139 演劇部新体制
中学生にしろ、高校生にしろ、先輩の引退のあとの引継ぎって大事。
そんな話です。
葵です。
全国大会から帰ってきた翌日。演劇部のメンバーは学校に出てきて、全国大会で使った大道具、小道具の整理に当たります。
そして、仕事のめどがついたときに、顧問の山野先生から招集がかかりました。
1年生から3年生まで全員集まります。
そう、明日からの次期体制についての発表を山野先生がするのです。
次期体制は、引退する3年生と山野先生が検討して、決めたようです。
「みんな聴いて、次期体制を発表します。
部長は、小出さん、副部長は板谷君と尾崎君、会計は安藤君、幹部は彼らにやってもらいます。
みんな御存知のとおり、小出さんと板谷君、尾崎君は春の新歓劇の後引退予定。
もし今年みたいに全国大会に行ったとしたら、その後は残りのメンバーが頑張らなきゃいけない。
だから、引き継ぎが上手くいくよう考えながら部を運営してください。
じゃ、新幹部、期待してるよ!」
ええっ?ウソっ!私が部長?
どういうこと?
「先生、私、部長って柄じゃないです。板谷君か尾崎君の方が部長にふさわしいと思います。
人選、間違ってませんか?」
「何、言ってるの?
あなたには人望がある。
そりゃ、板谷、尾崎にリーダーシップがあることはわかっているよ。
でもね、あなたの人望を私は推したい。
あなたなら部を一つにまとめられる。
それに、板谷はここ1年間主役の重責に耐えてきたから負担を軽くしたいし、尾崎は台本と舞台監督で手一杯だ。
そこで、小出の出番なんだ。『姫』として、部全体を引っ張ってほしい。
部長になることで、責任感と実行力が身に着く。
成長するために敢えて私は指名することにしたんだ。
不安でいっぱいだろうが、頼りになる仲間がいるじゃないか!
部長経験はきっと将来役に立つ。
頑張れ!」
山野先生は力強く私を諭した。
そういえば、山野先生も高校時代、『姫』で、部長だったんだ。
ご自宅にお邪魔した時、そんな話を聴いた。
旦那さんは副部長だったはず。
うわっ、先生、自分と同じ道を歩んでほしいのかな?
私が何を言っていいかわからなくなり、声が詰まると、3年生の早坂部長が声をかけてくれました。
「うん、不安かもしれないけど、小出の部長っていいと思うぞ。
小出はみんなに安心感を与えるキャラクターだし、何かを成し遂げてしまいそうな不思議な力を持っている。だいたい、入学した時は確かに男子だったはずなのに、今や、完全に女の子になっちまってる。
相当な努力の賜物だよ。
その力を部全体の統率にも行かせると思う。」
小森副部長も続けて声をかけてくれます。
「まあ、心配するな。全国大会出場の劇でヒロインを務めたのはお前だぞ、小出。
他の強豪校の生まれながらの女子を押さえて、もっとも輝いていたと思う。
それだけの力を持ってれば、部の運営なんて何とかなる。
一人でやろうと思うな。板谷も尾崎も、安藤も支えてくれるさ。」
「そうだよ。小出。俺も尾崎もいる。大丈夫だ。
部長として、自分のカラーを出してくれ。
そして、2年連続全国大会出場をやり遂げようぜ。
連続でやることに意味があるぞ。」
「うん、板谷の言うとおりだ。新作の劇については、俺は自信がある。
親子の絆、家族の絆を舞台で表現しようぜ。
小出が部長になるなら、俺は台本づくりと、舞台監督に集中できる。
頑張れ。」
「そ、そう・・・
わかった。
山野先生、私やります。
先輩、みんな、私部長を引き受けます。
そうだよね。やったことのないことにチャレンジするって、演劇にも通じることだよね。
たのもしい補佐もいるし、何とかなるでしょ。
私が部を引っ張ります。」
「おおっ!いいねー。」
「うん、これで、部が安定するな。」
「小出先輩、俺たちもがんばります。全国大会をまた目指しましょう!」
励ましと祝福の声が飛び交います。
もうやるしかありません。
覚悟が決まりました。
そのあと、私は山野先生に呼ばれます。
「小出部長、改めてよろしく。
で、小出部長にはもう一つ協力を頼むことがある。
それは、次期『姫』のスカウトだ。
前にも話したことがあると思うが、『姫』は素質が必要だと考えている。
実際、小出は面接試験の時に、私が狙いをつけたんだ。
ぜひ、目星をつけた生徒の面接試験の時には小出も同席してもらいたい。」
「そ、そうなんですか?
それは責任重大ですね。」
「まあ、単に女の子っぽい男子を選ぶっていうわけじゃないからね。
素直さとか、機転が利くとか、そういうところも大事。
総合評価だよ、よろしく。」
ふーっ、何か、いろいろ役割があって大変だ。
でも、早く引退するためには後継者選びは大切。
もし、全国大会にまた選ばれたら、その子が私の代わりに、主役のお母さん役をやることになっちゃう。
演技力があるかどうかって、見抜けるかなあ。
そういえば、6月に定期公演を見に来てくれた中学生の太田君は『姫』を目指すって言ってたけど、本当に目指すのかな?
あの子だったら素直そうでいいかも。
さて、部活が終わって、いつもどおり板谷君、尾崎君と帰ろうとすると、スマホに新たなメッセージがはいっていることを発見。
送ってきたのは祐希でした。
「私、演劇部の部長になっちゃった。大変だよ。
副部長は由奈。
男子校と一緒に全国大会目指そうって福島先生が熱くなっちゃってる。
そっちはどう?」
私はあわてて返信します。
「こっちは私が部長、板谷君と尾崎君が副部長。
こっちも大変だよ。
春には引退するつもりだから、その引継ぎもあるし。」
すぐ祐希から返信がありました。
「予想どおりね。王子と姫を部長にしちゃおうって、先生同士で決めちゃった感じがする。
まあ、こうなったら、覚悟を決めて頑張りましょう。」
「うん、頑張ろう!」私も返します。
板谷君と尾崎君に情報を伝えると、
「おおっ、これで、幹部同士の打ち合わせのたびに、藤原さんと話ができる。
ラッキーだ。」
と喜んでます。もう、単純です。尾崎君の恋心、届いてほしいなあ。
尾崎君はスマホを取り出して、早速祐希にメッセージを送ってます。
うわっ、いっぱい文章を打ってる。すごいなあ。
そんな時に、板谷君が私の耳に囁きます。
尾崎君に聞こえないようにこっそりです。
「あのさ、今度小出んちに行くことになったみたいだな。
大勢で押しかけてごめん。
妹がはしゃいでいるから、よろしくな。
小出のお姉さん、キレイなんだってな。」
「う、うん、よろしく。」
そうだった。近々、私んちに板谷家一行が来るんだった。
あ、板谷君、うちのお姉ちゃんを好きになっちゃったら嫌だなー。
おっぱい大きいからなー。お母さんと同じでFカップだからなー。
ちょっと不安です。
葵は部長です。頼もしくなりましたね。
次回は小出家と板谷家の家族交流です。
次の土曜日に更新です。お楽しみに。




