165 朝倉良太、和音からカミングアウトされる
朝倉良太です。3月です。
今日は太田の家に自転車で向かっている。
同じ中学だから、めちゃめちゃ離れてはいないし、最寄り駅は同じだけど、近所ではない。
小学校は違うんだ。
なぜ太田に家に向かっているのか?というと、
高校入学の前に話しておきたいことがあるので家に来てほしいと太田に言われたからだ。
おまけに昼食までご馳走してくれるみたいだ。
いったいなんだろう?
何を話したいんだ。
そういえば、高校からの通知で、俺と太田は同じクラスだってわかった。
あいつは知らないだろうけど、部活も一緒になる予定だし、不思議な縁だ。
でも嬉しい。
あいつはいいやつだからな。
太田には癒される。
男だけど、小柄で華奢で可愛い。
性格も優しい。
友達として、一緒にいて安らぐタイプだ。
お、あと少しだな。スマホで道順確認してたから、あと数十メートルだ。
そこの角を曲がってと。
あれ?知ってる顔の女の子がいる。
同じテニス部の藤田風花じゃないか?
何でここにいるんだ。
藤田はテニス部での評判の美人だ。
でも、俺の恋愛対象ではない。
やや元気すぎるキャラがちょっと苦手だし、俺が付き合った木口美亜とも仲がいい。
部活仲間ではあり、それなりに交流はあるが、必要以上には仲良くしていない。
「朝倉くん、いらっしゃい。お待ちしてました。」
「あれ?藤田も呼ばれたのか?
聴いていなかったけど・・・。
まさか、太田と付き合っているの?」
「まさか!全然違うよ。
私は、太田君・・・和音の幼馴染み。
幼いころから知ってるから和音・・・って呼んでる。
親同士もご近所づきあいしている関係なんだ。
今日は、和音が朝倉君にお願いをすることがあるっていうんで、応援団で来たの。」
「お願い?話したいことがあるって聞いてるけど。」
「あることを告白して、それについて協力を依頼するってことなんだ。
まあ、立ち話は近所に聞こえるから、いっしょに家に入れてもらおうよ。」
インターホンを押して、早速お邪魔する。
太田の家には太田に加えて、ご両親もそろっていて、太田家3人と藤田と俺の5人で一緒に食事をした。
太田のご両親は気さくな方で、朗らかだった。
「同じ高校に入るってことで、和音と仲良くしてください。」と頭を下げられて、
俺も、「もちろんです。」と答えるが、予定されているはずのカミングアウト?が気になる。
何だろう?
何か病気があるとかなのかな?
食事はとても美味しかった。
我が家の料理も旨いが、太田のお母さんの料理も旨い。
味付けが我が家と違うので、新鮮だった。
食後のコーヒーとデザートを楽しんでいると、藤田が太田にアドバイスした。
「和音、そろそろいいんじゃない?
話そうよ。」
「うん、わかった。
朝倉君、一緒の高校に進学する上で話しておかなければいけないこと打ち明けるね。」
「おお、わかった。」
両親のいる前で、話すという事は重大なことなんだろうと推測する。
「あのさ、LGBTって知ってるよね?」
「ああ、ニュースでその言葉知ったよ。
確か…レズとかゲイとか、性同一性障害とか性的少数派のことだろ?」
「実はね。
はっきり言うと・・・
僕、LGBTなんだ。」
「え・・・?
そ、そうなの?
そうなんだ・・・
・・・知らなかった。」
太田は男性だから、レズではない。ゲイなのか?
それとも性同一性障害?
女性になりたいのか?
そうだ、何となく想像できる!
「僕は性同一性障害。
最近の用語では性別違和と言われている人間。
心が女性なんだ。
これを知っているのは家族と、風歌と風歌の家族だけ。
ウチの家族と風歌の家族は僕が女性化することを応援してくれてる。」
「そう・・・なんだ。
突然のことで、何て言っていいかわからないよ。
ただ・・・その、太田の人生の選択については尊重する。
好きな性別を目指すのなら、俺も応援するよ。
それにしても、進学先は男子校だぞ。
いいのか?」
「事情を説明するね。
実は桃花高校には演劇部があって、演劇部には専門の女役がいる。
『姫』っていわれている。
『姫』に選ばれた生徒は学校での生活を女子校の制服で過ごすことが認められてるんだ。
通学も女子の制服でオッケーなの。
僕は、入学前から演劇部の『姫』になることが決定していて、女子の制服での通学が認められている。
僕は、高校入学したら、24時間女性の姿で過ごすようになるんだ。」
「そりゃ、すごい!
そんな規則があるんだ。
知らなかった。
つまり、・・・女子高生になっちまうのか?
4月から・・・
すげーな。
いきなり社会的な性別が変わっちゃうんだ。
でも、通う高校が男子校って・・・複雑だ。
よく理解できない。」
「実は今度3年生になる先輩の『姫』がいるから、在校生にとっては、珍しくない光景だよ。
それで僕も心強いんだ。
あと、その先輩がそうなんだけど、僕はホルモン治療で女性化を目指すんだ。
10月くらいからホルモン治療開始している。
まだ、少ししか変化ないけど、顔つきとか、体型とか少しだけ変化している。
たぶん、1年もすれば、かなり女性っぽい顔つき、体つきになるよ。
髪の毛もどんどん伸ばす。」
「ん?・・・そうか!
そうだったんだ!
わかった。
最近、何か、顔が可愛くなったなって思ってたけど、ホルモン治療のせいか!
なるほど!
ふに落ちた。
第二次性徴期で男っぽくなる時期に変なことがあるなと思ったんだけど、そういうことか!」
そこで、藤原が話に入ってきた。
「それで、通学のことなんだけど、通学は私と、和音と朝倉君の3人で行かない?
朝倉君、和音に一緒に通学しようって言ってたけど、和音、女子高生姿だから、朝倉君と和音の二人だけになると気まずいでしょう?」
「そ、そりゃそうだな。
今の話を聴くと、二人での通学は・・・
ちょっと恥ずかしいかも・・・、
ごめん太田。」
「ううん、その気持ちわかるよ。女装した男友達と通学するっていうのはけっこうハードル高いよね。
風歌がいっしょなら、すごく気楽になると思うんだ。」
俺は、女装した太田の姿が想像できなかった。今でも女の子っぽいけど、どうなるんだろう?
確かに二人きりで歩くのは抵抗がある。女性に見えるか見えないかわかんないけど・・・。
どちらにしろ恥ずかしい。
そうか、女子校も同じ駅だから、駅の改札から、降りる駅の改札まで、3人で過ごすならかなり楽だな。
降りてからは二人きりになっちまうけど・・・
そこは恥ずかしくても耐えるとしよう。
友達に冷たくはできないもんな。
同じ演劇部だし。
そうだ、俺もカミングアウトしなきゃ。
「わかった。3人で一緒に電車に乗って、学校がある駅まで行こう。
了解だ。
それでだ。
俺も、カミングアウトすることがある。」




