146 梨亜の個人練習
絶対絶命!大変な事件が起こりました!
新川梨亜です。
今は合宿の二日目。
午後、団体練習から抜け出して、10分ほど時間をもらって個人練習を屋外でしています。
文化祭、地区大会で演じる予定のヒロインの演技でちょっと行き詰ってしまいました。
何かしっくりいかなくて、一人の時間が欲しくて、外のグラウンドの隅にあるスペースで、歩き回りながらぶつぶつセリフを言いながら、演技についてシミュレーションを繰り返します。
そんな時でした。
ガンっ!
人とぶつかってしまいました。
考えながら歩き回っていたので、近くを歩いていた人に気づかなかったんです。
「わ、ごめんなさい!」
「あ、いてーっ!気をつけろよ!」
「卓也大丈夫か?」
「おい、不注意だぞ!」
3人組の男子でした。有名高校のサッカー部のユニフォームを着ています。
何となく柄が悪そう。
でも、私が悪いので、謝るしかありません。
「すみません。ちょっと考えごとをしてたんです。」
「ふざけんな。卓也はレギュラーだぞ。もし、怪我をしたら、試合に影響あるんだ。」
「もしかしたら、今の衝撃で、どこか悪くしたかもしれないぞ。そしたら責任とってもらうからな!」
「隆太、高貴、ちょっと待て。
可愛い子じゃないか?かなりの美人だ。
どこの高校だよ?何の部活だ?アスリートには見えねえな。
俺は神龍大付属高校のサッカー部の2年、大野卓也だ。
ウチの学校、全国大会の常連だから、知ってるだろ?
こっちの自己紹介したんだから、高校と名前を教えろよ。」
かなり強引な言い回しの男子です。
強豪校のレギュラーということで、尊大な態度。
明らかに上から目線で失礼な男です。
「桃花女子高校の演劇部、新川梨亜ですけど・・・」
「おお、梨亜ちゃんか。
よし、せっかくだから、連絡先交換しようぜ。
俺にぶつかったこと許してやるから、俺の応援女子の一人になれよ。」
「ええっ?
何言ってるんですか?
ぶつかったことは悪いとは思いますが、連絡先を教えなきゃいけない理由はないです。」
「何だと、卓也は試合に出ると、女の子がいっぱい応援に来るんだ。
誘われて、喜ぶのがふつうだ。
バカにするな。」
「あとで、怪我してるって判明したときを考えて、連絡先知りたいのは当然だろ?
交通事故が起きた時には連絡先を教えるもんだろ?
さっさと、連絡先教えろよ!」
この人達、何を言ってるの?
サッカー選手なんて興味ない。
それに、あのくらいの接触で、怪我したら、サッカーなんかできるわけないじゃない?
ふざけてる!
恐喝だよ。
「いい加減にしてください!
なに、因縁つけてるんですか?
私は連絡先なんか教えません。
だいたい、頑丈なサッカー選手がこのくらいで怪我するわけないでしょ?」
「ああんっ?
気の強い女だな?
そんなこと言ってもいいのか?
俺はサッカー生活長いから、いろいろ怪我している。
医者にみてもらえば悪いところいっぱいあるんだ。
その悪いところを、さっきぶつかった時に悪化させちまったって、俺は言えるんだぜ。
いいのか?
SNSで拡散してもいいんだぜ。
演劇部の新川って女に怪我させられたって。」
「卑劣ね。そんな脅しになんて、乗るもんですか?」
「気の強い女だな。おい、この女、ちょっと連れて行くぞ。どっかで、脱がして、恥ずかしい写真撮っちまおうぜ。隆太、高貴手伝え!」
「おお、わかった。こんな美人を脱がすなんて、面白そうだ。」
「おお、生意気な女だ。ちょっと男の力を思い知らせてやろう!
やっちまおうか?」
私は、いきなり二人の男子に手を掴まれます。
私は、顔から血の気が消えうせました。
サッカーの選手だけあって、彼らの力はけっこう強いんです。
私は気が強いといっても、力は華奢な女子のもので太刀打ちできません。
すぐ逃げればよかったのに、立ち止まって、話をしたのは失敗でした。
「いやーっ、やめてーっ!!ヘンターイ!!」と叫ぶんですが、途中で、口をふさがれるます。
ヤバい!さらわれる。
あっ、タオルで、口に猿轡された!
うぐっ。声が出ない。
どうしよう!
絶体絶命!と思ったその時・・・
大きな声が響き渡りました。
「ちょっと待て!そこまでだ!神龍大付属高校のミッドフィルダーの大野卓也さん!
今の会話はスマホに録音させてもらった。
この録音をサッカー部の監督に聴かせていいのかな?
いや、新聞社に持っていこうか?」
「なんだ、お前、誰だ。何言ってるんだ?」
「どこの学校だ。俺たちとやろうっていうのか?」
「お前背が高いだけだろう?俺たちと喧嘩して勝てると思ってるのか?
俺たちは3人だぞ。」
「俺は、桃花高校の友利だ。まだ1年だが、礼儀を知らない2年生には敬語は使わない。
それに、一人じゃないぜ。」
ええっ、友利君?あ、陰から二人でてきた!
児玉君と落合君だ!
「おお、友利、久々に暴れよっかな?
サッカー部のスター選手がどれだけ喧嘩強いかみせてもらおうかな?
俺の蹴りのスピードについていけるかな?」
「神龍大付属のみなさん、喧嘩のシーンも録画しますか?喧嘩したことが世間にばれたら、あなたたちが試合に出れなくなれなくなるだけじゃなく、チーム全体の不祥事、学校全体の不祥事になりますよ。
それでも喧嘩しますか?」
「う、ううっ、ちきしょう、覚えてろ!隆太、高貴行くぞ!その女はほおっておけ!」
「くそ、しょうがねえっ。チームや学校にバレるとやべー。」
「ううっ、お前らひきょうだな。今回は見逃してやる。」
「ふうっ、ふうっ、ふうっ。はぁっ、はあっ、はあっ。」
私は猿轡を外されたあと、息を整えます。
神龍大付属高校の3人が立ち去って、しばらくたってあと、私は助かったことを実感しました。
顔をあげると、友利君が目の前にいました。その仲間の児玉君、落合君もいました。
「新川、もう大丈夫だ。偶然、俺たちジュースを買いに行くときに見かけたんだ。
危なかったな?」
私は友利君の顔を見ると、思わず、涙がこぼれてしまいました。
そして、思わず全力で、友利君に抱き着きました。
「ばかっ!!
来るの遅いよ!
すごく怖かったんだから!
もっと早く来てよ!うわーんっ。」
我ながら、むちゃくちゃなことを言います。
助けてくれた友利君に抱き着いて、文句を言って泣き叫ぶなんて、変な女の子です。
でも、この大きな体に抱き着いていれば、気持ちが落ち着くと私は無意識に思いました。
友利君、男らしくて、ホント素敵。
まるで白馬に乗った王子様。
でも、そんなこと言えないよ。
白馬の王子様がいましたね。勧善懲悪のお話でした。




