21.ショウ様のオシメの交換
ショウ様の専属護衛騎士に任命されました。アドリアーヌ様、アステリオス様、ありがとうございます。この命に代えてもショウ様をお守り致します。
私はあの時、死を覚悟しました。死んだはずだと思っていたのに、目を覚ました目の前にあの剣士様がいらっしゃいました。魔法円を展開させて私を治癒して頂いているのです。痛みももう感じられません。暖かい、あなたの魔力で覆われているのが感じられます。
お願いです。あなたのお傍に置いて下さい。あなたに私のすべてを捧げます。私の手をとっていただきました。私を迎え入れて頂けるのでしょうか。
突然の落下、ベッドに沈みこむ感覚、そして私の姿が・・・ 何も身に着けておりません。悲鳴が出てしまいました。あわてて近くにあったローブを羽織り廻りを見回せば、剣士様が・・・ 崩れ去っている? どういうことですか。人が崩れるとは。
崩れ去ったあとには赤ちゃん? 目の前のアドリアーヌ様が赤ちゃんを抱いています。
そこで説明をして頂いたアドリアーヌ様が、この赤ちゃんが剣士様だとおっしゃるのです。しかもこの赤ちゃんの秘密は喋ってはいけないと口止めをされました。
アドリアーヌ様が、今私がテルヴェリカ領にいることを告げ、イクスブルク領の家族の元へ帰るようにおっしゃいます。
待って下さい。私をショウ様の元へ置いて下さい。ショウ様をお守りさせてください。イクスブルク領へ戻ったら、領主様に問いただされるでしょう。そうなったら事の顛末を黙っていることはできません。
アドリアーヌ様のお許しが出ました。ああ、これでショウ様にお仕えできます。ありがとうございます。
ショウ様が目覚めません。マーサという女性が乳母として来ました。ショウ様は目覚めなくてもお腹がすいていらっしゃるようで、マーサのお乳を吸っています。嫉妬してしまいます。私にもお乳が出たなら・・・・・ 私がショウ様にあげたいのです。
マーサが手早にショウ様のオシメを交換します。さすが、二人の子を産んだだけでなくアルテミス様の乳母を務めているほどの女性です。マーサにお願いしました。
「オシメの交換をさせてください。」
「貴族様にそんなことをさせられません。アドリアーヌ様はお優しい方ですから罰せられることはありませんが、恐れ多い事です。」
「あら、私の話? 何の話だったのかしら。」
ここはアドリア―ヌ様の執務室の隣の仮眠室です。ベビーベッドも置いてあったので、目覚めるまでショウ様はアドリア―ヌ様のおそばでお休みになっています。アドリア―ヌ様もショウ様の様子を伺いに入っていらっしゃいます。
「お乳をあげたくても私はお乳が出ないので、ショウ様のオシメの交換をさせてくださいとお願いしたのですが、断られてしまいました。」
「お乳って、あなたは・・・ 出産経験も無いのに。まあ、オシメの交換はこれから先、子供を産むこともあるから、経験した方がいいかもしれないわね。マーサ、教えてあげて。」
「本当によろしいのですか。」
「ええ、よろしくね。」
教えていただく事になりました。でも今すぐ出る訳ではないので、夕方ぐらいまで待たなければいけないそうです。
とうとうウンチが出たようです。
まかれた布を取り、オシメをめくればショウ様の・・・・・ おち・・・・・ おち・・・・ な、何でもありませんっ。
こ、こんなことで動揺していてはオシメの交換など出来ません。
マーサが教えてくれます。
「こちらの濡れた布で、お尻を綺麗に拭いてあげてください。あまり強く拭いてはいけませんよ。ショウ様は男の子ですから下から拭いてもよろしいのですが、将来女の子のオシメの交換もする事があるかもしれませんのでお教えしておきますね。。もし女の子だったら上から下へ拭いてあげて下さいね。」
何とか綺麗になったようで、マーサからオシメを渡され、あてがい方を聞き、その上から布を巻き付ける。
「とてもお上手でした。」
マーサの合格点が出たようです。次も任せてくれるそうです。
もう三日が経ちました。まだショウ様は目覚めません。
アステリオス様がいらっしゃっいました。
「体の具合はどうなのだ。」
「頗る元気です。」
「剣術訓練で少し体を動かしてみないか。あの大怪我が治っても、どこかに不具合があったらいざというときに危険だからな。」
「そうですね。いざというとき、ショウ様を守れないことが一番の心配事です。是非ともお願いいたします。」
騎士団の訓練場です。アステリオス様が女性騎士を呼んで、私の剣術訓練の相手をするように伝えています。イクスブルク領騎士団では、私にかなう女性騎士はいなかったのですがこの方は大丈夫でしょうか。
「アステリオス様、男性騎士でも私は大丈夫ですが。」
「まだ怪我が治ったばかりであろう。軽く体をほぐす程度で、動きの確認をするぐらいで済ませておくなら、女性騎士との手合わせのほうが良かろう。それにこのイブリーナは剣術は確かな腕だぞ。」
「そうでしたか。イブリーナ様、よろしくお願いいたします。」
イブリーナと模擬剣で向かい合っている。周りの騎士達はそれぞれに相手と剣で打ち合ってるため、注目を浴びてるわけではないので、軽く打ち合う程度で剣を構えたが、イブリーナ様が恐ろしいほどの殺気を放っている。
この殺気は本気で打ち込んでくる気のようだ。何か怒りを買うようなことをしたのだろうか。皆目見当が付かない。
イブリーナ様が打ち込んでくる。軽く横に払い胴に打ち込む。打ち込むと言っても寸止めだ。
何だか体の調子がいい。今迄よりも早く動けるような気がするし、剣が軽い。これだけ動けるのなら十分にショウ様をお守りできるだろうか。いやいや、増長してはいけない。剣術は鍛錬あるのみだ。
イブリーナが何度も打ち込んでくるが、すべてをさばき剣を打ち込む。イブリーナの息が上がってきた。
周りの騎士達が手を下ろし、観戦し始めたようだが。
「なんで、あんたみたいな女がアドリアーヌ様の傍に仕えているのよっ!!」
「え?」
「私はアドリアーヌ様にお仕えしたくて、ここまで頑張ってきたのに、あなたは何処から湧いて出たのっ!!」
湧いて出たなどと、害虫のように言われてしまった。
「私はアドリアーヌ様にお仕えしているわけではないのですが。」
「え?」
「何をしている。」
アステリオス様が割り込んできました。
「イブリーナ様が何か勘違いをしていたようです。それほどたいしたことではありませんので、このまま続けさせていただいてもよろしいでしょうか。」
「待て、イブリーナでは実力差があり過ぎるようだ。私が相手をしよう。」
訓練場内にどよめきが起こる。
「団長が剣術指南ですか。是非とも私達にもお願いしたいですね。」
「お前達は今のイブリーナとの打ち合いを見ていなかったのか。剣術指南どころでは済まないぞ。」
「マーシェリン、あくまでも体をほぐすぐらいだぞ。怪我が治ったばかりで全力で動いて何処かを痛めたら困るだろう。」
「はい、軽くいきますのでよろしくお願いします。」
模擬剣の打ち合う音が訓練場内に響く。アステリオス様の剣が私の隙をつき打ち込まれるが私の剣がいち早くそれを防ぐ。私の剣もアステリオス様をとらえたと思っても防がれる。
楽しい。オルドリン隊長と打ち合った時も楽しかったが、アステリオス様との打ち合いも楽しい。体が軽い。気分が高揚する。この楽しい時をいつまでも続けたい。
「待てっ!!」
突然のアステリオス様の声。え? もう終わりなのでしょうか。
周りの観戦をしていた騎士達が静まり返っているのですが、どうしたのでしょう。
「体をほぐす程度だと言っただろうがっ!!」
「そうでした。申し訳ありません。アステリオス様との打ち合いがとても楽しかったのです。」
「まあ良い。それで体に不具合は無いのか。」
「今までより、体がとても軽く感じます。これもショウ様の治癒のおかげなのでしょうか。」
「それは分からんが、そこまで動けるのなら、騎士団の剣術訓練に参加するようにしなさい。ショウにも、もう一人護衛を付けて、交代で訓練に参加できるようにしよう。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
訓練場から領主執務室に向かおうとしたら、イブリーナが走ってきた。
「あのっ!! さっきはごめんなさい。私アドリアーヌ様が大好きで、絶対にアドリアーヌ様にお仕えするんだって、騎士団で剣術を頑張ってきたんです。それがどこから来たのか分からない人がアドリアーヌ様のお傍にいるから勘違いしてしまって。」
「いえ、私は気にしていませんから。」
「それに私がどんなに頑張ってもあなたには勝てそうも無いようだし。さっきのアステリオス様との打ち合いは凄かったわ。あそこにいた他の騎士達が口が開いたまま塞がらなかったわよ。第一騎士隊はあなたの強さを目の前で見てるから挑んでくることは無いけど、他の騎士隊が噂を聞いて挑んでくるかもしれないわよ。」
「それは楽しそうですね。是非お願いしたいと思います。」
「あなた綺麗だから、挑んで来るだけでは済まないかも。私はイブリーナ・ギリストス。あなたの名前を教えて。」
「マーシェリン・バートランドです。」
「ええ――っ!! マーシェリン・バートランドってイクスブルク領じゃないの。なんでテルヴェリカ領にいるのよ。」
「何故知っておられるのでしょう。」
「貴族学院で剣術最強を誇った、有名人を知らないわけないでしょ。どこかで見たような気がしたのよね。ごめんなさい。客人としていらしているのかしら。」
「いえ、あまり大きな声で言えるようなことではないので、その話は内密にお願いします。」
「あら、秘密の話なのね。分かったわ。また会えるかしら。」
「ええ、騎士団の剣術訓練に参加しますので、そのときにでも。」
「あなたとは訓練以外でも会いたいわ。じゃまた会いましょう。」
敵意むき出しで打ち掛かってきたのに、何だか気に入られたのかな? よく分からない女の子だ。




