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133 板谷父との出会い

通勤、通学での偶然の出会い。

けっこうあります。

今回はそれがテーマです。

葵です。


今日は、部活を休んで、女性ホルモンの摂取のために、草野クリニックに行ってきました。


都心に近い草野クリニックからの帰りはラッシュアワーですごい人です。


痴漢に合っちゃいそうと、ちょっと怖がりながら、若い女性がいっぱいいる車両に乗り込みます。

うまく女性だらけの場所に入り、痴漢の恐怖はなくなります。


地元に近づき、電車が空いてきたときにちょっとした事件が起こりました。


ある駅で、居眠りしていて乗り過ごしそうになった若者が慌てて降りようとしました。

ダッシュで飛び出し、何とか降りることができたんですが、その際、入口横に立っていた背の高い中年男性の指にカバンの金具が接触。中年男性がけがをしてしまいました。とんだ迷惑です。


「いてっ!!」とその男性が声をあげた時は、もうドアは閉まっていて、男性は無念の様子です。

怒りをぶつける相手はあっという間に、電車から離れていきます。

指から血が染み出し、痛そうでした。


周りの人は気の毒そうに眺めてましたが、私は、いてもたってもいられませんでした。


「あの、まずはこれで血を押さえてください。」私は近くに立っていたので、すぐカバンからポケットティッシュを取り出し、男性に渡します。


「あ、ありがとうございます。助かります。」


そして、さらに私はカバンの中からガーゼ付き絆創膏を取り出します。


「血がある程度収まったら、これを貼ってくださいね。2枚差し上げますので使ってください。

それにしても、さっきの男の人ひどいですね。」


「気を使っていただきすみません。ほんとに助かります。とんだ災難でした。

まあ、あの若い男性も悪気はなかったと思うから、あきらめます。まあ、仕方ありませんね。」


「でも、やっぱり混んでる電車の中では、人に迷惑をかけないことが大切だと思います。

どんなに急いでいても、やはり注意しないと。」


「そうだね。そのとおりですね。

みんながあなたのように考えてくれればいいのだけど・・・」


「はい。」


私は、その男性が絆創膏をうまく巻いたのを確認すると、

「じゃ、私はこれで。血が止まったようでよかったです。」と言って、

中年男性から遠ざかります。


男性からは、「本当にありがとう。」と嬉しそうな声をもらいました。

何となく、どこかで見たような顔だなって瞬間的に思いましたが、わかりません。

気のせいかもしれません。


私は、ちょっと歩いて少し離れた場所で吊革につかまります。

周囲の乗客に好奇な目で見られているのを感じたからです。

知らない乗客同士が会話を続けていたらおかしいです。

しかも、おじさんと若い娘?ですから。


それにしても、大きなけがにならなくてよかった。

おじさんもそんな怒ってないようだし・・・

いい人みたい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ただいま!」


「おかえりなさい!

あれっ、あなた、指どうしたの?怪我したの?

えっ?何かニコニコしちゃって、変よ!」


俺は板谷舜。東京の一部上場企業に勤務する会社員だ。


自宅に帰るなり、妻の公佳が目ざとく指の怪我と和らいでいる表情を見つける。

公佳は俺の変化を見つけるのがすごく上手い。

女の勘みたいなものがすごく働くし。

絶対浮気なんてできない。

できそうにもない。


着替えて、食卓に入ると、家族が待っていた。

長男の翔が腹が空いたって顔をしている。そんな年ごろだよな。

翔は高校2年生。俺と同じで背が高い。

背の高さを活かして、運動部に入るように勧めてたのに、高校では演劇部に入ってしまった。

残念だと思ってたら、どうも演劇部で主役で活躍しているみたいだ。

うーん、うまく自分の居場所を見つけたもんだ。

それにしても、男子校だと女子がいないから恋愛面では不利だなあ。

俺は男女共学で、楽しかった。恋愛いっぱいしたし。

女子校出身の妻には言えないけど。


翔のとなりには、翔の一才年下の佳織が座っている。

高校1年で弓道部に入っている。

いつも元気で、うるさいくらいだ。

この長女のいいところは、俺のアイドル趣味に付き合ってくれることだ。

中学生までは、俺といっしょにアイドルのライブに行ってくれた。

高校では時間がないだろうけど、少しは付き合ってほしいな。

彼氏はまだ・・・作ってほしくないけど・・・

あんまり無理は言えないか?


そして、妻の公佳。

翔が通学している桃花高校の関連高校の桃花女子高校出身だ。

公佳のいいところは好奇心旺盛なところ。

面白いと思ったことには何でも顔を突っ込む。

仕事も二人の子供が成長して思春期になると、いろんなことにチャレンジしていて、実に器用だ。

俺以上に社交性もある。うらやましい。


食卓に着いて、食事を家族で始めると早速公佳から突っ込まれる。

「で、その指の怪我と、機嫌のよさそうな顔の理由はどういうこと?

怪我したけど、そのあといいことがあったって感じだよね。」


「そうなの?お父さん!話、聴きたい!」


「しょうがないな。たいしたことじゃないよ。

実は帰りの電車の中で、急いで電車から降りようとした若い男性のカバンの金具が俺の指と接触したんだ。そしたら、指が切れて、血がでたんだ。」


「おやじ、よくガーゼ付き絆創膏を持ってたね。」


「いや、持ってなかった。近くにいた女子高生がティッシュと絆創膏をくれたんだよ。

嫌な気分が吹き飛んだ。

失礼なヤツがいる一方、すごく思いやりのある女の子もいるんだな、世の中捨てたもんじゃないって思ったよ。」


「ふふふ、私の予想が当たったわね。災難のあとの、親切ね。

それだったら、気持ちが和らぐに決まってる。

可愛い女の子だった?

可愛い女の子ならウチの翔の彼女になんてどう?」


「うんうん、そんな素敵な女の子だったら、お兄ちゃんにいいと思う。」


「おお、可愛い子だったけど、あんまり顔を見ないようにしたよ。

中年男性と女子高生があまり会話しちゃうのも変だし。

タレントの白石琴美に似てたかも。」


「ええっ、そうなんだ?」


「ふーん、智花のところの娘さんも白石琴美に似てたし、多いわね。」


「お兄ちゃん、お父さんにその子紹介してもらいなよ。」


「何言ってるんだ。おやじがその子の個人情報聴くわけないだろ?

聴いたら変態おじさんだぞ。」


「そうかあ!そうだね。」


「でも、良い子だったな。今度会ったら、うちの息子を紹介したいって言おうかな。」


「それは、やめてくれ!捕まるぞ!」


「ははは、冗談だ。」


「でも、いい子だったら、逃したくないわね。」


「そうだな。」


妻は俺と同じ感覚をしてるなとちょっと嬉しかった。




板谷父子って似てるんでしょうね。

板谷父もかなりモテたんでしょう。


葵は正体を知られる前に気に入られちゃいました。

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