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22.こんなおバカな私

 ショウ様はいつお目覚めになるのでしょう。全ては私の怪我の治癒のために魔力切れを起こさせてしまったのです。申し訳なさで心がいっぱいです。目覚めて頂けたらショウ様をいっぱい甘やかして差し上げます。わがままは何でも聞いて差し上げます。だから、早くあなたの元気な笑顔を見せてください。


 マーサが歩いて来ます。ショウ様はまだ眼覚めないのでしょうか。聞こうとしたら、


 「ショウ様が、お目覚めになられましたよ。」


 その後も何か言ってたようだが、私は走り出してしまった。

 目覚めたショウ様にお会いできます。ショウ様の笑顔を拝見できます。

 ショウ様がいる部屋の前まできた私は、胸の高鳴りを抑えるために深呼吸をしています。この胸の高鳴りは、走ってきたからではありません。目覚めたショウ様にお会いできる喜びに、胸が高鳴っているのです。

 落ち着きなさい。マーシェリン。こんな状態ではショウ様に、ご挨拶もできません。深呼吸。深呼吸。


 ドアをノックし、アドリアーヌ様のどうぞという声でドアを開けた先には・・・


 「剣士様っ!!」


 私の想像の遥か彼方へ行っていました。涙があふれ、脚は勝手に走り出し、剣士様の鍛え抜かれた胸に飛び込んでしまいました。涙が止まりません。男性の胸に顔をうずめて涙を流すなど初めてのことです。


 「私の命を、私のこれからの人生を、あなたに捧げます。どうかお傍に付き従うことをお許しください。」


 アドリアーヌ様と剣士様が会話をしています。私には理解できません。アドリアーヌ様は剣士様が他国から魔法で飛ばされてきたとおっしゃいます。アドリアーヌ様は他国の言葉も勉強なさっているようです。私もその言葉を話せるようになるでしょうか。


 「マーシェリン、そろそろ離れてあげて。ショウも困っているわ。」


 そっ!! そうでした。ショウ様にご挨拶をせねばっ!!


 「申し訳ございません。ショウ様がお目覚めになられた事が嬉しくて、後先考えずに失礼をいたしました。改めてご挨拶申し上げます。ショウ様専属護衛騎士を賜りましたマーシェリン・バートランドと申します。よろしくお願いいたします。」




 ショウ様が赤ちゃんに戻ってしまいました。でもショウ様の赤ちゃんの姿も、とても可愛らしくて大好きです。私の母性本能をくすぐります。またオシメを替えさせてください。




 ショウ様が言葉を喋れるようになってきました。ウルカヌス様、アルテミス様の前では決して喋りません。私と二人だけの時に絵本の読み聞かせをすると、私の後に付いて発音を確かめるようにお話をします。

 その絵本の内容も理解が出来るようで、文字を追うだけでなく、自ら考えお話をすることが出来るようになりました。

 ショウ様は天才です。アルテミス様は二歳ですが、まだ言葉使いはたどたどしく子供らしいお話しかできません。ショウ様は絵本の神様のお話から、私にいろいろ質問をし、神様の名が方角に使われ、時を数える呼び名にも使われていることを、理解してしまいました。

 申し訳ありません。私は神様の御名を記憶しておりません。騎士団では長い神様の名前で方角をいうよりも、東西南北を使う方が、早く間違いなく伝わるので、神様の名を覚えなくてもいいのです・・・


 すいません。覚えていないのは私だけです。騎士団の他の皆さんはきっと覚えていらっしゃいます。

 母に言われたことがあります。『あなたは頭が弱いのよ。』酷い言い方をされました。いえ、酷いわけではないです。本当のことなのです。こんなおバカな私をショウ様はお傍に置いて頂けるのでしょうか。涙が出てきてしまいました。


 「何を泣いてるの。」


 ショウ様のお声がかかります。


 「申し訳ございません。私のような頭の悪い護衛などいらないと言われたら、どうしようかと心配になりました。」


 ショウ様は複雑な顔をして、


 「まあ、頑張れ。」

 「ありがとうございます。私を置いて頂けるのですね。」


 涙があふれ、ショウ様を抱きしめてしまいました。ああ、この時間がずっと続けばいいのに・・・




 今日はアドリアーヌ様が仕事がお休みらしく、ショウ様を図書館に案内してくれるそうです。

 ウルカヌス様とアルテミス様はお目当ての絵本があるようで、走っていってしまわれました。護衛も付いていきます。アドリアーヌ様とショウ様とその護衛だけになりました。

 アドリアーヌ様とショウ様が会話を楽しんでおられるようです。他国の言葉らしく護衛達には理解できません。ショウ様が笑顔で話されています。私との会話でも、もっと笑顔を見せて頂きたいと思うのは贅沢でしょうか。


 驚きました。ショウ様はアドリアーヌ様が使った魔法円と本から浮き上がった魔法円に手を(かざ)し、魔法を発動されました。結界の魔法がショウ様とアドリアーヌ様を囲います。

 結界に切り掛かるようにショウ様がおっしゃいます。アドリアーヌ様が怒っています。申し訳ありません。剣を抜きかけました。

 その後も様々な魔法円を複写し、私に持たせていただきます。

 突然、ショウ様が倒れこみます。目の前で何度もそのようなことがありましたので、私も慣れたものでさっと抱き上げて差し上げます。私の腕の中で全てをゆだね、安らかな寝息を立てられていらっしゃるショウ様のお顔を拝見するのは、至福のひとときです。この時が永遠に続けばいいのに。


 アドリアーヌ様はショウ様がお休みになられたので、ウルカヌス様とアルテミス様の元へ向かいます。

 アドリアーヌ様はウルカヌス様とアルテミス様に絵本の読み聞かせをしていらっしゃる間、私の至福の時は続きます。でも永遠に続くことはありません。アドリアーヌ様は、そろそろ帰りましょう、とウルカヌス様とアルテミス様におっしゃいます。

 外を移動するときは剣を振れない状況は避けなければいけません。私は命を掛けてショウ様をお守りする護衛騎士なのです。泣く泣くショウ様をベビーカーにお乗せして帰路に付きます。

 今日は執務室には寄らなくてよいとのことなので、ショウ様のお部屋に向かいベッドに・・・ そっ!! 添い寝したいのですっ!! したいのですがっ!!

 我慢ですっ!! そんなはしたない事をしてはいけません。私はショウ様の護衛騎士なのです。


 リベルドータ様がいらっしゃいました。アドリアーヌ様が呼んでいますと告げられます。ショウ様はリベルドータ様がみて頂けるようです。アドリアーヌ様の元へ走ります。執務室にはアドリアーヌ様とアステリオス様がいらっしゃいました。


 「先日、手紙とあなたの鎧や衣服をあなたのご家族に届けるように、イクスブルク領に使者を出したのを覚えているかしら。」

 「はい、その返事が届いたのでしょうか。」


 父や母の手紙は嬉しくもあり、怖かった。こんな形でイクスブルク領を離れることになってしまった私の事を許して頂けるのでしょうか。

 私の手紙は、

 『テルヴェリカ領で、命を懸けて仕えたいと思う主に出会いました。このマーシェリンの我儘をどうかお許しください。』


 「マーシェリンに返事は来てないけど、ヴァーソルディ様から私宛に、マーシェリンをテルヴェリカ領の領民として認める事と、移籍の書類が入っていました。これで正式にあなたはテルヴェリカ領の領民よ。」

 「ありがとうございます。」

 「正式に移籍できたことだし、テルヴェリカ領での騎士爵の叙爵もしておきましょう。」

 「いえ、そんな、おそれおおいことです。まだ私には早すぎます。」

 「ショウの専属護衛騎士ですからね、爵位はあった方がいいわ。」


 これでテルヴェリカ領の領民、そしてテルヴェリカ領の騎士団員として認められました。しかも騎士爵までいただけるそうです。テルヴェリカ領の騎士としてショウ様をお守り致します。


 「それと、あなたのご両親が、あなたに会いに来たいと手紙が来ているわ。マーシェリンが会いたければ領界門の通行許可を出すけれど、どうします?」

 「是非、会わせてください。父と母の元を去ることになった事を、何も告げられなかったのです。」

 「分かりました。ショウの事は秘密にしたいのだけれど、問題があるのよね。」

 「ショウ様の事は私の一番大事な秘密です。父や母にも話したりは致しません。」

 「あなたのご両親の道中の護衛に、オルドリン・サウザンルースとパトリック・ペレスターノを付ける。と手紙には書かれているのだけれど、オルドリン隊長はあの時の当事者なのよね。」

 「オルドリン隊長とパトリック様ですか。」

 「ペレスターノ侯爵家の身内だな。何故、侯爵家の身内が来るのだ。」


 アステリオス様が、侯爵家の人が付いて来る事を不審に思われたのでしょうか。


 「パトリック様は第二騎士隊オルドリン隊長の下に付いております。侯爵家と申されましても、三男で爵位継承は無いと思われます。」

 「そうであったか。何かを探りに来るという訳でも無さそうか。」

 「でも、オルドリンはあの時の事をいろいろ聞き出そうとするわね。マーシェリンが助かって半裸の剣士はどうなったのかって事を説明できないと。他にも、マーシェリンの怪我ね。オルドリンはマーシェリンの怪我を見ているから、助かったとしても、ベッドの上から動けないほどの障害が残っていると思ってるでしょうね。この元気なマーシェリンの姿を見たら、どう説明すればごまかせると思う?。」

 「正直に話せばよいのではないのか。ヴァーソルディ様も秘密は守ってくれるだろう。」

 「知る人間が増えれば増えるほど秘密の保持は難しいのよ。もし、ショウの治癒の能力が知れたら、それを求めて国中から人が殺到するわよ。ショウが命を削ってまで他人を助けるのは、絶対に見たくないわ。」


 そんなことになってしまうのですか。ショウ様のお命を守るためにも、私は絶対に秘密は守ります。


 「分かった。秘密は洩らさない、ということで皆が納得できるような物語を君が創りなさい。」

 「アステリオス様、物語などで人が納得できますか?」

 「君は物語を作るのが得意じゃないか。その物語が出来たら、君の護衛たちとマーシェリン、ショウも入れた方がいいな。皆で検討しよう。それほど日数の猶予は無いぞ。」

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