23.お父様 お母様 マーシェリンです
お父様とお母様に会えます。わざわざ、テルヴェリカ領まで足を運んでくださるとのことです。嬉しいのですが心配もあります。テルヴェリカ領にとどまる事をヴァーソルディ様にはお許しを頂きましたが、お父様とお母様は、私を連れ帰ろうとするのではないでしょうか。そんなことになったらショウ様をお守りできません。こればかりは、たとえお父様とお母様に何と言われようと、聞く訳にはまいりません。ショウ様の元に付き従います。
アドリアーヌ様のお呼び出しです。執務室にショウ様の秘密を知る皆が集まりました。
「まず、剣士ですが、実際にはショウだったのですが、他国から来たことはリベルドータに言ったことがありましたね。そこに物語を付けました。
剣士は政変の中、王の子を託され、未知の魔法で何処へとも分からない場所へ飛ばされました。それが豪雪のイクスブルク領です。赤ちゃんを守りながら雪の山の中に空洞を作りヤギを捕まえ赤ちゃんのお乳を確保しました。そこを襲ったのがブリザードウルフです。剣士は自身の魔力で人型の巨大従魔を創りブリザードウルフを倒し、マーシェリンを救いました。剣士はテルヴェリカ領にひとときの間、滞在しましたが、ショウ様をテルヴェリカ領領主に託し、自国の政変を収めるべく旅立ちました。剣士の最後の言葉が『必ずやショウ様をお迎えに上がります。その時までお守りください。』それをテルヴェリカ領領主アドリアーヌが承りました。
人型の巨大従魔の件も、マーシェリンの体が回復している件も、どこかへ消えた剣士がやりました、ということにしましょう。いなくなった人に責任丸投げー、て感じになりますけど。」
アドリアーヌ様、凄いです。絵本の物語がひとつできましたよ。
「いいのではないか。おまえたちはどうだ。リベルドータ、何か意見はあるか。」
「よろしいのではないでしょうか。説明をできる剣士がいなくなったということで、マーシェリンに説明を求められることも無いでしょうから。」
リベルドータ様、凄いです。私は理解が追いついていませんでした。ちょっと眠くなりそうでした。ショウ様はもうお休みです。
「そうね、マーシェリンは、意識を失った状態だったので、知らぬ存ぜぬで通してちょうだい。」
「はい、アドリアーヌ様、かしこまりました。」
良かったです。難しいことは苦手なのです。
「話は変わるんだけど、ショウの護衛騎士として、グレーメリーザに正式に付いてもらうわ。」
「アドリアーヌ様は、お困りにはならないのでしょうか。」
「騎士団から、イブリ-ナ・ギリストスをアドリアーヌの護衛に付ける予定だ。あくまでも護衛見習いとして5年程度努めさせてから、正式に専属護衛として騎士爵も叙爵しようと思ってる。」
「アステリオス様、ありがとうございます。イブリーナ様はきっとお喜びになるでしょう。」
「なぜ、マーシェリンが礼を?」
「剣術訓練の時に顔を合わせて、親しくしていただいております。アドリアーヌ様の元でお守りしたいと、常におっしゃっておりました。」
「そうか、そんなに親しかったのなら、剣術訓練でもっと鍛え上げてやってくれ。」
「かしこまりました。」
領界門にお父様とお母様が到着したと、迎えに行って下さった騎士達から連絡が来たそうです。全員が従魔を出して飛んでこれるのですが、お父様とお母様は、騎士達ほどの速度が出せないので、今からでは領主城到着が夜遅くなってしまうとのことで、今日は領界門で一泊して明日の朝早くに領主城に向かうそうです。到着は昼ぐらいになるでしょうと、アドリアーヌ様がおっしゃっていました。
私の元気な姿を見て、喜ばれるのでしょうか。楽しみです。
家へ帰って来なさいと、連れ帰ろうとするのでしょうか。不安です。
ご一行が城に到着したそうです。
「御宿泊して頂く部屋にご案内されたそうですよ。マーシェリンは先にご挨拶をした方がよろしいのではなくて。その後は皆さんと一緒に昼食を頂きましょう。」
「アドリアーヌ様、ありがとうございます。」
お父様とお母様の部屋の前で、一つ深呼吸をして、トントン
「お父様、お母様、マーシェリンです。」
突然ドアが勢いよく開かれ、
「マーシェリン、マーシェリン、マーシェリン」
お母様が私に抱き着き、他の言葉が出ないようです。目には涙があふれ出しボロボロと零れ落ちてゆく。私もお母様を抱きしめ涙ぐんでしまう。良かった。私は愛されていたのですね。お父様は口を開けたまま私達を見ています。
「マーシェリン、酷い怪我をしたと聞いていたが・・・」
「はい、死を覚悟しました。しかし、あるお方に救われました。」
お父様とお母様にソファに座ってもらい、私はお母様の隣でギュッと手を握られたまま離してくれそうもない。
「そのお方がマーシェリンが仕えたい主なのかね。」
「その件については、アドリアーヌ様にお聞きください。私は生死の境をさまよっていた時の記憶が曖昧なのです。」
「そうなのか。でもベッドの上で寝たきりのマーシェリンを想像してきたのだ。元気なマーシェリンに会えるなんて、こんな嬉しいことは無いぞ。」
「マーシェリン、こんなに元気なのですから、私達と一緒に家にかえりましょう。もうテルヴェリカ領にいる理由は無いのじゃなくて?」
「いえ、お母様、手紙にも書きましたが、守りたい主を置いて帰るわけにはまいりません。テルヴェリカ領に留まる事をお許しください。」
「マーシェリン、お前がそこまで思うのなら、その主の下で尽くしなさい。」
「あなたは何てことをおっしゃいますか。私はマーシェリンと帰りますっ!!」
「待ちなさい。私は騎士では無いが、騎士たるものそこまで尽くしたいと思う主に出会うなど、なかなか難しいと思うのだ。私はマーシェリンの意思を尊重してやりたい。それに、これきり会えなくなるわけではないのだ。」
「お父様、ありがとうございます。」
お母様が、またボロボロと涙を流しながら、
「あっ・・・ あなたが、尽くしたいとおっしゃるかたに・・・ 逢わせて・・・ くれるかしら。」
「はい、喜んで。」
「今回、パトリック様が同行しているのだが、マーシェリンが動けなくても連れ帰って妻に迎えたいとおっしゃっていたが。」
「また、剣で叩き伏せましょう。」
領主様の謁見の間で、アドリアーヌ様とアステリオス様がイクスブルク領から来られた皆様方とご挨拶をしています。本来なら護衛である私が、その場で挨拶をするようなことは無いのですが、『今回の当事者なのだから、皆様にご挨拶なさい。』とアドリアーヌ様がおっしゃいました。
「オルドリン様、パトリック様、お父様、お母様、私の体を心配し、遠いところを訪ねて来ていただいて、ありがとうございます。」
お父様とお母様は先程会話したので、にこやかにしているだけなのですが、オルドリン様とパトリック様は、何か問いかけたくてムズムズしているような感じです。でも最初に、アドリアーヌ様の『積もる話は、食後のお茶の時に。』とおっしゃられているのを聞いていたので、何もおっしゃいません。
食後のお茶がカップに注がれています。オルドリン様が耐え切れず私に話しかけます。
「マーシェリン、あの時は済まなかった。どうしてもあの時の事を謝りたくてバートランド子爵様のお供に付いてきたのだ。」
「私は何も謝罪して頂くような事は、記憶に無いのですが、何のことなのでしょう。」
「怪我を負った時の事だ。あの時はマーシェリンを連れて全速で城まで戻っても、途中で息絶えるだろうとマーシェリンを見捨て、魔獣との戦闘を優先させたのだ。」
「オルドリン様のその判断は、騎士として間違っていませんよ。謝らないでください。私は何も気にしておりませんし。」
「ありがとう、マーシェリン。気が楽になったよ。身動きもできないマーシェリンを想像していたが、こんな元気な姿を見せてもらって私もうれしいよ。」
「オルドリン様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
「マーシェリン、あの時の怪我は、そう簡単に治るような怪我では無かったはずだが。イクスブルク領へ届けられた、損傷を受けた鎧を見て誰もが、『死んでいてもおかしくない』という意見だった。それが何処も怪我をした形跡などないような動きでは無いか。どういうことなのだ。」
「その件につきましては、わたくしからオルドリン隊長だけに説明をいたしますわ。その時の事は、マーシェリンは生死の境をさまよっていて何も事情が分かってないのです。」
「あの、私も騎士団員なのですが、その話を聞いても、」
「いえ、秘密を知るものは極力少なくしたいのです。イクスブルク領へ帰ってもヴァーソルディ様と騎士団長以外には話さないことを約束して頂かないとお話いたしません。」
アドリアーヌ様がパトリック様の話をぴしゃりと止められ、オルドリン様にしか話しませんよ宣言です。パトリック様はぐうの音も出ず、矛先が私に向きました。
「マーシェリン、君がたとえ怪我で動けない体になっていても、イクスブルク領へ連れ帰って妻に迎え入れたかったのだが、私の求愛を受ける気は、」
「ありません。」
アドリアーヌ様の真似をしてみました。ウザイ話はぴしゃりと止めるに限ります。
「ぐっ、で、では、以前と同じく剣で勝負だ。私が勝ったら妻に迎える。」
「それは、私が勝った時の条件が無いのですが。」
「むむむっ、分かった。もしマーシェリンが勝ったのなら、もう二度と挑まないっ!!」
「あら、マーシェリンは求愛して頂ける殿方がイクスブルク領にいらっしゃったのね。テルヴェリカ領に来て頂いてよろしかったのかしら。」
「ええ、何度も挑まれましたが、全て私が勝っています。」
「アステリオス様は騎士団長でしたよね。訓練場をお貸しください。マーシェリンと試合をさせてください。」
オルドリン様が私を気遣ってくれます。
「待ちなさい、パトリック。マーシェリンは怪我が回復してまだ日が浅い。体が十分に動かないかもしれないのだぞ。」
「オルドリン様、大丈夫ですよ。以前よりも調子がいいぐらいです。」




