129 次の劇が決定、そして全国大会に家族を呼ぶことにする。
全国大会となれば、家族は気になりますよねー。
板谷翔です。
定期公演が終了した後の話し合いで、全国大会のあとの次の劇が決定した。
原案は尾崎が考えたものだ。
今度は家族の絆をテーマにした劇となる。
あることをきっかけに崩壊しそうになった家族が、主人公の頑張りにより絆を取り戻すという物語を演じることになった。
主役の高校生は友利、俺はその父親役、小出は母親役となった。
今まで等身大の高校生の役だったから、いきなり老け役は結構きついなあ。
小出は母親役?これも難しそうだがちょっとおもしろいかも。
いろんな役を演じることが大事だと尾崎に言われ、俺も小出も納得した。
あいつと夫婦役というのはちょっと照れるな。
何となく・・・
前年と同じような役だと進歩しないから、これはこれでいいかも。
前向きに考えることにしよう。
慌てたのは友利だった。
「俺、主役ですか?ちょっと早くないですか?」
「早くない。
考えてみろ、俺だって、1年の時に主役だぞ。
同じだ。
全国大会を考えると、そういうことになる。
友利も自分の力で全国大会行きたいだろ?」
「そりゃ、そうですけど・・・」
「俺も、小出も尾崎も3年の初めの新入生歓迎会のあと引退するつもりだからな。
必然的に引き継ぎは早くなる。
もし、全国大会に行くとしたら俺と小出の役は誰かに変わってもらうことになるからな。
それも考えている。」
「俺、板谷先輩の息子役ですか?それで、小出先輩がおかあさん?
何か、頭が追い付きません。
今年全国大会でやる劇とは全く違う配役ですね。」
「高校生が演じるから、演じる全員が等身大の若者を演じる劇が一番簡単だろう。
でも、芝居なんだから、何をやってもいいんだ。
遊んでみるのも面白いと思う。
極端に言えば、SFものとか、時代劇でもいい。
ただし、学生の競技演劇は時間が短いし、予算は限られる。
あまり大道具小道具には力を入れられない。
俺たち学生が様々な年代を演じるくらいなら、メイクと服装、話し方、立ち振る舞いで何とかなる。
俺と小出は演技力で大人の男女を表現してみせるさ。」
「・・・そうですね。わかりました!俺もがんばります。」
まあ、俺も不安だったが、後輩にはそんな気持ちを見せないようにしたほうがいい。
これから苦労しそうだけどね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
葵です。
次の劇の配役を知って、びっくり。
私、女子高生役から、お母さん役になっちゃいました。
どうしよう?
大人の女性を演じるなんてできるかな?
旦那さん役は板谷君だから、呼吸はうまく合うと思うけど・・・
そして、子供役は1年生二人がやるっていうし。
実際には年一個しか違わないのに、うまく親子を演じられるかな?
「お母さん、次の劇、私、母親役になっちゃった。
ものすごい不安だよ。」
「あらあら、結婚もしてないのに、いきなり母親役なの?
そりゃ面白いわね。
高校生の劇なんだから、割り切ってやっちゃいなさい。
子供をもつ母親の気持ちを勉強するいい機会よ!
お母さんが、どういう気持ちであなたたちを育てているかわかるようになるかもしれない。
頑張ってね。
あ、そういえば、私たち家族はあなたの劇を見たことなかったわね。
8月に全国大会出るんでしょ?
見に行くからね。」
「あ、次の劇の前に全国大会があったんだ。
そうだね。観に来てよ。
私の晴れの姿を見てほしいな。」
「私もお父さんも、お姉ちゃんもスケジュールが今まで合わなかったからね。
今回は何とか調整しましょう。」
考えてみたら、うちの部員ってけっこう家族が応援に来ているんだ。
尾崎君とか安藤君とか来てた。
板谷君のところは来てなかったかな?
いい記念になるから、やっぱり来てもらった方がいいよね。
そうだ、板谷君に電話してみよ。
「あ、板谷君。全国大会のときに、私、家族を呼ぶことにしたの。応援してもらおうと思って。
けっこう、他の部員の親とか兄弟って見に来てもらってるじゃない?
私も晴れの姿を見てもらおうと思って、来てもらうことにした。
板谷君も主役なんだから、ご家族呼んだほうがいいよ。」
「ええっ?家族か?
実は今まで見に来ないでくれって、断ってたんだ。
恥ずかしかったし・・・
緊張しそうだしなー。
でも、確かに晴れの場だよな。
野球で言えば甲子園にでるようなもんだ。
確かに、親や妹を呼んだ方がいいかも。
よし、家族に話してみる。
そういえば、主役なんだもんな俺。
恥ずかしがってる場合じゃない。
ありがとう。」
ふふふ、板谷君の家族か?
私のことバレちゃうな。
ちゃんと挨拶しよう。
へへへ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
板谷翔です。
家族で夕食を一緒に食べているときに俺は宣言した。
「あのさ、おやじ、おかあさん、演劇部の全国大会が隣の県でやるの知ってるだろ?
俺が出場するのもわかってるよね?
家族で応援に来てくれないか?」
「おお、その話か?その話だったら心配するな。
翔がいない時に、みんなで話し合って、応援に行くことは決めてた。」
「ええ?そうなの?だって、今まで、俺の劇を見に来るな!って俺、嫌がってたじゃないか?」
「まあ、そうなんだけどな。全国大会となれば、甲子園みたいなもんだろ?
お前が嫌がっても、こっそり行こうとみんなで決めてたんだ。」
「そうそう、息子が主演するんだもん。見に行きたいと思うのが親心っていうものよ。」
「お兄ちゃんが主役何でしょ?見に行かないわけにいかないじゃない?」
「ふーっ、油断も隙もないんだな。
別に俺が誘わなくても、来るつもりだったんだ。
なーんだ。」
「そういえば、桃花高校演劇部って『姫制度』っていうのがあるらしいじゃないか?
女形専門の部員がいるんだろ?
高校生の女形っていうのは面白いな。」
「お父さん、よく知ってるわね。
女子高では有名な存在だけど。」
「あ、私聴いたことある。桃花女子高校に進学した友達が言ってたけど、今の女形ってすごく可愛いんだよね。お兄ちゃん、禁断の愛に目覚めたりしない?」
「佳織、変な事いうなよ。」
「ごめんごめん!
やっぱり、お兄ちゃんにはお母さんの高校の時の同級生の娘さんの葵さんがいいと思う。」
「そうね、あの子だったらおススメ。」
「そんなにいい子なんだ。うん、俺も会ってみたいな。」
「はいはい、勝手に盛り上がってください。俺は演劇の事しか頭にないよ。」
俺は、葵の正体を知らない家族がどんな反応を示すかちょっと楽しみだった。
葵が「姫」ってわかったら、驚くだろうな。
今までみたいに俺に勧める事は無くなるだろう。
それにしても、お母さんが姫制度を知ってるなんて知らなかった。
おやじも知ってた!びっくりだ。
全国大会で、ついに板谷家と小出家が出会ってしまう?どうなるでしょう?




