127 坑道の話
さて坑道だ。
デネボラがエトワールで何回かもぐったことがあるらしい。
できれば先に採掘だけできるような、モンスターの少ない穴があればいいなあ。
「ある」
「あるのか」
アルヘナとの会話で気にしていたようなので、敬語は外した。
これについてはエトワール全員も同様にである。
ただし、エニフさんは除く!
なんとなくだが、リアルでも目上のような気がするからだ。
でだ。
デネボラがいうモンスターが一切湧き出ない穴は、プレイヤーには全く見向きもされないらしい。
だったら採掘に行くやつもいるのかと思いきや、どうもここの坑道はプレイヤー内で枯れたことにされているようだ。
「誰も確認しなかったんかい」
「掲示板でもその話は上がらなかった」
「噂に踊らされやがって」
百聞は一見にしかずという言葉を知らないらしい。それはそれでこっちに好都合だけどな。
俺たちがその穴に足を向けているのを見た他のプレイヤーは困惑しているようだ。
「え、ビギナーさんあそこ行くの?」「おい、誰か教えてやれよ」「あそこ何も出ねえだろう」「いやいや、ビギナーさんが向かうことこそ怪しいんじゃ」「1度行ってみたじゃねえか、あそこは空だろ」「ハッ、女連れなところ見りゃわかるだろ」「穴ん中でおっぱじめる気じゃね?」「でもアレ、エトワールの魔女っ子じゃん」「え、マジで?」
中にはあからさまに鼻で笑っているのもいるみたいだが。
男女だからってカップルだと邪推するのは止めていただきたい。
「なんか変なこと言われてるが、ねじ切ってくるか?」
「時間の無駄」
「さいで」
穴とはいっても、入り口は頭を下げる必要があるが、中は直径5~6mくらいある。
横に2人並んでの戦闘は可能か。
他の穴ではもっと廃坑らしい狭い通路があるらしいのだが、ここのような洞窟形というのが珍しいのだそうな。
光源はデネボラが光を浮かべ、アレキサンダーがほのかに赤く灯り、シラヒメがカンテラを点けている状態である。
ちなみにもう1つ点けてツイナの羽根にひっかける方法もあるが、光源ありすぎなのも問題だろう。
「お? ちょっと待っててくれ」
「うん」
【鉱物知識】で採掘可能なものは大抵見つけられる。
鍛冶屋をやったりするなら【採掘】があるといいらしいが、個人的に使う岩絵の具くらいならこれで充分だ。
つーかゲームなのでそこまで細かいことに拘らないのがいいな。
あればできる、なくても代用スキルでなんとかなる程度で。
壁だったり天井だったりするポイントをガチガチと掘っていく。
ちなみに天井は道具をシラヒメに渡して、俺が指定した場所をやってもらっている。
デネボラには岩絵の具を魔女見習い関連で使うものと説明した。
そのせいで多めに採れた色は、幾らか売ることになっているがな。
岩絵の具の他にも銅鉱石や鉄鉱石がとれてはいる。
あとは顔料として使えない水晶のかけらとかだ。
魔法陣布を使えばこの水晶も合成できそうだな。
この坑道は100mほど進んだところで行き止まりとなっていた。
「これはここで終わり」
「なるほどなるほど。この壁を調べたやつとかいないのか?」
「見れば分かる通り、行き止まり」
俺はゴツゴツと行き止まりになってる壁を殴り付ける。
ダンジョンを見つけた時のように“目”を読めば、崩すのは容易い。
【闘気】込みで殴りつけたところから亀裂が広がり、木端微塵に砕けた壁の向こう側に新たな通路が現れた。
「伏せて!」
「があう!」「メエッ!」
崩れた壁の向こうにうごめくものを見たデネボラが声をあげ、ツイナと同時にファイヤーボールを撃ち出した。
デネボラが2つ、ツイナが1つである。
対象に命中して炸裂。
熱風が伏せた俺ごと坑道の中を舐めていった。
着弾点すぐ傍にいた俺はたまったものじゃない。
「あちゃちゃちゃちゃっ!」
「おトウサマ!?」
転がりながら熱風の範囲外へ避難した俺にアレキサンダーが覆い被さった。
心配そうな顔をしたシラヒメが駆け寄ってくる。
痛覚設定のせいか、こういった熱も過剰なくらい感じられるなあ。
ああ、称号でプラスされていたな。だからか。
「どうして分かったの?」
「どうしてってなあ。そういうスキルがあるからとしか」
言葉が少ないから他に人がいたら、いまいち意味が通らないと思われる。
デネボラが言いたいのは「どうして壁の向こう側に通路があると分かったのか」だろう。
俺もすっかり忘れていたが、行程の途中から【大地魔術】を使っていたら判明したのである。
こういった地中に関してはマジ便利。
まだまだ掘れそうな鉱脈もあるし、坑道マップもつくれそうな感じである。
崩れた壁が散乱する地点より先は、こちら側と似た円形に削られた坑道だ。
先程ファイヤーボールが炸裂した場所には6個の魔石が転がっている。
こちら側と違った点としては、床には二条の錆びた線路が引いてあるところだろう。
うち片方には岩石を満載にした朽ちたトロッコが置き去りにされている。
「ぴぃっ!」
「グリース?」
俺たちが周囲を調べていると、通路の奥を窺っていたグリースが甲高い声で鳴いた。
うわんうわんと通路内に響くコダマに混じって、うめき声のようなものも聞こえてくる。
「まだゾンビがくる」
「さっきのゾンビだったのかよ」
魔石を拾っていたデネボラが、俺の横に並びながらそう伝えてくる。
人影しか分からなかったので、ゾンビなのかその他なのか俺からは不明だったんだ。
翠からの情報ではイビスダンジョンでグールというのも加わったらしい。
オールオールもどんどんダンジョン強化してってんなー。
向こうからノタノタと迫る数体のゾンビを見たが、アレキサンダーがぽよんぽよんと前へ出て、その後ろにデネボラが続いたので前に出るのを諦めた。
諸事情によりフレンドリーファイヤー解禁(掲示板にて




