172 新入部員が入って初めてのミーティングは引退式
友利豊です。
今日は新入部員が全員そろって、初めてのミーティング。
そして、全国大会の功労者である小出葵先輩、板谷翔先輩の引退式でもある。
小出先輩は大学の推薦入学試験に向けての準備があること、夏休みに性転換手術を控えていることで、
早めの引退を決意した。
板谷先輩はどうも、1、2年であまり勉強してなかった反省があり、3年で猛勉強するために早めの引退を決めたようだ。
直接聞いていないから真偽は不明なんだけど、小出先輩が推薦入学を狙っている大学を受験するのではないかと噂になっている。
けっこうレベルの高い国立大学みたいで、かなり集中して勉強しなきゃ間に合わないと考えたのかな?
うん、小出先輩のことが好きだと思うから信ぴょう性ある。
俺も、あと2年もしないうちに受験だ。二人の先輩のように、引退時期を決めておく必要がある。
考えないと。
あいつはどうするんだろう?
ちなみに、他の3年生は6月の定期公演までやる先輩が5割。全国大会まで頑張る先輩が5割といったところだ。
だから、全国大会はけっこう大変なことになる。
1年生を即戦力として使わなければならない。
新入生の太田は「姫」で、しかも重要な役だから、すぐ芝居を覚えてもらわなければいけない。
こりゃ、ハードだぞ。
全員そろったところで、年間のスケジュール、当面の課題について話し合った後、顧問の山野秋葉先生が、みんなに声をかける。
「みんな、今日で、3年生の小出さんと板谷君は引退です。
理由はみんなが知ってるとおり。
1年生も先輩から聴いているでしょ?
小出さんは、推薦受験と性転換手術に備えるため、板谷君は大学受験の準備を始めるためです。
なお、小出さんの性転換手術は一応、演劇部員以外には内緒なので、話さないでください。
性別を変えるという大きな出来事なので、よろしくね。
二人とも、昨年の全国大会優勝と今年の全国大会進出の功労者です。
二人の力がなければ、どうなったかわかりません。
でも、これからは二人はいません。
これからは、二人の穴を埋めようと思うのではなく、残った部員が今までにない力を発揮して過去を超えようと思わなきゃダメ!
二人が後ろ髪をひかれることのないように、みんなポジティブにね!
じゃ、小出さん、板谷君挨拶してください。
まずは、今日で部長を卒業して落合君に引き継ぐ小出さんからお願いします。」
「みんな、今日で私は引退です。
短い間だったけど、いろいろありがとう!
いろいろ至らない面があったけど、最低限の責任は果たせたかなって思ってる。
私、引退しちゃうけど、学校にはいるから、時々遊びに来るし、多少の協力はできると思う。
それで・・・気にかかるのは全国大会だよね・・・
残った3年生、2年生にお願いしたいことは1年生の育成!それだけ!
今年もいい新人が入ってきたと思うけど、育て方次第で変わるから。
特に、私の後継者の太田さんはかなり努力が必要だと思う。
太田さんには覚悟があると思うから・・・鍛えてあげてね。
お願いします。
あ、落合君、新部長として頑張ってね。」
「はい、任せてください。」
そっか、新しい姫となると俺と絡む演技多いよな?
真剣に指導しないと。
「では、板谷君、次にお願い。」
「はい。
みんな、俺は今日で引退する。今まで、ありがとう。
6月の定期公演でさらに引退者が増えるけど、残った部員はプレッシャーに負けないで頑張ってくれ。
小出も話したけど、やはり1年生が気になる。
全国大会で実力を発揮するためにも、1年生の育成が急務だ。
俺もアドバイスくらいならできる。いつでも相談してくれ。」
そのあと、
板谷先輩と小出先輩は部員全員に向けて一緒に並んだ。
深呼吸をしたあと、同時に声を発した
「みなさん、本当にありがとうございました。」そして、深々と頭を下げる。
次に山野先生に向かって、
「先生の指導がなければ、これまでやってこれませんでした。ありがとうございました。」
とやはり同時に声をだして、頭を下げた。
うわっ、丁寧だし、二人ともやっぱり仲がいいな。
ちょっと、目元がウルっと来た。
周りのみんなもちょっと泣きそうだ。
そこで、尾崎先輩が声をかける。
「お前ら、本当に仲がいいな。一緒の大学受かるようにがんばれよ!」
それをきっかけに次々と部員が声をかける。
「先輩、早く引退するんだから、現役合格してください。」
「そうです。一緒の大学に受かるように祈ってます。」
「今年も優勝します。」
「1年もがんばります!」
引退する二人も涙をこらえている感じだ。
そのあと、俺は声を張り上げた。
「よし、二人を胴上げしようぜ。景気よく行こう!」
「おおっ!」
「ここじゃ狭い。外で胴上げだ。」
「おい、ちょっと。」
「あの、みんな、私、スカートなんだから。恥ずかしいよっ!」
二人は戸惑っていたようだけど、まんざらでもなさそうだった。
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太田和音です。
ついに、偉大な先輩、板谷先輩と小出先輩が引退してしまいました。
私、小出先輩の演技を引き継がなければならない。そして、女性としての所作も覚えないと。
「心配しないでいいよ。」
そう言って、私の肩に手をおいたのは山野先生でした。
「高校生って、ものすごく成長するときなんだ。
自分でも信じられないくらい。
自分には無限の可能性があるって思った方がいいよ。
ただし、夢中にならないとだめだ。
板谷なんか、夢中になり過ぎて、勉強がおろそかになって、あのざまだけど、演技は花開いた。
板谷も演技未経験者だったんだぞ。
それから、葵の後をなぞろうと思わない方がいい。
自分しかできない女形の形を探ったほうがいい。
個性は一人一人あるんだ。
人の真似をするより、自分なりの形を作っていったほうが上手くいくと思う。
それから・・・
女性化を目指すということは、人より男性と女性の違いを強く意識することになる。
その意識をうまく女形の演技にも活かしていくんだ。」
「はい。そうですね。女性をめざす私生活の中での意識を部活にも活かせますね。」
山野先生、なんか女性化をめざす男子のこと詳しい。
やっぱり、小出先輩を指導していたからかなあ。
不思議だ。
それにしても、山野先生、きれいだなあ。




