24.笑顔が・・・ 黒いわ
「アステリオス様、マーシェリンはパトリック様との試合で、負けることなど無いでしょうね。もし万が一にでも負けて、イクスブルク領に連れ帰るなどということにでもなったら、困りますよ。」
「心配は無いと思うが、オルドリン殿、パトリックとやらはどの程度の剣術の腕前なのだ。」
「イクスブルク領騎士団の中では中の上ぐらいでしょうか。」
「それなら、全く問題なかろう。私でもマーシェリンから一本取ることは骨が折れる。」
よかったわ。マーシェリンを連れていかれたら、困っちゃうとこだったわ。
「それでは、私達も部屋へ引き上げましょう。オルドリン様との内密の話があるのでしょう。」
「バートランド様、お気を使っていただき、ありがとうございます。もしよろしければ城内を案内させますが、いかがいたしましょうか。」
「それは嬉しいですね。是非ともお願いいたします。」
「グレーメリーザ、バートランド様ご夫妻をご案内差し上げて。」
「さて、オルドリン様、何処からお話いたしましょう。」
「あの消えた人型魔獣は何だったのか。マーシェリンが何故助かったのか。剣士は何処へ行ったのか。分からない事ばかりなのですよ。」
「剣士様の話をいたしましょう。」
「え? 使者の話では、剣士の存在は確認が出来なかったとの報告を受けておりますが。」
「もし、その場で大勢の人が聞いていた場合、秘密にすることが出来なくなるのと、こちらの使者にも秘密にしておきたいとのことで、嘘の情報を持っていかせました。」
「そうでしたか。そこまで情報を秘密にしたいということは、余程の重要な情報と思われますが、私共の耳に入れてもよろしいのですか。」
「オルドリン様、あなたがマーシェリンに次いで深くこの件にかかわっているからなのです。だからお話しますがごヴァーソルディ様と騎士団長以外には内密にお願いします。」
「分かりました。絶対に他言いたしません。」
「剣士、コナン様と名乗っていました。コナン様はこの国ではない他国での政変の中、一人の赤子、ショウ様を託され魔法で何処へとも分からない場所へ飛ばされました。それが豪雪のイクスブルク領です。赤ちゃんを守りながら雪の山の中に空洞を作り、ヤギを捕まえ赤ちゃんのお乳を確保しました。そこを襲ったのがブリザードウルフです。コナン様は自身の魔力で人型魔獣を創りブリザードウルフを倒し、マーシェリンを救いました。コナン様はテルヴェリカ領にひとときの間、滞在されましたが、ショウ様をわたくしに預け、自国の政変を収めるべく旅立ったのです。コナン様の最後の言葉が『必ずやショウ様をお迎えに上がります。その時までお守りください。もし、万が一にでも戻ることが出来なかった場合は、アドリアーヌ様の子としてお育て頂けないでしょうか。』それをテルヴェリカ領領主アドリアーヌが承りました。」
「あの時の人型魔獣を・・・ たった一人の人間の魔力で創り上げるなどとは、そんな事が可能なのでしょうか。まさか、神々の眷属の方々だったりとかは、あるのでしょうか。」
「わたくしもそれは考えました。神々の住まう国での政変に巻き込まれ、コナン様に救い出されたこの子は神の子ではないのかと。そうでなければ、コナン様の大きすぎる魔力量は説明がつきません。しかし、コナン様は、『神々の国などとは、恐れ多い。ごく普通の人々が住まう王国ですよ。稀に大きな魔力を持って生まれる人がいるだけですよ。』こうおっしゃっていましたね。」
「それもそうですね。この国でも特別に大きな魔力を待たれた方が存在していますね。アドリアーヌ様や女王陛下のような方々が、特に強い魔力を持たれていると聞き及んでおります。」
「いえ、わたくしはそれほどでもありませんよ。
それよりも、話を戻しますよ。コナン様の創り出した人型魔獣は、その後魔力切れで崩れ去ったそうですが、最後の魔力で筒状の形を残し、ショウ様、マーシェリンを守ったのです。そこにわたくしが到着したのですよ。」
「するとあの大きな筒は、まさかあの中にマーシェリンが入っていたのでしょうか。」
「その通りです。中にはコナン様、ショウ様、大怪我を負ったマーシェリンがいました。だから急いで城に帰らなければいけなかったのです。」
「マーシェリンの怪我はどうなったのですか。見た感じでは体に何か不具合があるようには見受けられませんでしたが。」
「コナン様の魔力切れで筒が崩れ去ったあと、マーシェリンの状態は生命の危機は脱していましたが、まだ酷い傷跡と骨が砕けたのはそのままでした。」
「生命の危機を脱していたとは、そのコナン様が魔獣と戦いながら治癒を施していたのですか。」
「そうおっしゃっておられました。
その後急いで意識のない三人を城へ運んで、わたくしがマーシェリンの治癒を施していたのですが、コナン様の意識が戻られてわたくしにおっしゃったのです。『そんなんじゃあ、駄目だ。』それを聞いてコナン様に代わっていただいたのですが、コナン様の治癒の技術は素晴らしいものでしたよ。あれはとても真似のできるものではありませんね。」
「そうでしたか。マーシェリンを助けて頂いたお礼をコナン様に伝えたいものです。」
「戻ってこられるようでしたら、お伝え致しますわ。」
「託された子、ショウ様でしたか。ショウ様はどうされたのですか。」
「今はお昼寝中かしら。リベルドータ、ショウが起きていたら連れてきてちょうだい。」
「かしこまりました。」
ショウはマーサに面倒を見てもらっているけど多分起きてるわよね。ドアの内側に立っていたリベルドータが、ショウをベビーカーに乗せて戻って来るまで、さほど時間はかからなかった。
「この子がショウ。コナン様が戻って来るまでは私の、テルヴェリカ領領主アドリア―ヌの養子として育てることにします。」
ショウには絶対に喋らないように事前に釘を刺しておいたけど、大丈夫かしら。ショウの目を見つめると、いたずらっぽい笑顔で見つめ返してくる。すっごく笑顔が可愛いのだけど、この笑顔が・・・ 黒いわ・・・ 心配。
「可愛らしい赤子ですね。客人としてではなく、養子として育てられる事には、何か理由でもあるのでしょうか。」
「この子が五歳になるまでにコナン様が戻られなかった場合、平民になってしまうということと、ずっと戻られない可能性をわずかでも考えた場合、領主の子供として育てている方が守りやすいと考えたのですよ。」
「なんと、戻られない可能性もあるのですか。まさかそれほどの魔力の持ち主が討たれるとでも。」
すいません。本人ここにいます。赤ちゃんなのに黒い顔で笑ってます。半裸の剣士として戻って来る事ありません。
「コナン様はおっしゃっていました。『どれ程大きな魔力を持っていても多勢に無勢を覆すことは難しい』と、討ち取られるやもしれぬ覚悟を持ってコナン様は自らの魔石の魔法円で旅立ったのです。この後のショウの事はマーシェリンが『命を掛けて、ショウ様をお守りさせて下さい。』と硬い決心を持って訴えましたので、ヴァーソルディ様に、イクスブルク領からテルヴェリカ領への移籍をお願い申し上げたのですよ。」
「そうでありましたか。命を掛けてお仕えしたい主と出会った、との手紙を受け、動かない体でお仕えなど出来るのかと、心配していたのですが、今のマーシェリンを見れば全く心配など必要では無いようです。アドリアーヌ様、マーシェリンをよろしくお願いいたします。」




