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126 クエストの値段の話


 ベアーガで1泊してから坑道へ潜る準備をする。

 食料があればたぶん大丈夫だろう。


 目的は魔石である。ゾンビが落とすからな。

 あと採掘で、細かく砕けば塗料になるという岩絵の具か。

 鉱石も掘れればまあいいか、という感じだ。

 そちらはゲンドウにでも渡して武器か防具を作ってもらえればいい。

 坑道自体は生きてるんだか死んでるんだか知らんけど。


 プレイヤーの出入りはそれなりにあるようだ。

 ベアーガの裏門から出て20分くらい歩けば、山肌にボコボコと穴の空いた斜面が現れる。

 

 その場にいたプレイヤーに聞いてみれば、穴は全部で16個。

 何ヵ所かの穴は中で合流しているところもあるんだとか。


 出てくるモンスターはゾンビやムカデにクモ、ゴーレムやバットやゴキブリのようだ。とにかく色々なものがいるらしい。

 虫系統が穴ぐらに住むのは分かるが、ゴーレムはなんで発生しているんだ?

 何かの魔力異常なのかね。


 ついでに言うとダンジョンとは違い、坑道内でモンスターがある程度増えると外に出てくるという。

 魔の森が見つかった影響でプレイヤーがホースロドに集中してしまい、こちらが手薄になった結果、モンスターの大襲撃が起きたようだ。


 別にプレイヤーに頼らなくても住民の冒険者がいるだろう。

 そう思ったのだが、魔女のバニーガールさん(名前聞くの忘れた)によれば、ギルドのクエストをプレイヤーに取られて街を離れたのが多かったのだとか。


 なんというかバランスの難しい世界だな。

 他のプレイヤーはこういった裏事情を知っているのだろうか?


 つらつらととりとめもないことを考えていると、シラヒメにマントを引っ張られた。


「おトウサマ」

「なんだ。どうした?」

「よバレテイマス」

「ああ」


 アレキサンダーの視線やシラヒメの指差す先を見てみれば、何人かの知り合いが駆け寄ってくるのが見えた。


「ちょっと兄さん! 聞こえないんですか!」

「よお、久しぶり」

「さっきから呼んでるでしょう! 返事くらいしなさいよね!」

「そりゃスマンかった」


 ぷりぷり怒りながら走って来たのは、アルヘナとアニエラさんだった。

 その後ろにはツィーさんやデネボラさん、エニフさんもいる。


「こりゃ皆さんお揃いで。何か用か? こっちは今から坑道へ潜ろうと思っていたところなんだが」

 少々芝居がかった身振り手振りでアルヘナたちを迎えれば、ほとんどは苦笑で1人は真剣な表情で応えた。


 その1人は真剣な表情で俺の前までやってくると、唐突に頭を下げた。


「ナナシの知っているかぎりの使い魔の作り方を教えて」

「あー」


 そういや魔女志望だっけデネボラさん。

 そんな人を差し置いて俺が魔女見習いに。なんとなくうしろめたいものがある。

 あるんだが……。

 チラリとエニフさんに視線を向けると、「なにか?」って首を傾げて微笑まれた。

 おお怖っ!


「うん、俺も教えることは教えたいのだが。だが……」

「対価なら、払う」

「いや、払ってもらうにしてもなー」


 幾らに設定すればいいのかわからん。頭を悩ませていると、ツィーさんが進み出てきた。

 往来で声高らかに話すことでもないといって、PT会話をリンクさせた。

 そしてベアーガの壁際に移動する。


「ナナシくんの情報は具体的にいうとどういうものなのかい?」

「たぶん人によって違いがあると思うが、何かしらの使い魔を手に入れて【魔女見習い】という称号が手に入る」

「「「「「ええええええ━━っ!?」」」」」


 オープン会話にしていたら、10人中10人が振り返るような騒がしさだったな。


「そこに至るまでの過程は4つ。俺の場合は称号を貰うまでに7つのスキルを手に入れた。普通に取得した場合はSP84もかかるという」

「「「「「…………」」」」」


 今度はお通夜のような沈黙だ。

 うんうん。そーだろうそーだろう。

 こんなん開示されてもいくら払えばいいのかわからないよな。

 デネボラさんならSPの消費量は、3分の1の28くらいで済むだろうが。

 そのうち何個かはもう持ってるんじゃねえかな。


「ついでに個人差があると思うが、取得するまでにかかった時間はリアル1週間。ゲーム内時間で40日弱のうち半分はそれに忙殺されてたな」

「それでここ最近、兄さんの話は流れてこなかったんですか……」

「それはまた判断に困る情報だね」


 ツィーさんは「ちょっと相談させてくれたまえ」といってエトワールだけで円陣を組んだ。

 会話リンクを切られると、何を話しているのかわからんからな。


 手持ち無沙汰になった俺はアレキサンダーを頭の上に乗せて、グリースを腕に抱く。

 そして身を寄せてきたツイナのライオン頭とヤギ頭を交互に撫でていると、「ズルいデス」というシラヒメが背中にしがみついてきた。

 蜘蛛の8本脚で拘束されてまったく動けんのだが……。


「待たせてすまないね、ナナシく……っ!?」

 会議が終わったらしいエトワールの面々が、こっちに向き直ってからギョッとした表情で硬直する。


 えーと、今の俺の状態は足元から腹くらいまで蜘蛛の脚が絡みついている。シラヒメの上半身は右肩から顔を出すように背中に身を寄せていた。

 ツイナは後ろ足で立ち上がって前足を左肩にかけている状態だ。

 グリースは腕の中だし、アレキサンダーは頭の上である。


「なんでかたまってるんですかっ!?」

「いやー。魔女の修行中に放置しっぱなしだったからなあ。こうやってくっつくのが定位置になりつつある」


 声を荒げたアルヘナが口をへの字に曲げて沈黙する。

 なんだか悔しそうなんだが。なにゆえに?


「で、幾らになりそうだ?」

「それなんだが、これは私たちだけでは判断しづらい。他のクランにも持っていって検討する必要があるだろう」


 眉間にシワを寄せたツィーさんが残念そうに述べた。

 その後に他のクランにもこの情報を開示していいか聞かれたので、了承した。

 俺的には二束三文でベラベラ喋ってもいいんだが、そこの聖女さまが公平取引説教人になりそうなので、この本心は心の奥底へ沈めておこう。


 そこでいったん別れることになった。

 なったんだが、俺たちと坑道へ行くとデネボラさんが主張した。


「またなんでいきなり」

「以前に手伝うといった」

「あーあー、そういやーそんなことも言われたような。べつにかまわないが」

「あー、それならうちのデネボラを頼むよナナシくん」


 ツィーさんが快く同行許可をだしてくれた。

 しかし、これにアルヘナが待ったをかけたのである。


「ズルいですよデネボラさん! 兄さんとなら私が行くべきでしょう!」 

「たまには代わってくれるべき」


 まあ、俺もペット込みで5人PTとなるので、加えられてあと1人だしな。

 別に誰でもいいんだが、今回は先に言い出した者勝ちだろう。


「アルヘナ」

「はいなんですか兄さん!」

「デネボラさんが先だ」

「……はぃ」


 しゅーんとうなだれたアルヘナが俺の側より離れる。

 ログアウトすれば一緒にいられるのに、なぜ張り合うのかなあ。


「とりあえずナナシは1度死ねばいいんじゃない!」

「はいぃっ!?」


 俺、アニエラさんにはなんにもしてねーぞ!



また坑道まで行けなかった……。

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