169 入学式の次の日
朝倉良太です。
入学式が終わり、最初の登校日、俺と太田と藤田は通常の生徒より40分早く学校に着くように家を出た。
入学式で、自己紹介を済ませたとはいえ、やはり初日は教室に入る時に注目を浴びてしまうに違いないと考えた結果だ。
誰よりも早く教室に入って、クラスメイトを待ち構えようという作戦だ。
教室に入ってきたクラスメイト、一人一人に声をかけて、好奇心の目に晒される前に知り合いになっちゃおうという方法である。
俺も一緒に行くから、暇すぎて困るということもない。
風歌も、「うん、それいい。私も、教室で待ち構えて、入ってくる女の子一人一人に声をかけよう。」
と賛同してくれた。
作戦は正解だった。
「演劇部の太田です。よろしく。」
「おお、入学式の時の太田か?それにしても、女子生徒が混じってるなんて、すごく不思議だ。」
「うわっ、太田か。ウチのクラスだったんだな。うーん、スカート短いな。パンチラ見ちゃうかもしれんなー。」
そして、教室が生徒で埋まってくると、質問が次々と飛んでくる。
「女になりたいって、いつからなんだ?」
「やっぱり男が好きなのか?」
「ホルモン治療するのか?」
「手術するのか?」
という性的な質問は容赦なく飛んでくる。
あらかじめ予想してたので、太田はスムーズに答えていく。
太田ははっきりした答えは言わない。煙に巻く感じだ。
女になりたくなった時期→ 物心ついたとき。
男が好きか?→ どちらかと言えばそうだけど、性転換手術をしてから、恋愛をしようと思っている。
ホルモン治療→ 中学3年生の後半から(これは事実)
手術の時期→ まだ決めていない。
実は俺は手術の時期は聴いていた。
「小出先輩のスケジュールの通り、18才になったらやるつもり。
小出先輩と同じく夏前に18才になるから、3年の夏休みに実施予定。
大学は推薦入学を目指す。」
ということだ。
そして、
「演劇部には入っていたの?」
「演劇得意なの?」
「うちの演劇部強豪なんでしょ?大丈夫?」という演劇部関係の質問も多かった。
そこも想定の範囲で、太田はすらすらと回答していく。
まあ、想定問題は俺もいっしょに考えたんだけどね。
そして、放課後は演劇部の部室に行く。
あらかじめ、挨拶に行くことは伝えていたので、先輩方はそろっていた。
「ようこそ演劇部へ。部長の小出です。」
俺は、小出葵先輩を目の前で見るのは初めてだ。ちょっと緊張する。
おお、目の前で見ても、美少女、いや美人だ。
それにしても、板谷先輩と並んでると、美男美女で、カップルに見える!
「うわっ、美男美女だ。」と声を漏らすと。
後ろから肩をたたかれた。
人懐っこそうな顔をした先輩だ。
「おお、新入生、俺は劇作家と監督やってる尾崎だ。
あの二人な、本人たちはまだ否定するだろうけど、
実は公認カップルだ。
仲いいんだぞ。」
「そ、そうなんですか?すごい・・・進んでる世界なんですね。」
よく考えれば、男同士のカップルだ。
公認カップルなんて、昭和、平成の時代には考えられないだろう。
「いや、君たちも一緒に部室にはいってきて、お似合いだったぞ。
なんか、寄り添っている感じがいい感じだった。
早く、付き合っちまいなよ。
俺も彼女ができて、楽しいんだ。
演劇部は恋愛自由だぞ。どうだ?」
「いや、僕と太田は中学が一緒っていうだけです。
その、そういうのと違います。」
「まあまあ、堅いこと言うな。」
けっこう、押しが強い先輩だ。初日からからかわれるのは参った。
悪い人じゃなさそうだけど。
それにしても、俺と太田ってそんな風に見えちゃうのかな?
クラスではそういう風に見えないように、同じ中学出身キャラでやり過ごしたけど。
「尾崎君、一年生からかっちゃだめよ。
困ってるじゃない。祐希にいいつけるわよ。」
「おお、それはまずいな。祐希、怒ると怖いからな。
ごめんごめん。じゃ、俺は、山野先生と定期公演の台本の打ち合わせにいってくるかな。」
見かねた、小出先輩が助けてくれた。
「ごめんね。可愛い1年生が入ってきたから、いじりたくなっちゃったんだと思う。
許してあげてね。
でも、太田さん、かっこいい男の子が一緒に入ってよかったね。
ラッキーじゃない。」
「ええ、朝倉君は頼りになるし、かっこいいし、本当に助かってます。」
太田が俺を見上げて、ニッコリ笑う。
ヤバイ、可愛すぎる、こいつ。
「ふふふ。私と板谷君の関係は戦友のような関係かな?一緒にいいお芝居を作っていく戦友なの。
まあ、他人が何と言おうと気にしないよ。
仲がいいのは間違いないんだ。」
「素敵ですね。私と朝倉君もそんな関係になりたいと思います。」
「おれも、太田と戦友になります。」
「うん、よろしい。とにかく仲良くね。」
それにしても・・・
小出先輩って、近くで見て気づいたけど、何気に胸がでかい。
ウエストも細そうだし、色っぽいぞ。
ホルモン治療おそるべしだ。
今はつるペタの太田も胸が大きくなるのかな?
そうなったら、エッチな気持ちになっちゃうぞ。
困るなー。
俺は2年後の太田の体型を想像してしまった。
その俺の心が読めたのかわからないが、太田がため息をつく。
「小出先輩って、色っぽいなー。おっぱい大きい。
私も、あんな感じになれるかな?
ねえ、朝倉君、どう思う?
朝倉君は胸が大きい女の子の方が好き?」
「ええ?
そうだな、俺はこだわらないタイプだけど・・・
ないよりはあった方がいいかな?」
「やっぱりそう?
小出先輩に胸が大きくなる方法聴こうかな?
ホルモン治療だけじゃないものね。」
「そんな気にするなよ。胸の大きさなんて女性の魅力の一部だ。
それより、総合的にいい女になれるよう頑張れよ。
それに、小出先輩がきれいにみえるのは・・・
恋をしてるからじゃないか?」
「やっぱり!
板谷先輩の存在があるからかな?
私も、堂々と恋ができるように、一刻も女らしくならないといけないね。」
「そ、そうだな。」
と俺は答えながら、
誰に恋をするんだ?
もしかして、やっぱり・・・俺が対象になるのか?
そりゃ、困る・・・うーん、どうだろう・・いいかな・・・
あー、わかんない。
俺の恋愛感覚のコンパスは安定しない状況にあった。




