20.図書館だー
「ところでこの世界の言葉は覚えたの。」
「日常会話なら問題はないよ。文字も絵本で覚えたし。マーシェリンだけしか話さないけどね。ウルカヌスとアルテミスは一生懸命話しかけてくるけど、会話したらまずいでしょ。」
「あら、もう普通に喋れるの。もっとかかると思ってたのに。確かに赤ちゃんが大人並みに喋ったらおかしいわね。」
「もう子供室はあきたんだよね、絵本は読みつくしたし、図書室とか無いの?」
「あら、本を読みたいの。城の外に、私が作った図書館があるわよ。蔵書数は王都の図書館に迫る勢いよ。まだまだあちこちの領主様にお願いして写本させてもらってるからもっと増えるわ。どんな本を読みたいの。」
「この世界の歴史とか地理、魔法の本とかあるとうれしいかも。」
「何でもあるわよ。連れてってあげようか。」
「ほんと? 行く~。」
「その前に昼食にしましょう。ウルカヌスとアルテミスも一緒よ。」
昼食って、俺はマーサにお乳もらうんですけど・・・
ベビーカーに乗せられて運ばれてるけど、みんな楽しくご飯食べていいよねっ!!
俺だけマーサのおっぱい吸ってて疎外感半端ないんですけどっ!! 別にマーサのおっぱいが駄目という訳じゃないよっ!! おいしいよっ!! まったりとしてっ!! こくがあるのにきれがあるっ!! って何のCMですかっ!! お乳にきれがあってたまるかっ!!
ベビーカーでコロコロ運ばれてたら眠くなって寝落ちしそうなところで城の外に出た。空がまぶしい。ここに来ての初めての外出じゃないか? 初めて空を見上げた。雲一つない空を。
何だあれ。天空に魔法円が見える。空全体をおおっている巨大な魔法円だ。何故今まで気が付かなかったんだ?
眠気が吹っ飛んだ。ふとんがふっとんだわけではないっ!! 断じてないっ!!
「アディ、アディ、アディ、」
アドリアーヌを呼ぶ。あうあうあう、と同じような感じだから他の人には分からないと思うけど。
「あらあら、どうしたの」
アドリアーヌが何か気付いたらしく、俺を抱き上げ小声でささやく。
「一体何なの。」
「あの天空の魔法円は何。」
俺も人に聞かれないようにアドリアーヌの耳元で囁く。
アドリアーヌは空を仰ぎ見るが、首を振り、
「ごめんなさい。私には見えないわ。」
そうか、俺にしか見えないのか。でも、おかしいな。ヤギさん達と一緒に旅していた時だって空を見ていたのに、あの時は気づかなかったぞ。見えていなかったのか? ・・・・・あれ? あの旅の間中、雪雲が空を覆っていたか。そうか、今初めて何もさえぎる物がない空を見上げているんだ。
まあ、支障なく人々が生活できているんだからそれほど深く考えなくてもいいか。
魔法円の中心は遥か遠くにあるようで、見えているのはヘリの方だ。中心が遠すぎて見えないことで、どんな意味合いの図形があるのか全く分からない。いつかあの中心まで行って魔力を注いでみたい。
ウルカヌスとアルテミスは慣れたもので、図書館に向かって走っていってしまった。その後を護衛が走ってくんだけど、護衛も大変だね。俺はベビーカーに乗せられコロコロと階段横のスロープを登っていく。ちゃんと手摺も付いてる。俺には手摺はいらないけど、この図書館はバリアフリーに気を使ってる。アドリアーヌ、グッジョブ。
「さあ、どんな本をお望みかしら。言ってくれれば案内するわ。」
ウルカヌスとアルテミスは自分たちの好きな本を探しに行った。ここにはアドリアーヌの護衛がいるけど俺のこと知ってるから、俺が喋ってもいいらしい。
空に見えた魔法陣を調べたいんだよね。まずは中心がどこなのか調べるなら、この国の地図か。後は魔法円が載っている本があれば、どんな魔法が発動されているか分かるよね。
「この国の地図が見たい。それとすべての魔法円が載っている本ってある?」
「あるわよ。ここからだと地図の棚の方が近いけど、どっちを先にする?」
「じゃ、地図で。」
椅子に座って本を見れる訳も無く、テーブルの上に座らせてもらい本を開く。
やっぱりだ。このマグノリア王国は完全な円だ。直径が2,000kmぐらいらしい。日本で言えば、北海道の宗谷岬から鹿児島の佐多岬までがすっぽり入るぐらいの円だ。この国って思ってたよりデカい。
その円の外側が、いっさい書き込まれていない。各領地ごとに国境門と呼ばれるものがあって、国境門の外の地図が書かれていない。いつか国境門を超えて外の世界を見に行こう。
さてその円の中の、中心の300kmぐらいの円が王直轄領か。この王直轄領が、天空の魔法円の中心だろう。その中心に王都があり、王都の中心に王宮が鎮座している。
この国の結界は王族の魔力によって保たれてるらしいから、天空の魔法円は結界の魔法円なのかな?
そして王直轄領の廻りに方角ごとに均等に12の領地が並んでいる。
これって、もう領地っていうよりも、それぞれ全てが一つ一つの国家としてみてもいいよね。王直轄領と12の領地、13の国家の連合国みたいなもんかな~。その頂点に鎮座まします、ヴァランタイン家って感じのような気がしないでもない。
「この王直轄領の廻りの12の領地って、元々がそれぞれに独立した国家だったんじゃないの? 領主って呼ばれても何かの爵位が付いてる訳じゃないみたいだし、それぞれの国のそれぞれの王家の血筋が領主って事なんじゃないのかな。」
「着眼点はいいと思うわ。口伝では、争いの絶えない人の世に神が降臨されて世界を区切った。と伝えられてるの。でも、その口伝の裏付けを取るために、王立図書館の関連しそうな書物を探し回ったんだけど、そんな歴史書は見つからなかったわ。もし、ショウも興味があるようなら、そういった書物を探してみてね。」
「俺が王立図書館なんか行く機会なんか無いでしょ。」
「今すぐには無いかもだけど、いつか行ったらの話よ。」
やだよ、めんどくさい。とは口にはしなかった。こういうときは、はいはいと返事をしておけば丸く収まる。それにいつか行ったらなどという遙か未来の話など『予定は未定』だよね。
そんな事よりも目の前の本だよ。13の領が書かれている。いつかこの全ての土地を旅したいものだ。
地図には各領の位置と名前、方角が記されているが、街道や町村、領都などは記されていない。各領攻め込まれたりしないように、機密になってるのかな。
王直轄領の廻り、外周の12の領地に国境門があり他国との行き来が出来るらしいけど、今はすべて閉じられているらしい。
北の方角が、月の女神ルーナレータの方角、子供部屋の絵本で見たけど、始まりの女神とも呼ばれている。その方角は『クシーンタリー領』
右周りに、闇の神アーブロシアーの方角『セファルバラ領」』
死を司る神ペルセポーノの方角、ここがマーシェリンの故郷『イクスブルク領』
闇の神と死の神の方角は、日本で言えば丑寅の方角だな。鬼門と呼ばれてあまりいい方角じゃなんいだよね。
死の神の隣が死の神の兄妹神と呼ばれる、命の女神ペルセポーナの方角、我が『テルヴェリカ領』
大地の女神デーメーテーの方角『ポスダルビア領』
火の神ウルカンドラの方角『フェリバドス領』
太陽神アトゥムリオスの方角『パルマードス領』
光の神アラマールの方角『ヴェルサンジェ領』
闘神アノブロスの方角『ヴィナレーザ領』
和の女神ヘイレーネーの方角『クレオリング領』
風の女神シルフィーネの方角『サンペナーレ領』
水の女神ヴェルディーネの方角『ビカルディア領』
そして、王直轄領が『ヴァランタイン領』
名前、長すぎだよ。覚えられないよ。でも大体の位置関係は分かった。海があるのがイクスブルク領の下あたりからテルヴェリカ領に広がっているのか。あと、反対側にもクレオリング領とヴィナレーザ領も海があるのか。海があるって事はおいしい海産物食べれるかな。
もう地図はいいや。見ても道さえも記されていないんだし。
「魔法円の本を見に行きたい。」
図書館の中を移動する間、アドリアーヌが日本語で話しかけてくるんだけど、護衛たちに聞かせたくない話をしたいらしい。
「随分と熱心に地図を見てたのね。少しぐらい質問されると思ってたけど、一人で納得できたの。」
「うん、この国が完全な円で、天空の魔法円によって囲われているんじゃないかと予想ができた。聞きたい事は、その結界の魔法円は、外敵から守るものなのか、外へ出さないためのものなのか、どういう意図があるのかわからないんだよね。外の地図が書かれていないし。」
「確かにこの国って、円状に結界で守られてるから、魔法円がありそうな予想はしてたけど誰も見ることはできないし、確信は持てなかったのよね。始まりの女神ルーナレータ様の魔法円で守っていただいていると信じたいわ。」
「やけに神様を信じているんだね。確かにこの結界で閉鎖された世界には、巨大な魔力がうごめいてるって感じ? あれが神様だって言われたら、ああそうかって納得するしかないよね。」
「やっぱり、ショウも感じるのね。魔力の総量が多い人が、感じられるわ。」
「前世では神様なんて信じていなかったけどね。」
「ショウの前世、どんな人生送ってきたか聞いてみたいわね。今度、二人だけの時に教えて。」
「良い時も悪い時もあったけど、まあ最後は楽しかったね。大往生だったかな。」
「それは是非、聞いてみたいわ。」
「この辺りが魔法関連図書のコーナーね。どんな系統の魔法円を見たいのかしら。」
「あの天空の魔法円が何なのか知りたいんだよね。」
「それは、結界の魔法円が記されている本かな。これね、魔法円が乗っている本の中でも一番複雑な物ばかりを集めた本よ。」
アドリアーヌが一人で持てるような本では無く、リベルドータとグレーメリーザが二人がかりでテーブルに運んでくれた。俺が運んであげればよかったかな?
魔力の触手でペラペラとページをめくり、最初の方に治癒の魔法円が、アドリアーヌが使った魔法円だ。王都の図書館で古い文献から探し出したらしい。簡易的な治癒の魔法円も比較のために記されてる。
「この複雑な治癒の魔法円は、皆は普通には使わないの?」
「複雑な上に魔力消費がはげしいから、敬遠されるようになったんじゃないかな。でも効果は格段に上ね。」
「そうだよね、マーシェリンの治癒で使ったけど、こっちの簡単な魔法円に比べて修復のスピードが凄く速かったよ。」
「そうそう、その時のショウが施した治癒の技術を教えて欲しかったのよ。あの後忙しくて忘れてたわ。」
「え~、今ここで?」
「後でいいけど、早めにお願いね。」
了承し、どんどんページをめくる。
結界の魔法円か。天空の魔法円は隅の方しか見られなかったけど、これとは全く違うみたいだ。物理防御と魔法防御結界か、領境の結界もこれとは全く違うみたいだな。
でも結界の魔法円は覚えておきたいな。手を当ててみるけど、本相手には発動できないみたいだ。
「複写みたいな魔法って無いのかな?」
「あるわよ。こっちの本じゃなかったかしら。」
これこれ、と言ってアドリアーヌが本を出しページをめくって指し示す。そこに手を当ててもやっぱり発動しない。
「駄目か。」
「何が駄目なのよ。」
「この本に手を当てても、魔法は発動しないんだね。」
「紙相手に魔力を通したって無理よ。魔法を発動させるには手順が必要よ。魔道具だって、ただ魔法円貼り付けてるわけじゃないしね。でも複写なら私が魔法円を記憶しているから使えるわよ。見てみる?」
「え、本当? 見たい。」
アドリアーヌが手を翳し、俺の前に開いていた本の上で魔法円を展開し魔力を込めると、おお~ 結界の魔法円が光って浮かび上がった。
「写本をするのに、これが便利なのよ。あ、写す紙を出すのを忘れてたわ。リベルドータ、紙を出してちょうだい。」
「そのままでいいよ。」
複写の魔法円と結界の魔法円、両方に手を伸ばし、ひとしずくの魔力を込める。俺とアドリアーヌの廻りが結界に囲まれる。
「ちょっとっ!! ショウ、非常識よ。そんな事絶対に人前でしないでっ!!」
「は~い。でもこの結界の強度ってどのくらいあるのかな。調べてみたいね。マーシェリン、剣で切り掛かってよ。」
「やめなさいっ!! 図書館では静かにっ!!」
「アドリアーヌもね。」
マーシェリン、もう剣、半分抜いてるよ。遠くで図書館利用客が睨んでるし。
結界も複写も覚えたし、他に何かめぼしいものは無いかなってページをめくってたら、すっげー、転移の魔法円があった。注意書きがごちゃごちゃ書いてあるけど、俺の文章読解能力じゃ難しくて理解が追い付かないぞ。
こんな時に、あ~ら便利、複写魔法~・・・
「リベルドータ、紙持ってるならちょうだい。」
「そうやって簡単に魔法円覚えられるなんて、便利過ぎじゃない? 私もそのやり方、覚えられる?」
「アドリアーヌも出来るように頑張ってみれば。」
「頑張っただけで出来る訳ないじゃない。それよりも転移の魔法円を覚えても使えないわよ。そこにいろいろ注意事項とか使用手順とか書いてあるでしょ。」
「難しくて、書いてある事が理解できそうもないから、複写して研究するんだよ。」
「それって二か所で魔力を飛ばしながらお互いの座標を確認して、転移の魔法円をその場に固定するの。座標はお互いに方角を確認して距離を探り、そこに高低差まで考えなきゃいけないのよ。魔力を飛ばすのだって数人がかりなんだから、覚えても意味ないんじゃないかしら。」
「げっ、めんどくせー。」
x軸y軸z軸の座標指定・・・ しかも2ヵ所でお互いの座標指定・・・ 一人じゃ出来ない?・・・
そうだっ!! 初めて森の中で魔獣と戦った後、コナンの外からコナンの姿を見た事があったぞ。あの時は元に戻れるか心配したけどちゃんと戻れたよな。しかも幽体離脱みたいだったし。あんな感じで遠くから自分本体の位置が分かれば使えるんじゃないかな。
「ショウ、何を企んでるのよ。」
「いや、なにも。」
複写した紙はマーシェリンに渡して、ページをめくりながら、白を切る。
「ええ――っ!! 時間凍結?! 時間まで操る魔法があるの?」
「ええ。箱にその魔法円を組み込んで魔力供給用の魔石を取り付ければ、食材の保管に便利よ。」
「冷蔵庫みたいなものか。」
「冷蔵庫はもっと単純な氷魔法を組み込むわね。その方が魔力消費が少なくすむのよ。」
「革袋に時間凍結魔法を組み込めば、お弁当を持ち歩くのに良さそうだね。」
「魔力消費が大きいから、お弁当程度を時間凍結で持ち歩こうだなんて人はいないわよ。でもショウの魔力量なら問題ないかもしれないわね。」
「俺が、魔石を入れてた革袋あったでしょ。あれに時間凍結を組み込んでみるよ。」
「そんなこと、魔道具士でも無ければ出来ないわよ。魔法円を組み込むのには、特殊な技術が必要らしいわよ。」
「やってみないと分からないでしょ。出来なかったら諦めるよ。」
これも複写しとこう。
最後までページをめくっても、天空の魔法円に似たものは見つからなかった。始まりの女神の創造による魔法円なら、下々の者たちには教えられなかったのだろうか。しょうがない。いつか、あの中心まで行って魔力を込めてみよう。
次は攻撃系魔法の本も見たいな・・・
まだ未発達の脳を酷使し過ぎたようで、突然の 睡魔からの 寝落ち・・・・・




