149 和音のカミングアウト
ついに話してしまいます。味方が必要ですからね。
中学3年生の太田和音です。
幼馴染みの藤田風歌との会話の流れで、僕は、GID(性別違和、性同一性障害)のカミングアウトを決心します。
この流れなら自然にカミングアウトできる。
信頼できる同世代の友人に知ってほしいんだ。
一人でも味方ができれば、全然気分が違う。
「あのさ、理由を教えるから、その代わり、その理由をしばらくの間・・・中学卒業までは秘密にしてほしいんだ。誰にも話さないでほしい。
いいかな・・・?」
「えっ?何それ?
なんか事情があるの?
・・・うーん、ちょっと怖いんだけど・・・
私、聴いていいのかな?」
「風歌なら、話せると思ったから、話したい。
聴いてほしい!」
「そこまで信頼されてるなら、聴くしかないかな?
うん、任せて!
秘密は守る。」
「あのさ、LGBTって知ってるよね?最近、ニュースとかに出ることばだけど・・・」
「うん、知ってる。レズ・ゲイ・バイ、あと・・・何だっけ?」
「トランスセクシャルだよ。」
「あ、そうだったの?
つまり、あの・・・同性愛者とか、ニューハーフとかのこと?」
「トランスセクシャルは性別を移行しようとする人だよ。
LGBTには、その4つだけでなく、もうちょっと広い意味があると思う。
うーん、説明が難しい・・・
要は性的少数派ってことで、性の指向が独特の人たちをさすんだ。
・・・
それでね・・・」
僕は一旦、深呼吸をした。
「僕もLGBTなんだ。」
「ええっ?うそ!
となると・・・さっきの会話を考えると・・・ゲイなの?」
「うーん、違う。僕の場合は性同一性障害、性別違和と呼ばれてるもの。
最近ではGIDという英語の省略語で呼ばれている存在。
自分の性自認が女性ってやつだよ。
男の姿で生まれたんだけど、自分のこと女性だって思ってる。
・・・理解できないかもしれないね・・・
その、僕は・・・
ホルモン治療と外科手術で女性の体になることを目指してる。」
「そうなの?
そうだったんだ!
・・・驚いた!全然知らなかった!
つまり心が女子ってことなのね・・・
・・・でも・・・何となくわかる!
和音って、子供のころから女の子っぽかったし、今でもそうだもん。
なるほど・・・
そっか・・・女性の体をめざしてるんだ・・・
すごい!
一大決心だね!
それで・・・
いつから治療するの?
しかもなぜ男子校なの?
女の子になりたい男子が男子校行くなんてよくわからないんだけど。」
「桃花女子高校の『王子』制度って知ってる?」
「うん、知ってる。お母さんに聴いた。
宝塚みたいに、男役のスターがいるんでしょ?
私宝塚好きだから、それも興味あったの。」
「実は、男子校には『姫制度』があるんだ。
演劇部には専門の女役がいて、『姫』って呼ばれてる。
入学時に『姫』に選ばれれば、女子の姿で学校生活送っていいことになってるんだ。
現在『姫』をやってる小出葵さんという2年生は僕と同じGIDで女性の体になろうとしてる人で、
入学後はずっと女子の制服で通学している。
すごい制度でしょ?
あ、スマホに写真あるんだ。見てみる?」
「何、その制度?
そんな変わった制度があるんだね!
うん、写真見たい!」
「これだよ。
可愛いでしょ?」
「うそ!なにこれっ、可愛いっ。
芸能人みたい。アイドルなみに可愛いっ。
こりゃ、反則だよ!
普通の女の子負けちゃうよ。」
「つまり、僕はこの小出さんの後の姫を目指してるんだ。
もう、学校側にその意思は伝えてるし、面接の時も強く訴えるつもり。
姫になれないんだったら、桃花高校には行かない。」
「そうなの?
よくそこまで考えるね。
女の子になろうとしてるっていう話だけでも驚くけど、高校を選ぶ動機にも驚いたよ。
私と同じ演劇部志望ってことでしょ?
演劇なんてできるの?
あ、確か桃花高校って、全国大会優勝したって聞いたよ。
そんなすごいところ、大丈夫?」
「どんな困難でも乗り越えるって決めたんだ。
性を超えるってことを決断したんだもん。
人一倍努力するよ。
風歌こそ大丈夫?
演劇やったことないでしょ?」
「そうだね。
私も、未経験者だった。ははは。
しかも、女子校もけっこう演劇部強いんだよねー。
人の事言えないね。
そっか。じゃあ、同じ系列校に入って、同じように演劇部にはいるつもりなんだ。
そういうことなら・・・
これからもよろしくね。
演劇の件で相談できる仲間になるね。
まだ合格もしてないのにこんなこと言うの早すぎるかもしれないけど・・・。」
「うん。二人とも合格するまでは、あくまで、予定の話だから気が早いね。
でも、実現させたいと思ってる。
風歌もがんばってほしい。
それから、治療の件だけど、10月からお医者さんに通って、ホルモン投与を受け始めるんだ。
たぶん、半年くらいたつと、体つきや顔も少しづつ変わっていくよ。
中学卒業までは、変化は見た目には表れないと思うけど・・・」
「わ、10月からなんだ。
もう治療始めるの?はやーい!
でも・・・すぐには容姿は変わらないんだね・・・
そりゃそうだよね。マンガやアニメじゃないんだから、薬飲んで、すぐ体が変わるわけないよね。
時間をかけて、じわりじわりと変化するんだ。
その・・・おっぱいとか大きくなっていくんだ。お尻も大きくなってくんだよね?
へー、何か不思議。
変化を観察したくなっちゃう。
あ、ごめんごめん、興味本位ってよくないね。
うん、わかった。女の子になるの応援する!
何か困ったことあったら、言ってね。何でも相談に乗るから!
任せて!秘密の件もばっちりだよ。」
「あ、ありがとう。
風歌なら、応援してくれると思った。
ほっとしたよ。
中学の友達で一人くらい打ち明けておきたかったんだ。」
「なるほどね・・・
あ、女の子になりたいっていうと、やっぱり男の子好きなんでしょ?
やっぱり、朝倉君のこと好きなんじゃない?
うん、そうに決まってる!」
「ええっ?何言ってるの?
そりゃかっこいいなーって憧れはあるけど・・・
それ以上の気持ちはないよ。
まあ、高校に入って、しばらくたって、女の子っぽい容姿になったら、男子に恋をするかもしれないけど。」
「ふふふ、朝倉君が木口さんと別れたら、教えるね。そうだ、朝倉君に桃花高校進めようかな?
木口さんと同じ高校には行きたくないだろうから、いいかもしれない。」
「ええっ?木口さんと別れるって決まったわけじゃないんでしょ?」
「あの二人はだめよ。私が断言する。朝倉君には和音がいいと思う。
二人がくっつくように画策しようかな?」
「そんなの無理に決まってるじゃない。
朝倉君は普通の男子なんだから、変なこと言っちゃだめだからね。」
僕は幼馴染みの変なテンションに参ってしまった。
まあ、僕の秘密は守ってくれるとは思うけど。
風歌みたいな女の子がいると、頼もしいですよね。




