125 定期公演、板谷君の協力に感謝。
ついに4月です。早いものです。
今年は新型コロナのせいで、例年と違った季節感になってしまいそうです。
早く収束して、普通の季節感が戻ってほしいなと願うばかりです。
板谷君と葵の距離が少し近づく回となりました。
葵です。
5月は6月の定期公演の準備と練習でけっこう忙しい毎日。
ちなみに、定期公演は私主演となりました。
新作をやるんです。
新入生歓迎会の劇は全国大会に使う劇の一部だけ紹介する感じでやったので、久々の新作となります。
ある日突然目が見えなくなった女子高生が周囲の人の励ましで立ち直るという物語で、
尾崎君が作りました。
尾崎君が初めて脚本・台本をすべて手掛けるという作品で、彼もかなり悩みながら取り組んでいます。
引退が近い2年生や山野先生にもちろん相談はしていますが、それでも初めてというのはかなりのプレッシャーがあります。
私もプレッシャーが大変です。
ありがちなストーリーなので、私の演技力がかなり試されるお芝居になってしまいました。
目の見えない人間の気持ちなんて考えたことなかったし。
板谷君は、全国大会で主役だし、地方大会に向けての別の新作でも重要な役が予定されてます。だから、今回は脇役でちょっとお休みです。
「うーん、目が見えなくなった女子高生を演じるって難しいよ。
単に目を瞑って、ふらふら歩くだけだとリアリティないよね?
どうやって雰囲気だそうかな?」
私は少し余裕がありそうな板谷君に相談してみます。
「じゃあ、じっさいに、目を見えない状態にして、街を歩いてみたら?
うん、目隠しして、歩くんだ。
リアルな体験は大事だぞ。」
「ええっ?そんなの怖いよ。危ないし。」
「俺がサポートするよ。
よく、目が不自由な人が、サポートする人の腕につかまって歩いているのをみかけるじゃないか。そんな感じでできる範囲で体験してみようよ。」
「えっ?いつやるの?学校じゃ恥ずかしいよ。」
「うーん、そうだなあ。
じゃあ、今度の休みの日に、隣の市の港公園とかで、どうだ?
あそこだったら、広くて、うちの生徒に会う可能性少ないし、安全だと思う。
うん、そうしよう。障害のある人の気持ちになってみよう。
俺も、そういう人を本気でサポートする気でやるからさ。」
「う、うん。
・・・そうだね。」
わ、どうしよう!
演技の相談しただけだったのに、とんでもないことになった。
これって、演技の練習にかこつけたデートの誘いに感じちゃう!
もちろん、板谷君が、私をデートに誘いたいなんて思うわけないけど・・・
純粋に好意というか、演劇のことを考えてるからこその提案なんだけど・・・
でも、二人きりで、休みの日に公園を歩くなんて・・・
着て行く服どうしよう?
まあ、板谷君はデートなんて、これっぽっちも思ってないはずだし・・・
あくまで演技力の向上をめざすための活動なんだから・・・
デートの気持ちになったら失礼だよね?
でも、若い男女?が二人で歩くんだから、はたから見たらデート?
とりあえず、カワイイ服着ていきたいな。
そして、その数日後の休日。
私たちは港公園にやってきます。
私の服はパンツ系ファッション。
ちょっと大人っぽく見える感じ。
本当はスカートで来たかったんだけど、板谷君に事前に注意されたのでやめました。
目隠しをして歩くんだから、スカートは危険だって言われたんです。
ジーンズを勧められたけど、せっかく人気のデートスポットに板谷君と行くんだもん。
少しでも女の子っぽいかっこしたかった。
ささやかな抵抗しちゃった。
「よし、このへんでいいだろう!」
板谷君は、桟橋が見える海のすぐそばで立ち止まります。
大きな船が止まっていて、まさに港です。
海風が心地いい。
私は、真っ黒なサングラスをかけます。
そして、目を瞑ります。
ちゃんと目隠ししようかとも思ったんですが、行き交う人に見られたら恥ずかしいので、やめました。
そして、板谷君の腕につかまります。つかまるというか、腕を組みます。
「うん、準備オッケーだよ。歩こうか。」
「じゃあ、歩き始めるぞ。最初は広い道をただ歩くだけだ。ゆっくり歩くからな。」
目の前が見えなくなっても、人につかまって歩くため、すごく安心できます。
サポートの人の力は偉大です。
そして目が見えなくなって、気づくことがありました。
音に敏感になります。風の動き、匂いにも敏感になります。
そうなんだ。五感っていうけど、目以外にも感覚がある。
これを発達させて行動しなければいけないんだ。
100メートルほど歩いたところで、
板谷君から提案がありました。
「試しに少しだけ一人だけで歩いてみるか?
俺はすぐ横にいるから心配しないでいい。」
私はすごく不安になりましたが、試しにやってみようと思いました。
おお、けっこううまく歩ける。
ちょっと調子に乗って、早歩きをした時でした。
何かに躓いて転びそうになります。
「ああっ!!」
「危ないっ!!」
駆け寄った、板谷君が私を抱き留めてくれました。
うわっ、ちょっと恥ずかしいっ。
「ちょっと、調子にのりすぎだな。平らに見える道でも、微妙に凸凹があるから、油断できないんだ。
うん、気を付けよう。
そうだな・・・
今度は、階段の体験をしてみるか?
すぐそこに小さな丘があって、展望台があるから、登ってみようか?」
「うん。サポートよろしく・・・」
私は抱き留められたことが恥ずかしくて、ぼそっとした会話しかできません。
板谷君に抱きしめられちゃった・・・
板谷君の体、やっぱりたくましい!
私の体は柔らかいって思ってくれたかな?
おっぱいの感触感じたかな?
なんて、しょうもないことを考えます。
階段を昇って、そのあと降りるのはかなり怖かったです。
はっきり言って、一人では、相当困難です。
目が見えない方はエレベーターみたいな設備がないと厳しいなって思いました。
その後、ジグザグ道や、坂道、小橋、お店の中など、公園内の各所を回ってみました。
どこに行っても新たな発見があります。
思ったことは、バリアフリーの設備の大切さ、そして、サポートしてくれる人への感謝でした。
訓練すれば、一人でどこにでも行ける人もいるでしょうけど、やはりサポートは大事です。
単に、目が見えないことが大変だと思うだけでなく、実際体験してみないとわからないことが多いんだなってつくづく感じました。
私の体験はあくまで「なんちゃって体験」で、本当の当事者の苦労の何万分の一かしかわからないでしょう。それでも、考えるきっかけにはなりました。
「とりあえず、このあたりでいいかな。」
板谷君が私のサングラスをとってくれます。
私は目をゆっくり開けます。
「うわっ、眩しい!太陽の光ってすごいね!」
「ははは、本当に目を瞑ってたんだな。
感心感心。
疑似体験、お疲れ様。
どうかな?演技に活かせそうかな?」
「うん、おかげ様で、何とかなりそう。
いろいろ考えるきっかけもできた。
板谷君、ありがとう。
わざわざ広い公園まで一緒来てくれて、しかもサポートしてくれて!
一人だったら、こんな訓練できなかった。」
「お役にたてて光栄です。
お嬢様。」
「あ、からかってる!
私の事、お嬢様なんてこれっぽっちも思ってないくせに!」
「ははは、ワリいワリい!
でも、今日は私服で、いつもと違うから、ちょっと女の子っぽさを感じるよ。
ていうか、最近、ホルモン治療のせいか、かなり女っぽいぞ。
さっきみたいに密着すると、ちょっと緊張する。」
「本当?
それなら・・・ちょっと嬉しいかな?
・・・
そうだ、この公園の近くに美味しいケーキを食べれるカフェがあるんだ。
これから、行かない?」
「おお、いいね!」
私は、照れ隠しで、ケーキに話題を転換せずにはいられませんでした。
それにしても・・・私、女の子に近づいてるんだ!
やった!
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板谷翔です。
さっき、公園で小出の訓練をして、これからケーキを一緒に食べに行くところだ。
それにしても、変な気分になって大変だった。
小出と腕を組んで歩いたんだけど、小出の胸が当たって、エッチな気分になっちまった。
あいつ、けっこう胸が膨らんでるんだよね。
腕も柔らかい。
あ、転びそうになった時、慌てて抱き留めたんだけど、体全体柔らかかった。
身体がもう女だよな。
下手なことしたら、セクハラだ。
でも、どんどん可愛くなってきてる。
ううっ。
好きになりそうだ。
どうしよう・・・
板谷君の心の中では、葵はもう女の子です。
膨らみ始めた恋心に作者自身も胸がキュンとします。




