126 尾崎君がんばる
文化系で競技がある部活って、絶対司令塔が必要です。そして、演劇部だったら、演劇のプロデューサー的立場の人間が必要。顧問の先生がそう言う立場になることが多いのでしょうけど、現場の学生がなってもいいんでしょうね。若いからこその感覚というのも貴重かな?
今回はリアルな尾崎君のお仕事の悩みです。
尾崎皆です。
今は5月。劇の原案を作成し、台本を書き、舞台監督も行う俺はとんでもなく忙しい。
片桐先輩が引退したあとこういう時期が来ると予想していたけど、かなりハードだ。
今、直面しているのは6月の定期公演のプロデュースと8月の全国大会の準備と、そして、そのあとすぐ直面する地区大会に出す演劇の原案作り。
別に一人でやっているわけではない。顧問の先生が担っている部分はあるし、仲間と相談して進めている部分も多い。でも、とりまとめというか、中核の部分にいるのは俺。
俺の立場は精神的に・・・厳しい。
まずは定期公演。
新入生を全員演技させるという毎年恒例のルールがあって、これがしんどい。
経験者はいるものの素人が多い新入生を舞台に立たせると言うのはけっこう大変だ。
何とか配役は終えて、練習に入ってるけど完成形はほど遠い。あと1カ月で本番だから余裕はない。
全国大会も頭から離れない。全国から参加する超強豪校と戦って恥ずかしくない演技をしなければならない。
見直すところがいっぱいありそうで、落ち着かない。
こちらは新入生を出演させるかどうか?
そして、秋からの地区大会の準備だ。全国大会に夢中になりすぎると、次の年の劇がダメになっちまう。
そのへんのバランスが大事だ。
「よおっ、頑張ってるか?全国大会もあるから大変だな!」
俺が待つ大手チェーン系のカフェで、声をかけてきたのは、この春卒業して、有名私大にはいった片桐郁也先輩だ。俺の舞台プロデュース担当の仕事はこの先輩から引き継いだ。それも、俺からの望みで。
「すみません、お呼び立てして。ちょっと行き詰ってしまって・・・。同時に3本のことが進行してしまって。頭がパニックってて・・・。ちょっと相談にのってもらえないかと思ったんです。
図々しくてすみません。」
「まあ、気にするな。
俺も、大学の演劇部で高校演劇との落差を感じていて、ちょっと悩んでいる。
似たようなもんだ。
ただ、俺の方が年を食っている分だけ経験はある。
相談に乗ってやるよ。」
「では、遠慮なく、相談させてください。
御存知のとおり、今、定期公演の準備、全国大会の準備、地区大会の準備と3つ重なっています。
まあ、1カ月後に控える定期公演の準備に追われているんですけど、でも、他の2つのことも頭から離れなくて、集中できないっていうか・・・
部長には自由にやれって言われてるんですけど。」
「なるほど。全国大会に出る高校が抱える矛盾だな。
全国大会のおかげで、スケジュールがタイトで余裕がないんだ。
そうか・・・。」
「そうなんですよ。おまけに全国大会はプレッシャーです。
全国のライバル、目の肥えた観客や審査員の目の前で無様な劇は見せられないという大きなプレッシャーがあります。」
「プレッシャーか?それは部員全員抱えているだろうなあ。
となると、取りまとめ役の尾崎は全くプレッシャー感じてないフリをした方がいいな。うん。」
「そんなの無理ですよ!
全国大会ですよ!」
「それでも伸び伸び演技が出来るように工夫しろよ。
とにかくプレッシャーに潰されないように明るいムード作りは大事だ。
そこは俺が3年生に話しておく。尾崎は板谷や小出に徹底させろ。」
「そうですね。分かりました。」
「それで、一つ一つ考えようか!
まずは定期公演だな。今は定期公演に集中だ。
まあ完璧なものと作ろうと思わないことだ。
大会と違って、他校との勝負はないんだから。
それより、新人に演技させるから、新人の力量を見るチャンスと思ったほうがいい。
演技の上手さじゃないぞ。センスを見るんだ。
そして、定期公演が終わったら全国大会のことを考えることにしよう。
全国大会についてはな・・・ある程度3年生に任せてもいいぞ。
3年生は、まだ受験勉強は本番じゃないはずだ。
俺からも話しておく。基本的な手直しは完成度を上げる点については3年生に任せろ。
尾崎はそうだな・・・今年の新人の誰をどういう風に使うかってことを3年生に提言しろ。」
「えっ、全国大会に新入生使うんですか?」
「そうだよ。使えるやつは使え。全国大会に出ればそれなりに経験になり、肝がすわる。
地区大会にも役立つぞ。
それで、その後の地区大会だけど、そのネタはやっぱり尾崎が考えるしかない。
ただし、去年の尾崎みたいにサポートできる1年生を作れ。
脚本家兼舞台監督は早めに育成した方がいい。できれば俺や尾崎みたいに専門職がほしい。
俺からのアドバイスはそんなところかな。
悩んでもしょうがない。
できることとできないことを分けて、できないことは他人を頼る。
それが基本だ。」
「そ、そうですね。
ありがとうございます。
少し、整理ができてきました。
ちょっと五里霧中って感じでしたけど、おかげでやるべきことが見えてきました。」
「おおっ、少しでも役に立てば幸いだ。
そういえば、女子校の藤原との仲はどうなんだ。
少しは進展したか?
板谷と小出は同性だから、いろいろ難しいだろうけど、おまえらは普通の男女なんだから、進展してもいいはずだ。」
「いや、友達のままですよ。
彼女は男役の王子を引退するまで、女子っぽい心理状態にはなりたくないみたいだし。」
「そりゃ寂しいな。
でも、あきらめるなよ。大学に入学したら、彼女ができるなんて思わない方がいいぞ。
俺は高校の時に女子校の生徒ともっと仲良くしておけばよかったと後悔してる。
大学の演劇部はマニアックな女が多いから、恋愛相手にはちょっと向かないかな?
まあ、演劇部以外で探すことにしたよ。」
「そうなんですか?わかりました。何とか卒業までに祐希を口説きます。」
「おお、がんばれ!
そうだ!地区大会に向けての新作についてアドバイスしてやるよ。
親子がテーマってどうだ?
高校生演劇だと、友達関係とかいじめとかがテーマになることが多いけど、親子をテーマってあまりないよな?その理由は親の役をすると嘘くさくなるからだ。
敢えて、チャレンジしてみるのもいいかも。
板谷あたりに父親の役をやらせてみるのもいいかもしれない。」
「なるほど。定期公演終わったら、考えてみます。
ありがとうございました。」
「今日は、おごってやる。バイトの給料出たばかりだからな。
さ、俺も大学でがんばるか!」
会ってもらってよかった。
やはり、持つべきものは信頼できる先輩だ。
先輩の一言一言が身に染みる回でした。
いい先輩がいれば、がんばれるものです。




