間があればいい。【門】の魔法円を発動させればいつでも空間内へ物品の出し入れが自由にできる。
これぞ、ネコ型ロボットのなんちゃらポケットか?
ここで問題だ。この空間の魔法円は複写出来るのかな。脳内イメージの世界だから、イメージの紙を出して複写したとしても、現実世界には持ち出すことは出来ないだろうし・・・ 何もやらなきゃそこで終わりだ。とりあえず何か試してみるか。
まずは、門の魔法円を複写してみよう。魔法円が本から浮かび上がる。イメージで創った紙に移す。そうしたら、現実世界に戻る。
ふっと目を開けたところへ、アシルが慌てたように話しかけてくる。
「驚いたよっ、突然だったよっ、ショウの手に、魔法円が浮かび上がって、布団の上に焼き付いたよっ。」
えっ、と思って起き上がって見れば、シーツの上に魔法円が複写されている。
おおーっ、これは成功か? 目の前に紙を用意しておけば、どんどん複写出来る? あれ? テルヴェリカ領の図書館で、アドリア―ヌが複写した魔法円を、発動させたことがあったよね。わざわざ別の紙に複写させなくても、脳内イメージで複写の魔法を使えば、現実でも魔法が発動できるのか? 今の門の魔法円を展開してみれば、確かに門の魔法円が目の前に浮かび上がる。
よしっ、あの書庫の魔法円はいつでも閲覧可能だ。脳内図書館、便利すぎ。
これで、王宮にいる用事もなくなったな。テルヴェリカ領へ帰ろうかな。王様に挨拶しないとだめかな。挨拶すると引き留めるだろうし、勝手に帰って、王宮のお偉いさんがテルヴェリカ領に悪印象を持ったりするのも嫌だし。うーん、悩ましいとこだ。王様だけと相談してみるか。他の諸々のお付きの者達は話に入れないほうがいいよね。
朝を迎え、皆が起きてきた。アドリア―ヌは昨日のうちにテルヴェリカ領へ帰ったらしい。
ヴァネッサが身の回りの世話をしに来た。
「ヴァネッサにお願いがあるんだ。王様に会いたいんだけど、訪ねていってもいいか、お伺いをしてきてくれない?」
「かしこまりました。謁見の申し込みでございますね。」
「いや、謁見じゃなくて、相談したいことがあると伝えて欲しいんだよ。」
「ご相談ですか。アンジェリータ様は公務がお忙しいので、お時間が取れるか分かりませんよ。」
「一応、伝えるだけ伝えてよ。駄目なら、アドリア―ヌに書状を送ってもらうように頼むから。」
勝手に帰って、お手紙で事後承諾としよう。あ、王宮の転移円、使わせてくれないと、密出国ならぬ密出領で犯罪者か? 入ってくるときは密入領だったけど、あの時はそんなこと言われなかったな。
神々の御子騒ぎで、それどころじゃなかったけど、出領の時は黙って出て行くのはまずい気がする。俺一人なら何も気にしないけど、マーシェリンやイブリーナや他の面々もいるし、テルヴェリカ領とヴァランタイン領が不仲になって、王直轄領の騎士団が、テルヴェリカ領に攻め入る事もありうる? なんだか知らないうちに、しがらみに縛り付けられて、自由に動けなくなってくるね。
あの雪深いイクスブルク領を、羊たちと一緒に旅をしていたときが懐かしいよ。あの時は自由だったな~。ほんの数ヶ月前の話なんだけどね。
アシルに釘刺しとかないとまずいかな。他にはマーシェリンとイブリーナだ。アシルのことを、王宮側の人間に知られたら、王都に存在した者だと主張して、ヴァランタイン領から出領禁止になるかも知れないね。
「マーシェリン、イブリーナを呼んで欲しいんだけど。」
「はい、すぐに呼んで参ります。」
程なく、イブリーナを連れてマーシェリンが戻ってくる。
「この部屋に、他に誰も入れないようにして。それと、アシル、話がある。」
「何、何、」
すぐにアシルが現れる。
「ヴァネッサとマティネータは、アシルの事は知らないからここに呼ばなかったけど、アシルの事について話がある。アシルの存在を王宮側に知られると、ヴァランタイン領から出さないと思うんだ。」
「ええっ、あたしはもっといろんな所に行きたいよ。」
「そうは言っても、女神の魔力から生まれた存在だからね、宗教的に考えてもアシルの価値は計り知れないと思う。王宮がアシルを手懐けておくことが出来れば、一般大衆の信仰心は跳ね上がり、王に対する忠誠心も同じように跳ね上がる。そんな感じで信仰や忠誠の象徴になる者を、手放すはずはないだろう。アシルをつなぎ止めるためなら、俺さえも王宮に縛り付けようとするんだろう。」
「嫌だよ、あたしは自由に何処へでも行きたい。ショウが行くとこに付いていきたいよ。」
「それで、アシルの存在を知る者達に集まってもらったんだけどね。マーシェリンとイブリーナは、絶対に喋らないで欲しいと言えば、秘密にしてくれるはずだ。」
「もちろんです、ショウ様。」
「うん、二人とも信頼してるよ。で、残る問題は、アシルだ。」
「何が問題なのさ。」
「落ち着きが無いんだよね。人目に付くのも気にせずに飛び回りそうなんだよね。」
「そっ、そんな事しないよっ。じっとしてるよ。ショウが寝てるときだって、静かにしてたじゃない。」
「うん、そうそう、あれくらい静かーに息を潜めておいて欲しいんだ。誰にも見られないように。アドリア―ヌと一緒にテルヴェリカに引き上げてれば、そんな心配しなくてもよかったんだけどね。あ、先にテルヴェリカに送り届けるか。アシルはテルヴェリカで待っていられるか?」
「どうやって行くのさ。」
「俺が転移で運んでやる。その後は俺はここに戻って、王宮の転移の間から堂々とテルヴェリカに戻る。」
「テルヴェリカに行けばアドリア―ヌがいるんだよね。あたしはそれでいいよ。テルヴェリカでショウが来るのを待ってるよ。」
「よしっ、決まりだ。そうとなれば、さっさと転移するぞ。」
扉をノックする音が響く。ヴァネッサが戻ってきた。
「アシル、隠れろ。」
「ショウ様、ヴァネッサです。アンジェリータ様は、本日の謁見の前にお時間を空けて頂けるとのことです。お昼時にこちらへ伺うと、おっしゃっておりました。」
「え? そんなに早く会ってくれるんだって? お昼時じゃ食事とか準備しないと駄目?」
「いえ、そのような気遣いはいりません。とおっしゃいました。」
「分かった、ヴァネッサはお茶の準備を頼む。」
「かしこまりました。」
「昼までにはまだ時間はあるよね。アシル、先にテルヴェリカに行こう。マーシェリン、一緒に付いてきて。」
「あの、私はどう致しましょう。」
「イブリーナは、ここでお留守番。誰か来たときに、マーシェリンと出かけていると伝えておいて。テルヴェリカへ行ったなんて、絶対言わないように。」
「かしこまりました。」
床に降ろしてもらって、転移の魔法円を展開。転移円の中にアシルとマーシェリンが収まる。転移先は俺の部屋でいいか。精神体で俺の部屋へ移動し、転移円を展開。魔力を込めて、転移。
無事、俺の部屋へ転移出来た。
「マーシェリン。」
マーシェリンに手を伸ばせば、さっと抱き上げられる。
「アドリア―ヌの執務室に急ごう。アシル、付いてきて。」
「ショウは、こんな簡単に移動できるんなら、そのままここにいればいいんじゃない?」
「いろいろなしがらみが出来るとね、自分一人の勝手な行動が出来なくなってくるんだよ。」
マーシェリンが、執務室の扉をノックし声を掛ける。
「マーシェリンです。ショウ様をお連れ致しました。」
アドリア―ヌの声が『入りなさい。』と告げる。中へ入れば、リベルドータ達まで書類の山と格闘中だ。この書類の山は俺のせいか。申し訳ない気持ちがわいてくる。誤っておいたほうが無難かな。
「この状況は、俺のせいかな? ごめん、アドリア―ヌ。」
「私も、あの書庫で時間を潰してしまったから、しょうがないと思って諦めているから、もういいわ。それより、アシル様もいらっしゃって、皆帰ってきたのかしら。」
「みんなで帰るときに、アシルが見つかると帰れなくなるかも知れないから、アシルだけ先にアドリア―ヌに預けておくよ。俺とマーシェリンはすぐに王宮に戻る。」
「いい判断ね。転移の間は使わずに戻ってきたのね。アンジェリータ様には、ショウは近々テルヴェリカ領に帰りたがるかも知れないと、伝えておいたけど、引き留めるんでしょうね。」
「どうやって断ろうか。もめること無く王宮を出たいよね。」
「あら、そう思ってくれてるのなら助かるわ。ショウの事だから、自分の意見を無理矢理押し通すかと思ったわ。」
「そんなことしたら、角が立つでしょ。テルヴェリカ領とヴァランタイン領が不仲になって攻め込まれたらどうするんだよ。」
「今の王、アンジェリータ様はそんなことしないわ。平和を望まれる方よ。」
「王様が望まなくても、王が異を唱える貴族どもを抑えられるのかどうかが問題だよ。戦争を望んでいる奴だっているんじゃ無いの?」
「いるらしいけど、かなりの少数派だと聞いているわ。」
「じゃ、大丈夫か。王様と、帰ることについて相談してくるか。昼に会う約束だから、そろそろ行くよ。ここから転移していい?」
「こんな狭いところで転移なんか出来るの? 危険は無いのっ。」
「大丈夫だよ、何度もやってるから。アシルはおとなしく待っててね。
マーシェリン、下に降ろして。転移円を小さめにするから、俺のそばにしゃがんで。」
マーシェリンが俺にくっついてしゃがみ込む。床に魔法円が光り、そして王宮の部屋でも魔法円を起動、魔力を込めて、転移。
イブリーナが部屋で待っていた。マーシェリンが俺を抱き上げる。
「お帰りなさいませ。まだアンジェリータ様がいらっしゃるまで時間がありますが、いかが致しましょう。」
「もう眠い。寝るから、王様来たら起こして・・・・・」




