148 次の「姫」を目指す少年
これから、桃花高校をめざす中学生たちの話です。
「姫」になりたい男の子と、その仲間の話が広がっていきます。
僕は太田和音。
自分は女性であると認識している中学3年生の男子生徒です。
ジェンダークリニックに2年通い正式にお医者さんから性別違和、すなわち性同一性障害(GID)の診断をもらいました。つまり心が女性なので、身体を女性にふさわしいように治療してかまわないという診断です。
今9月なんですが、今月末に誕生日が来る僕は10月からホルモン治療を開始します。
もうワクワクします。
それから・・・
10月には、桃花高校の推薦試験を受験します。
成績は水準を超えているので、後は面接だけです。
僕は、願書に小出葵さんの次の「姫」を目指していますという申請書も添付しました。
演劇部の「姫」になれば、関連する女子校の制服を着用して通学できるという特例があります。
それを知った僕は絶対「姫」採用前提で入学しようと決めました。
面接の時は3年間女子の制服で通わせてくださいと強く言うつもりです。
「姫」に採用されなければ、桃花高校に入る意味はありません。
もし、桃花高校がダメなら、女子の制服で通える学校を新たに探さなければいけません。
でも、桃花高校に入りたいなあ。
だって、憧れの小出葵さんがいるんだもん。
桃花高校演劇部のOBの兄の情報によれば、葵さんは「姫」を引退したあとも卒業まで女子の制服で過ごすみたいです。学校側の承認をもらったとのこと。すごい。
そんな話を聴くと僕もその後をなぞることができると考えてしまいます。
とにかく、葵さんは優しそうだし、いっしょの高校に行きたい!
で、僕は、一応中学の同級生にはそんな計画は黙っています。
というか、GIDであることは、生徒は誰も知らないんです。
教師には伝えているんですが、秘密にしてもらってます・・・。
10月からホルモン注射を始めますけど、身体の変化が始まるのは年が明けてから少しづつでしょうから、在学中はバレることはありません。
まあ、同じ高校に進学したら、その時同じ中学出身の生徒にはばれちゃうんでしょうけどね。
名前とか変えないし、顔も急には変わらないし。
髪の毛も今の段階で、女子のボブスタイルくらいあるから、地毛で行けるはずだし。
とは言っても、誰かにはばらさないと息が詰まります。
「よし、機会をみつけて、誰かにカミングアウト出来ればしたいなあ・・・
信用できる人物なら・・・」
そんなことを考えてたら、その機会は突然やって来ました。
文化祭が終わり、片付けをした日の帰りに近所に住む幼馴染の女子と一緒に歩くことになったんです。
一緒に帰宅していた男子の友人と別れたあと、いつの間にか後ろを歩いていた彼女に声をかけられました。
「和音!
荒川君と一緒に歩いていたから声かけなかったんだ。
家まで一緒に帰ろうよ。」
「あ、風歌!・・・うん。」
彼女は同じクラスじゃないけどよく知ってる子です。
家がすぐそばで、小学校時代はよく遊んだ女の子でした。幼馴染みってやつです。
しかもけっこう美人。いろんな男子と噂がある有名女子です。
中学ではテニス部所属。
もう引退してるけど・・・。
フルネームは藤田風歌。
元気すぎるくらいの女の子で、誰にでも気軽に話しかけてきます。
中学では地味な僕にも
「相変わらず、女の子みたいで、可愛いね!ふふふ、抱きしめたくなっちゃう!」なんて赤面するようなセリフで声をかけてきます。
「高校、どこに行くの?決めた?
私ね、桃花女子高校に決めたんだ。」
高校の名前を聴いて僕の心臓はドキッとします。
だって、僕は桃花高校を希望しているから。
「でね、テニスはもうやめるんだ。
今度は演劇部に入るつもりなの。
私、女優さんってやってみたくてさ。」
「え?テニスやめちゃうの?演劇部?もったいない。」
「ちょっとテニスに限界感じててね。県大会でボロボロに負けちゃったし。
違うことにチャレンジしたくなったんだ。
実は、母が桃花女子出身で、女子校は楽しいよって教えてくれたんだ。」
「そ、そうだったんだ。
そ、そういえば、風歌って、テニス部の朝倉君と噂あるよね?
どうなの?」
僕は高校の話もしたかったけど、ちょっと前から気になっていたことを優先して聴きます。
朝倉君はテニス部のイケメン男子。
風歌同様、人気者で、明るく元気で優しい男子。
1年の時に同じクラスでした。
実は僕は密かに憧れてたんです。
もし、女の子になれたなら、朝倉君みたいな彼氏が欲しいな・・・なんて、妄想をよくしてます。
まあ、実際は無理だし、朝倉君は風歌をはじめ同学年の美少女たちと噂があるんです。
「ええっ?私とも噂あるの?
違うよ!
朝倉君はちゃんと彼女いるよ。
陸上部の木口美亜さん・・・。
同じ高校めざすって話もあって・・・。」
「木口さん!学校で一番の美少女って言われてる木口さん?
すごい、さすが朝倉君!
全然知らなかった。」
「あまりオープンにしてなかったからね。
でも、最近二人は喧嘩してて、もう少ししたら別れちゃうかもしれない・・・。
木口さん、キレイだから、ちょっとプライドが高すぎて、優しすぎる朝倉君と意見が合わないみたい。」
「そうなの?美男美女だから、お似合いなのに。
そっか?性格が合わないってこともあるか?
もし別れるんだったら、風歌はチャンスじゃない?
風歌だったら、性格もピッタリだよ。」
「それは、あり得ない。だって、私、木口さんと同じクラスで、木口さんと友達だよ。
中学生活あと半年もあるんだから、そんな変なことできないよ。
だいたい恋愛より勉強が大事な時期になってきてるし。」
「そっか?朝倉君、素敵なのに。」
僕はつい油断して、女の子みたいな発言を漏らしてしまいました。
「あれー?和音ったら、今、女の子みたいな顔になった。
もしかして、男の子同志だけど、好きだったりして・・・
男子同士の恋って・・・おもしろそう!」
「ち、違うよ。単に、男から見てもすごいイケメンだなって思うだけだよ。」
「ふーん。怪しい。
そうだ、ところで、和音はどこの高校目指しているの?
私がばらしたんだから、教えてよ。」
「う、そうだね。
実は、偶然だけど、風歌の希望校の系列校、桃花高校なんだ。
しかも、推薦試験狙ってる。一応学校の推薦はとったから、面接だけなんだ。」
「うそー?偶然だ!私たち縁があるよね!
で、なんで、桃花高校にしたの?
なんか理由があるでしょ?
和音、頭いいから違う選択もあるはずだよね?」
う、鋭い!
そうだ、ここでカミングアウトしよう。
風歌なら口堅いし、人間性もいいし、話せる!
元気のいい姉御肌の女の子っていますよね。風歌はそんなイメージです。




